2月が逃げるので、捕まえてみた。

北野

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2月が逃げるので、捕まえてみた。<前>

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 触れられてすらいない俺の股間は、パンツの下で既に限界近くまで張り詰めていた。
 限界近くまで張り詰めているというのに、可愛い恋人の尻の中に挿入したら体感1.5倍くらいに膨らむ余地を残しているので、人体は不思議である。男性器というのは、某有名モンスターゲームのキャラクタで言えば芋虫のモンスターやサナギのモンスターに例えられることが多いが、俺のそれは、まさしく伝説のドラゴンと言って差し支えない。
 とにかく俺のそれは立派なので、それを受け入れる恋人のおしりの入り口は、行為のたんびに丹念にほぐしてあげねばなのだ。
「……ん、う……。ぁ、もう……っ」
 後ろから俺に抱きしめられている冬弥とうやが、開いた両足をじたばたさせる。細い彼の尻たぶの間に、俺の指はもう三本も吸い込まれている。挿入中は正常位で抱き合うことが多いが、こうやって背中側から責めるのもオツだ。とにかく冬弥のちんちんがぷるぷる揺れるのが見えるのが最高だ。俺がくちゅくちゅとナカをかき混ぜれば、冬弥が身悶えて、かわいらしくちんちんが揺れて、先走りがつぷりと溢れる。声も温度も匂いも良いが、こうやって視覚的に、恋人の興奮を実感できるのは素晴らしい。
「気持ちいいなあ、冬弥」
 耳元で囁き、快感から逃げるように身を捩る冬弥を片手で抱きすくめて、ついでに乳首をぴんぴんと跳ねる。
「あ、あ、あぁっ」
 ぱたぱたさせていた骨張った足のつま先が、ぎゅっと力を込めて丸まった。俺は指先で乱暴に冬弥のナカを責める。ぐちゅぐちゅとはしたない水音が、ふたりきりの部屋を満たす。
「…………、んぅッ……」
 びくびく、と全身を震わせて、ナカはきゅうきゅうと俺の指を締め付ける。粘性の白濁は射精と呼ぶには中途半端な勢いで、とろとろと、二度、三度精を吐き出した。
 細身だが上背はある冬弥だが、イかせた直後は無防備でか弱い小動物みたいだ。くたりと俺の胸に背中を預けて、余韻を味わうように目を閉じて、はあ、はあ、と息を整える。顎を上げさせて、唇を合わせる。ねだるように差し出される舌が、温かくとろけて、心地よい。
(……よしよし、前戯は上々だ)
 そろそろメインディッシュといこうかな。まだくったりとしている冬弥の腰骨のあたりに、俺のビックマグナムがごりごりに存在感を醸している。
(でも、そうだな……)
 と俺は目を下ろした。白濁を腹に垂らしたあとの、かわいらしい冬弥のちんちんだ。これを責めない手もないだろう。先週末は俺のほうが嫌と言うほど亀頭をいじめられたし(もちろんその亀頭でいじめ返したが)、どれ今日は潮を噴くまでお返ししてやろうか……唇を離して、舌なめずりを見せてやったあと、俺は冬弥のかわいいちんちんへとおもむろに手を伸ばし――
 ――その手を、きゅ、と掴まれた。
「……紅蓮ぐれん
 目を戻す。頬を上気させた冬弥の、ちょっと困ったような顔。
「は、早く挿れて……ここに」
 掴んだ俺の手を、すすす、と自分の下腹部へ連れていく冬弥。
 俺は目の前が真っ白になりかけた。
 実際1秒前までの作戦は爆発霧散して消えた。
 そんなエロ本みたいなことを、このシャイな恋人が、言ってくれるなんて思ってもみない。
「ど、どうした。珍しいなァ。もう待ちきれないってか?」
 ヤバイ誤射するところだった。内心動揺しながら俺は、冬弥を仰向けにベッドへ寝かし、よいしょと両足を開かせる。急いでパンツをずらし、赤く熟れてまだひくついている、ちょっとだらしなく口をあけた冬弥の穴へ、俺の怒張を押し当てて……待て待て、ゴムがまだだ。慌ててコンドームへ手を伸ばす。
「よほど俺のが欲しかったんだな……」
 あんまりに浮ついているのがバレたら恥ずかしい。でも俺のほうも正直持たない。
 大慌てでゴムを装着している俺に、いや、と冬弥が口を開けた。
「早くゲームを」
 そこで一旦言葉が途切れた。
 興奮しすぎて既に息が荒い俺と、もう息を整え終えている冬弥が、はたと見つめ合う。
 ……多分。そのとき冬弥が言い淀んだのは、これから本番をはじめようとしている俺に流石に申し訳ないと、一応は思ったからなのだろう。
「……早くゲームの続きしたい。さっさと終わらせよう。な」
 ゲームを。
 その単語が、何を指すのか。一瞬理解できなかった。俺はおもむろにベッドから、机の上へと目をやった。二台分のゲーム機が、つい三十分前くらいまで遊び倒されていたゲーム機が、ドックの中で充電を蓄えつつあった。
「……あー、そうだな。ゲームをな」
 そこで萎えなかったのは奇跡である。
 拗ねなかったのも褒めてほしい。



