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昼休憩後の世界(5)

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 うわぁ。凍えそう。あの窓の向こう、外の気温よりはるかに温度の低い冷たい笑み。四月なのにな。一日なのにな。僕の初出社、初任務、初日なのにな。なんて冷たい……。
「それは……紫野、本人に訊いてみないと。俺、それについては説明されていないので」
「ふうん」
 さすがの梅先さんの柔らかい笑みも、凍てつく寒風に煽られる硬い花の蕾のように固まった。四月なのに。春なのに。だけどこの目の前で吹き荒れる極寒の冷気に当てられては、寒さに強い梅とて花がほころぶ笑顔は無理です。ここの窓の下の街路樹、ようやく都内にもちらほらやってきた桜の開花だって、鬼切さんの前では花開く前に桜散る勢いですよ。
 そう言えば、桜散った紫野さんはどこへ行ったんだろう。とてもこの人間(?)から逃げ切れるとも思わないけど。
 僕の混乱と現実逃避したい気持ちの目の前では、鬼切さんがマウスを的確に操作している。
「説明する時間もなかったと言う訳か。俺が出社した後に作ったらしいからな」
 鬼切さんは、メモ帳のプロパティを確認していた。さすがの梅先さんも、もう苦笑いを浮かべているだけだ。
「お、にきりさん。芝通の納期、もう少しなんです」
「知ってる」
「だからせめてそれまで、紫野の命は、腕だけでも動かせてコーディング出来るぐらいには……」
 え? どういうことですか? 人間てそんな腕だけ動かせたら生きてますみたいな能力ありましたっけ?
「代わりがいるじゃないか。都合良く、今日から配属された新人が」
「え?」
 え? どういうことですか? ちょっと聞き捨てならないんですけど。
「いや、鳴海さんは、新人ですよ。今日、初出社ですよ。さすがに紫野の代わりは難しいですよ」
 そうです。そうなんです。僕、色々今日初めてです。色々難しいことに直面しまくってます。
「ふうん。そうか。で、その新人の教育を任せた奴は、きっちり資料作って、今、インフラ担当に電話で確認してるとこなんだろ?」
「それは、そうですが……」
「だったらすぐに代わりが出来るぐらいになりそうなもんだな、梅先」
「それは、そうかもしれませんが……」
 僕の耳に、早鐘のように打ち鳴らされる梅先さんの鼓動の音が聴こえた。お、落ち着いて。梅先さん、心臓、破裂しちゃいますよ。壊れちゃったら、代えの心臓、ないでしょ? 存在エネルギーも1個体分だけですよね? さすがに梅先さんは、この世界の普通の人間ですよね。と言うか、お願い。そうであってください。




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