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3日目の世界(12)
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「コーヒーはこんな感じなんだけど、何か質問はある?」
質問? あります! それはもうたくさんあります!
蘇葉さんと仰るお名前の方、お二人いらっしゃるんでしょうか?
そして先程、僕の顔面にドアをめりこませた蘇葉2(仮)さんは、どうやってこの部屋に入られたんでしょう? 鍵は僕が、下の物置にいらっしゃった蘇葉1(仮)さんから頂いているんですよ?
蘇葉2(仮)さんの、あの至極普通な物腰はやはりどこかの組織の方、プロの方……ってさすがにこれは聞けませんよね……話してしまって、無関係な梅先さんが狙われるようなことがあっては困ります! 黒い獣の調査に来ている別の星、別の世界の潜入捜査の方かもしれませんし。潜入捜査と言えば、ジャーゴン強めのあの会話、ちらりとしか聞き取れませんでしたが、うさぎさんとか、もぐらさんとか、でもその話は梅先さんも通じているようで……まさか、梅先さん、あなたまで?! 実は梅先さんは、蘇葉2(仮)さんの仲間で、実は蘇葉2(仮)さんなんて存在してなくて、僕が居合わせたから話を合わせて?? そんな……。
「梅先さん……」
「うん?」
『こんなヨリナシの僕にも優しくて』
梅先は、どちらかと言えば優しい部類に入る人間であった。“Always treat others as you would like them to treat you. Matthew 7:12” そりゃ不親切に扱われるより親切にされたい。嫌な事されるより、いいことされたい。だからまあ、自分も親切であろうかな、マタイによる福音書 7:12。幼い頃から自他ともに認めるオカルトオタク梅先にとって世界一のベストセラーは研究書物として梅先の人格形成に少なからず影響を与えていた。
「あの」
『この世界の良心的人間に見えるのに……まさか……』
何より、梅先たちにとってこの鳴海月は新入社員、何よりも女子、冷たくあしらえるはずもなかった。
別世界からやってきたナルならではの混沌とした思考は留まることをしらなかった。ドアが顔面にめりこんだ際になんとか着地した場所はあまりに脆弱、脆く崩れやすかった。崩壊した思考の足場を離れたナルは梅先をこの世界の人間として信じたい、しかし、正体を突き止めてもみたいとせめぎ合っていた。
「鳴海さん?」
質問を口にするかと思えば、動きを止めてしまった小動物に梅先は声をかけた。その顔は、切迫したようにもどこか緊張しているようにも見える。そんな重要な質問なのだろうか? と言うか、紫野が残した新人やることリスト、遺言状にならなければいいが、このリストの作業にそこまで深い質問が生じるものだろうか?
せっかくこの世界のこの国にやってきたのだから、一度は見てみたいと思っている世界三大潮流のひとつ鳴門の渦潮なみにぐるぐるとしていたナルの思考は梅先の声にぴたりとその渦を止めた。
「この、粉状ミルクが入ったポッドはどうして砂糖に比べるとこんなに大きいでしょうか? そして、どうしてここにペン立てが?」
「ミルク?」
意を決して口を開いた鳴海から出てきた言葉に、梅先からは拍子抜けどころか間抜けな声が出た。ここまで肩透かしを食らうとは思わなかった。
「はい! これ、これです!」
小動物は全力でミルクポッドを指差している。
あ、なるほど、うん、確かに大きいよね。砂糖の容器と比べると倍以上あるもんね。ペン立ては、多分誰かが、この隣の冷蔵の上に乗っているレンジで弁当温めるとき、付随したいらない割り箸を排除して、席に持ち帰るのが面倒臭いから、寄付と言う超私的いいことしました納得感でもって置いてったのが始まりだとは思うんだ。で、コーヒー豆の袋を開けるのに、手で開くと大惨事が起きたことがあって、もちろんその惨劇を起こしたのは紫野だけど、更に隠せるはずもないのにバカだな、証拠隠滅しようとして鬼切さんに見つかって、紫野よ、本当にお前は歩くディザスターだよ、それから袋はきちんと鋏で開けろと鬼切戒厳令が発布されたとともに、ここに鋏が置かれるようになったと言うわけなんだけど。
