ハロウィンの吸血鬼

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「んん…んぁあ…んあぁ!」

 私は何がどうなっているのか解らないが、自分から上がる喘ぎ声を止めようも止められず、混乱している。
 どうも紫雨様を正気に戻す事は私には無理なのだろう。
 しばらく紫雨様を噛んでいたが「もう良いだろう? 顔色が悪いよ」と、止めさせられた。
 紫雨様の血が毒になる事は無いのだが、血が美味しく感じる事もなく、たしかに吐きそうではあった。
 口を押さえる私に「次は僕の番だね」と、噛み付いて来たのだ。
 正気に戻っていたらこんな事はしないだろう。
 ああ、私、吸血鬼族に殺されるかも知れない。
 
「気持ちよかったみたいだね?」

 紫雨様は私の首筋から口を離すと私を見つめる。
 とんでもない顔をしている気がする。
 見られたくなくて顔を反らした。
 すると、顎を捕まれ視線を戻される。
 
「僕も気持ちよかった」

 ニコリと微笑む紫雨様。
 コウモリに噛まれて気持ちよかったはもう気が狂ったどころの話しではない。
 色んな意味で視線が合わせられず、視線だけでも外そうと試みた。

「相性が良いと思うんだよね。僕たち」
「吸血鬼がコウモリに何を言ってるんですか」
「僕はコウモリじゃなくて、ルビーが好きなんだよ」
「嘘ばっかり、貴方は貴臣さんが好きなんでしょ」
「貴臣は好きだよ。でも恋愛じゃないんだよね」
「はぁ?」

 何言ってるんだこの人。
 思わず睨んでしまった。

「やっと視線を合わせてくれた」

 紫雨様は良い笑顔でニコニコしている。
 
「いい加減に離してください」
「怒らないで。ルビーが怒っても可愛いだけだし」
「……蹴り飛ばしたい」

 ついつい心の声が口から漏れた。
 それでも紫雨様は嬉しそうにニコニコしている。
 いろんな意味で怖い。

「ちゃんとお話ししなきゃいけないね。でもまた倒れると悪いし、コウモリに戻らない?」
「え? あれ?」
 
 紫雨様に言われて気づいた。
 私、人間のままだ。 
 無意識だった。
 あれ?

「コウモリになる方法がわからない」
「えっ、大丈夫!?」
「ええ、無理している感じではないです。自然な感じで……」
「吸血鬼の血が影響してるのかな? それとも僕が吸血した影響?」
「さぁ? よく解りませんが、無理してないので平気です。どうぞ話すならこのまま話しましょう」
「ルビー……」

 言いたい事が有るならさっさと話せと詰め寄る私。
 何故か紫雨様は頭を押さえた。

「僕は君に気があるんだよね。だからさ、そんな風にその姿でせまられると溜まったたものではないのだけど。僕も全裸だし……」
「では、どうしたら良いと?」
「とにかく、服を着よう。僕の服は…… 君には大きいかなぁ」

 紫雨様はベッドを降りると、適度に服を纏う。
 そして私にも服を貸してくれた。
 Yシャツを羽織っただけでブカブカだし、下は隠れる。 
 ズボンはブカブカで履けず、紫雨様に返した。

「なんか、余計にエロくなるってどういう事なの?」

 紫雨様は何が不満なのか、頭を抱える。
 服を着たのにエロいって何なのだろうか。

「で? 何の話なのですか?」

 紫雨様は電気をつけてからベッドに戻って来た。

「僕はね、ずっとルビーの事が好きだったんだよ。僕はルビーを愛してるんだ」

 ベッドに腰を下ろした紫雨様は私の頬を撫で、瞳を見つめ、優しく微笑む。

「私以外のコウモリ族に噛んでもらう必要が有りますね」
「うん、僕が悪かったよね。いや、吸血鬼の属性でも有るんだけど、いや、吸血鬼に本能に飲まれる程に嫉妬してしまった僕が悪いんだけどさ」
「嫉妬?」
「君が運転手として雇った仮装好きのただの人間と仲良くしすぎるから……」
「運転手? あの人、妻子持ちですし、何処かの組織からの偵察ですよ。だから警戒して側に着いていただけです」

 紫雨様は解って泳がせていると思っていたが。 
 吸血鬼族は全員が優秀過ぎる集団なので、普通の人間からは警戒されてしまう。
 それこそマフィアや吸血鬼族の命を狙う危険な集団から狙われたり、吸血鬼が変な思想を持たないかと警戒した国から偵察が送り込まれるわけだ。
 あの運転手は国側が送ってきた偵察だと思うのもで、変に追い返したりて何か隠し事が有るのかと疑われるのも不本意であると、触れずにいたわけである。
 ただ万が一危険な組織からのスパイの可能も否めないので、目を光らせていただけだ。
 
「それは解っていたんだけど、解っていても腹が立つってのが本能な訳でね。兎に角、好きな子が他の奴と仲良くしてたらムカつくんだよね」
「でも、紫雨様は貴臣さんとパートナーになりたがっていたじゃないですか」
「だからおかしくなってたんだと思う。君の気が引きたくて…… 君が僕を嫉妬させるから君も嫉妬してくれたら良いなって、でも君が嫉妬してくれないから」
「本当に貴臣さんには何の気もなかったと?」
「いや、親友だと思ってたし、アイツなら許してくれるだろうという甘えも有ったかもね。もう途中から坂を転がりおちる小石みたいに僕もどういうつもりだったのか解らないんだよ」
「それは私がもっと早く噛んでれば良かったですね。ごめんなさい……」
「いや、コウモリが吸血鬼を噛むのは命がけだし、そんな事を君にさせたくなかったんだけど、結局させちゃったよね。僕って最低だよね」

 紫雨様はどんどん前のめりに落ち込んでいく。

「貴臣にも悪いことしたよな。謝って許して貰える事じゃないし。そもそも僕がアイツを餌として見てないからか相性がものすごく悪いのか血が美味しくないし、アイツも痛がってたしな。今思い出すと僕、本当になにやってんだろう」

 もう、紫雨様はベッドから降りて地面に丸まってしまっている。
 穴が空いていたら入りたい状態なんだろうなぁと、察した。
 私は自分もベッドから降りて紫雨様の隣に並ぶと、背中をトントンする。

「私も貴臣さんに一緒に謝りますよ。薫さんにも謝りやましょうね」
「有難う。ルビー。僕、君の事を幸せにするね!」
「パートナーの話は受け入れてないんですけど……」
「明日指輪を買いに行こうね!」
「本当に反省してます?」

 なんか話が噛み合ってない。
 だが、紫雨様は「さぁ寝よう寝よう」と、私を抱き上げてベッドに寝かせてくれるのだった。

 紫雨様が手を離してくれなくて困った。




 翌日、無理やりジュエリーショップに連れて行かれたのただが、そこで指輪を受け取りに来てたらしい薫さんと貴臣さんとばったり鉢合わせ、ヒヤリとしたが、思いの外あっさり二人が仲直りし、次はダブルデートしようとか、二人で勝手に決めてしまうので、薫さんと私は困った顔で見合わせたのだった。
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