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第一楽章
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備品として双子を受領したあの日から、俺たちはすぐにチームとして高いレベルで機能したわけじゃない。人間の姿をしているが、脳はAIに制御され超能力者じみたことまで出来ると言ったそんなSF的要因より、突然現れた子どもとそうそう簡単に打ち解けるはずがない。今まで触れ合ってきたことなどないのだから。
だが大人の穏やかでない胸中など子どもには関係ないのか、二人は最初から子犬のように懐いてきた。無邪気な双子を前にブライアンは面倒見の良さを発揮してはいたが、本心から彼らと接するにはしばらく時間がかかった。ロンは会話で全てを解決しようとしていたが、その実、相手をくまなく観察するために喋り続けていた。最後にホリーが彼らと話すようになったのはだいぶ時間が経ってからだ。
子どもと日々接すると言う俺たちにとって今までにない異質な時間の中で、命令を繰り返し実行するたびに、自分たちのことではなく備品の彼らに対する説明のつかない感情は澱のように俺たち大人の中に少しずつ貯まっていった。彼らが無邪気な笑顔を見せる時、今までに感じたことのないストレスを意識するようになったのはいつのことだったか。
他のAZとその子守り達はどうなのだろう。
ジムは、ウィステリアが話していた残された五人のうち、三人のことをふと考えた。【A】に続く【B】のビル。その後に【C】と【D】がいる。三人の子供たちにどんな能力があり、どんな任務に使われているのかはわからないが、【E】だからEric(エリック)、【F】だからFred(フレッド)と開発コードになぞらえて名付けられていた彼らは、最初に説明された通り視覚、聴覚、嗅覚、触覚、あらゆる感覚器で通常の人間より遥かに多くの情報を得ることができた。彼らはまた、得た情報の全てを記録し特殊な帯域で送信する事ができる特殊送信機能を備えた生きた高性能センサー付きのカメラであり、生きたストレージだった。
彼らの脳から送られる情報は送信の際、絶対に解読されることがない。情報の暗号化は古い時代から必ず問題になってきたが、現在でも解けない暗号は実用化されていない。何故なら、暗号は、手にする者が必ず解読しなければならないからだ。
だがエリックとフレッドが送る情報は解読する必要がない。
俺が今、脳内で抱いているイメージを誰かが受け取ることはできない。俺が何を考えていようが思い浮かべようが、どんなに精緻にイメージしたところで俺がそれを寸分の狂いなく形ある情報として出力しない限り、それは絶対に他人に見えることは無いし伝わることもない。しかし双子はそれを可能にしている。フィクションで言うところのテレパシーってやつを彼らの脳内にいるSAIが可能にしている。
ビルと名を知らない【C】と【D】にも同じような能力が備わっているのか。
そう言えば、エリックやフレッドから彼ら以外のAZの話を聞いたことがなかった。会ったことはないのだろうか。
ウィステリアは、五人の子どもと言っていたから恐らく姿は子供の形をしているんだろう。双子はともに異常な治癒力と回復力を持ち、その仕組みのせいなのか二人は成長することがなかった。しないようにコントロールされているのかもしれない。
行動を共にする中で時間が流れ、ホリーが彼らと喋り始め、そしてチームとして高いレベルで機能し始めても彼らはいつまでも初めて出会った時と同じ子どもの姿で、恐ろしく綺麗な容姿のままで、1ミリも身長は伸びていなかった。
その能力を最大限に活かせと与えられる命令は囮、潜入のための餌。そして獲物が彼らを飲み込んだその後は、内部から侵食しその全ての情報を頂く。
俺が、彼らを手に掛けたのは今回が初めてじゃない。
彼らが殺されかけるギリギリまで情報を収集するのは何も特別なことじゃなかった。取得した情報と双子を回収し持ち帰れとの至上命令を受けているがその優先度は、圧倒的に情報が最高位にあった。
AZは備品。
最悪の状況となった場合、脳さえ持ち帰れば良いとさえ命令されている。首を切り落とし、頭を持ち帰れと。
上から降りてくるだけのオーダーに、僅かずつだが俺に嫌悪と呼べそうな感情が生まれ始めたのはいつだったか。それは命令を下す飼い主に対してだったのか自分自身へだったのか。そうはさせまいと、考えるようになったのは。
ジムはホリーの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「大丈夫か?」
「問題ありません」
揺れていた不安な瞳は落ち着き、覚悟を一つ決めたようにホリーは強くジムを見た。ジムは自分がこの強い眼差しを気に入っていることをいつかホリーに言ってやろうと思った。
ジムはホリーの頭から手を離すと待合室の奥にある[STAFF ONLY]と書かれた扉へと向かった扉の前でジムが生体認証を済ませると静かにドアはスライドして開き、ジムとそれに続いてブライアン、ロンとホリーがその先へと進んだ。
扉の向こうはたった一枚のドアを隔てただけなのにありふれた病院のシーンが流れる表の世界とはがらりと表情を変え自然光の入る隙もない人工光の白い光に満たされていた。スタッフオンリーとは言え表で働くスタッフはほとんどと言って良いほどこの一角に立ち入ることはなく、例え入ったとしてもこのフロアかその上の階に行くだけで、今こうして自分たちが下りている階段を使うことはない。
