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「さあ、戻ろうか。これ以上ここにいても、ユナさんの顔がゆで上がってしまうだけだ」
教授の提案で、一行は地上へと引き返すことになった。
帰りもゴーレムがユナを手のひらに乗せて運ぼうとしたが、今度はエルがそれを許さなかった。
「……いや、僕が運ぶ。ユナ、このまま僕の腕の中で卒業までの計画を立てよう」
「結構です!!」
ユナが悲鳴に近い声を上げると同時に、リサがエルの腕を背負い投げで封じた。
「殿下、お嬢様は『結構』と仰いました。ここからは私が背負ってお運びします」
結局、投げ飛ばされた拍子に怒り狂うエルをヴィクトールが引きずり、リサがユナを背負い、教授がプヨンの道案内を頼りに地上へと戻るという、行き以上にカオスな隊列となった。
隠し扉を抜け、ようやく教授の個人研究室に戻ってきた一行。窓の外には、皮肉なほど静かな夜空が広がっている。
扉が閉まった瞬間、ヴィクトールが低く冷淡な声で告げた。
「さて、今回のことは極秘だ。我が国固有の種である聖樹の延命条件が『成人の初夜』などとなれば外聞が悪い。他の国に何と思われるか……」
重い溜息を吐くヴィクトールに、教授も頷きながら言葉を添える。
「ええ、確かにねぇ。だから自国でも話が広がらず隠されてしまい、結果として聖樹が絶滅しかけているというのは皮肉な話だな」
そんな大人たちの政治的会話など耳に入らない様子で、エルの瞳はまだギラついたままだ。
「ユナ、明日から君の護衛を倍に増やすよ。変な虫がつかないように、僕の目の届く範囲にいてもらう」
(変な虫って、あなたのことじゃない……!)
ユナは言いたい気持ちを必死に飲み込んだが、あまりの恐怖に思わず口を開いた。
「あの、聖樹は別に私を名指ししたわけではありませんし……。初々しい男女の交際なら学園にたくさんあるでしょう? そちらで探したほうが早いのでは?」
だが、この提案も猛禽のような目をしたエルの耳には届かない様子だ。
「ええ、それも踏まえて後で考えることにしようか。今日は疲れたねぇ、解散にしよう。特にユナさん、リサさん、ゆっくり休んでくれたまえ。精神的に疲れただろう」
教授の耳にはユナの訴えが届いたようなので、彼女は少しだけ安心した。教授は頼りになる大人だ。彼に任せれば、何か別の解決策を見つけてくれる気がした。
ユナが落ち着きを取り戻し、リサと帰ろうとした時だった。ヴィクトールがユナの耳元をかすめるように囁いた。
「……ユナ。エルはああ言っているが、もし彼が嫌なら、僕に相談するといい。第一王子として、お前の『初めて』をより有効に、そして穏やかに扱う方法を提示できるかもしれないからね」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。理解が追いつくと同時に、背筋に冷たいものが走る。エルのそれは狂信的な愛だが、ヴィクトールのそれは、獲物を冷徹に追い詰める狩人のそれだ。
ユナは逃げるように、リサと共に研究室を後にした。
いつもは帰りもエルと同じ馬車に乗るが、今日はどうしても嫌で、女性専用馬車を利用した。リサがユナの震える手を力強く握りしめる。
「お嬢様、ご安心ください。卒業式まで、たとえ相手が王子であろうと、お嬢様の指一本触れさせはしません。夜這いに来ようものなら、その場で去勢いたします」
「リサ……それは頼もしいけど、穏便にお願いね……」
ユナはため息をつきながら、馬車の窓から夜空を見上げた。
精霊の「お盛んにやってちょうだい」という声が、まだ耳に残っている。
卒業まで、あと三年。
果たしてユナは、この過保護でヤンデレな包囲網を潜り抜け、自分の純潔と平穏を守りきれるのだろうか。
(……いっそのこと、卒業までに別の『愛し合うカップル』を見つけて、聖樹の前で盛大にやってもらうわけにはいかないかしら……?)