 ――というのが、1月末の出来事だ。二月が逃げるとはよく言ったもので、暦は既に二月の月末に差し掛かっていた。
 ゲーマーの冬弥が、こよなく愛している某有名ゲームタイトルの、大型最新作が発売されたのが、1月28日。同棲して二年ほどになる恋人なので、俺はよく知っている。冬弥はそのゲームが他の何よりも遙かに大好きで、そのゲームのこととなると右も左も見えなくなるのだ。
 特に今回の新作は、今までのシリーズとは一線を画すゲームシステムが売りになっている。PVが発表された日に柄にもなくおおはしゃぎしていた姿が懐かしい。冬弥はこのゲームの発売を、ずいぶん前から本当に楽しみにしていた。
「今作はやりこみ要素がすごい。めんどくさいけど楽しいな」
 発売日にわざわざ休みを取り、からの三日間で60時間くらいプレイしていたのは記憶に新しい。俺もゲームは好きだが、あそこまで集中できる能力は流石にない。
 リアル三度の飯よりゲーム優先。食欲、睡眠欲、性欲よりも勝るゲーム欲。同棲生活で料理全般を担当してくれている冬弥は、最初の土日をウーバーイーツで済ませた以外は、ちゃんと食事の用意はしてくれる。だが食事中はゲームをしている。
 で、その新作ゲームが俺と冬弥――同棲二年目の恋人同士に何をもたらしたのかというと、セックスレスなのであった。
 当然だが、冬弥がゲームとイチャついていると、その分俺とイチャつく時間は減る。楽しみながら、それでいて超真剣にプレイしているので、股間に手を出そうものならその手をキツめに叩かれる。なにより、冬弥が楽しんでいるのだから、俺は嬉しい。待ち望んでいたのも知っていたし、邪魔をするのも野暮ってものだ。セックスなんかいつでもできる。
 そう思って一週間が経ち、二週間が経ち、三週間が経った。
 まさか四週間目も過ぎようとするなんて思わなかった。



 「――おかえり! ごはんにする? お風呂にする?」
 俺だってその間、ゲームに浮気している冬弥を指をくわえて眺めていたわけではない。俺のほうが先に帰宅した日には、頑張って晩ご飯なども用意して、このように定型句でお誘いをかけてみたりもした。
「それとも……」
「ばくえんまるにする」
 冬弥は無邪気な顔でそう答えた。(ばくえんまるというのは、冬弥のゲームの中のパートナーのニックネームである)
「……な、なあ。いつ頃俺を選んでもらえる?」
 それ以上俺を放置したら掴んで押し倒して服をひん剥いて泣かせるぞと言ってやりたい。でも、言えない。なぜなら俺は、みっつ年下のこのかわいくて小生意気な恋人を、でろでろに甘やかしたい年頃なのだ。卑屈で遠慮しがちな性格の冬弥が、俺に甘やかされて段々わがままになっていくのは、正直かわいいことこのうえない。
 まあそれはそれとしてエッチはしたい。
「んー、まあ二月中には終わらせるよ」
 俺をないがしろにしている自覚もあるのかどうか。鞄を下ろし、コートを上着かけに引っかけると、すぐにゲーム機を充電ドックから取り出す彼。
「言ったな? 二月中だな?」
「一ヶ月あればやりこみ要素も終わるはず」
「約束だぞ」
「うん」
 返事はうわの空。だが、分かった、かわいい恋人よ。お前の幸せを奪う真似は、決してしないと俺は誓う。



