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音路町ロストガール
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俺が住む東京郊外の街、音路町も茹だるような暑さが過ぎ、たんぼ道には彼岸花が真っ赤な花を咲かせている。だいたいこの季節になってくるとまた再び今川焼きを焼き始める。夏は俺達今川焼き屋にとっては暑いのに冬の時期だ。
だから俺は夏はキッチンカーでかき氷を売ることにしている。【今川焼きあまかわ】から、期間限定の【かき氷あまかわ】になるのだ。
いつものようにキッチンカーを公園脇に停め、設えた鉄板に薄く油を敷いて生地を流し込む。焼いている少しの間にもぼつぽつと客はやって来るのだ。こう言うのは恥ずかしいが、ユーチューバーの桜のお陰もあってか客足はかなりいいのだ。
既に店舗で焼いてきた今川焼きを数個売ると、冷やかしのようにやって来るのは、ストリートミュージシャンの【甘納豆】こと、志藤夜湾と角田彩羽である。ギターを背負った茶色のふわっとした髪形をした関西弁が夜湾。キーボードを持った黒と白のキャスケット帽を被った色白が彩羽だ。
「アマさん、今年もまた始まりましたか、今川焼き!」
この二人はうちの今川焼きのファンらしい。そりゃそうか。小さい頃からうちの親父や爺さんの今川焼きで育ったのだから。俺と同じく。
「かき氷からの脱却ってやつかな」
「そないな事……ま、わいもアマさん言うたら間違いなく今川焼きやからなぁ」
「おだてても安くもならねぇよ、ほら、買うのか?」
「わいは黒1個、彩羽は白1個や」
俺は焼き上がった今川焼きを二人に手渡した。美味そうにそれを頬張る二人の後ろから、小走りでやってくる女の子。
秋口にしては、やけに爽やかな緑色のナイロンパーカーを羽織り、ポケットから伸びたヘッドホンを首にかけている。何より白磁みたいに真っ白な肌に、金髪……親は何も言わないのだろうか?
「いらっしゃい」
女の子は上目遣いでなんだか品定めでもするように俺を見て、小さな声で言った。
「ずんだ、ちょうだい」
「はいよ。今焼けたのがあるから、ほら」
湯気をあげる今川焼きを油紙に包んで渡す。100円を差し出してぺこりと頭を下げると、その場でリスみたいに齧り付いた。
「お嬢ちゃん、このへんじゃ見ないな。どこの娘?」
音路町の人間はだいたい顔を知っているつもりではあるが、彼女はなんだか雰囲気が違うのだ。そうすると女の子はずんだを口から離して、まっすぐにこっちを見て言った。
「あなたの妹!」
「あ?」
「へっ?」
「ふぇっ?」
この金髪娘は俺の妹だと言いやがった?俺は女の子に訊いた。
「名前は?」
「林原美音。皆はMLちゃんって呼ぶの」
「な、なら美音。お前のお父さんは……?」
「ちょ、待ってよアマさん!妹がいたんですか?」
「当の俺が1番驚いてんだけど……」
「なぁ、お嬢ちゃん」
「なぁに?あ、お兄ちゃん達見たことある!」
「お、せやろ?って、ちゃうがな。お嬢ちゃんは……」
「天河燎は、あたいのお兄ちゃんなの」
名前まで知っているとは……何かありそうだ。俺は美音に言う。
「もうちょいしたら、午前中の仕事が終わるから、待っててくれよ」
†
俺は【甘納豆】と美音を連れて、親父の飲み仲間が営む喫茶店に向かった。俺はブレンドを頼み、夜湾はキリマンジャロ、彩羽はブルーマウンテン、美音はリンゴジュースを頼んだ。
この店はマスターが呑兵衛だが、物凄くこだわった上質なコーヒーを安い値段で出してくれる。呑兵衛で酒が入ると喋り出すが、普段は無愛想を絵に描いたようなおっさんだ。