そんな現実逃避に近い計画を練りながら、ユナの波乱に満ちた夜は更けていくのだった。
教授の提案で、一行は地上へと引き返すことになった。
帰りもゴーレムがユナを手のひらに乗せて運ぼうとしたが、今度はエルがそれを許さなかった。
「……いや、僕が運ぶ。ユナ、このまま僕の腕の中で卒業までの計画を立てよう」
「結構です!!」
ユナが悲鳴に近い声を上げると同時に、リサがエルの腕を背負い投げで封じた。
「殿下、お嬢様は『結構』と仰いました。ここからは私が背負ってお運びします」
結局、投げ飛ばされた拍子に怒り狂うエルをヴィクトールが引きずり、リサがユナを背負い、教授がプヨンの道案内を頼りに地上へと戻るという、行き以上にカオスな隊列となった。
隠し扉を抜け、ようやく教授の個人研究室に戻ってきた一行。窓の外には、皮肉なほど静かな夜空が広がっている。
扉が閉まった瞬間、ヴィクトールが低く冷淡な声で告げた。
「さて、今回のことは極秘だ。我が国固有の種である聖樹の延命条件が『成人の初夜』などとなれば外聞が悪い。他の国に何と思われるか……」
重い溜息を吐くヴィクトールに、教授も頷きながら言葉を添える。
「ええ、確かにねぇ。だから自国でも話が広がらず隠されてしまい、結果として聖樹が絶滅しかけているというのは皮肉な話だな」
そんな大人たちの政治的会話など耳に入らない様子で、エルの瞳はまだギラついたままだ。
「ユナ、明日から君の護衛を倍に増やすよ。変な虫がつかないように、僕の目の届く範囲にいてもらう」
(変な虫って、あなたのことじゃない……!)
ユナは言いたい気持ちを必死に飲み込んだが、あまりの恐怖に思わず口を開いた。
「あの、聖樹は別に私を名指ししたわけではありませんし……。初々しい男女の交際なら学園にたくさんあるでしょう? そちらで探したほうが早いのでは?」
だが、この提案も猛禽のような目をしたエルの耳には届かない様子だ。
「ええ、それも踏まえて後で考えることにしようか。今日は疲れたねぇ、解散にしよう。特にユナさん、リサさん、ゆっくり休んでくれたまえ。精神的に疲れただろう」
教授の耳にはユナの訴えが届いたようなので、彼女は少しだけ安心した。教授は頼りになる大人だ。彼に任せれば、何か別の解決策を見つけてくれる気がした。
ユナが落ち着きを取り戻し、リサと帰ろうとした時だった。ヴィクトールがユナの耳元をかすめるように囁いた。
「……ユナ。エルはああ言っているが、もし彼が嫌なら、僕に相談するといい。第一王子として、お前の『初めて』をより有効に、そして穏やかに扱う方法を提示できるかもしれないからね」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。理解が追いつくと同時に、背筋に冷たいものが走る。エルのそれは狂信的な愛だが、ヴィクトールのそれは、獲物を冷徹に追い詰める狩人のそれだ。
ユナは逃げるように、リサと共に研究室を後にした。
いつもは帰りもエルと同じ馬車に乗るが、今日はどうしても嫌で、女性専用馬車を利用した。リサがユナの震える手を力強く握りしめる。
「お嬢様、ご安心ください。卒業式まで、たとえ相手が王子であろうと、お嬢様の指一本触れさせはしません。夜這いに来ようものなら、その場で去勢いたします」
「リサ……それは頼もしいけど、穏便にお願いね……」
ユナはため息をつきながら、馬車の窓から夜空を見上げた。
精霊の「お盛んにやってちょうだい」という声が、まだ耳に残っている。
卒業まで、あと三年。
果たしてユナは、この過保護でヤンデレな包囲網を潜り抜け、自分の純潔と平穏を守りきれるのだろうか。
(……いっそのこと、卒業までに別の『愛し合うカップル』を見つけて、聖樹の前で盛大にやってもらうわけにはいかないかしら……?)
そんな現実逃避に近い計画を練りながら、ユナの波乱に満ちた夜は更けていくのだった。
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