この階段を下りるのは何度目だろう。特段代わり映えのしない、どこにでもある階段だが監視されていると感じる視線はつい先程までいた待合室の比ではない。
俺たちは何度でもオーダーされるがまま任務を実行しそしてこの階段を下りた。
何度も、何度も。
何度だって、迎えに行く。
だが大人の穏やかでない胸中など子どもには関係ないのか、二人は最初から子犬のように懐いてきた。無邪気な双子を前にブライアンは面倒見の良さを発揮してはいたが、本心から彼らと接するにはしばらく時間がかかった。ロンは会話で全てを解決しようとしていたが、その実、相手をくまなく観察するために喋り続けていた。最後にホリーが彼らと話すようになったのはだいぶ時間が経ってからだ。
子どもと日々接すると言う俺たちにとって今までにない異質な時間の中で、命令を繰り返し実行するたびに、自分たちのことではなく備品の彼らに対する説明のつかない感情は澱のように俺たち大人の中に少しずつ貯まっていった。彼らが無邪気な笑顔を見せる時、今までに感じたことのないストレスを意識するようになったのはいつのことだったか。
他のAZとその子守り達はどうなのだろう。
ジムは、ウィステリアが話していた残された五人のうち、三人のことをふと考えた。【A】に続く【B】のビル。その後に【C】と【D】がいる。三人の子供たちにどんな能力があり、どんな任務に使われているのかはわからないが、【E】だからEric(エリック)、【F】だからFred(フレッド)と開発コードになぞらえて名付けられていた彼らは、最初に説明された通り視覚、聴覚、嗅覚、触覚、あらゆる感覚器で通常の人間より遥かに多くの情報を得ることができた。彼らはまた、得た情報の全てを記録し特殊な帯域で送信する事ができる特殊送信機能を備えた生きた高性能センサー付きのカメラであり、生きたストレージだった。
彼らの脳から送られる情報は送信の際、絶対に解読されることがない。情報の暗号化は古い時代から必ず問題になってきたが、現在でも解けない暗号は実用化されていない。何故なら、暗号は、手にする者が必ず解読しなければならないからだ。
だがエリックとフレッドが送る情報は解読する必要がない。
俺が今、脳内で抱いているイメージを誰かが受け取ることはできない。俺が何を考えていようが思い浮かべようが、どんなに精緻にイメージしたところで俺がそれを寸分の狂いなく形ある情報として出力しない限り、それは絶対に他人に見えることは無いし伝わることもない。しかし双子はそれを可能にしている。フィクションで言うところのテレパシーってやつを彼らの脳内にいるSAIが可能にしている。
ビルと名を知らない【C】と【D】にも同じような能力が備わっているのか。
そう言えば、エリックやフレッドから彼ら以外のAZの話を聞いたことがなかった。会ったことはないのだろうか。
ウィステリアは、五人の子どもと言っていたから恐らく姿は子供の形をしているんだろう。双子はともに異常な治癒力と回復力を持ち、その仕組みのせいなのか二人は成長することがなかった。しないようにコントロールされているのかもしれない。
行動を共にする中で時間が流れ、ホリーが彼らと喋り始め、そしてチームとして高いレベルで機能し始めても彼らはいつまでも初めて出会った時と同じ子どもの姿で、恐ろしく綺麗な容姿のままで、1ミリも身長は伸びていなかった。
その能力を最大限に活かせと与えられる命令は囮、潜入のための餌。そして獲物が彼らを飲み込んだその後は、内部から侵食しその全ての情報を頂く。
俺が、彼らを手に掛けたのは今回が初めてじゃない。
彼らが殺されかけるギリギリまで情報を収集するのは何も特別なことじゃなかった。取得した情報と双子を回収し持ち帰れとの至上命令を受けているがその優先度は、圧倒的に情報が最高位にあった。
AZは備品。
最悪の状況となった場合、脳さえ持ち帰れば良いとさえ命令されている。首を切り落とし、頭を持ち帰れと。
上から降りてくるだけのオーダーに、僅かずつだが俺に嫌悪と呼べそうな感情が生まれ始めたのはいつだったか。それは命令を下す飼い主に対してだったのか自分自身へだったのか。そうはさせまいと、考えるようになったのは。
ジムはホリーの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「大丈夫か?」
「問題ありません」
揺れていた不安な瞳は落ち着き、覚悟を一つ決めたようにホリーは強くジムを見た。ジムは自分がこの強い眼差しを気に入っていることをいつかホリーに言ってやろうと思った。
ジムはホリーの頭から手を離すと待合室の奥にある[STAFF ONLY]と書かれた扉へと向かった扉の前でジムが生体認証を済ませると静かにドアはスライドして開き、ジムとそれに続いてブライアン、ロンとホリーがその先へと進んだ。
扉の向こうはたった一枚のドアを隔てただけなのにありふれた病院のシーンが流れる表の世界とはがらりと表情を変え自然光の入る隙もない人工光の白い光に満たされていた。スタッフオンリーとは言え表で働くスタッフはほとんどと言って良いほどこの一角に立ち入ることはなく、例え入ったとしてもこのフロアかその上の階に行くだけで、今こうして自分たちが下りている階段を使うことはない。
この階段を下りるのは何度目だろう。特段代わり映えのしない、どこにでもある階段だが監視されていると感じる視線はつい先程までいた待合室の比ではない。
俺たちは何度でもオーダーされるがまま任務を実行しそしてこの階段を下りた。
何度も、何度も。
何度だって、迎えに行く。
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