ネオ・アース・テラフォーミング〜MRMMOで釣り好きドワーフの生産奮闘記〜

コアラ太

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新たな出発

(たぶん)起きたら地下

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 暗闇の中で地を這うと、ベチャベチャと粘りのある液体と個体の混ざったような物が手にへばり付く。

「身体中湿っぽくて気分が悪い」

 寝た後のことがわからん。
 わかっているのは、どこかに連れて行かれたということだけ。

「俺の重要性に気づいた誰かが監禁したに違いない」

 決めポーズで青春の黒歴史を刻んでも返事なし。
 それにしても、体の違和感が拭えない。
 若干開いてしまうワキ。
 異様に力む体。
 ピチピチに張り付いた服。

 そこで一度はやってみたかったことを試すことにした。
 腰溜めに両拳を添えて上半身に力を込める。

「ふん!」

 一気に力を入れた瞬間、服がビチビチと悲鳴を上げ始める。
 脳内のアドレナリン(たぶん)が、さっきまでの不機嫌が吹き飛ばし、ニヤケ顔が止まらない。

「でゅふ……。おっと紳士らしからぬ声が出てしまった」

 他人に聞かせられない音が漏れてしまったが、誰もいないのであれば気にすることもない。
 もう一度あの快楽をと体に力を込める。

「ふん! はぁ!」

 ビビビと鳴らしながら裂《さ》けた服から、盛り上がった筋肉が顔を出す。
 俺の体じゃない!?

「これが異世界転生か……いや、夢だな」

 夢だとわかればあとはやりたい放題。
 さっきまでの恥ずかしさは杞憂だったな。

「だったらアレをやらないといけないよな」

 一度はやってみたかった話し方。

「……いや、おかしいしぃ。拙者が強者になるなんてありえないし。え? こんなに筋肉付いてよいのですか? どぅふ。一瞬にして盛られた筋肉《ぱわー》! 高度なトレーニングを経ずに手に入れてしまった。み、みたいな……ふぉふ。肩甲骨のエンジェルが囁《ささや》いておりまする」

 ピクピクと意思通りに動く筋肉が面白い。
 ただ、この感覚は数年にやっていたゲームでも感じられていた。
 没入型VRの『マッスルメモリーズ』。
 VR内でトレーニングすることで、現実でも筋肉が動かせるようになるという謳い文句。
 マイナーゲーとして売り出された『マスメモ』は予想外の好評だったが、致命的な問題が一つあった。

「いや……でも、ここは夢だし。え? まってまって。ありえんし! だけど……万が一『マスメモ』ならヤバくね? 知識だけトレーニーオタクなんてやってる場合じゃないでしょ」

 マジで大丈夫か?
『マスメモ』だったら、過剰トレーニングは禁物だぞ。

「やだよ!? 起きたら全身肉離れとか!」

 やりすぎトレーニングをすると『マスメモ』からログアウトした後、トップビルダー以上の信号が筋肉に送られるのは有名だ。
 このアバターの筋肉は、リアルの俺では扱いきれない。

「と……とにかく脱出する方法を探らないと」

 良いか。
 この体の筋肉よ。
 省エネで動くんだ。
 まずは一歩。
 風向きは右側だから、とりあえずそっちに向かって……。

 一歩一歩の緊張感が額に汗を生み出す。
 溢れた玉汗を拭い、ゆっくりと風の通り道を進んでいく。

 小一時間ほど歩いていると通れそうに無いところへ来てしまった。

「地下の大渓谷とか無理っしょ」

 底から噴く風が土埃を巻き上げて、独特のカビ臭さが漂っている。

「とりあえずゴーグルと……減臭マスク。オトシンさんからもらっておいて良かった」

 装着するだけでカビ臭さはほとんどなくなる。
 クモモ森の繭玉から作ったらしいけど、結構なレア素材のためか効果が高い。

 あとは行き先の目星だけでも見つけておきたいな。

「んー。行くにしても飛び越えられそうな距離でもないしなぁ」

 引き返そうかと思っていたところで、頭上から垂れ下がる紐のようなものを見つけた。
 ただし、その紐は対岸の岩に引っかかっている。

「何か無いか……レンガか」

 試しに投げてみると、解けてちょっとだけこちらに向かっているように見える。
 的確な投射と、ちょうど風の吹かない場所を見つけられたみたいだ。

「よし」

 リュックに入っていたレンガを全て投げ尽くした時、渓谷の崖際まで近づかせることができた。

「あと一歩! 他に何かないか!?」

 カバンの中を隅から隅まで探し、使えそうなものを並べてみる。

 鉄球、麻紐、ボーラ、機獣『ヤマト』、釣具。
 レンガみたいに鉄球も投げてみようかと思ってみたけど、レンガも途中から紐を押し込んだりしてたから効果は薄い。
 だとしたら、紐とボーラで絡め取れるかもしれない。

 ライブ会場でタオルを回すように、クルクルとボーラを回転させて狙いをつける。
 ぶぉんぶぉんと鳴り響くボーラを目的の紐目掛けて投げた。

「いけぇ!」

 紐とボーラは一直線に重なっている。
 このまま行けばドンピシャっと絡め取ってくれるに違いない。
 そう思って、麻紐を持ってない方の手で拳を握りしめた。

 そこで嫌な音が聞こえてくる。

「待て待て……さっきまでなかったじゃないか!」

 ゴォォォオオオオオ。
 吹き荒んだ突風にボーラが弾き飛ばされてしまった。
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