おにぎりレシピ

hello,world hello,work

――３月某日。


「ではこれで手続き完了です。就職先も訓練期間中に無事決まって良かったですね。ご卒業、おめでとうございます」
そう言って、職業安定所（ハローワーク）の人の良さそうな、恐らく再雇用のおじさんはニコニコとハンコを押した。

“都立職業能力開発センター　システム開発科（６ヶ月コース）修了”

半年間の訓練期間と技能照査を乗り越えたあと簡素な修了式を終えて、最後の給付金の手続きにやってきた訓練校（能力開発センターって呼ばれる前は、訓練校って呼ばれてて今もその方が通りがいいらしい。僕もそう思う。だって、能力開発って、どう頑張っても人間は変身したり魔法が使えるようにはならないでしょ）近くの職業安定所は、半年とちょっと前に申込に行った別の職業安定所となんら変わりはなかった。お役所ってどこもこんな感じなのかな。職業安定所ってギルド協会みたいなものだと思うんだけど、だいぶ趣きが違う。

「もう慣れましたか？」
「え？」
「東京へお引越しされてきたのでしょう？　遠方ですか？」
「え、ええ。そうなんです」
『かなり遠いところから』

「東京、慣れましたか？」
「少しは……」
『全然。当初、慣れるための予定期間は2年間だったんですよ』

「新しい職場、新しい環境楽しみですね」
「……はい」
『準備不足で不安しかないです……』

胸のうちとは裏腹の引きつった笑顔とだんだんと声が小さくなる僕を心配に思ってくれたのだろうか。おじさんは励ますように笑顔で言葉をかけてくれた。人間の優しさってまぶしい。そしてちょっと禿げた頭もまぶしい。

「不安は皆さん同じですよ。でも、慣れますよ」
「ありがとう、ございます」
『そうでしょうか……この世界に慣れますでしょうか……皆さん、こんな不安を抱えて社会に出るんでしょうか……』

最後におじさんはもう一度「頑張って！」と力強く、頭に後光がさす勢いで僕にエールを送ると「次の人、どうぞ～」と作業に戻った。フラグが回収され、元のルーチンに戻ったみたいだった。