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第5話 ぼっちでも依頼を受けます

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 もう1カ月が経った。僕、透空一樹は、この異世界での生活に少しずつ慣れつつある。特に、僕の弓の腕前はかなり上達した。今では、目標を定めれば、その的を確実に射抜くことができるようになっている。練習の成果だ。

 さらに、スキルを使って得た知識も、僕の大きな武器になっている。戦術、敵の弱点、異世界の生態系……僕の頭の中は、これまでにないほどの情報で溢れている。そして、自分で改良した弓矢は、さまざまな属性の力を持っている。火を吹く矢、氷を放つ矢……これらは僕がこの異世界で生き残るための重要な道具だ。


 ここまで成長したにも関わらず、僕の心には満たされないものがある。森の中で一人、僕はふと思い詰めたように声に出して嘆く。

「なんでこれで友達も話せる人も一人もできないんだ!!」

 僕の叫び声が木々の間を駆け抜ける。

 僕の技術は確かに向上した。でも、それだけじゃない。友達を作るっていうのは、もっと別の何かが必要なんだろうか。僕にはその「何か」が欠けているみたいだ。技術はあっても、僕はまだぼっち。一人で戦い、一人で生きる。そんな僕の日々は、変わらない。

 周りを見れば、他の生徒たちはグループを作り、楽しそうに笑い合っている。彼らには、僕にはない何かがある。もっと、外向的で、明るくて、誰とでもすぐに打ち解けられる何か。

「一人でも平気だって思ってたけど……」

 僕は小さくつぶやく。でも、心のどこかで、僕も彼らのようになりたいと思っている。友達と笑い合い、話し合い、一緒に何かをする。そんな普通のことが、僕にはとても特別に感じる。



 僕が自分の不満を森に向かって叫ぶと、すぐ近くにいたエルが「うるさい」と言いながら僕にビンタを食らわせた。その一撃は、僕の心にも響いた。はっと気付けば、もうこんな日々がずっと続いているんだ。

 エルはいつも厳しいけど、どこかで僕のことを気にかけてくれている。僕がぼっちでいるのも、彼女には心配の種なのかもしれない。僕の叫びに対する彼女のリアクションは、その一種の表れなのかもしれない。

「あんた、ずっとそんな風に思ってたの?」

 エルが静かに尋ねる。僕は何も答えられない。ただうつむいて、肩を落とす。僕の孤独は、こんなにも周りに見えていたのか。

「あーうざいうざい! 他の人はもう依頼を受けに最初の街に行っているのに……あんたはまだここで身を潜めて弓矢を撃ち続けるの?」


 僕は今も、この静かな森の中で弓矢を撃ち続けている。他のクラスメイトたちは、もう最初の街へと向かっている。その事実が、僕の心を痛めつける。

「うう、くそー!こんなはずでは!」

 心の中で叫ぶ。だけど嘆いても仕方がない。それに、七海さんと話せたことは、僕にとって大きな前進だ。たとえ形はどうであれ、それは間違いなく1000歩前に進んだことだから。

 しかしエルは僕を見ながら呆れている。

「あのさ、まさかあの子とすこーーーーーし会話したぐらいで何歩も進んだと思っていない?」
「ぎく! い、いやそんなことはな、ないですよ」
「あんなの一歩ぐらいしか前進してないからね、たく」

 自分でも信じられないが、七海さんとのちょっとしたやり取りは、僕にとっては大事件だった。彼女はいつも明るくて、クラスの中心にいる。そんな彼女と、僕なんかが話すなんて、考えただけでもどきどきする。

 でも、エルの言う通り、動かなきゃ何も変わらない。僕は深呼吸をして、もう一度弓を手に取る。この矢を放つことが、僕の新しいスタートの合図だ。

 弓を引き絞り、矢を放つ。その一瞬、僕の心は静かになる。最初の街へ行くか……。そうだ、僕も動くしかない。何かが変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。でも、試してみなければ、僕はずっとこの場所で止まったままだ。


 しかし、次のエルの言葉を聞いた瞬間、僕の心は一気に冷めた。

「えっ、依頼って一人じゃ受けられないんですか?」

 確かに、これまでの訓練が二人一組だったことを思い出すと、意味がわかる気がした。

「簡単な依頼なら一人でもいいけど、それ以外はね」とエルは言った。依頼をこなさないとギルド協会からの許可が出ないらしい。まるでゲームのようだけど、これが現実なんだ。「がびーん」と、僕は衝撃を受けた。

 でもすぐに、僕は何かを思いついた。

「そうだ、自分の射撃技術と攻撃力を見せつければ、きっと……」と考える。そして、僕の妄想は膨らみ始める。街の人たちが僕の能力を見て声をかけてくれて、ギルドの人たちも僕に注目して……。

「えへへへへへ」

 僕はうっかり声に出して笑ってしまった。
 するとエルが「おい!」と一喝する。僕は我に返り、恥ずかしくなる。妄想ばかりしていても、現実は変わらない。

「わ、わかったよ、エル! じゃあ、最初の街に行ってみるよ! 何かしらの方法で、依頼を受けられるようになるかもしれないし」


 最初の街、その名は「ルミナリス」。ギルド協会がある、この森から少し歩いた場所に位置している。ルミナリスは、冒険者たちにとっての重要な拠点だ。

「ここからルミナリスまでなら、とりあえず私が案内するわ」とエルが言った。僕は心から安堵した。

「助かります、本当にありがとう、このお礼はいつか必ず何としてでも」
「あーそういうのいいからうざい」

 コミュ障の僕にとっては、彼女の存在が本当にありがたい。

 エルは少し苦笑いを浮かべながら、「はぁー、本当に大丈夫なの?」とため息をつく。僕の不安が顔に出ていたのかもしれない。

 ルミナリスへの道は、思ったよりも平坦で歩きやすかった。周りには緑豊かな景色が広がっており、時折鳥のさえずりが聞こえる。そんな自然の中を進むと、少しずつ街の喧騒が耳に入ってきた。

 ルミナリスに着くと、僕たちは活気あふれる街の中心へと足を進めた。市場での賑わい、冒険者たちの歓談、商人たちの商談……この街は、冒険の始まりの地にふさわしい場所だ。

 エルが案内するギルド協会の建物は、街の中心に堂々と構えていた。立派な石造りの建物で、冒険者たちが行き交う様子は、何とも言えない活気に満ち溢れている。

「さあ、ここがギルド協会よ! ここで依頼を探して!」

 僕は深く息を吸い込んで、自分に言い聞かせた。これから始まる新しい冒険に、僕は準備ができている。

 しかし、扉の先に待っていたのは。

 いかつい人と、和気あいあいとした雰囲気の人たち。
 さらには複数のクラスメイトたちも居て、僕は思った。

 あ、やっぱり来なければよかったと。
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