僕らの青春は、光と影のグラデーション(完結)

甘塩ます☆

文字の大きさ
1 / 35

1

しおりを挟む
 朝比奈悠真は、真新しい制服の胸元を撫でた。
 校庭に咲いた桜が、新入生を歓迎しているかのようだ。
 県内屈指の名門校、その入学式の舞台に、悠真は新入生代表として立っていた。

 壇上から見下ろす体育館は、新入生と保護者で埋め尽くされている。
 緊張した面持ちの生徒、誇らしげな保護者。
 その一人ひとりの顔を眺めながら、悠真は探していた。
 たった一人だけ、どうしても見つけたい顔があった。

(律……高校、一緒だよな?)

 合格発表の夜、思い切ってかけた電話に彼は出なかった。
 幼馴染の大事な友人、佐伯律を思い出す。
 手紙のやりとりは続いていたが、電話をしたのははじめてだった。
 寮に入るつもりだと書かれていたが、律のことだ、きっと合格しているだろう。

 体育館の後ろの方、ひっそりとした人影が悠真の視線を止めた。
 少し猫背で、誰とも目を合わせないように俯いている。
 その懐かしい姿は、間違いなく律だった。

(見つけた……!)

 悠真の心の中で、喜びが弾けた。
 律の姿を確認した瞬間、言葉にはならない熱いものがこみ上げてくる。
 しかし、律は悠真の視線に気づいたようだったが、少しだけ身を引いた。


 入学式が終わり、ホームルームを経て、今日は帰宅となる。
 寮へ向かう生徒も多い。
 悠真も寮に入居する。
 既に荷物は運び入れた。
 悠真は一旦、自宅に戻り、今日から正式な寮生活である。
 律はどうだろうか?
 既に寮に住んでいる可能性もある。

 とにかく、悠真はすぐに律に会いたかった。
 律のクラスを確かめ、彼の教室へ急ぐ。
 悠真はAクラス、律はBクラスだった。
 見つけた律は、早足で廊下を歩いていく後ろ姿だけだった。

「律ー!」

 悠真は呼び止め、慌てて律を追いかけようとした。
 
「悠真くん、すごいね! 新入生代表なんてさ!」
「お前、頭良いんだな!」

 クラスの人たちに囲まれてしまい、なかなか身動きがとれない。
 誰もが悠真を褒める。
 その言葉に嬉しさを感じながらも、悠真は律のことが頭から離れなかった。

 律に声は届かなかったようで、見ると姿は既に無い。
 今日は初日だ、寮の荷物の整理も色々忙しいのだろう。
 悠真はそう考えた。
 そして、悠真もそうである。

「ごめん、寮の荷物整理しなきゃ」

 そう断って、悠真は寮へ急いだ。

 寮は二人部屋である。
 残念ながら律とは違う部屋だ。
 寮では基本的に自分の部屋以外の部屋を出入りすることは禁止されていた。
 共同スペースや食堂で会えないかと思ったが駄目だった。
 律は携帯電話を持っていない。

