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「お昼ごはんにしない?」

 トントンと、肩を叩かれハッとなる。
 すごい集中してしまっていた。

「すみません、集中していました」
「うん、こっちこそごめんね。でも、食べるものは食べないと。腹が減っては戦はできないからね」

 月さんが優しく微笑む。
 ふはぁ、女神の微笑みが眩しい。
 そして、言われて見ればいい匂いがする。
 静かで使用人は居ないのかと思ったが、気配を消すのが上手い使用人さん達だなぁ。
 なんだか感心しつつ、キッチンに向かう月さんに着いていく。


「うわ、オシャレですね!」

 テーブルにはワンプレートにスープやサラダ、チキンライス、グララタンが乗っている。
 チキンライスに旗まで立ててくれて、お子様定食みたいで可愛い。

「お口に合うと良いんだけど」

 フフと、椅子を引いて座らせてくれる月さん。
 月さんは前に座って此方を眺めている。

「月さんはサンドイッチだけなんですか?」

 俺にばっかりこんな豪勢なランチを出してくれるなんて。

「お昼はあまり食べられないんだ。そのかわり朝ごはんをモリモリ食べたがら大丈夫だよ」
「そうなんですか。朝食べられないとは良く聞きますけど……」

 朝モリモリ食べて昼少しなんて、珍しい人だ。
 まぁ、朝たくさん食べられた方がいい気もする。

「タマも無理しないでお腹いっぱいになったら残しでね。おかわりが欲しかったらまだ作るから言って」
「有難うございます…… では、いたたきます」

 手を合わせてサラダから食べる。
 ドレッシングは何だろう。
 美味しい。

「そういえば、いつものお手伝いさん達は…… 見えませんね?」
 
 キッチンにも誰も居ない。
 休憩してるのだろうか。

「今日は僕も暇だから、実家の方へやったんだ。雪那の方のは雪那が使っているだろうから居ないよ」
「えっ!?」

 まさか、じゃあ今、二人っきりなのか!?

「まぁ、玄関先にSPが居るけどね」
「ああ、SPさんが」

 確かに、月さんほどの人を家に一人にしておかないか。
 でも、玄関先という事は、殆ど二人っきりみたいなもんだ。
 何か急にドキドキしてきた。
 と、言うか、この料理……

「月さんが作ってくれたんですか!?」
「うん? お昼ごはん? 簡単で申し訳ないけど」
「いやいやいやいや」

 何処が簡単なんだ。
 手が込んでいる。
 なんせ旗まで立ててくれてるじゃないか。
 こんなんお店に出せる。
 この人、出来ない事ないんだろうか。
 何でもプロ並みにやってしまうの恐ろしい。

「すごく美味しいです。と、言うか、勿体ない」

 何で俺は写真の一つも撮らなかったんだ!
 悔しすぎる。
 月さんもそれならそうと言ってくれたら良かったのに!

「美味しい? そう言って貰えると嬉しい」
「え? 何で俺の写真撮ってるんですか?」

 ニコニコしながらパシャパシャする月さん。
 意味が解らない。

「タマがお子様ランチ食べてるみたいで可愛いなって。SNSには絶対上げないから、良いでしょ?」
「嫌ですよ」

 飯食ってる所なんて誰も取られたく無いだろう。
 恥ずかしい。
 
「えー、お願い」
「と、言いつつ連写してる……」

 パシャパシャしまくりじゃないか。
 俺の意見は無視ですね!
 
「携帯の容量が俺で埋まりすよ」
「最高だね」
「最悪でしょう」

 アハハと楽しそうに笑う月さんに苦笑する俺だった。
 まぁ、月さんが楽しいなら良いか。
 俺も本気で嫌がっている訳では無い。
 食レポとかで食事の様子をテレビカメラで撮られ、お茶の間に配信される事も有るぐらいだ。
 今更恥ずかしがるのも変な話である。
 月さんのランチを堪能しよう。
 食レポした方が良いだろうか。
 どれも絶品だ。
 思い出に旗を貰って行こう。


「お腹は膨れた?」
「すごく出ました」

 お腹いっぱい食べさせてもらい、食器を流しまで持っていく。

「どれどれ」
「ひぁっう!」

 あとから着いてきた月さんが徐にお腹をさすって来たので驚いて皿を落としそうになった。
 勘弁して下さい。
 もっ! と、ちょっと睨む。
 月さんは悪戯っ子の様に笑って見せた。
 可愛いから許す。

「皿は僕が洗うよ。そこに置いておいて。コーヒーでも飲む?」
「いえ、俺が洗います」
「だって、服濡れちゃうよ?」
「あぁ……」

 月さんが作ってくれたので、洗い物ぐらいは俺がと思ったが、確かに服が濡れたら月さんも迷惑だろう。
 腕を捲ったのだが、流石に服を脱ぐわけにはいかないか。

「今度、僕がタマの家に遊びに行った時はタマがご飯作ってよ」
「俺、お菓子作りなら出来ますけど、飯は自信無いですよ」
「じゃあタマはオヤツ担当だね!」
「和菓子屋限定になりますけどね」

 そんな会話をしている内に、月さんはエプロンを着て皿を洗いを開始した。

「先に部屋に戻って続きをしていたら良いよ。コーヒーを入れて…… ちょっとタマ」
「お宝ショットを」

 さっきのお返しとばかりにスマホを構える。
 パシャパシャ連写した。
 ちょっと戯れてみたが、本当にお宝ショットが手に入った。
 
「もっとカッコいい僕を撮って欲しいな」

 月さんは苦笑していたが、本当に嫌がっている様子は無いので、フォルダーに保存させて貰う。
 嫌がったら直ぐに消す予定だったが、消さずに済んで良かった。
 フフ、俺はホクホク笑顔になるのだった。
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