ハロウィンの吸血鬼

甘塩ます☆

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 昨日の事が夢の様である。
 今日は天気が良いし、朝食も済ませた。
 医者から貰った薬を飲む。
 うん、元気だ。
 仕事したい。

 でもやっぱり夢では無さそうなので吸血鬼族の迎えを待たないといけないだろう。 
 パソコンには上司からの怒りのメッセージと、神村さんからの上司から来たメールは全て此方へ転送しなさいの指示が来ている。
 上司からのメッセージに謝罪を返信し、神村さんに転送したりしている内に気付けば10時である。
 コンコンと部屋のドアがノックされた。

「はーい」
「吸血鬼会からです」
「今出ます」

 ドアを開けると、パタパタとコウモリが飛んでいた。
 僕はキョトンとしてしまう。
 え? 吸血鬼ってコウモリに変身まで出来るの!?
 
「着いてきて下さい」
「はい……」

 コウモリが喋っている。
 そもそもコウモリと遭遇したのは初めてだ。
 コウモリってそもそも人語を話せるのかもしれない。
 九官鳥とか、インコとかもお喋りするし。
 いや、コウモリって鳥では無いよな?
 混乱しつつも、先を飛ぶコウモリに大人しく着いていく僕だった。

 アパートの側に車が止まっている。
 
「乗って下さい」
「はい……」

 コウモリに促されるまま車に乗り込む。
 運転手さんも吸血鬼族さんだろうか。

「出発します」

 そう、運転手さんは低い声で話すと車を発進させた。
 バックミラーに映り込む顔を見る。
 顔色が悪そうだが、大丈夫だろうか。
 彼も栄養失調かも知れない。

「運転手さんも吸血鬼さんですか?」

 沈黙に耐えかねて質問してみる。

「私は人造人間です」
「人造人間さんですか」

 全然知らなかったが、思いの外いろんな人間が居るらしい。

「嘘を教えないで下さい。彼はただの仮装好きな人間族です」
「人間族さんですかぁ」

 コウモリさんが教えてくれるが、なんかもう良く解らないので聞き流す事にした。
 外の街路樹でも眺めていよう。
 

 到着したのはとんない豪邸である。
 門くぐった筈なのだがまだ道は続き、止まったと思えば目がくらむ城の様な建物。
 ここは何処なんだ。

「降りて下さい」
「はい」

 人造人間を名乗る人間運転手がドアを開けてくれる。
 コウモリが呼ぶので着いて行く僕だ。
 もう『はい』しか言ってない気がする。

 建物に入ると、コウモリに連れられるまま進み、部屋に案内された。

「おお君が新しい仲間か」
「山田薫くんというそうだ」
「何故いままで隠れていたんだい?」

 急に沢山人が寄ってきてビックリし、思わず腰が引ける。

「こらこら、新入りを怖がらせるものでは無いよ。良く来たね。山田薫くん」

 一人が僕に歩み寄る。
 その人が来たら全員、僕ら距離をとり、道を開ける。
 どうやら偉い人らしい。
 ここが会社なら社長さんポジの人だろうか。

「私は吸血鬼族の長、吸血鬼紫雨だ」
「吸血鬼さんは吸血鬼が苗字なんですか?」
「ああ、なので、紫雨と呼んで欲しい」
「紫雨さん」

 握手を求められ、その手を握る。

「所で新入りくん、私の狼に手を出すのはやめてほしいな」
「狼?」

 耳元で囁かれ、何の話だと首をかしげる。

「神村貴臣だよ。アレは私の狼でね。なかなか首輪をしてくれない困った狼だが、先に唾を付けたのは私だ。後から来て手を出されるのは面白くない」
「神村さんは、狼さんだったんですね」
「狼は血の気が多くてね。吸血鬼とは相性が良いんだ。たけど、アレは私のだから。君は他の狼を見つけてくれ」
「そうなんですね」

 神村さんは狼さんだったのか。
 やっぱりただの人じゃない種族が結構いるらしい。
 じゃあ吸血鬼族の僕も、そこまで特別変わった存在では無いんだな。
 良かった。
 何だか解らないがホッとする。

「では、山田薫くんを仲間に入れる儀式を執り行う」
「儀式とは?」
「今、長をしている私が君の薬指を噛むだけ。指を出して」
「はい」

 言われた通りに指を出す。
 紫雨さんが僕の指を軽く噛むと、周りからは拍手が沸き起こった。

「これで山田薫くんは我々の仲間だ。この紙に署名を」
「はい」

 言われるがまま、紙に署名する。

「92人目の仲間だ」
「今、吸血鬼族は92人なんですか?」
「ああ、吸血鬼族はそれなりに長生きだが高齢化が進んでいてね。吸血鬼族は女が生まれ辛いし、男は男を好きになる者が多くて繁殖しにくい。それでついに5年ほど前に100人を切ってしまった」
「なるほど」

 もしかして、長さんと神村さんも恋仲なんだろうか。

「薫くんは吸血鬼族の事を全く知らないだろう。しばらくはここに住んで吸血鬼族の事を勉強しなさい。君の為にも必要な事だよ。もしならずっと此処に住んでも良い。部屋なら沢山有るのでね」
「いえ、家に帰ります。必要ならば此方へ通学します」
「なるほど、やはり君も吸血鬼族。我がままだ」
「我がままだとは初めて言われました」
「まぁ、良い。ならば毎日コウモリを家庭教師に此方が送るよ。そっちの方が早い」
「有り難うございます」

 コウモリさんには迷惑だろうが、僕はあの部屋が気に入っているので、他所に泊まり込むなんて出来ない。
 そもそも修学旅行でも大変だった。
 知らない部屋で眠れない。
 泊まり込みなんてしたら今度はきっと寝不足で倒れるだろう。
 
「今日はもう帰っても良いですか?」
「ああ、わざわざ来てもらってすまなかったね」
「いえ、有り難うございました!」
「帰りも運転手が送っていくよ」

 コウモリがまた着いて来る様にと先を飛ぶので後に着いていく。
 急に変な世界に迷い込んだ気分であったが、もう馴れた気がする。
 これはそういうもんだと思えばそんな気がしてくる。
 あまり深く考えない性格が役立っている気がする。
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