魔王が転生して来た

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 高瀬が予約したホテルの前に付き、降りるマオ。
 本当にお城のみたいな所に連れてこられてしまったのだが。

「こっちですよ」

 高瀬がぼーっとホテルを見つめるマオの手を引く。

 エントランスに入ると、何やら賑やかだ。
 「キャー」「キャー」「素敵ー」
 なんて声が聞こえる。

「なるほど、今日は二階で仮装パーティをしている様ですね。若い子が集まる気楽なパーティーの様です」
「二階は下層ではないだろう」

 エレベーターの前に案内が出ている。
 普段入りづらい若者勢もリーズナブルな値段で楽しめるパーティーらしい事が書かれていた。

「仮装は変装みたいな事です」
「へー、楽しそうだな」

 何だか見慣れた様な格好が多くて親近感が湧く。

「少し遅いハロウィンパーティーの様なものですね」
「ハロウィンパーティー?」
「魔物の仮装、変装をして楽しむものですよ」
「さっきの女の子は、アレは何の魔物なんだ?」
「ああ、アレはメイドさんでしたね」
「冥土さん!?」

 自分が知らないだけで、もの凄い怖そうな魔物なんだなぁと思うマオ。
 冥土さんと言う事は死神が引き継ぐ上司的な立場の女性だろうか。
 可愛い見た目に騙されてはいけないなぁ。
 
「僕達は8階の展望レストランですよ」
「せっかくだし二階も見ていこう」
「そうですね。食事終わりに見に行きましょか。あ、衣装のレンタルも有りますよ」
「貸衣装も有るのか、優しいな」

 マオは仮装パーティーに心が惹かれているらしい。
 高瀬はこれから高級レストランでディナーだと言うのに、リーズナブルに楽しめる仮装パーティーに負けた気分である。
 仮装パーティーめ!

「マオさんはどんな衣装を着たいですか?」

 エレベーターの中に貼ってあるチラシには選べる仮装も載っていた。
 自由にお持ちくださいのチラシも手に取る。
 お好きなドリンク無料券が付いている。
 これからフレンチのフルコースを楽しむ予定なのたが。
 少し笑ってしまう高瀬だ。

「うーん、迷うなぁ。高瀬に合わせる」
「えー、食事中に考えても良いんですよ。それでも決まらなかったら僕セレクトになりますけど」
「高瀬はどれにするんだ?」
「うーん」

 高瀬も迷う。
 無理に仮装しなくても、タキシード姿なら浮かないとも思うのだが、マオは仮装したそうだ。
 そうだと知っていたら数日前から用意したんだけどな。
 野菜パニックの魔王様の衣装。
 勇者のコスプレは解らなすぎるので、そうなると僕はお付きの人のコスプレかな。
 ボロボロになりながらお逃げくださいって言うヤツの役。
 結構いい役だよなぁ。

「高瀬も凄い悩んでるじゃないか」

 悩む高瀬にアハハと笑うマオだ。
 高瀬は別の事を考えてしまっていたのだけど、苦笑して誤魔化すのだった。


 8階に付く、そこはもう別世界の様にムーディな雰囲気である。
 下の喧騒が忘れ去られるぐらいの静けさに、綺麗なピアノの生演奏が響いている。

「高瀬です」

 ボーイに名乗る高瀬。ボーイは「お待ちしておりました」と頭を下げて、高瀬とマオを指定席へと案内するのだった。


 確かに眺めの良い席である。
 夜景が綺麗だし、少し先の方には橋が見える。
 その橋もイルミネーションされていて綺麗だ。
 ピアノの音色も綺麗で、心が落ち着く。
 明かりは各テーブルごとに置かれたキャンドルと、足元を照らす明かりだけで薄暗い空間だ。
 マオは自分の住んでた城を思いだした。
 暗さや明かりの感じが似ている気がする。
 こんな綺麗な眺めは楽しめなかったし、こんな綺麗な音色もしなかったけど。
 それに目の間にこんないい男も居なかった。
 
