おにぎりレシピ

帽子屋

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はじまっていた日 12:00PM

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「なんでコーヒーが出来てないんだよ」
長い足を存分にいかした歩幅でやってきて、梅先と紫野の朝の挨拶にはほんの少し頷いたような仕草だけ見せた鬼切は、机に鞄をおくと自席の脇に置いてあるハンガーラックに上着を掛けすぐさま机の上にあったメタリックなカップを持ってフロアを出て行った。
数分後。
給湯室でカップを洗った鬼切が電源すら入っていないコーヒーサーバーの前から肩で風を切る勢いで戻ってきてからの第一声。
「朝当番の玉さんがまだ来てないからじゃないっすか。玉さん家、遠かったっすよね?」
「うーん。確か千葉のほうだっけ?」
「そういうことを聞いてんじゃねえよ。朝当番が来てないなら、俺より早く到着した紫野が準備したらいいだろう」
「なんで俺なの? 梅先さんの方が早くに来てましたよ」
「使えないやつ」
紫野の回答は全否定、問答無用とガムを噛んだまま、またしても鬼切は給湯室へと向かっていった。
「どういうこと?!」
「機嫌が悪いってことだろ。ガム噛んでるし。電車の中にいるときに止まっちゃったんじゃない? で、煙草が吸えないままやってきてニコチン切れ」
「どっかの喫煙所で吸ってから来りゃいいのに」
「紫野くん。きみと違ってそう言うことする人じゃないよね。鬼切さんは」
「……お、れも、しませんよ?」
「そう?」
含みのある梅先に「やだなー そんなわけないじゃないですかー」と乾いた笑いを浮かべる紫野。フロアの奥では喫煙室のドアが勢いよく閉まる音がした。
「……しょうがないっすねー ニコチン切れで八つ当たりなんて、本当に大人げないっすねー しょうがいないから、コーヒーいれますかね」
「いい心がけだね、紫野。手伝おうか?」
「だいじょうぶっす。それより梅先さん、新人教育って何したらいいんすか? 午後の新人教育の準備しとけよって言われたんですけど……」
「……紫野、何も準備してないの?」
「? してないっすよ。と言うか、何するのかすら知らないんですけど」
「おまえ……この前、掃除した日の夕方、鬼切さんからメールもらってなかった? 新人に教えることまとめるとかなんとか。それに、新人担当だろ?」
「……」
梅先は、紫野の顔から血の気が引いていく音が聞こえた気がした。
「……紫野。気を強くもて。コーヒーは俺が入れるから、おまえは鬼切さんが一服している間に、新人教育資料を作るか、作ったけどデータが消えた等の言い訳を考えるか、地球の裏側にでも逃亡するか、どれかを選択して実行に移せ。……健闘を祈る」
梅先の恐ろしく真面目な顔と声に、紫野の背中には、室温とは別の要因で汗が流れた。
『お母さん……』
紫野は今度こそ、梅先が多大な期待を寄せる、あんびりーばぼーな体験が出来てしまうかもしれないなぁと思った。もちろん、善人である自分が叩くのは間違いなく天国の扉であるに違いない。

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