はっきり言って、思い出して反芻すればするほどくだらないエピソード、顛末。それが日常だなんて、新入社員に思われたくない。そうだ、彼女は女子だ!女子と言えば、可愛い話!そう、梅先はコンマ何秒かで結論に至った。
「ミルクはね、鬼切さんが使うから。あの人、砂糖は使わないんだけど、ミルクを大量にコーヒーに入れるから砂糖と同じ容量だと全然足りなくて」
「え」
あのひと? 今、あの人とおっしゃいましたか? 鬼切さんはひとでしょうか? ヒト、ヒト亜族、ホモ・サピエンス? あれが? 僕にはちっとも一介の人類、人間には見えないんですけど。
自分が質問したにも関わらず、ミルクの件はまるっと無視して、黒い獣に見えるあれが、本当に梅先にはこの世界の人間に見えていることに改めて驚愕する。
「ああ見えて、鬼切さん、ブラックが飲めないんだよね。そんな可愛いところもあるよ、我らがボスは」
ちょ、ちょっとお待ちください。落ち着いて下さい、梅先さん。いや、待って、落ち着くのは僕? びっくりして今ちょっと呼吸と心臓停止しちゃった。
慌てて、心臓の鼓動を再開させるが、血液の流れが戻るよりも早く、衝撃は全身を駆け巡った。
KAWAII?! 今、カワイイと仰いましたよね? あれが? どこが? なにが? かわいい? かわいいの定義ってなんでしたっけ? そして、ああ、聞きたくないですその単語。
「かわいい……ボス……」
「そう、ああ見えてね、かわいいところもあるボスだよ」
お願いです! もうやめてください! ボスってことを再認識させないで! お願いです! あの黒い獣が僕の上司で、敵性種族か姫かもわからないカオスな状況なんです!
質問? あります! それはもうたくさんあります!
蘇葉さんと仰るお名前の方、お二人いらっしゃるんでしょうか?
そして先程、僕の顔面にドアをめりこませた蘇葉2(仮)さんは、どうやってこの部屋に入られたんでしょう? 鍵は僕が、下の物置にいらっしゃった蘇葉1(仮)さんから頂いているんですよ?
蘇葉2(仮)さんの、あの至極普通な物腰はやはりどこかの組織の方、プロの方……ってさすがにこれは聞けませんよね……話してしまって、無関係な梅先さんが狙われるようなことがあっては困ります! 黒い獣の調査に来ている別の星、別の世界の潜入捜査の方かもしれませんし。潜入捜査と言えば、ジャーゴン強めのあの会話、ちらりとしか聞き取れませんでしたが、うさぎさんとか、もぐらさんとか、でもその話は梅先さんも通じているようで……まさか、梅先さん、あなたまで?! 実は梅先さんは、蘇葉2(仮)さんの仲間で、実は蘇葉2(仮)さんなんて存在してなくて、僕が居合わせたから話を合わせて?? そんな……。
「梅先さん……」
「うん?」
『こんなヨリナシの僕にも優しくて』
梅先は、どちらかと言えば優しい部類に入る人間であった。“Always treat others as you would like them to treat you. Matthew 7:12” そりゃ不親切に扱われるより親切にされたい。嫌な事されるより、いいことされたい。だからまあ、自分も親切であろうかな、マタイによる福音書 7:12。幼い頃から自他ともに認めるオカルトオタク梅先にとって世界一のベストセラーは研究書物として梅先の人格形成に少なからず影響を与えていた。
「あの」
『この世界の良心的人間に見えるのに……まさか……』
何より、梅先たちにとってこの鳴海月は新入社員、何よりも女子、冷たくあしらえるはずもなかった。
別世界からやってきたナルならではの混沌とした思考は留まることをしらなかった。ドアが顔面にめりこんだ際になんとか着地した場所はあまりに脆弱、脆く崩れやすかった。崩壊した思考の足場を離れたナルは梅先をこの世界の人間として信じたい、しかし、正体を突き止めてもみたいとせめぎ合っていた。
「鳴海さん?」
質問を口にするかと思えば、動きを止めてしまった小動物に梅先は声をかけた。その顔は、切迫したようにもどこか緊張しているようにも見える。そんな重要な質問なのだろうか? と言うか、紫野が残した新人やることリスト、遺言状にならなければいいが、このリストの作業にそこまで深い質問が生じるものだろうか?
