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間奏曲
lamentazione(25)
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キャロルがテレビを観ている間に、いつの間にか奥の部屋から気味の悪い音は消えていた。代わりにモバイルの呼び出し音が聞こえる。整ったリズム音にキャロルは、知らずほっと小さく息をはいたが、母親はしつこく鳴り続ける呼び出し音にうんざりした声をあげた。酒と喘ぎでがさつき、荷物が床を引き摺られるような声が苛立った様子で通話に応じる。母親のモバイルは扱いの乱雑さから映話機能は壊れ、通話も不調のために、やたらと大きな声が苛立ちを隠すそぶりもなくモバイルへの相手へと文句を並べている。
いつものことだと、キャロルはまたテレビへと意識を向けたが、文句の合間に「グレン」と兄の名前が出てくると、慌てて奥の部屋の音に耳をすました。
ほんの数分の後「わかったよ」と通話を終了する声がした。キャロルは注意深く奥の部屋の音に耳をそばだてていたが、薄い壁の向こうでギシリとベッドが軋む音と不機嫌な足音が床を鳴らすと、母親の声に似た床をこするたてつけの悪いドアが開き「キャロル!」と自分を呼んだ。
「ママ」
キャロルが振り返ると、母親は面倒臭そうにモバイルを娘に放って寄越した。キャロルは慌ててキャッチする。この前は受け取り損ねて顔にあたり痛い思いをしたことを思い出す。
「グレンのバカが病院に運ばれたらしいよ!サインが必要とかなんとかぐちゃぐちゃとこの電話のやつが言ってるからあんた行って来て」
「ママは?」
「アタシは疲れてるんだから寝かしてよ。ついでにお酒、買ってきて」
受け取ったモバイルの向こうから、誰かが呼びかけてくる声が聴こえた。看護師だろうか。警官だろうか。
「あ、えっと、あ、はい。わかります。すぐ行きます。あの、お兄ちゃんは大丈夫なんですか?」
告げられた病院は街の中央にある大きな病院だった。兄の様態をキャロルは尋ねたが、病院の名前と場所を告げた担当者は仕事がようやくすんだとばかりにすぐに通話を切ってしまった。
「お兄ちゃん、怪我したのかな。まさか、このテレビでやってる教会の事故に巻き込まれたとか……」
「事故?」
母親はさして興味もなさそうに、宙に浮くニュース映像を眺めて鼻で笑う。
「知らないね。それよりはやく行ってきなよ。アタシ、お酒が飲みたいって言ってるでしょ」
苛々とした口調のこの母親に何を言っても無駄なことは分かりきっていたので、キャロルはそれ以上何も言わず出かける準備をした。だが酒を買うための金は、キャロルのモバイルはチャージが0のうえに、財布どころか上着のポケットにもどこにもコイン1枚ありはしない。
「ママ、お金」
「はあ?」
「お酒を買うお金ちょうだい」
キャロルが手を出すと、充血した目の母親は蔑んだ笑いを浮かべ「なんだい!親に酒を買ってくる金もないのかい。それぐらいの金、外で客でもとって体で稼いできなよ!」と叫んだ。
「今はないの……だからお酒買えない」
チッと舌打した母親は「ほんと、使えないガキだよ」と吐き捨て、部屋にいる男が差し入れでもしたのか、下着の中でしわくちゃになった紙幣をキャロルの顔に投げつけた。キャロルはその紙幣を拾い集めると、つぶれそうな気持ちをこらえ兄のマフラーを引っつかんで外に飛び出した。
背後で「お前のガキがサインなんて出来るのか?兄貴はまともに喋れない、字も書けないアホだろうが。妹だっておんなじようなもんだろ?」「バカなこどもだけどね、自分の名前ぐらい書けるだろ。学校に通わせてやってるんだから!そのおかげでバスにだって乗れるんだ。学校サマサマだよ」と下卑た笑いが薄暗い通りに響いた。
いつものことだと、キャロルはまたテレビへと意識を向けたが、文句の合間に「グレン」と兄の名前が出てくると、慌てて奥の部屋の音に耳をすました。
ほんの数分の後「わかったよ」と通話を終了する声がした。キャロルは注意深く奥の部屋の音に耳をそばだてていたが、薄い壁の向こうでギシリとベッドが軋む音と不機嫌な足音が床を鳴らすと、母親の声に似た床をこするたてつけの悪いドアが開き「キャロル!」と自分を呼んだ。
「ママ」
キャロルが振り返ると、母親は面倒臭そうにモバイルを娘に放って寄越した。キャロルは慌ててキャッチする。この前は受け取り損ねて顔にあたり痛い思いをしたことを思い出す。
「グレンのバカが病院に運ばれたらしいよ!サインが必要とかなんとかぐちゃぐちゃとこの電話のやつが言ってるからあんた行って来て」
「ママは?」
「アタシは疲れてるんだから寝かしてよ。ついでにお酒、買ってきて」
受け取ったモバイルの向こうから、誰かが呼びかけてくる声が聴こえた。看護師だろうか。警官だろうか。
「あ、えっと、あ、はい。わかります。すぐ行きます。あの、お兄ちゃんは大丈夫なんですか?」
告げられた病院は街の中央にある大きな病院だった。兄の様態をキャロルは尋ねたが、病院の名前と場所を告げた担当者は仕事がようやくすんだとばかりにすぐに通話を切ってしまった。
「お兄ちゃん、怪我したのかな。まさか、このテレビでやってる教会の事故に巻き込まれたとか……」
「事故?」
母親はさして興味もなさそうに、宙に浮くニュース映像を眺めて鼻で笑う。
「知らないね。それよりはやく行ってきなよ。アタシ、お酒が飲みたいって言ってるでしょ」
苛々とした口調のこの母親に何を言っても無駄なことは分かりきっていたので、キャロルはそれ以上何も言わず出かける準備をした。だが酒を買うための金は、キャロルのモバイルはチャージが0のうえに、財布どころか上着のポケットにもどこにもコイン1枚ありはしない。
「ママ、お金」
「はあ?」
「お酒を買うお金ちょうだい」
キャロルが手を出すと、充血した目の母親は蔑んだ笑いを浮かべ「なんだい!親に酒を買ってくる金もないのかい。それぐらいの金、外で客でもとって体で稼いできなよ!」と叫んだ。
「今はないの……だからお酒買えない」
チッと舌打した母親は「ほんと、使えないガキだよ」と吐き捨て、部屋にいる男が差し入れでもしたのか、下着の中でしわくちゃになった紙幣をキャロルの顔に投げつけた。キャロルはその紙幣を拾い集めると、つぶれそうな気持ちをこらえ兄のマフラーを引っつかんで外に飛び出した。
背後で「お前のガキがサインなんて出来るのか?兄貴はまともに喋れない、字も書けないアホだろうが。妹だっておんなじようなもんだろ?」「バカなこどもだけどね、自分の名前ぐらい書けるだろ。学校に通わせてやってるんだから!そのおかげでバスにだって乗れるんだ。学校サマサマだよ」と下卑た笑いが薄暗い通りに響いた。
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