大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆

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 ユナは深呼吸をした。耳の先まで熱い。四人の視線が自分に突き刺さるのを感じる。特にエルの、今にも飛びかかってきそうなほど熱を帯びた瞳が恐ろしかった。

「……ユナさん、落ち着いて報告してくれたまえ。どんな無理難題でも、学術的・政治的観点から解決策を見出すのが私の仕事だ」

 バルトロメウス教授が、努めて冷静に促す。ユナはその言葉に背中を押され、震える唇をなんとか開いた。

「……ええ。その、精霊様が仰るには……。聖樹様を元気づけるには、特別な『儀式』が必要だそうです。それも……その……『深い愛で結ばれた男女』が、この樹の根本で……非常に『情熱的』に、睦み合う姿を見せる必要がある……と」

 ユナが絞り出した言葉に、その場の空気が凍りついた。沈黙を破ったのは、エルの歓喜に満ちた叫びだった。

「やっぱり! ユナ、それは僕たちのための儀式じゃないか! 聖樹も僕らの愛を認めて、祝福を求めているんだ!」

 能天気なエルの声にユナは困惑してしまう。どうしたらそういう思考になるのか分からない。

「エル様! お嬢様にそんな破廉恥なことを……!」

 リサが即座にナイフの柄に手をかけ、エルを射殺さんばかりに睨みつける。だが、ヴィクトールがそれを手で制した。

「リサ、落ち着け。……教授、王家の古文書にそのような記述はあったかな?」

「……記録には『聖なる交わりにより、地は芽吹き、樹は歌う』という一節があった。しかし、まさか比喩ではなく物理的な行為を指していたとはねぇ。……だがユナさん、他の聖樹が息絶え、この一本だけが生き残っているのには、何か特別な訳があるのかい?」

 教授の分析に、ユナは心の中で(余計な深掘りをしないで!)と叫ぶ。
 しかし、教授の言葉がなくても伝えなければならないだろう。精霊の視線も痛く突き刺さってくる。
 
「……まだ、続きがあります。精霊様曰く、最も効率が良いのは……満月の夜、成人したばかりの男女で……その、女性の方は……『初めて』である必要があるそうです」

 ユナが最後の一片を告げると、エルの瞳に宿る「檻」の色が、かつてないほど濃くなった。

「初めて……。ユナ、君の初めてを、国家を救うという大義名分のもと、僕が……この手で……」

 エルの吐息が荒くなる。彼は今にも聖樹の前で服を脱ぎ捨てんばかりの勢いだ。
 こうなってしまったエルはもはや思考回路迷路である。

「エル、下がりなさい。気味が悪いよ」

 ヴィクトールが冷たく突き放す。彼は顎に手を当て、冷徹な思考を巡らせていた。

「……満月の夜、成人したばかりの男女。ここは学園だ。ちょうど卒業の頃に皆成人するし、羽目を外して満月の夜に森の中で初めて交わる男女もいるだろう。それでこの樹だけ辛うじて生き残ったということか。……頷けるな」

「兄上……! 認めてくれる?」

「国を救うためだ。……だが、ユナに拒絶されるようでは、聖樹も満足しまい」

 ヴィクトールの視線が、震えるユナに向けられた。彼の瞳の奥には、エルとは違う「品定め」の光が宿っている。

「……待ってください! 私はまだ、そんな、誰かとどうこうなんて決めてません! それに、精霊様は『愛し合う男女』と言いました。私でなくても……」

 ユナが言い切る前に、エルがその場に膝をつき、ユナの手を恭しく取った。

「ユナ、時間はまだある。卒業までに、僕が君をその気にさせてみせる。君の心も、体も、すべてが僕を求めるように……。これは王命であり、聖樹の願いであり、僕の魂の渇望なんだ」

(なんでそうなるの? そもそも精霊様が私を名指ししたなんて、一言も言ってないのに。勝手に私を生贄にしようとするのはやめてよ!)

 ユナの心の叫びは、自分に都合よく解釈を始めた男たちの熱狂にかき消されていく。
 すると、その様子を見ていた精霊が、ユナの耳元でクスクスと笑った。

『いいわね、あの金髪の子。やる気満々じゃない。ねえ、練習がてら今から少し見せてくれない?』

(見せません!!)

 ユナは絶望的な気持ちで、青白く光る地底湖を見つめるのだった。

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