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ものずきの世界
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――おかしい。
この世界の調査、どこの部署の誰が担当だったんだろう。来る前に読んだ調査資料の内容も実際も、あまりに雑。よくあれで資料として認められたと言うか、長官が許しましたよね。全ての情報は長官とともにあるはずなのに。それほど瑣末な見限られた世界なのだろうか。次元数の低い恐ろしく辺鄙な場所で、エネルギー効率も悪く不便で不自由。時間の流れが速いわりにステージが進まないということで、よほどのモノ好きしか行かないとは聞いていたけど。
「はぁ……」
溜息しか出ない。
「ナルちゃん、なに、韜晦してんの?」
モノ好き発見。きっと筋金入り。
「すみません。この世界まだ半年ちょっとなのであまり難しい言葉使わないで頂けますか?」
「本、読みなさい。本を」
「長官と同じこと仰いますね」
「ギャーーーーーー!! あいつと同じとかヤメテーーーーーー!!!」
ぼそりとつぶやいた僕の一言に過剰反応したモノ好きの科戸さんが絶叫した。途端、暖かい春風が窓を力ずくでこじ開けて部屋の中に侵入。いや、乱入。大暴れをはじめた。
「科戸さん! 落ち着いて! 部屋中の家具、風でなぎ倒されちゃいますー! 僕の採用通知が!!」
机に顔をのっけてぼにゃっとしていた僕の手にあったA4ペラ紙が部屋の中に出来た小さな竜巻に巻き込まれてぐるぐるしている。当の科戸さんの髪も竜巻の影響を受けてウェーブのかかった黒髪がとんがった巻貝にみたいになっている。
「科戸さん! 髪! 髪直すの大変ですよ!」
僕の採用通知よりよほど大事なヘアスタイルの一言で、嵐はぱたりとやんで涼しい顔して風は窓の外へ遊びに出て行った。ほっと一息つけば、荒れた部屋のなかにボロボロの紙切れが落ちている。
「僕の採用通知……これ、もらうの大変だったのに……」
「ナルちゃんがアイツを引き合いに出すからでしょ。かしなさい」
科戸さんは巻貝みたいな頭で僕に手を出してきた。僕が拾った紙を渡すと「だいたい内定通知書って言うんじゃないの?」とブツブツいいながら息を吹きかけると、ヨレヨレのボロボロ紙はひとつのしわもないきれいな姿に戻った。
「あ、ありがとうございます。内定って言うのは、新卒者向けみたいですよ。中途採用とかは採用通知って言うらしいです」
「ナルちゃん、新卒じゃないの?」
「中途です。一応、情報省で仕事してましたし」
「それアリなの? って言うか今も職員でしょ」
「ここに来る前、総務部が情報を扱う会社を一身上の都合で退社みたいな感じで存在データ作ってくれたので。勤めてなかったらこの世界で毎月の給付金もらえないですからね。そこは総務、きっちりやってくれました」
「セコイわね~経費節減のために、情報操作でこの世界から給付金受けさせるとか……」
「どうせだったらもう少し高給取りの社員に設定してくれたら、限度額ギリギリまで給付受けられたの思うんですけどね。そこは中の上、上の下くらいの設定になってました」
「セコイわりに攻めきれないところがお役所らしいわ」
「それに、職業能力開発センター、旧職業訓練校は学校としては扱ってもらえないみたいですよ?」
「そのネーミングセンスゼロ感も扱えないわー」
「不思議ですよね。何を開発するんでしょうね? 僕はちなみに6ヶ月間で能力はなんら開花しませんでした。元からヨリナシですしね……」
「ハイハイ。凹まない。鬱々しない。卑屈にならない。してもいいことないから」
「すみません」
「で、一身上都合退社の場合、待機期間アリの3ヶ月失業給付金が、訓練期間中は即払いの訓練期間全て給付されるわけね」
「そうです。だから先日の修了式の後、最後の手続きに行って来ました」
「悪い制度じゃないからウチの子たちが辞めるときにも紹介してあげたいけど、微妙っちゃ微妙よねー」
「僕みたいな地球外から来たものには大変助かる制度です」
「地球外対応してるわけじゃないと思うけど……」