 とはいえ、恋人が他のオスとイチャイチャしているのを黙ってみている俺ではない。二月中の一ヶ月間、俺はあらゆる策を講じたのだ。
 例えば、目の前で筋トレをして、俺の鍛え上げられた肉体美を遺憾なく見せつけてみたり。……まあ、いつもしてるんだけど。それに冬弥が俺の筋肉に興奮したところも見たことないけど。俺は冬弥の胸の洗濯板に乳首が恥ずかしそうに収まっているのを見るだけで、すぐに勃起するのになあ。
 案の定筋トレ作戦はガン無視された。
 またある日は、風呂上がりに、股間のいやらしいシルエットの強調される下着を履いて、半裸で部屋をうろついてみた。冬弥が俺のいやらしいシルエットが好きなことは知っているのだ。苦しかろうに一生懸命根元まで咥えこもうとするし、あの苦しそうな表情を想像するだけで俺はたちまち勃起するし……
 冬弥はYボタンとZRボタンをぴこぴこしながら、俺の半勃ちに見向きもせずにこう言った。
「早く服着ろよ。視界に入るだけで寒い」
「あ、うん……」
 ――じゃあこんなのはどうかな、シコッたティッシュをそのへんに放置してみるとか。仕事中、PC画面のエクセルデータに向かいながらも、悶々と迷走してしまう日々。そういえば俺、冬弥と付き合う前、冬弥が鼻かんだティッシュが丸まってゴミ箱に入っているのを見ただけで、めちゃくちゃ興奮してたっけ。……でも、そういや、つい先日、最近ヤッてなさすぎて久々に夢精したことを報告したら、ゲラゲラ笑われたんだった。冬弥は俺がシコッたティッシュを見たところで、汚いなくらいにしか思わないだろう。
 一緒にコンビニに行けば、無駄にコンドームを買ってアピールしてみたりもした。お陰で現在我が家には未開封のコンドームが現在6箱もストックしてある。
 精の付く飯を食わせてみるっていうのはどうだ? ニンニクマシマシの、なんかこう……そういうやつ!
「なあ冬弥、精の付く料理って何がある?」
「ん、牡蠣とか? 今日は牡蠣鍋」
「まじかよ最高」
 そんなにゲームがしたいのに晩飯を作ってくれて本当うれしい。この頃妙に精のつくメニューが並ぶごはん。分かってるさ、俺に盛って欲しいんじゃなく、冬弥がゲームのキャラクタに盛っているからこういうメニューを作っちゃうんだ、って。
 小食のくせ普段よりやや早めに飯をかき込み、団欒も洗い物もそこそこに、「さーてと」と充電ドックからゲーム機を取り出す。
「飽きないなあ」
 若干呆れ気味の俺のニュアンスを受け取ったのかどうなのか、「色違いが出なくてさ」と彼はケロリ。
「あ、テレビ見る?」
「いや」
「じゃテレビでやろっと」
 ゲーム機をドックに戻し、コントローラーを握って戻ってくる。
 ソファに腰掛けてそれを眺めている俺のところへやってきて、俺の目の前に立ち、背を向ける。
 それから、膝と膝の間へ、その細い腰をすっと下ろして、
「よいしょっと」
 俺を背もたれ代わりにして、平然とテレビ画面へ目をやる。
 かわいい。かわいいが、もはや冬弥は俺のことを、ソファ兼湯たんぽくらいにしか思っていないというわけだ。
 ゆっくり腹へ手を回して、軽く抱き寄せる。牡蠣鍋で暖まった恋人の温度が心地よい。
 座り位置を調整しようと冬弥が尻をむずむず動かす、それが俺の股間にわざとらしいくらいに擦れて、俺の股間はダイナマイトする。まるで童貞みたいである。だが一ヶ月ちかくもお預けを食らっているのだから、ほぼ童貞みたいなものである。
 まあ尻に当たってる俺の股間がちょっと固くなっているくらいで、最近の冬弥は我関せずだ。ッコントロールスティックの動きの善し悪しだけでなく、俺のビッグスティックにも関心を持って欲しい。
