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間奏曲
lamentazione(21)
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アンが壁の向こうに消えてから。カメラマンは向こう見ずな駆け出しおてんばリポーターのとばっちりなど冗談ではない、ひよこ警官がいじめられた仕返しにいつママを差し向けるかもわからない。ゴリラママが鼻息荒くして出張って来る前に、さっさとヴァンに戻って有意義に時間を使うことにして、蔦が絡まることで崩壊するのを免れているような、古びた壁の前を離れた。裏から教会の正面だったところまで出て、ゴリラと鉢合わせしないようにとそれとなく警官たちを確認しながら辺りを見回すが、警官の数は随分と少ない。あんな新人が手放しで見回りさせられるぐらいだから現場の緊張感も欠けている。早々と救急車は来たようだが、おっつけやってきたらしい消防は教会の敷地に入る前から、後始末でもするような雰囲気だ。野次馬の数も種類も好奇の熱もボヤと言うより沈火寸前、SNSで炎上するようなネタが飛び交う様子もなさそうだ。
ようするに、ここはそう言う場所なのだ。見限られ、見捨てられ、早く忘れ去られてほしい場所。建物の一つが崩壊しようが、事故が起きようが、誰も興味をそそられない。事故が起きてくれて助かった。これでようやく後片付けが出来る、と笑顔を隠せない役人の顔が目に浮かぶ。
脚光を浴びることを夢見ているミニスカ乙女が根拠もなく熱く語るような大事件が起きる場所には程遠い。いささかイタイ夢、或いは妄想を信じて夢見がちな彼女は飛び込んでいったが、どうせたいした画をとることもできずすごすご帰って来るのがオチだろう。多少落ち込んでいるかもしれないが、そこは小さな子供を扱うように適当にあやしてやって、あしらって、なんなら “スクープなら次のチャンスがあるさ。アンなら大丈夫!” とでも囁いてやれば、今夜の晩飯か酒ぐらいは奢らせることが出来るかもしれない。
「どっかのバーで面白い話をするファンに会って “超楽しかったー!” とかなんとか言ってたよな。たまには俺に奢れっつーの」
カメラマンはぐるぐると肩をまわし誰に呟くでもなくヴァンのドアを開いた。肩はまわしたぐらいじゃほぐれやしない、肩どころか首にかけてもひどくこわばった感じがする。
「あーマジ、仕事しすぎでしょ……」
常日頃からの過積載、超過労働を少しでも労うため、早くヴァンのダッシュボードに足を投げ出して、無理やりにでも身体のスジを伸ばし、しばしの休息、睡眠を取りたい。
動きの悪くなったヴァンのドアを力任せに開いて乗り込むと、あちこち車体のパーツが軋む音を無視して手にしていたメインカメラを車載の機材に接続する。この現場に到着してから教会が倒潰するまでの一部始終の録画データを手早くサブ・コントロールにいるディレクターに送信した。もちろんアンのやたら熱くまくしたてていたリポートも。
予定通り足を無造作に投げ出して、両腕を頭の上で伸ばしたり、首を左右に曲げてみたり、車と同じく、自分の身体の軋みを痛感すること数分後、サブ・コントロールから呼び出し音が鳴った。カメラマンは、ストレッチを止めることなくダッシュボードの手前辺りの宙に展開された画面に手をかざし通話状態にした。もちろん、こちらのビデオはフェイク画像にしてある。真面目な顔した自分のアバターとディレクターは会話するはずだ。
<瓦礫のデータ受け取った。たいした画じゃないが、これで十分だ>
サブ・コントロールのディレクターは、手元にある何かに目を通しているのか、こちらを見てもいない。
「今、アンがもう少しつっこんだ画が撮れないか、見てまわってます」
<もういらないよ。言ったろ、十分だって>
見向きもせず、お断りとばかりに片手を挙げる。どうせ送ったデータだってたいして見ていないだろう。ハナから期待されていないロケだったことがよくわかる。
<アンを回収して早く帰って来い。彼女には仕事はないが、お前には次の現場に行ってほしいんだ。じゃあな>
一度もこちらを見ることもなく、誰かに呼ばれたらしいディレクターは一方的に映像を切った。宙にはビデオオフの文字が間抜けに浮かぶ。カメラマンは鼻息で吹き飛ばすように投げやりに宙空ディスプレイの上で手を振りその文字を消し去った。
ようするに、ここはそう言う場所なのだ。見限られ、見捨てられ、早く忘れ去られてほしい場所。建物の一つが崩壊しようが、事故が起きようが、誰も興味をそそられない。事故が起きてくれて助かった。これでようやく後片付けが出来る、と笑顔を隠せない役人の顔が目に浮かぶ。
脚光を浴びることを夢見ているミニスカ乙女が根拠もなく熱く語るような大事件が起きる場所には程遠い。いささかイタイ夢、或いは妄想を信じて夢見がちな彼女は飛び込んでいったが、どうせたいした画をとることもできずすごすご帰って来るのがオチだろう。多少落ち込んでいるかもしれないが、そこは小さな子供を扱うように適当にあやしてやって、あしらって、なんなら “スクープなら次のチャンスがあるさ。アンなら大丈夫!” とでも囁いてやれば、今夜の晩飯か酒ぐらいは奢らせることが出来るかもしれない。
「どっかのバーで面白い話をするファンに会って “超楽しかったー!” とかなんとか言ってたよな。たまには俺に奢れっつーの」
カメラマンはぐるぐると肩をまわし誰に呟くでもなくヴァンのドアを開いた。肩はまわしたぐらいじゃほぐれやしない、肩どころか首にかけてもひどくこわばった感じがする。
「あーマジ、仕事しすぎでしょ……」
常日頃からの過積載、超過労働を少しでも労うため、早くヴァンのダッシュボードに足を投げ出して、無理やりにでも身体のスジを伸ばし、しばしの休息、睡眠を取りたい。
動きの悪くなったヴァンのドアを力任せに開いて乗り込むと、あちこち車体のパーツが軋む音を無視して手にしていたメインカメラを車載の機材に接続する。この現場に到着してから教会が倒潰するまでの一部始終の録画データを手早くサブ・コントロールにいるディレクターに送信した。もちろんアンのやたら熱くまくしたてていたリポートも。
予定通り足を無造作に投げ出して、両腕を頭の上で伸ばしたり、首を左右に曲げてみたり、車と同じく、自分の身体の軋みを痛感すること数分後、サブ・コントロールから呼び出し音が鳴った。カメラマンは、ストレッチを止めることなくダッシュボードの手前辺りの宙に展開された画面に手をかざし通話状態にした。もちろん、こちらのビデオはフェイク画像にしてある。真面目な顔した自分のアバターとディレクターは会話するはずだ。
<瓦礫のデータ受け取った。たいした画じゃないが、これで十分だ>
サブ・コントロールのディレクターは、手元にある何かに目を通しているのか、こちらを見てもいない。
「今、アンがもう少しつっこんだ画が撮れないか、見てまわってます」
<もういらないよ。言ったろ、十分だって>
見向きもせず、お断りとばかりに片手を挙げる。どうせ送ったデータだってたいして見ていないだろう。ハナから期待されていないロケだったことがよくわかる。
<アンを回収して早く帰って来い。彼女には仕事はないが、お前には次の現場に行ってほしいんだ。じゃあな>
一度もこちらを見ることもなく、誰かに呼ばれたらしいディレクターは一方的に映像を切った。宙にはビデオオフの文字が間抜けに浮かぶ。カメラマンは鼻息で吹き飛ばすように投げやりに宙空ディスプレイの上で手を振りその文字を消し去った。
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