科戸さんは、荒れた部屋を指先一つできれいに片付けしてしまった。ほんと、すごい。でもそんなにこの世界で力を使っちゃっていいんだろうか。世界のパワーバランス壊しちゃいけないって研修時代に講義受けたけどなあ。ヨリナシの僕には全く影響のない話だったけど。あ。なんか悲しくなってきた。
「で、なんとかそれを受け取ったわけね。この国の大勢が必死になる内定か採用かの通知書」
「そうですよ! 訓練しただけじゃ意味ないです。就職しないと! 僕、今回これもらえなかったらここに来た意味すらなくして戻るしかないところでしたよ! それはもう切実です!」
「いや、だから、それがおかしいって言ってんのよ。あなた、かりにも情報省の機関員として潜入しにきたんでしょ? なんで、任務遂行手前で峠向かえてんのよ」
「それは僕にはなんとも。入社しろとの命令なので、するしかないかと……」
「アンタねぇ……だいたい情報省ともあろうお役所が、情報古すぎってマジ受けるわ。世界順応訓練期間2年のはずが、レンホーの事業仕分けで半年になってたの知らないってどんだけネタ古いのよ」
「この世界、時間の進みが随分早いですからね」
「そういう問題? しかも1年コースは有料で、その経費は出せないから半年無料コースで何とかしろって、ヘッポコよりなしちゃんには酷な話よねぇ」
ヘッポコ……凹
「まったく。あの天邪鬼もここまでくれば相当だわ。内心、檻にでも入れて部屋から出したくないくせに。檻じゃなくて棺桶かもだけど。変態らしいわ」
棺桶……凸
「と、とにかく僕はこの会社に入社するところまでは漕ぎ着けたので、あとは姫に会って事情を説明し陛下のところまでお連れすれば任務完了です」
科戸さんは溜息をはきつつ、僕がテーブルに置いた採用通知書をチラッと見ると意味深につぶやいた。
「何だかきな臭いのよねぇ」
「科戸さん、物騒な事言わないで!」
「だいたい……なんで女の子よ……変態の趣味? それとも陛下の趣味かしら」
趣味……?!
「これは……姫に接触するにはこの方が良いと判断されたから……だと、思われます……たぶん……」
「フーーーーン」
僕は科戸さんが上から下まで眺めるのに合わせて、自分でもこの世界で女性と呼ばれる身体を見た。
「そんなに違いますかね?」
「違わないわね。ちっちゃいし。ぺっちゃんこだし」
ぺっちゃんこ……?
この世界の調査、どこの部署の誰が担当だったんだろう。来る前に読んだ調査資料の内容も実際も、あまりに雑。よくあれで資料として認められたと言うか、長官が許しましたよね。全ての情報は長官とともにあるはずなのに。それほど瑣末な見限られた世界なのだろうか。次元数の低い恐ろしく辺鄙な場所で、エネルギー効率も悪く不便で不自由。時間の流れが速いわりにステージが進まないということで、よほどのモノ好きしか行かないとは聞いていたけど。
「はぁ……」
溜息しか出ない。
「ナルちゃん、なに、韜晦してんの?」
モノ好き発見。きっと筋金入り。
「すみません。この世界まだ半年ちょっとなのであまり難しい言葉使わないで頂けますか?」
「本、読みなさい。本を」
「長官と同じこと仰いますね」
「ギャーーーーーー!! あいつと同じとかヤメテーーーーーー!!!」
ぼそりとつぶやいた僕の一言に過剰反応したモノ好きの科戸さんが絶叫した。途端、暖かい春風が窓を力ずくでこじ開けて部屋の中に侵入。いや、乱入。大暴れをはじめた。
「科戸さん! 落ち着いて! 部屋中の家具、風でなぎ倒されちゃいますー! 僕の採用通知が!!」
机に顔をのっけてぼにゃっとしていた僕の手にあったA4ペラ紙が部屋の中に出来た小さな竜巻に巻き込まれてぐるぐるしている。当の科戸さんの髪も竜巻の影響を受けてウェーブのかかった黒髪がとんがった巻貝にみたいになっている。
「科戸さん! 髪! 髪直すの大変ですよ!」
僕の採用通知よりよほど大事なヘアスタイルの一言で、嵐はぱたりとやんで涼しい顔して風は窓の外へ遊びに出て行った。ほっと一息つけば、荒れた部屋のなかにボロボロの紙切れが落ちている。
「僕の採用通知……これ、もらうの大変だったのに……」
「ナルちゃんがアイツを引き合いに出すからでしょ。かしなさい」
科戸さんは巻貝みたいな頭で僕に手を出してきた。僕が拾った紙を渡すと「だいたい内定通知書って言うんじゃないの?」とブツブツいいながら息を吹きかけると、ヨレヨレのボロボロ紙はひとつのしわもないきれいな姿に戻った。
