辺境令嬢は追放されても気にしない

オイモ

文字の大きさ
13 / 17

13

しおりを挟む


「新種の魔物、ですか?」

ボルコフ卿が聞いた。

「ええ、先月の事になります」

私は領地内で先月起こったことを思い返しながら話した。

「いつものように国境付近の魔物を片付けようと向かったときの話です」

イクリツィアやオルドアのあるこの大陸は、とにかく魔物が湧く。

霧と魔物が支配する場所の合間をぬって、人がかろうじて住んでいると言ったほうが正しい。

今はクレイシウス帝国が敷いた街道の力もあって、昔より随分と人の住む領域は広がったが、辺境では人より魔物の方が優勢だ。

定期的に魔物の巣を叩かないと、たちまち人の住む場まであふれてくる。

「…ある魔物の巣の一つに向かった所、ゴブリンやオークとは全く違う魔物に出くわしたのです」

その時の情景を思い浮かべながら続ける。

「とはいえ、相手はほんの数体、すぐに片がつくと思ったのですが…」

見た目は人に似て、ゴブリンやオークのような凶暴さは見えない。それどころかその動きは随分鈍重だ。

実際すぐに倒せた。と思ったのだが、

「いつまでたっても倒せないのです。しまいには一匹に対し二、三人がかりで相手をしましたが……」

動きか鈍く、攻撃も強くない。だが倒しても倒しても起き上がってくる相手にエルイースの部隊は困惑した。

それに回復して起き上がってきたときの一撃がかなり重い。

離れた場には壊滅させられたゴブリンの巣があるのも分かり、にわかに部隊に緊張が走る。

不死者(アンデッド)系の魔物だとは気付いたが、それにしては回復のスピードが以上だ。

辺境には滅多にアンデッドの魔物は出ないので、聖属性の魔法を操る者は今この部隊にはいない。

「…結局、その魔物はどうやって倒しのですか」

興味深いといった顔でローレンスが聞く。

「ええ…、聖属性の魔法が使える者が来るまでひたすら耐久戦でした。微力ながら、白銀の鎧には聖属性が付与されていたので、鎧の具足で殴って弱った所に内部から火属性の魔法で燃やし、回復を遅らせ、その間に他の個体を倒すという…」

数体いたそのアンデッドを、ひたすらチームプレイではめて、聖属性魔法の使える者が来るまで耐えて耐えて耐え抜いた戦いだった。

聖属性の魔法で、あっさり灰になったが、終わった後には部隊の皆は疲労困憊していた。

気がついて隣を見ると

リーリアはギュッと目を瞑って耳をふさいでいる。

幼い少女に聞かせる話ではなかったと反省して話を切り上げた。

「ご存知のように、エルラント領…、元エルラント領と、ボルコフ卿の領地に出る魔物は、元を同じにしている事が多々あります。ですから、そちらでもそのアンデッドが出没していないかと気になったものですから」

じっと私の話を聞いていたボルコフ卿は口を開いた。

「ローレンス、」

「はい」

「なにか心当たりは?」

「いいえ、全く」

ボルコフ卿の問いにローレンスは静かにきっぱりと答えた。

「しかし、それは聞き捨てならない話ですね、確かに辺境には聖属性を持った人材は不足しています。未だそういったアンデッドの魔物との遭遇はありませんが、エルイース様の報告を受けて警戒に当たらなければいけませんね」

「まったく無茶をなさる。そんな正体も分からぬ魔物相手に、あなたの身に何かあったら私はエルキードに申し訳がたたない」

エルキードは、ボルコフ卿と親友だった父の名だ。

「約束してください、もう無茶はしないと」

「ボ、ボルコフ卿?!」

右手をボルコフ卿の両手でそっと包まれて私はドギマギした。

こちらを慈しむように見られて顔も赤くなってしまう。

(娘、そう娘のように大切に思ってくださっているのだ、この方は。か、勘違いしてはならないぞ)

私は心の中で必死に平静を保とうと努力した。

「ご、ご心配かけて申し訳ありません。無茶はしないと、や、約束します…」

「…エルイース様、怖い話は終わりました?」

今まで目と耳をふさいでいたリーリアが目を開けて不安そうに聞いてきた。

「あ!お父様ずるいわ!私もエルイース様と握手いっぱいしたいのに!」

無邪気にリーリアは私の左手を取る。

「おやおや、仲良しですね。皆さん、どうやら馬車も出せそうですよ」

カーテンを開けて外を見たローレンスが言った。

歌劇に出演した貴族たちが一斉に馬車

で帰るので出口付近は大混雑していたが、奥に停まっていたボルコフ卿の馬車もようやく動けるくらい引いたようだ。

「エルイース殿、このまま私共の逗留する宿まで来ていただけますかな。精一杯もてなしをさせてもらいますよ」

「え!エルイース様来ていただけるの?!」

「こら、リーリア、まだ早いですよ。しかし、エルイース様がボルコフ卿のところに居てくださった方が、大公の所へお連れするのに都合がよいのですが、いかがいたします?」

私の答えは決まっていた。


「ええ、お世話になります」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画

及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。 【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】 姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。 双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。 だが、この公爵家、何かおかしい? 異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。 一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。 ハンナ・キャロライン・バーディナ 22歳      バーディナ伯爵家令嬢         ✖️ ウィルバート・アドルファス・キングスフォード 26歳      キングスフォード公爵 ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣たくさんいただきありがとうございます。 とても励みになります。 感想もいただけたら嬉しいです。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

処理中です...