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15話
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春岳は朝食をご馳走になった後、村を一通り見て回る。
稲作が主な収入源の様だ。
今は丁度稲刈りの時期である。
「僕も手伝います」
見てるだけと言うのも何であるし、忍びの里でも普段は農家である。
稲刈り等は、お手のものだ。
「おや、兄さん手際が良いねぇ」
「ええ、これだけは得意なんですよ」
なんて村人と会話しながら、スパスパ刈っていく春岳に拍手が巻き起こる。
「兄さん見ない顔だけど何処から来たんだい?」
「越してきたばかりの薬剤師なんです」
「薬剤師さんかい。村の医者が喜ぶよ」
「さっき朝食をご馳走になりました」
「昼はオラの家に来てくんろ。嫁は居るんだか?」
「まだ独り身です」
「そらぁ丁度ええだぁ」
春岳の周りにはオバさん達が集まり、賑やかである。
これは娘を紹介される流れだ。
はて、困ったな。
居ると言えば良かったかな。
そんな事を考えていると、馬を走らせる伊吹が見えた。
追いかけて来てくれたのか。
「あら、今井様。町の様子を見に来て下すっただかー?」
「ああ、稲刈りか。精が出るな。所で若い男を見かけなかったか?」
伊吹は村人からも人気な様で、村人に呼び止められて話しをしに来てしまった。
ここで殿とか呼ばれると、色々困るなぁ。
春岳は稲に隠れてやり過ごそうとしていた。
「若い男なら、ほら、そこに居るだよ。すごい稲刈りの名人のようだで。助かってるだぁ」
「ほう……」
村人に指を刺されてしまい、これは隠れ続けると自分の印象が悪くなってしまいそうだ。
「や、やぁ、伊吹。僕、春太だよ。おぼえてる?」
何とか誤魔化そうと笑顔で声をかけてみる。
カタコトになってしまったけど。
村人に扮している時は、そう呼んで誤魔化して欲しい。
そう、予め伝えておけば良かったな。
「あ、ああ、やぁ、そうだな。久しぶりだ」
伊吹も春岳の意図を組んで誤魔化すが、そんな打ち合わせはしてないし、伊吹は春岳を連れ戻しに来たのである。
上手い返しも出来なければ、目で『何をしているんですか? 城に帰りますよ』と、訴えかけて来ている。
「春太、探したぞ。茶でも飲みながら昔話しに花でも咲かせんか?」
ハハッと笑いつつ、気さくな感じで声をかけてくる伊吹。
伊吹も結構、スペックは高いよな。
上手く誤魔化せている。
「そうだね。久しぶりにお話ししようか。皆さん、親友に呼ばれたので僕はこれで。途中になってしまってごめんなさい。もー、伊吹は我儘で困ってしまいますよ」
アハハと、春岳も誤魔化しつつ、伊吹の元に駆け寄る。
「また手伝とくれー」
「今度娘を紹介するからねー」
「んやぁ家の娘を紹介するだよー」
「家の娘だぁ!」
そんな声が聞こえてくる。
「殿、困ります。何を勝手に村娘と婚姻を結ぼうとなさってるんですか」
小声で注意してくる伊吹は呆れた顔をしていた。
「誤解ですよ伊吹。私は、ただ村の視察をしたかっただけで…… 城主として村の事を知りたいと思ったんです」
アハハと、笑って答える春岳。
伊吹の視線が冷たい。
俺、間違えた事してないよな?
