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第二章 クロノス

15 謝罪

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 「騎士団っす!全員武器を置いて手を上げるっす!」

 騎士団に所属するゼフスは違法にホムンクルスを製造している施設に来ていた。

 騎士団の団員たちは抵抗するものを素早く無力化し手際よく拘束していく。

「製造されたホムンクルスはどうしますか?」

 団員の一人がゼフスに尋ねる。
 
「既に製造された個体は保護、製造途中の個体は破壊するっす!」

 その声を聞き、団員たちはそれぞれに動き出す。
 それを横目にゼフスは一人、スタスタと歩いていていってしまう。

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 ここで違法にホムンクルスが作られていたことを知ったきっかけは、施設の研究員からタレコミがあったからだ。
 そのタレコミをゼフスが聞き、団員たちにそれを伝えて今こうして取り締まっている。
 しかし、ゼフスは一つ、他の団員達には伝えていない情報があった。

「あのタレコミ、ガセじゃなかったっすね」

 ゼフスの目の前には、何かの液体で満たされた大きな水槽のようなもがある。
 そしてその中には裸の銀髪ロングの少女が入っている。

「これが、世界を滅ぼす程の力を持つホムンクルス……の失敗作っすか」

 例の研究員の話によると、このホムンクルスは強大な力を持っているものの、一般的なホムンクルスとは違い、自分の意志を持ってしまった。
 これは道具としては欠陥品としか言いようがない。

「でもこの際どうでもいいっす。あの男を自分の手を汚さず殺すには打って付けっす」

 ゼフスは自分の持っていた剣で水槽を叩き割る。中の液体で部屋はびしょ濡れになる。
 水槽の中にいた少女はゆっくりと目を開ける。

「……お主は誰じゃ?」

 寝ぼけているようなぼんやりとした目でホムンクルスはゼフスの方を見ている。

「お前のご主人様っすよ」

 ゼフスはニヤリと笑いながらホムンクルスにそう言う。

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 辺りは暗くなり、なんやかんやあったが、何とか開店準備が完了したアーリスは三人と一緒に夕ご飯を食べていた。

「夕ご飯作ってくれてありがとう!すごく美味しいよ!」

 アーリスはそう言ってエルミスの方を見る。

「喜んで貰って嬉しいよ!」

 エルミスは嬉しそうそう言う。

「……本当に美味いな。これなら下手なレストランに行くより、エルミス人作ってもらった方がいいな」

 アフロディーティもエルミスの作った料理を美味しそうに食べている。

「ありがとう!……それより、いよいよ明日、開店だね」

 エルミスはワクワクした様子でアーリスに言う。

「そうだね……。あ~なんか緊張してきた!」

「大丈夫だ、アーリス。この店はなかなかいい雰囲気だし、場所もいい。きっとたくさん、客が来てくれるさ」

 緊張しているアーリスをアフロディーティが落ち着かせようとする。

「だといいけどね……」

 アーリスはまだ少し不安そうだ。
 顔は笑っているがその笑顔は引きつっている。

 結局その日はご飯を食べ終わったら明日に備えてすぐ寝ることになった。
 
「なあ、アーリス。そういえば今日、君はどうやって寝るつもりだ?」

「どうって?ここで寝るけど……?」

 アフロディーティは首を傾げる。

「この部屋には布団もベットもないじゃないか」

「いや……。別になくても寝れるよ。前に所属していたパーティだって、俺の分の布団なかったし」

 アフロディーティは、はっとした顔をしてアーリス見る。

「フェンガーリ達は君にそんな扱いを……」

「フェンガーリ?それってさっきの!あの男がアーリスを……!」

 エルミスが驚いたように、大声をあげる。

「アーリス、フェンガーリにされたことを話して貰えないか?」

 アフロディーティは真剣な表情でそう言う。

「……あまり面白い話じゃないけど」

 アーリスはゆっくりとフェンガーリ達に追放される前の話をし始める。

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 アーリスの話を聞いているアフロディーティの心はだんだんとどす黒い感情で埋め尽くされていく。

(僕にとってアーリスは特別な存在だ。アーリスのためなら僕はどんな物だって犠牲できる。そのアーリスをアイツらは……)

 アーリスは話をしている時、とても辛そうな顔をしていた。その顔を見るたび、アフロディーティの胸は酷く締め付けられる。

(殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。アーリスを悲しませた彼らを、アーリスを傷つけた彼らを、僕は絶対に許さない!僕は必ず奴らを――アーリスが傷ついている時、僕は何をしていた?アーリスが寂しい時、なぜ僕は彼のそばにいなかった?僕のせいだ。僕が何もしなかったから。僕が君のそばにいなかったから)

「アーリス……」

 アフロディーティの目からは涙が溢れていた。

「ア、アフロディーティ……?」

 それを見たアーリスは動揺してオロオロする。何かの声をかけなければと思いつつも、何を言っていいかわからなかった。

「ごめん」

 不意に、アフロディーティから謝られる。アーリスは急な謝罪に混乱する。

「どうしてアフロディーティが謝るの?」

「……ごめん、ごめんごめんごめん。ごめんなさい……」

(もう、私はアーリスから離れない。ずっと彼のそばにいて彼を守り続けよう)

 アフロディーティは心の中でそう誓ったのだった。

 

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