 どうしよう、このまま会えなかったら。

 そんな不安な気持ちになるが、同じ学校なのだ、きっとすぐに会える。
 悠真はそう信じた。



 翌日、悠真は始業時間前に律の教室へと向かった。
 律はやはりもう登校していて、自分の机で本を読んでいた。

「律!」

 名前を呼ぶと、律はようやく悠真を見た。
 悠真は笑顔で手を振る。

 しかし、たまたま近くを歩いていた悠真のクラスメイトである黒瀬アキラの目に止まってしまった。

「何だよ、朝比奈。お前、あんな陰気くさいやつと仲良いのか?」

 ハッと、乾いたように笑うアキラの言葉は、まるで氷のように冷たかった。
 悠真はすぐに律を庇う。

「律は陰気なんかじゃない。君は律の良さがわからないんだね」

 そのやり取りは、律の耳にも届いていた。
 律は、すぐに視線を本に戻す。

「お前、無視されてやんの」

 アキラは小馬鹿にしたように笑うと、さっさと教室に向かった。
 何なんだアイツはと、悠真はアキラを睨んだ。

 気を取り直して律と話そうと教室に入ろうとした悠真だが、女子に手を掴まれた。

「ねぇ、悠真くん連絡先教えてよ」
「私も~」

 新入生代表であり、顔も良く王子様のような悠真は、女子から既に人気だ。
 適当にあしらおうとするが、困っているうちに予鈴が鳴ってしまった。

 また話せなかった。

 お昼に来よう。

 悠真は律に後ろ髪を引かれながら自分の教室に戻るのだった。



 しかし、お昼休みはすぐに教室を出たようで、食堂にもいない。
 律は自炊していて食堂は使っていないのかもしれなかった。
 そして放課後も、信じられないほどの速さで帰ってしまう。
 寮でも会えない日々が続いた。

 そんな日々が一週間も続けば、さすがの悠真も気づく。
 律は露骨に悠真を避けていた。
 なぜ彼が自分を避けるのか、悠真には理由がわからなかった。
 何か嫌なことをしてしまったのなら、教えてほしかった。
 そして、声を聞かせて欲しかった。

 悠真は何度もタイミングを見計らい、律に話しかけようとしたが、律は頑なに避け、無視を続けた。


 ある日の放課後、とうとう痺れを切らした悠真は、爆速で歩く律の背中を追いかけ、とうとう捕まえた。

「なぁ、律。ちょっと俺と話そう」

 悠真がそう言うと、律はゆっくりと振り返り、冷たい目で悠真を見据えた。

「いい加減にしてくれ、いつまでも追いかけてきてしつこいんだ。ウザったい」

 律の言葉は、悠真の心に深く突き刺さった。

 周りの生徒たちが、ひそひそと話す声が聞こえる。

「ひどーい……何あれ感じ悪」
「朝比奈くんかまうのやめな~」
「佐伯って、性格もやっぱり悪いんだな」

 白い目で見られ、罵られた律の表情は、怒りよりもどこか諦めや悲しみを帯びているように見えた。

 悠真は、ただ立ち尽くすことしかできない。

「ごめん……」

 小声でなんとか絞り出した謝罪に、律は何も言わず、その場を去っていった。
 悠真は、その小さな背中をただ見つめていることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖
BL
溺愛ドS×天然系男子 俺様副社長から愛される。古い家柄の養子に入った主人公の愛情あふれる日常を綴っています。夏樹は大学4年生。ロックバンドのボーカルをしている。パートナーの黒崎圭一の父親と養子縁組をして、黒崎家の一員になった。夏樹には心臓疾患があり、激しいステージは難しくなるかもしれないことから、いつかステージから下りることを考えて、黒崎製菓で経営者候補としての勉強をしている。夏樹は圭一とお互いの忙しさから、すれ違いが出来るのではないかと心配している。圭一は夏樹のことをフォローし、毎日の生活を営んでいる。 黒崎家には圭一の兄弟達が住んでいる。圭一の4番目の兄の一貴に親子鑑定を受けて、正式に親子にならないかと、父の隆から申し出があり、一貴の心が揺れる。親子ではなかった場合は養子縁組をする。しかし、親子ではなかった場合を受け入れられない一貴は親子鑑定に恐れを持ち、精神的に落ち込み、愛情を一身に求める子供の人格が現われる。自身も母親から愛されなかった記憶を持つ圭一は心を痛める。黒崎家に起こることと、圭一に寄り添う夏樹。繋いだ手を決して離そうとせず、歩いている。  そして、月島凰李という会社社長兼霊能者と黒崎家に滞在しているドイツ人男性、ユリウス・バーテルスとの恋の駆け引き、またユリウスと南波祐空という黒崎製菓社員兼動画配信者との恋など、夏樹の周りには数多くの人物が集まり、賑やかに暮らしている。 作品時系列:「恋人はメリーゴーランド少年だった。」→「恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編」→「アイアンエンジェル~あの日の旋律」→「夏椿の天使~あの日に出会った旋律」→「白い雫の天使~親愛なる人への旋律」→「上弦の月の天使~結ばれた約束の夜」→本作「青い月の天使~あの日の約束の旋律」

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

処理中です...