snowstorm

クロゴマ

文字の大きさ
1 / 2
1章

第一話 最初の道標

しおりを挟む
やることがないな..
芝生に寝転びながら呟いたその言葉は、つまらないその”空”に消えてしまった。
 空を見るのは好きじゃない。空はつまらない。いつ見ても、何も変わりやしない。そんなものを見ても時間が過ぎるだけだ。
 …手が、届きそうだ。
 ここからでも届いてしまいそうなほどに、近く思える。僕が思っている以上に空が広いなら、もし空が尊く美しかったら、一度飛んでみたいとも思う。でも、空はどうやったって美しくなんてならないのは、十分に解っていた。
 ”構って”と言いたげに体当たりしてくる小さな相棒を優しく撫でて、むくりと立ち上がる。何もしない休日を過ごすのももったいない。本でも読みに行こう。人通りの少ない路地を抜けるあのルートなら、ここから五分もしないくらいで図書館に到着できるはずだ。
 僕の意図をくみ取ったのか、相棒はおとなしく肩に乗った。…が、不満そうだ。
 本は好きだ。けど、如何せん恋愛ものが多い。僕は別に他者の恋愛話をにまにましながら読みたいわけでもない。図書館に入館したら、まずは面白そうな本を発掘するところから始まる。…かなりこれで時間が削られる。こいつが不満そうなのはそれが原因だろう。まあ、寝かせておけば全て解決するからいいんだけど。
 相棒を慰めながら歩いていれば、図書館が見えてくる。ずっしりと生える一本の木をタッチして、ふっと息を吹いた。落ち着く木だ。
 手のひらに残る感触を無意識にこする。ガラスの重い扉を引いて、館内へ足を踏み入れる。今日はいつにもまして人が少ない。
 クラスメイトの女の子を発見して、横をこっそり通り過ぎる。バレたかもしれない。…いや、そもそもあの子が僕のことを覚えているとも限らない。堂々とすればよかった。
 来たことのない本棚のエリアをふらふらとして、面白そうな本を探す。このエリアは人気のない本が多いのか、埃被っていて空気がどんよりしている。
「…?」
 一冊ずつタイトルを読んで選別していると、何冊か変に飛び出していることに気が付く。押してみても、何かがつっかかっているようにこれ以上入らない。気になって、押せないぶんだけの本を取り出してみる。
 そこには、埃の被った古そうな一冊の本が押し込まれていた。
「”エリーゼは歩く”?」
 恋愛の雰囲気を感じず、なぜだか引き寄せられる。まるで誰かが”読め”とでもささやいているように、僕はいつの間にかその本をもって椅子に腰かけていた。
 その高級感ある本を開く。一ページ色褪せた白紙をはさんでいきなり始まる物語。横書きの文字を追っていく。身につけた速読のおかげで、速く読んで、速く思考できる。速読を身につけてよかったと思う。
 これが思ったより面白くて、時間を忘れて読んでしまう。まだ冒頭にも関わらず、こんなに引き込まれた本は初めてかもしれない。埃臭い空間でも、僕はその世界の中にすっかり入り込んでしまっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...