緑夢幻想 リ・バースデイ

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プロローグ

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『あなたは神を信じますか?』



 誰もが一度は耳にした事があるだろう台詞。特にこの不況真っ只中の日本では、まさに神にでも縋りたいと思う者は少なくない筈だ。


 俺が小学生の頃の話だ。毎週土曜の午後、近所の公園にキリスト教信者の婆さんがやってきて、公園で遊ぶ子供たちに甘い菓子を与え、イエス・キリストの『ありがたい』話を聞かせていた。

 友達や他の子供たちは楽しそうにその話を聞いていたが、俺はどうしてもその婆さんが好きになれなかった。気に入らなかった。だって、俺には婆さんの魂胆が見え見えだったから。


 何が嫌なのかと友達に尋ねられたが、口下手だった俺は、気持ちを上手く言葉にすることが出来なかった。とにかく気に入らないのだと言い放った俺を、その友達は呆れたような目で見て、それ以来あまり話さなくなってしまったものだった。


 俺は友達と婆さん、両方に腹を立てた。


 甘いお菓子で子供に取り入り、親子ともども入信させようと毎週はりきっていた婆さん。それに面白いほど簡単に引っかかる子供たち。馬鹿馬鹿しくて、腹立たしかった。


 だから、俺はまず両親に言いつけた。婆さんがいちいち口止めするから親たちはまだ気付いていなかったのだ。
 ……それだけ、婆さんが好かれていたという事なのだろうが。
 
 俺は拙い言葉で懸命に両親に話した。しかし、二人とも幼い妹にかかりっきりで、真面目に取り合ってくれなかった。


 邪魔な妹に使えない両親だ。

 更に腹を立てた俺は、今度はクラス担任の教師に言いつけてやった。素行の悪かった俺を最初は信じていないようだったが、次の土曜日にその教師が様子を見に来た事が決定打となった。


 最後のお別れにと、婆さんが子供たち一人一人に話しかけて回ると、あちこちからすすり泣く声が上がった。俺はそれをほくそ笑みながら眺めていた。



 最後に俺の所に来た婆さんは、いつものあの嘘くさい微笑みで言ったんだ。


「あなたは神を信じていますか?」



 だから俺も、満面の笑みで答えてやったのさ。



「全く、信じていません」
 




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