黎明の翼 -龍騎士達のアルカディア-

八束ノ大和

文字の大きさ
58 / 129
第3章 連邦編

第58話 誕生

しおりを挟む
『さて、龍脈の力を使いこなしている様子だし、本題に入るとしようか。』

 力試しは合格だと言われ、一安心した一行。

『さて、まず其方達は見習い龍騎士ということだったな。藍碧龍と蒼翠龍の2柱の龍王が認めた以上、見習いを外し、龍騎士を名乗るが良い。』

その一言と共に蒼翠龍様が宙に手をかざし、龍気を込めた。
3人の龍装鎧の紋章が光り、そして形状がより複雑な龍の形に変わった。
紋章の形状が変わると、紋章の変形に併せて鎧の形状もより防御力が高そうな形状へと変形した。

『全身鎧か、格好良いなぁ!』

バルトロ兄さんは鎧の形状が全身を覆う形になり、鉄壁と言う言葉が似合う見た目となっていた。

『何だか色んなところに武器が仕込んである。』

アリシアはバルトロ兄さんと違い、防御力は劣りそうに見えたが、様々な箇所に投擲武器等が仕込まれていた。
頭部には少し遠くも見ることが可能な照準器が付いていて、弓による狙撃の精度も上がりそうだった。

僕自身は全身鎧に近かったが、見た目よりも軽かったが、要所に小盾が付いていたりと、機動性と防御力を両立するような形になっていた。

『顔が隠れていて、誰だかわからなくなりそうですね。』

『其方らは既にそれなりの力を要している、素顔を隠せるということは後々役に立つはずだ。
見ての通りだが、防御力は以前よりも格段に上昇している。それに龍脈の近くであれば、簡単な傷や毒などは鎧が治癒してくれるだろう。
あとは龍装鎧自身も龍脈から力を吸い上げて溜め込めるようになったはずだ。アルクスは今まで龍珠に龍脈の力を溜め込んでいたかと思うが、残りの2人も余裕がある時は龍装鎧に力を溜めておくといい。』

蒼翠龍様による鎧の説明を3人は真剣に聞きいっていた。

話を聞いていて籠手に8個の穴がが生まれていることに気がついた。

『あの、この穴は何でしょうか?何かを埋めるのでしょうか。』

『まだ龍騎士となったばかりの其方らには無用なものだな。修練の先に、より力を上げてから次の龍王に会うことでわかるだろう。いや、既にその片鱗が見えているか。どれ、解放してやろう。』

蒼翠龍様が何かしらの言葉を呟き、1人ずつ龍気を注ぎ込んだ。

『ぐっ…』『くっ…』『うぅ…』

体の中で暴れ回る力の奔流に耐えられず、3人ともへたり込んでしまう。

『こ、これは…』

『龍脈の力と同じだ、上手く制御するが良い。』

蒼翠龍様はしばらくしたら戻るとだけ言うと、放っておかれた。

クリオはどうして良いのかわからずに狼狽えていたが、気を持ち直して3人の看病をすることにした。


しばらく時間が経過して、3人とも力の制御が上手くいったのか落ち着いてきた。

『何だか力が溢れてくる…』

『頭がスッキリするな。賢くなった様な気がする。』

『えっ、それは気のせいじゃない?』

3人全員自身の体が違うものに変わったような実感を得ていた。

『皆無事で良かった…』

看病で疲れたクリオはホッとして安心したのか倒れてしまった。

『寝てるだけだ、疲れてるみたいだね。ありがとうクリオ。』

手持ちに作ってあった疲労回復に効果のある香を焚いて寝かせておいた。

『どうやら力の制御が上手くいった様子だな。』

この時を見計らっていたかのように蒼翠龍様がどこからともなく現れた。

『あの、僕達はどうなったのでしょうか。』

『そうだな、魔獣を倒すと力が強くなることは知っているだろう?』

確かに学園にいた時にテレサとそんな話をしたことがあるような気がする。
しばらく魔獣を倒しても強くなる実感はなかったので、忘れていた。

『その顔は知っている様子だな。魔獣を倒すと力が強くなるとは言っても、そのためにはそれなりの数の魔獣を倒さないといけない。それに実際にそれを実感できるほど魔獣を倒すような者もいない。だが、其方達は数多くの魔獣を屠り、魂の器を広げることに成功したと言うことだ。我はその手伝いをしたまで。』

蒼翠龍様の説明に納得すると共に、先程龍装鎧にできた穴の1つがほんのりと光が灯っていることに気がついた。

『アリシア、籠手が光ってるよ。』
『あ、本当だ。でもアルクスのも光ってるよ?』
『俺のもだ。』
『魂の器が広がると光るのでしょうか?』

『いや、それだけでは足りない。準備ができたとだけ教えておこう。そこから先は次の龍王に会えばわかる。さて、藍碧龍でも呼び出すか。聞こえるか。』

「なんだ、蒼翠龍か。何かあったか?」

突然、藍碧龍様の声が響き渡った。

「聞こえている様子だな。先日言っていたお前の遣いがやってきたよ。先程力試しを終えて、見習いは終了した。そしてちょうど1つ目の器が広がりそうだったので、ちょっと手伝ったところだ。」