せっかくこの世界のこの国にやってきたのだから、一度は見てみたいと思っている世界三大潮流のひとつ鳴門の渦潮なみにぐるぐるとしていたナルの思考は梅先の声にぴたりとその渦を止めた。
「この、粉状ミルクが入ったポッドはどうして砂糖に比べるとこんなに大きいでしょうか? そして、どうしてここにペン立てが?」
「ミルク?」
意を決して口を開いた鳴海から出てきた言葉に、梅先からは拍子抜けどころか間抜けな声が出た。ここまで肩透かしを食らうとは思わなかった。
「はい! これ、これです!」
小動物は全力でミルクポッドを指差している。
あ、なるほど、うん、確かに大きいよね。砂糖の容器と比べると倍以上あるもんね。ペン立ては、多分誰かが、この隣の冷蔵の上に乗っているレンジで弁当温めるとき、付随したいらない割り箸を排除して、席に持ち帰るのが面倒臭いから、寄付と言う超私的いいことしました納得感でもって置いてったのが始まりだとは思うんだ。で、コーヒー豆の袋を開けるのに、手で開くと大惨事が起きたことがあって、もちろんその惨劇を起こしたのは紫野だけど、更に隠せるはずもないのにバカだな、証拠隠滅しようとして鬼切さんに見つかって、紫野よ、本当にお前は歩くディザスターだよ、それから袋はきちんと鋏で開けろと鬼切戒厳令が発布されたとともに、ここに鋏が置かれるようになったと言うわけなんだけど。
はっきり言って、思い出して反芻すればするほどくだらないエピソード、顛末。それが日常だなんて、新入社員に思われたくない。そうだ、彼女は女子だ!女子と言えば、可愛い話!そう、梅先はコンマ何秒かで結論に至った。
「ミルクはね、鬼切さんが使うから。あの人、砂糖は使わないんだけど、ミルクを大量にコーヒーに入れるから砂糖と同じ容量だと全然足りなくて」
「え」
あのひと? 今、あの人とおっしゃいましたか? 鬼切さんはひとでしょうか? ヒト、ヒト亜族、ホモ・サピエンス? あれが? 僕にはちっとも一介の人類、人間には見えないんですけど。
自分が質問したにも関わらず、ミルクの件はまるっと無視して、黒い獣に見えるあれが、本当に梅先にはこの世界の人間に見えていることに改めて驚愕する。
「ああ見えて、鬼切さん、ブラックが飲めないんだよね。そんな可愛いところもあるよ、我らがボスは」
ちょ、ちょっとお待ちください。落ち着いて下さい、梅先さん。いや、待って、落ち着くのは僕? びっくりして今ちょっと呼吸と心臓停止しちゃった。
慌てて、心臓の鼓動を再開させるが、血液の流れが戻るよりも早く、衝撃は全身を駆け巡った。
KAWAII?! 今、カワイイと仰いましたよね? あれが? どこが? なにが? かわいい? かわいいの定義ってなんでしたっけ? そして、ああ、聞きたくないですその単語。
「かわいい……ボス……」
「そう、ああ見えてね、かわいいところもあるボスだよ」
お願いです! もうやめてください! ボスってことを再認識させないで! お願いです! あの黒い獣が僕の上司で、敵性種族か姫かもわからないカオスな状況なんです!
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