未完成な僕たちの鼓動の色

水飴さらさ

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第二章(改正版)

グランピング1

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 クリスマス後の冬休み中、お互い受験勉強に励み、会う事はなかった。
 それでもメッセージアプリやビデオ通話で卒業旅行の計画を立てていく。
 頑張った分だけ、その先には二人だけのご褒美が待っている。
 冬休みが終われば、もうすぐ受験。
 そして二月に入り瞬く間に受験本番。
 
 受験が終わると、久場は旅行と卒業後の一人暮らしの為に短期のバイトを始めた。
 そんな忙しい中でも久場は旅行プランをどんどん立てていく。
[由人と星が見たい、グランピングがしてみたい]と、グランピング施設を幾つかピックアップしてメッセージアプリで送ってきた。
 旅行と言えば旅館に泊まって、観光をする事しか思い浮かばない由人は『グランピング』なんて言葉を初めて知った。
 久場と行けるなら何処でもいいし、楽しそうに計画を立ててくれる事が何より嬉しかった。

「久場くんと卒業旅行でグランピングに行く」と、由人は母に伝える。
 溢れそうな笑顔で話す息子を母は反対などしなかった。
 可愛さのあまり過保護に育ててしまい、臆病な子に育ってしまったが由人に恥じるところなどどこにもない。
 臆病であがり症、うまく人と話せない事は確かに社会的にはハンデなのかもしれないが、それは由人の個性であり、由人は真面目で優しい子だった。
 我が子を守り抜く覚悟は出来ていた。何があっても我が子を信じると決めていた。
 そして、久場大也が突然現れた。
 彼はまさに光の速さで息子を変えていく。
 それが恋の力なのは、由人の母も姉たちもすぐに勘付いた。
 会ってみれば久場は優しく華やかなで、礼儀正しい好青年だった。
 彼と由人との眩い青春を止める権利など誰も持っていない。
 母親が出来る事は、家族の為に安らげる場所を作っていくこと。
 由人の母は、大人になっていく我が子をただ見守った。


───────────────


 桜が咲くにはまだ早い三月上旬。
 卒業式と大学合格も無事に終えた久場と由人は、春の日差しに照らされて電車に揺られていた。
 平日なので人の少ない電車の中、二人は隣り合って座っている。
 電車とバスを乗り継ぎ、久場が二泊三日で予約した山の上のグランピング施設に向かっている。
 グランピングとは、自然の中の設置されたテントやコテージなどで、自然を楽しむことが出来るアウトドアだ。宿泊料金が少し高めだが、食事の材料や道具も施設が用意し、後片付けも不要な為、初心者でも安心してキャンプ体験が出来る。

 この日に向けて二人で服も買いに行った。
 由人は、首元がゆったりとしたベージュのタートルネックのセーターに、ボア素材を使用したくすみグリーンと茶色の大きめのチェック柄のワイドパンツ。アウターは、ダークブラウンのフーディーダウンジャケットと靴は黒のゴアブーツ。
 久場は、グレーのパーカートレーナーに、カーキ色のパンツ。アウターは黒のダウンジャケットと靴も黒のスニーカー。
 温かくなってきているとはいえ、山の上の空気はまだ寒いだろうと厚着をしているが、荷物はごく少量だ。
 由人のリュックには財布とスマホ、替えの下着、お菓子くらいしか入ってない。
 久場もほぼ一緒だが、由人の彼氏として絶対必須な物も忍ばせているのだけ違っている。
 同性と、ましてや恋人と旅行に行ったことがない由人は、電車の中で始めそわそわしていてずっとハンカチを握りしめていた。
 隣に座る由人がやけに落ち着きがなく、久場は心配して聞く。
「大丈夫? 酔った?」
「あ、僕……その……実は、修学旅行……行ってなくて、家族以外と旅行行くのが初めてで……緊張してる」
 語尾になるほどに声が小さくなっていく由人の言葉は、常に明るいところを歩いてきた久場にとって衝撃的だった。
「あ……病気だった?」
「ううん……同じ班になる人と上手く話せる自信がなくて……怖くて」
「……ごめん」
「え、どうして久場くんが謝るの?」
「俺がもっと早く由人を見つけていたら……俺は、何もしてあげられなかった」
「そんなことないよ、それに僕が悪いから……勇気がなかったから、でも今だったら違うよ、今はみんなとも話せる様になっでしょ」
「そうだな」
 久場は相槌を打ちながらも、戻らない時間がやるせなくて由人を抱きしめてしまう。
 由人より何倍も逞しい体の久場がまわす腕の力は弱い。由人はそんな久場が可愛らしいと思う。
「久場くんは何にも悪くないよ、それに……誰も悪くないんだ、本当にいつまでも勇気が出せなかった僕の責任だよ、でも……」
 ダウンジャケットを着た久場の大きな背中に隠れてしまった由人の腕が、もぞもぞと動き久場を抱きしめ返す。
「久場くんが僕に勇気をくれたでしょう」
 細く白い由人の指が久場の背中をポンポンと叩く。
「そうか?」由人を抱きしめる腕の力にきゅっと力がこもる。
「そうだよ」由人がなだめる様に背中を叩いてやる。
「俺は役に立ってる?」
 そんなの聞かなくても分かるだろうに、こうやって甘えて確認したがる久場は主人に懐いている大型犬の様で、本当に可愛いと思う。
 感謝だとか尊敬とか憧れも、もちろんあるけれど、最近はもしかしたら自分より久場の方が甘えたがりなのかもしれないと、由人はおかしく思う。
「たってる、たってる」
 由人に背中をさすられて、久場は満足したように体を離す。
 その表情も主人に褒められた大型犬の様に、心なしか目を細められている。
 さっきまで緊張でかいていた手汗も、可愛らしい久場を見るといつのまにか引いて、由人はハンカチをポケットにしまった。
 久場はその様子をじっと待ってから由人の手を握る。
「もう、寂し思いはさせない、俺が由人を楽しませる」
 ついさっき、しょぼくれて謝っていたくせに久場は明るく笑って言う。
 この切り替えの早さと、強引なくらいの自信に満ち溢れている笑顔が大好きだな。
 外はまだ寒い季節だけど、電車の中も久場の手も温かく、由人は幸せで心がこそばゆい。
 返事をする代わりに、握られた手の人差し指の爪で、久場の堅い手の皮膚を無意識になぞっていた。
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