 あれ?
 急に何かドキドキしてきたぞ。

 マオは思わず顔を下げた。

 ボーイは淡々と料理の説明やらワインの説明をしてテーブルに置いてく。
 
「さて、頂きましょうか。マオさん? 落ち着かないですか?」

 ソワソワした様子に見えた高瀬はマオの様子を伺う。
 慣れない空間に緊張したのか、それもとトイレだろうか。

「いや、頂きます」

 マオな手を合わせると、食事に手を付けるのだった。
 ナイフやフォーク、スプーンの使い方も慣れたものである。

「お手洗いは大丈夫ですか?」
「は? 今、聞くことなのか?」

 何故急にお手洗いを心配されたのだろうか。
 このお手洗いはトイレの事で有ってるいるよな?
 他に何か意味があるのか?
 マオは訝しく高瀬を見てしまう。

「いえ、ソワソワして見えたので。気の所為でしたね」

 ハハっと苦笑する高瀬だ。

「それは……」

 眼の前に座る高瀬が格好良くて緊張したなんて言えない。
 マオは黙々と運ばれてくる料理を食べるのだった。

 そんなマオを見て、ディナーは楽しく無かったかと、残念に思う高瀬だ。
 もっと雰囲気のある会話を楽しみたかったが、マオの心は仮装パーティーに向いてしまったらしい。
 いや、雰囲気の有る会話ってなんだよって話したんだけど……

 高瀬は小さくため息を吐く。
 まぁ、でも仮装パーティは楽しめたら良いか。
 そんな気持ちになってきた。
 逆に仮装パーティをやっていて助かったかもしれない。
 マオからしたらよく解らないディナーに連れてこられ、楽しめずに帰るよりはずっと良いだろう。
 変にカッコつけたりするんじゃなかったなぁと思う高瀬だが、マオのタキシード姿を楽しめたので悪くはない。
 マオと静かに食事を楽しむのも高瀬は楽しかった。
 そう、高瀬自身は楽しいのだが、それをマオに強要してしまったみたいで申し訳なかったのだ。
 そうだよな。
 マオさんは女性では無いんだし、高級ディナーに連れてこられても困るよな。
 高瀬は間違ってしまったと、少し罪悪感を覚える。
 なんで僕はこんな所にマオさんを連れて来てしまったのだろうか。
 少しでもマオさんに素敵だ格好いいと思われたかった。
 そう、僕はマオさんに良い格好を見せたかったのだ。
 僕は見栄っ張りなんだ。
 だって僕、マオさんに格好いい素敵な人だと思われたんだ。

 なんでだろう?

 だってマオさんが格好良くて可愛くて、素敵な人だから。
 釣り合う男になりたいと……

 釣り合う男ってなんだろう。
 

「高瀬こそお手洗いなんじゃないか?」

 そうマオに声をかけられて気づく。
 思わずソワソワしてしまっていたらしい。
 フッと、鼻で笑って見せるマオの笑い方はやっぱり魔王に似ていた。
 マオさんは僕の憧れる魔王様で、美人で格好良くて可愛くて、僕の天使なんだ!
 ああ、そうか僕。
 
 マオさんが好きだーーー!

 思わず無言でマオの手を握りしめてしまう高瀬。
 ワインを飲む手を止められて驚くマオ。


「なんだ? 一緒に行きたいのか?」
「ご、ごめんなさい。僕ったら……」

 慌てて手を離す高瀬。
 大変だ、急にどんな顔をしたら良いのか解らなくなった。

「トトト、トイレ!」

 高瀬は思わず逃げる様にトイレに立つ。
 自分では気づかなかったが、どうやら自分はマオの事が本気で好きらしい。
 大事で愛らしい人で、ずっと一緒に居たい人だとは思っていたけど。
 いや、これはもうずっと前からそうだったんだ。
 僕、マオさんの事……

 大大大好きだ!
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