藍碧龍様と蒼翠龍様が会話をしている中、クリオが申し訳なさそうにアリシアに話しかけていた。

『あの、どういった会話をしているのでしょうか?』

『そっか、クリオは王国語はわからないんだっけ。教えてあげる。』

2柱の会話をアリシアが通訳して、クリオに教え始めた。


「思ったよりも早かったな。アルクスよ、我が龍騎士としての成長嬉しく思うぞ。」

返事をしようと思ったが、伝え方がわからなかった。
察した蒼翠龍様が肩に手を乗せてきた。

「これで喋ってみるが良い。」

龍脈と繋がるのを感じ、喋り始めた。

「ありがとうございます。こちらこそ龍脈の力をいただいたお陰で各地を順調に旅することができております。うっ…」

藍碧龍様への報告をしていたところ、急に胸の中からの熱い鼓動を感じ、うずくまってしまった。

「む。どうした?」

どうやら声は藍碧龍様へちゃんと届いている様子でホッとするも、熱さに耐えるのが厳しくなってきた。

「何だか胸の中が熱くて…」

「蒼翠龍、何が起きている?」

「そうだな…。藍碧龍、もしかしてこの少年に卵を与えたか?」

「あぁ、与えたがそれがどうかしたか?」

「孵化だよ。もうすぐ孵るぞ。」

「何、こんな短時間で孵るとは。」

「あ、熱い…」

体の中で暴れる鼓動が龍珠の中にある、真龍の卵だということは分かったが、耐えるしかないのだろうか。

「先程得た力で包み込んで、龍脈の力を注ぐと良い。この場所であれば力も使いやすいはずだ。」

蒼翠龍様の指示に従い、体中の力を込め、そこに龍脈から吸い上げた龍気を送る。
体が燃えるように熱いが、慣れてきたのか耐えられるようになってきた。
そして徐々に、胸元から光が漏れ始めた。

「え、これ、僕爆発したりしないでしょうか…」

そういうと一面に光が広がった。

「新たな龍の目覚めか… よくぞ…」

蒼翠龍様の呟きの後、僕の胸元から光と共に赤子の龍が少しずつ出てきた。
胸元からずるりと地面に落ちると、泣き出した。

「ぴー、ぴー」

かろうじて意識は保てていたので、そっと抱き上げた。
その子は光り輝いているものの、眩しくなく、それでいて心地良い温かさだった。

「どうした、孵ってたのか?」

こちらの様子がわからない、藍碧龍様が聞いてきた。

「あぁ、新しい龍族の誕生だ。」

「そうか、それは素晴らしい。よくやったぞアルクス!」

蒼翠龍様が応え、藍碧龍様からお褒めの言葉をいただいた。

アリシアとバルトロ兄さんとクリオは目の前の光景を見ていることしかできなかった。

「真龍の卵を孵すとは、予定よりもかなり早いがどうやら龍脈の力も上手く使いこなしているみたいだな。
 これからお主は龍の育ての親になる。人族で龍の親になるなんて珍しいことだからな。
だが難しいことは考えなくて良い、龍脈から力を引き出してその子に与えることだけだ。
お主とその子には既に経路ができているはずだ。
成長のためには龍脈から力を送り続けるだけで、そのうち自分でもできるようになるだろう。」

藍碧龍様が言ったように何かしらの力の繋がりがあることを感じ取ることができた。

「其方とその子に経路ができていると言うことは、その子の成長に其方の心の色も反映される。 清き心を持てとは言わぬが、悪しき心や憎しみに囚われた場合、その子は邪悪な龍と化してしまうかものぉ。」

蒼翠龍様のお言葉から、思ったよりも重要な事態だという事に気付かされた。

「そう脅すな。お主が今まで通りに生きていけばそう問題は起こるまい。さて、その子に名を付けてもらえるか?」

「名付けですか?親である、藍碧龍様が決めた方が良いかと思いますが…」

「龍族としての真の名は既にある。だがその名はその子が成龍となった時に与えられる名だ。普段呼ぶ名がないと困るであろう?成龍になるまでは、お主が育ての親としてつけた名で呼ぶが良い。」

名前を付けるなんて今までしたことがほとんどないし、重要なことだ。
しかもそれは真の龍となると責任の重さは半端ではない。
この子のことを考え、素晴らしい名前をつけなくては…

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる
ファンタジー
 剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一
ファンタジー
​「命を捨てて勝つな。生きて勝て」 50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する! ​海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。 再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は―― 「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」 ​途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。 子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。 規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。 ​「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」 ​坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。 呼び出すのは、自衛隊の補給物資。 高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。 ​魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。 これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...