「あ、ありがとうございます。内定って言うのは、新卒者向けみたいですよ。中途採用とかは採用通知って言うらしいです」
「ナルちゃん、新卒じゃないの?」
「中途です。一応、情報省で仕事してましたし」
「それアリなの? って言うか今も職員でしょ」
「ここに来る前、総務部が情報を扱う会社を一身上の都合で退社みたいな感じで存在データ作ってくれたので。勤めてなかったらこの世界で毎月の給付金もらえないですからね。そこは総務、きっちりやってくれました」
「セコイわね~経費節減のために、情報操作でこの世界から給付金受けさせるとか……」
「どうせだったらもう少し高給取りの社員に設定してくれたら、限度額ギリギリまで給付受けられたの思うんですけどね。そこは中の上、上の下くらいの設定になってました」
「セコイわりに攻めきれないところがお役所らしいわ」
「それに、職業能力開発センター、旧職業訓練校は学校としては扱ってもらえないみたいですよ?」
「そのネーミングセンスゼロ感も扱えないわー」
「不思議ですよね。何を開発するんでしょうね? 僕はちなみに6ヶ月間で能力はなんら開花しませんでした。元からヨリナシですしね……」
「ハイハイ。凹まない。鬱々しない。卑屈にならない。してもいいことないから」
「すみません」
「で、一身上都合退社の場合、待機期間アリの3ヶ月失業給付金が、訓練期間中は即払いの訓練期間全て給付されるわけね」
「そうです。だから先日の修了式の後、最後の手続きに行って来ました」
「悪い制度じゃないからウチの子たちが辞めるときにも紹介してあげたいけど、微妙っちゃ微妙よねー」
「僕みたいな地球外から来たものには大変助かる制度です」
「地球外対応してるわけじゃないと思うけど……」
科戸さんは、荒れた部屋を指先一つできれいに片付けしてしまった。ほんと、すごい。でもそんなにこの世界で力を使っちゃっていいんだろうか。世界のパワーバランス壊しちゃいけないって研修時代に講義受けたけどなあ。ヨリナシの僕には全く影響のない話だったけど。あ。なんか悲しくなってきた。
「で、なんとかそれを受け取ったわけね。この国の大勢が必死になる内定か採用かの通知書」
「そうですよ! 訓練しただけじゃ意味ないです。就職しないと! 僕、今回これもらえなかったらここに来た意味すらなくして戻るしかないところでしたよ! それはもう切実です!」
「いや、だから、それがおかしいって言ってんのよ。あなた、かりにも情報省の機関員として潜入しにきたんでしょ? なんで、任務遂行手前で峠向かえてんのよ」
「それは僕にはなんとも。入社しろとの命令なので、するしかないかと……」
「アンタねぇ……だいたい情報省ともあろうお役所が、情報古すぎってマジ受けるわ。世界順応訓練期間2年のはずが、レンホーの事業仕分けで半年になってたの知らないってどんだけネタ古いのよ」
「この世界、時間の進みが随分早いですからね」
「そういう問題? しかも1年コースは有料で、その経費は出せないから半年無料コースで何とかしろって、ヘッポコよりなしちゃんには酷な話よねぇ」
ヘッポコ……凹
「まったく。あの天邪鬼もここまでくれば相当だわ。内心、檻にでも入れて部屋から出したくないくせに。檻じゃなくて棺桶かもだけど。変態らしいわ」
棺桶……凸
「と、とにかく僕はこの会社に入社するところまでは漕ぎ着けたので、あとは姫に会って事情を説明し陛下のところまでお連れすれば任務完了です」
科戸さんは溜息をはきつつ、僕がテーブルに置いた採用通知書をチラッと見ると意味深につぶやいた。
「何だかきな臭いのよねぇ」
「科戸さん、物騒な事言わないで!」
「だいたい……なんで女の子よ……変態の趣味? それとも陛下の趣味かしら」
趣味……?!
「これは……姫に接触するにはこの方が良いと判断されたから……だと、思われます……たぶん……」
「フーーーーン」
僕は科戸さんが上から下まで眺めるのに合わせて、自分でもこの世界で女性と呼ばれる身体を見た。
「そんなに違いますかね?」
「違わないわね。ちっちゃいし。ぺっちゃんこだし」
ぺっちゃんこ……?
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