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Ch.2

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 ロクは全く警察官に見えなかった。大人にも見えなかった。人間ですら怪しいと真剣に思うほどに見えてきた。だが野生司が感嘆し素直に賞賛の言葉がでるほどの能力をもと併せており、それを素直に誉めると無表情なロクが実は内心照れながらも気を良くしていることに気付いた頃、その案件はやってきた。

「今までと今と何が決定的に違うか知っているか?どんなに優秀な子供が望めるようになっても、遺伝的、生物学的につながりのない子供と親子になってもある一点だけは、前世紀と変わることがなかった。わかるか、野生(やせい)」
「誰がやせいですか。私は野生司(のおす)です」
「そうか。で、わかるか」
「えーっと……」
「子供が親を選べないことだ。選ぶのはいつでも親だった。どんな親だったとしても、子供はそれを拒むことが出来ない。子供は親を選べない」
「ああ、なるほど」
「ある法律が出来るまでは。その法律のおかげで親を拒否する権利を子供が得た。自分に相応しくない親を離別することが子供から出来るようになった。人類は優秀な人類を求め、生まれ始めた優秀な人類はその養育者たる親を選別できるようになった」
「ははあ」
「親は生物学的、遺伝的繋がりはもはや関係ない。親とはいずれ大人となる存在を養育する大人でなくてはならない。生物学的に親、法律的に親という定められた親と名のつくルールに安穏とできる時代は終わった。子とともに生活をしたいならば、親はそのための責任と義務を果たさなければならない。親だから、などという陳腐な台詞は消えた。親だからこそ、最大限の努力をしなければならない」
「はい、そこまで。お仕事ですよ」
 舞台役者のように、朗々と語るロクの腹を和洲が手にしていたタブレットでつついた。めりこんだ場所が悪かったのか、ロクは長身の体を折り曲げた。

「親権離別要請、要請者は千徳せんとく稀世きせ、7歳。離別要請は知ってるな?」
 和洲はタブレットを机の中央に置き、宙へ資料を投影させ、野生司を見た。
「虐待、ネグレクト、犯罪関与他、子供が自分を守る為に親から離れる為の正式な要請です」
 空中に浮かぶ資料を見ながら野生司は答えた。
「子供が親を捨てる為に必要な制度だ。子供の保護を最優先とし、親と離す。その後、親の審議に入る。子供の訴えが認められた場合、子供は親を捨てることが出来る。子供に対する虐待、ネグレクトは重罪だ」
 和洲は野生司にとって初めてとなる離別要請について補足した。野生司は微妙な顔をしたまま小さく返事をした。
「離縁は当然の権利だ。ゲーターズの誕生から、親より優秀な子供が生まれ始めたんだからな。優秀な人間が凡庸な人間の手元にいて、その才能を発揮出来ないのは不幸だ。専門機関で育てられた方がマシに決まってる」
 当然だと言わんばかりにロクは鼻を鳴らし、颯爽とドアへと向かったがいつもなら負けじとついてくる、頭頂部の寝癖にいつも気付かない相方が視界に入らないことに気付いたロクは足を止めた。
「何を呆けてる、行くぞ。野生やせい
「私は野生司のおすです」
 我に帰った野生司は慌ててロクの後を追った。
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