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間奏曲
Bel Canto(5)
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暗闇の中で男の声が響く。ひどいノイズ混じりで遠くには爆音の轟きが響いているようだった。
「何体かマシなターゲットを回収したから戻るぞ。なかなか動きを止めるのが厄介で頭を潰さずに確保出来たサンプルの数はそんなに多くない。政府のテコ入れのせいか戦闘が激化してここらの村はどこも潰滅状態だ。村では生きてる人間どころか、動いている死体もまともなやつは無かったよ。ゲームボードに出ていた何体かの首を落として動きは止めとめたが、まあお世辞にも身体は使えるとは思えないな。いるか? 必要なら袋に詰めて持って帰ってやるよ。……喚くなよ。身体も残して使いたければ【B】のプログラムをなんとかしろ。そっちの問題はあんたらの仕事だろう? 俺の仕事じゃあない。まあ俺は今のままでも十分気に入ってるよ。コントロール出来るベルセルクルとしては十分だ」
男の声は、それっきり聴こえなくなった。
ごぽり……ごぽり……。
次に聴こえたのは緩慢な、どこか間延びしたくぐもった音だった。ゆっくりと、遠いようで近いような、水が揺らぐような音がする。
ここは、どこだ?
トニーは目をきょときょとと左右に動かし辺りを見渡そうとしたが、眼球が動く気配も自分の首が動く様子もない。感覚もない。ただ、ぼんやりと湖面の下から覗いたようなおぼろげな人間らしき姿が見える。
「やはり親和性が高いのは子供のほうのようですね。成人の脳からは既に遊離しました」
「本当に彼らはGATERSではないのか」
「ええ。一切の遺伝子への人為的改良の痕跡は見当たりませんでした」
「GATERSでもなく、36ヶ月以上を経過した脳にSAIを定着させ外部からのコントロールを可能にするだと? 信じられん。我々ではないとしたらいったいどこの技術だというんだ……」
「アンデッドパペットの製造元情報は社の情報部も軍もまだつかめていないとのことです。こちらとしてもSAIの技術自体が秘密裏ですから余計に探りづらいとか。うっかりスズメバチの巣をかき回すことにならないよう慎重に進めているそうで」
苛立たしげな上司を気にする風でもなく、男は宙に浮くファイルを眺めては左右に振って消している。
「ベンヌか、或いは我々を裏切ってシャルバーか。それともGATERS技術で功績を挙げているHayama、まだ姿を現していない新興組織、最近噂されている、見えざる手、でしょうか。死体を操り人形のごとく操る見えざる手。神の手などと揶揄されていますが、まさにこの技術は神の御業。成長済の脳だけでなく障害や一部損壊した脳、果ては死体にまでSAIを定着させ、しかもある程度のコントロールすら可能にしている。とっくに死体なのに培養槽に浸しておけばまだ生きているなんて。こうして見ているととても人間の技術とは思えませんよ」
トニーの前に男の顔が浮かび、どうやらその男は自分を見ているようだった。目を凝らすと若い男のようで、村の人間とも戦場で見る人間、或いは物見遊山な戦争見物人たちともまた違う、トニーがみたことのない人種に思えた。
「しかも意識が残っていたサンプルのどれもが、“音が聴こえる” “歌が聴こえる” と一様に答えています。どこからともなく聴こえてくる美しい調べに突き動かされるのだと。その音に身を委ねることで全てから解放されると。まるで天上の歌のようじゃないですか。素晴らしい」
若い男がさらに顔を近づけてきたので、トニーはその男がどこか恍惚とした表情で自分を見ているのが見えた。その隣にやってきた歳をとった男は顔を顰め、苦々しく言い放つ。
「素晴らしいだと? 馬鹿馬鹿しい。神などと! これは我々のSAIをベースに改変されていることに間違いはない。初めに創り出したのは我々なのだ。この技術が神の技術だと言うなら、我々こそが神だ。神の目を技術を盗み好き勝手にしている開発元の所在が全くわからないなどと、情報部も軍も一体何をしているんだ。使えん連中め。だいたい、音だ何だと言うのならその音源でも確認出来たのか?」
「いいえ」
「ますます馬鹿馬鹿しい」
うるさい連中だな。静かにしてくれよ。全然旋律が聴こえないんだよ。
そう叫んだはずなのに、トニーにはまた、ごぽり、と言う音しか聴こえなかった。見えるようになった視界で、もう一度周りを見ようと眼球を動かせば、視界の端に浮かんでいる友達の顔が見えた。
ああ。なんだ。お前も、ここにいたんだ。
今度こそお前の名前、聞かなきゃ……。
そう思ったトニーは身体を動かそうとしたが、まるで感覚がない。
俺、どうなっちまってるんだ……?
