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しおりを挟む「…そんな、ひどいわ。エルイース様が可哀想…」
王宮に呼ばれてからの事を一通り話し終えると、リーリアがシクシク泣き出した。
「なんの落ち度もないのに、なんでイクリツィアを追放されなきゃいけないの」
「えっと、追放ではないですよ。私が好きに出てきてしまっただけで…」
別にイクリツィア国内の別な親しい貴族の所へ身を寄せても良かったのだが、国王に託された手紙があるからオルドアまで来たのだ。
「エルイース様の代名詞の白銀の鎧まで取り上げられてしまうし」
「いや、それはなんとなくノリで脱いできたというか置いてきたというか…」
貴族でなくなったのに、あんな仰々しいものを着てるのが恥ずかしくなっただけだったのだが。
「イクリツィアのレオル二世って、酷い王様だわ!」
リーリアは涙をうかべて憤慨していた。
幼い彼女にこんな事を言わせてしまうなんて、伝え方が悪かっただろうか。
「…陛下にも仕方のないことだったのですよ、ともかく私は……」
チラリと向かいにいるローレンスを見る。国王から手紙を託されたことについてはまだ話してはいない。
国王から極秘で託された手紙の事は話すべきではない、が、私は嘘が苦手な性分だ。
どう話すべきか。
「……どうしても、アンリ大公に会わねばならぬ訳があるのです。理由は話せませんが…。ですので、ボルコフ卿にお願いをして、アンリ大公にお目通りをはかりたいと思っているのです」
「そうなの?ならちょうどよかったわ。先生はね、大公のお友達なのよ」
「そうなのですか?」
私の言葉に、リーリアとローレンスは特に理由を問うことはなかったので、私はひとまずホッとした。
リーリアは無邪気に、有力な情報を教えてくれた。
その言葉に、私は謎めいた魔術師を見た。
私の視線に、ローレンスが苦笑する。
「お友達などと、恐れ多い。そんな事はないですよ。大公は珍しいものが好きなので、お側に置かせてもらっているだけです」
大公からも信任の厚いボルコフ卿と、親しいというローレンス殿の口添えがあれば、多忙だというアンリ大公も会ってくれるかもしれない。
少しは希望が見えてきて、私は張り詰めていた緊張がゆるむのを感じた。
フカフカの馬車の背に少し体を預けると、馬車の外が騒がしくなっているのに気付いた。
「おや、どうやら歌劇も終わったようですね、じきにボルコフ卿もいらっしゃるでしょう」
どうやら、歌劇に出演していた貴族達が戻ってきたようだった。
静かだった馬車の外は一気に賑やかになる。
「そうだわ、お父様をビックリさせなくちゃ!エルイース様はここで待ってて」
そう言うと、リーリアは使い魔を連れてあっという間に馬車を飛び出して行った。
「やれやれ、とんだじゃじゃ馬ですね。後を追いかけますから、申し訳ありませんがこの中でお待ちください、すぐ戻ります」
さすがに夜に子供を一人にできないと、ローレンスもリーリアの後を追った。
しばらくするとざわめきの中「……早く早く!…」と言うリーリアの声と微かに娘をたしなめるボルコフ卿の声が聞こえてくる。
数年ぶりに会うと思うと、少し緊張してきた。
先程もローレンスに指摘されたが、安物の皮の鎧姿なのが恥ずかしく思えてきた。
「いやいや、ボルコフ卿は格好などで人を判断したりしない高潔なお方だ…」
せめて堂々とお会いしようと胸を張る。
「……リーリア、そんなに手を引っ張るものではない。何が馬車の中にあると言うのだね」
「お父様がびっくりする方よ!さあ早く開けて!」
扉を開いてボルコフ卿と目が合った。
「ご無沙汰しております。このような形でお会いできるとは思いませんでした」
私は立ち上がって礼をしようとしたが、馬車の中なので中途半端な姿勢になった。
「………エルイース殿、お美しくお成りで。お母上に似てきましたな」
ボルコフ卿は眩しげに目を細めた。
「ね!ね!お父様ビックリしたでしょう?」
「…ああ、リーリアにはしてやられたな。さてエルイース殿」
ボルコフ卿は私の向かいに座った。数年前にあった時と変わらず、いや、深みを増した精悍な顔つきだ。
「その格好、可及の用件と見えますが、一体何があったのか話してもらえますか」
私は先程リーリアとローレンスに話した事を伝えた。
「なる程、そんな事が……」
私の話を聞いたボルコフ卿は顎に手を当てて考え込む。
「あと一つ、ボルコフ卿に知らせたい事が」
私はボルコフ卿に会いに来たもう一つの理由を話した。
「国境に出た新種の魔物の事です」
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