「それでしたらちゃんと予定を組んで、護衛をつけてお願いします」
「護衛はいらない」
伊吹は心配性だなぁ。
俺、忍者なんだってば。
大丈夫なのに……
「兎に角、朝食を……」
「朝食は食べたし、もうお昼になりますよ」
太陽を見れば、もう天辺である。
「本当ですね。ではお昼を食べて、私とお話ししましょう。殿の事をちゃんと知りたいですし、私は殿の右腕なのですよ。右腕を置いてけぼりにするのは止めて下さい」
伊吹は、ちょっと怒っている。
「右腕なら黙って着いてきてくださいよ」
春岳もムッとしてしまった。
「善処します」
ため息を付きつつ、春岳を無理矢理馬に乗せ、城に戻る伊吹なのだった。
稲作が主な収入源の様だ。
今は丁度稲刈りの時期である。
「僕も手伝います」
見てるだけと言うのも何であるし、忍びの里でも普段は農家である。
稲刈り等は、お手のものだ。
「おや、兄さん手際が良いねぇ」
「ええ、これだけは得意なんですよ」
なんて村人と会話しながら、スパスパ刈っていく春岳に拍手が巻き起こる。
「兄さん見ない顔だけど何処から来たんだい?」
「越してきたばかりの薬剤師なんです」
「薬剤師さんかい。村の医者が喜ぶよ」
「さっき朝食をご馳走になりました」
「昼はオラの家に来てくんろ。嫁は居るんだか?」
「まだ独り身です」
「そらぁ丁度ええだぁ」
春岳の周りにはオバさん達が集まり、賑やかである。
これは娘を紹介される流れだ。
はて、困ったな。
居ると言えば良かったかな。
そんな事を考えていると、馬を走らせる伊吹が見えた。
追いかけて来てくれたのか。
「あら、今井様。町の様子を見に来て下すっただかー?」
「ああ、稲刈りか。精が出るな。所で若い男を見かけなかったか?」
伊吹は村人からも人気な様で、村人に呼び止められて話しをしに来てしまった。
ここで殿とか呼ばれると、色々困るなぁ。
春岳は稲に隠れてやり過ごそうとしていた。
「若い男なら、ほら、そこに居るだよ。すごい稲刈りの名人のようだで。助かってるだぁ」
「ほう……」
村人に指を刺されてしまい、これは隠れ続けると自分の印象が悪くなってしまいそうだ。
「や、やぁ、伊吹。僕、春太だよ。おぼえてる?」
何とか誤魔化そうと笑顔で声をかけてみる。
カタコトになってしまったけど。
村人に扮している時は、そう呼んで誤魔化して欲しい。
そう、予め伝えておけば良かったな。
「あ、ああ、やぁ、そうだな。久しぶりだ」
伊吹も春岳の意図を組んで誤魔化すが、そんな打ち合わせはしてないし、伊吹は春岳を連れ戻しに来たのである。
上手い返しも出来なければ、目で『何をしているんですか? 城に帰りますよ』と、訴えかけて来ている。
「春太、探したぞ。茶でも飲みながら昔話しに花でも咲かせんか?」
ハハッと笑いつつ、気さくな感じで声をかけてくる伊吹。
伊吹も結構、スペックは高いよな。
上手く誤魔化せている。
「そうだね。久しぶりにお話ししようか。皆さん、親友に呼ばれたので僕はこれで。途中になってしまってごめんなさい。もー、伊吹は我儘で困ってしまいますよ」
アハハと、春岳も誤魔化しつつ、伊吹の元に駆け寄る。
「また手伝とくれー」
「今度娘を紹介するからねー」
「んやぁ家の娘を紹介するだよー」
「家の娘だぁ!」
そんな声が聞こえてくる。
「殿、困ります。何を勝手に村娘と婚姻を結ぼうとなさってるんですか」
小声で注意してくる伊吹は呆れた顔をしていた。
「誤解ですよ伊吹。私は、ただ村の視察をしたかっただけで…… 城主として村の事を知りたいと思ったんです」
アハハと、笑って答える春岳。
伊吹の視線が冷たい。
俺、間違えた事してないよな?
「それでしたらちゃんと予定を組んで、護衛をつけてお願いします」
「護衛はいらない」
伊吹は心配性だなぁ。
俺、忍者なんだってば。
大丈夫なのに……
「兎に角、朝食を……」
「朝食は食べたし、もうお昼になりますよ」
太陽を見れば、もう天辺である。
「本当ですね。ではお昼を食べて、私とお話ししましょう。殿の事をちゃんと知りたいですし、私は殿の右腕なのですよ。右腕を置いてけぼりにするのは止めて下さい」
伊吹は、ちょっと怒っている。
「右腕なら黙って着いてきてくださいよ」
春岳もムッとしてしまった。
「善処します」
ため息を付きつつ、春岳を無理矢理馬に乗せ、城に戻る伊吹なのだった。
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