大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆

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「ユナ、何もしないから出てきておくれ。僕が悪かったよ。君を怯えさせるつもりはなかったんだ。ユナー」

 屋敷に戻ったユナは、地下の調合室にこもって無心で薬草を調合し、心を落ち着かせていた。

  返事のないユナにエルは溜息を吐く。
 エルはユナの信頼を得るために、この調合室を彼女の「城」としていた。彼女の招きがなければ、王子といえど立ち入ることはできない。自室も同様だ。彼女のプライベート空間だけは侵略しないと決めていた。あまりに追い詰めすぎて、逃げ出されては困るからだ。
 もちろん、屋敷の主としてマスターキーを用いればどこへでも入れる。しかし、それをすればユナの信頼は完璧に失われるだろう。

(どうせ、魔法を使えばどこにいても彼女を『覗き見』はできるのだから……)


「ユナー、お風呂と夕食にしようよ~」

 何度も声をかけるが、顔も見せてくれない。
 少し興奮しすぎて怖がらせたのは反省しよう。何度も反省しているが、獰猛な本性は隠しきれないのだ。だって、怯える彼女の顔も堪らなく愛らしいのだから。

「うわっ!」

 扉にもたれかかって溜息をついた瞬間、不意にドアが開いた。エルはそのまま後ろへ倒れ込む。

「エル様? 何をしているんですか?」

「……君が出てこないから」

「この部屋、防音なのでは?」

 調合に集中していたユナには、外の声など一切聞こえていなかった。

「ああ、そうだったね。うっかりしたよ」

 ハハッと苦笑して立ち上がるエル。とにかく、顔を見せてくれて助かった。

「お風呂に入っておいで。それから晩ごはんを食べよう。今日はシチューだって」

「分かりました。リサ、一緒にお風呂に入りましょう」

「リサは、お嬢様のお風呂のお手伝い係ですから」

 ユナが呼ぶと、調合室の奥から当然のようにリサが出てきた。エルの血圧がカッと上がる。

「なんでリサと一緒にいるんだ!」

「リサは薬草をよく覚えてくれて、今では私の良いアシスタントですよ」

「リサめ……!」

 リサがフフンと見下すような視線を送ってくるのが、余計に腹立たしい。

「今作ったばかりの『安らぎ満点ピチピチ入浴剤』を使いましょう。あ、エル様もどうぞ」

「ああ、ありがとう。嬉しいな」

「エル様用のは、落ち着きすぎて、もはや『老人の精神』になる入浴剤ですよ」

「……枯れてしまえと?」

 性欲強すぎ猛禽王子を、物理(薬草)で沈めようとするユナに、エルは苦笑いするしかなかった。





「え、寮に入りたい? なんで!?」

 食事中、ユナの突然の申し出にエルは激しく動揺した。学園の寮に入れば、共に過ごせる時間が激減してしまう。

「そんなの、エル様が鬱陶しくて嫌に決まってるでしょう」

 給仕をしながら、リサがすかさず毒を吐く。

「基本的に実家が通える距離にない者のための場所だし、僕たちは婚約しているんだよ。既に僕の屋敷に住んでいる君が急に寮へ移ったりしたら、仲が冷え込んだと噂されてしまう。それは困るな」

 エルは早口で「ダメダメダメ」と拒絶を繰り返す。

「……そうですか。冷え込んだと思われるのは、エル様の評判にも関わりますものね」

 ユナは意外にもあっさりと引き下がった。エルは「分かってくれたかい!」と表情を輝かせたが、リサの目は笑っていない。

「ですがエル様。私がここに留まる代わりに、一つ条件があります。学園での自由時間を増やしてください。特に、放課後の図書室や温室での『自主学習』を」 

 ユナの瞳は真っ直ぐにエルを射抜いていた。

(三年後までに、なんとかして別のカップルにこの役目を引き継いでもらわなきゃ。そのためには、学園内でターゲットを探す時間が必要だわ!)

 エルは僅かに眉を寄せた。

「自主学習、か。熱心なのは良いことだが……いや、分かった。ただし、必ず僕の用意した護衛をつけること。そして、日が暮れる前には必ず僕が迎えに行く。いいね?」

「はい。お約束します」

 エルはユナの交渉術に折れる事となった。

(やったわ! 護衛はリサに撒いてもらうとして……。よし、明日から本格的に『生贄……じゃなくて、愛し合うカップル』探しよ!)

 ユナがそんな事を考えているとは誰も知らず、夕食が進む。
 シチューは美味しかった。
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