「紅蓮、案外飽きるの早かったな」
「俺は収集系より対人戦のほうが好きだからなあ」
 オープンワールドの大自然のグラフィックを、プレイヤーの冬弥が走り回る。赤い目の強キャラを見つけると、背中へ回り込みながら連続でアイテムを投げつける。敵が怯んだところで、カチカチカチ、と素早くボタンを押し込み、アイテムを黒いボールに淀みなく切り替え、背中へ的確に命中させる。細長い指先が精密に動き回る様はまるで機械仕掛けのようだ、プロピアニストに負けるとも劣らぬ華麗な指さばき。
「ボール三回も弾きやがった」
「ツイてないな」
 冬弥の背中のあったかさ、彼がコントローラーの上で指先を踊らせるたびに呼応して力がこもる全身の繊細な感覚に、俺は感覚を沿わせてみる。
 ゲームをしているときの、横顔。かわいい。英語の論文を読んでいるときの小難しい顔も好きだが、ゲームに熱中しているときの目も、俺はまた好きだ。冬の朝、カーテンを開けたらうすらと積もった新雪の、きらきらと朝日を弾くような……そんな子供のような目も、またいとをかし。
 をかし……おかし……犯したい。
 冬弥のケツと布四枚分の距離にある俺の股間は今にも自爆しそうである。
「なあ冬弥……」
 吐息を首筋にかけてみたら何か起こるかと思ったが、何も怒らなかった。彼のかわいいえりあしが俺の吐息でちょっとぬるくなったくらいだった。「今日は何月何日でしょう」「2月28日」冬弥は淀みなく答えた。在宅中は尋常でなくゲームばっかりしているが、ちゃんと大学には通っているのだった。「もう2月終わるのか。早いなあ」
 俺にとって。こんなにも長く感じられる二月は、生まれてこの方はじめてである。
「あ、また弾かれた。手強いなこいつ」
 肩に、顎を乗せてみる。量の多い後ろ髪に、そっと鼻先を埋める。かわいい匂いだ。匂いだけでもうかわいい。
「くすぐったいよ」と彼が言う。それだけなら、たわむれのようにお互いの肌をからかいあって、そのままベッドインもやぶさかではない、良い雰囲気だ。だが彼はこう続けるのである。「手元がブレる」
「すまん」
 冬弥がゲームに集中しているとき、俺は戯れすら許されないのだ。
 顔が良い。短い睫毛をじっと見つめるが、その目がこちらに向くことはない。なんだか悶々としてきた。悶々としてきたし、いらいらしてきた。いらいらしてきたのは、俺のちんちんが、だ。
「それ……発売されて、もう一ヶ月だな」

 ――言ったな? 二月中だな?
 ――一ヶ月あればやりこみ要素も終わるはず。
 ――約束だぞ。

「……そうだっけ?」
 冬弥はちょっと間を置いて、それからしみじみと呟いた。
「なおのこと早いな。まだ一週間くらいしかプレイしてない気がする」
 300時間近くプレイしといてマジか。今月俺とは1分たりともプレイしてないが?
 ダメだ性欲が抑えられなくなってきた。
 実際、彼にとってのやりこみ要素(色違いの収集)は、全然終わっていないようだ。この調子だと……俺との一ヶ月の約束は……おそらく忘れているだろう。
 かわいい冬弥。ゲームしてる幸せそうな冬弥。尊いし守りたい。でも――ちょっと、俺だって、もう、十分我慢したんですが?
 俺はちらりと時計を見た。23時40分。2月はあと残り20分。
 よし。
 腕を解いて、おもむろに俺は立ち上がった。
「……風呂行ってくる」「おー」
 呑気に返事をする冬弥の目は、やはりゲーム画面だけを捉えている。……アレだ。ちょっとしたお仕置き。そう、約束を守れない恋人には、ちょっとしたお仕置きが必要だ。
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