ふと友達の口から歪な形をした何かが吐き出されゆっくりと上へと向かっていく。まるで魂の欠片が逃げ出していくようで、トニーはそれが口から出て行ってしまうのを押し留めたくて手を伸ばしてみたが、どうしてもそれは叶わず、また一つ友達の口から吐き出された。液体の中に浮かぶ頭部は虚ろに瞼を開き、口はゆっくりと形を作っては変え瞳は鈍く青い光を放っていた。
お前、また何か歌っているんだな。お前の歌、聴きたいよ……。
その口からはまたごぽりと歪な魂が漏れた。
「何体かマシなターゲットを回収したから戻るぞ。なかなか動きを止めるのが厄介で頭を潰さずに確保出来たサンプルの数はそんなに多くない。政府のテコ入れのせいか戦闘が激化してここらの村はどこも潰滅状態だ。村では生きてる人間どころか、動いている死体もまともなやつは無かったよ。ゲームボードに出ていた何体かの首を落として動きは止めとめたが、まあお世辞にも身体は使えるとは思えないな。いるか? 必要なら袋に詰めて持って帰ってやるよ。……喚くなよ。身体も残して使いたければ【B】のプログラムをなんとかしろ。そっちの問題はあんたらの仕事だろう? 俺の仕事じゃあない。まあ俺は今のままでも十分気に入ってるよ。コントロール出来るベルセルクルとしては十分だ」
男の声は、それっきり聴こえなくなった。
ごぽり……ごぽり……。
次に聴こえたのは緩慢な、どこか間延びしたくぐもった音だった。ゆっくりと、遠いようで近いような、水が揺らぐような音がする。
ここは、どこだ?
トニーは目をきょときょとと左右に動かし辺りを見渡そうとしたが、眼球が動く気配も自分の首が動く様子もない。感覚もない。ただ、ぼんやりと湖面の下から覗いたようなおぼろげな人間らしき姿が見える。
「やはり親和性が高いのは子供のほうのようですね。成人の脳からは既に遊離しました」
「本当に彼らはGATERSではないのか」
「ええ。一切の遺伝子への人為的改良の痕跡は見当たりませんでした」
「GATERSでもなく、36ヶ月以上を経過した脳にSAIを定着させ外部からのコントロールを可能にするだと? 信じられん。我々ではないとしたらいったいどこの技術だというんだ……」
「アンデッドパペットの製造元情報は社の情報部も軍もまだつかめていないとのことです。こちらとしてもSAIの技術自体が秘密裏ですから余計に探りづらいとか。うっかりスズメバチの巣をかき回すことにならないよう慎重に進めているそうで」
苛立たしげな上司を気にする風でもなく、男は宙に浮くファイルを眺めては左右に振って消している。
「ベンヌか、或いは我々を裏切ってシャルバーか。それともGATERS技術で功績を挙げているHayama、まだ姿を現していない新興組織、最近噂されている、見えざる手、でしょうか。死体を操り人形のごとく操る見えざる手。神の手などと揶揄されていますが、まさにこの技術は神の御業。成長済の脳だけでなく障害や一部損壊した脳、果ては死体にまでSAIを定着させ、しかもある程度のコントロールすら可能にしている。とっくに死体なのに培養槽に浸しておけばまだ生きているなんて。こうして見ているととても人間の技術とは思えませんよ」
トニーの前に男の顔が浮かび、どうやらその男は自分を見ているようだった。目を凝らすと若い男のようで、村の人間とも戦場で見る人間、或いは物見遊山な戦争見物人たちともまた違う、トニーがみたことのない人種に思えた。
「しかも意識が残っていたサンプルのどれもが、“音が聴こえる” “歌が聴こえる” と一様に答えています。どこからともなく聴こえてくる美しい調べに突き動かされるのだと。その音に身を委ねることで全てから解放されると。まるで天上の歌のようじゃないですか。素晴らしい」
若い男がさらに顔を近づけてきたので、トニーはその男がどこか恍惚とした表情で自分を見ているのが見えた。その隣にやってきた歳をとった男は顔を顰め、苦々しく言い放つ。
「素晴らしいだと? 馬鹿馬鹿しい。神などと! これは我々のSAIをベースに改変されていることに間違いはない。初めに創り出したのは我々なのだ。この技術が神の技術だと言うなら、我々こそが神だ。神の目を技術を盗み好き勝手にしている開発元の所在が全くわからないなどと、情報部も軍も一体何をしているんだ。使えん連中め。だいたい、音だ何だと言うのならその音源でも確認出来たのか?」
「いいえ」
「ますます馬鹿馬鹿しい」
うるさい連中だな。静かにしてくれよ。全然旋律が聴こえないんだよ。
そう叫んだはずなのに、トニーにはまた、ごぽり、と言う音しか聴こえなかった。見えるようになった視界で、もう一度周りを見ようと眼球を動かせば、視界の端に浮かんでいる友達の顔が見えた。
ああ。なんだ。お前も、ここにいたんだ。
今度こそお前の名前、聞かなきゃ……。
そう思ったトニーは身体を動かそうとしたが、まるで感覚がない。
俺、どうなっちまってるんだ……?
ふと友達の口から歪な形をした何かが吐き出されゆっくりと上へと向かっていく。まるで魂の欠片が逃げ出していくようで、トニーはそれが口から出て行ってしまうのを押し留めたくて手を伸ばしてみたが、どうしてもそれは叶わず、また一つ友達の口から吐き出された。液体の中に浮かぶ頭部は虚ろに瞼を開き、口はゆっくりと形を作っては変え瞳は鈍く青い光を放っていた。
お前、また何か歌っているんだな。お前の歌、聴きたいよ……。
その口からはまたごぽりと歪な魂が漏れた。
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