「お父さんは?」
「……ジュース、飲んでいい?」
「あぁ、構わないよ」
「ってか、この娘よく見たらめっちゃ可愛いじゃないすか。アマさんにちょっと似てるかも」
「馬鹿いうなよ。なぁ、お前のお父さん、俺らが捜してやるよ」
「?」
「わいら、この街では【捜し屋】いうモグリの探偵みたいなことをやっててん……」
にやりと笑うと、美音は1枚の封筒を手渡してきた。
「何すか?それは」
俺は封筒を開けると、中身を確認した。
「……燎。お前がこれを読んでいるってことは、俺の娘がお前を見つけたってことだろう。その娘は紛れもなく俺とイギリス人ハーフの娘との間の、腹違いのお前の妹だ。」
「なんやねんそれ!」
「……彼女はもう俺とは別れ、イギリスに帰った。だからこの娘はお前が当面面倒を見てくれ。追伸。俺のことは捜さないでくれ。天河一番」
「天河一番って……」
「うちの馬鹿親父じゃねぇかよ!」
「ってことは……マジで?」
「そ、宜しくね☆お兄ちゃん!」
……面倒なニューカマーだ。屈託なく笑う笑顔が俺にずっしりとのし掛かってくる。
だから俺は夏はキッチンカーでかき氷を売ることにしている。【今川焼きあまかわ】から、期間限定の【かき氷あまかわ】になるのだ。
いつものようにキッチンカーを公園脇に停め、設えた鉄板に薄く油を敷いて生地を流し込む。焼いている少しの間にもぼつぽつと客はやって来るのだ。こう言うのは恥ずかしいが、ユーチューバーの桜のお陰もあってか客足はかなりいいのだ。
既に店舗で焼いてきた今川焼きを数個売ると、冷やかしのようにやって来るのは、ストリートミュージシャンの【甘納豆】こと、志藤夜湾と角田彩羽である。ギターを背負った茶色のふわっとした髪形をした関西弁が夜湾。キーボードを持った黒と白のキャスケット帽を被った色白が彩羽だ。
「アマさん、今年もまた始まりましたか、今川焼き!」
この二人はうちの今川焼きのファンらしい。そりゃそうか。小さい頃からうちの親父や爺さんの今川焼きで育ったのだから。俺と同じく。
「かき氷からの脱却ってやつかな」
「そないな事……ま、わいもアマさん言うたら間違いなく今川焼きやからなぁ」
「おだてても安くもならねぇよ、ほら、買うのか?」
「わいは黒1個、彩羽は白1個や」
俺は焼き上がった今川焼きを二人に手渡した。美味そうにそれを頬張る二人の後ろから、小走りでやってくる女の子。
秋口にしては、やけに爽やかな緑色のナイロンパーカーを羽織り、ポケットから伸びたヘッドホンを首にかけている。何より白磁みたいに真っ白な肌に、金髪……親は何も言わないのだろうか?
「いらっしゃい」
女の子は上目遣いでなんだか品定めでもするように俺を見て、小さな声で言った。
「ずんだ、ちょうだい」
「はいよ。今焼けたのがあるから、ほら」
湯気をあげる今川焼きを油紙に包んで渡す。100円を差し出してぺこりと頭を下げると、その場でリスみたいに齧り付いた。
「お嬢ちゃん、このへんじゃ見ないな。どこの娘?」
音路町の人間はだいたい顔を知っているつもりではあるが、彼女はなんだか雰囲気が違うのだ。そうすると女の子はずんだを口から離して、まっすぐにこっちを見て言った。
「あなたの妹!」
「あ?」
「へっ?」
「ふぇっ?」
この金髪娘は俺の妹だと言いやがった?俺は女の子に訊いた。
「名前は?」
「林原美音。皆はMLちゃんって呼ぶの」
「な、なら美音。お前のお父さんは……?」
「ちょ、待ってよアマさん!妹がいたんですか?」
「当の俺が1番驚いてんだけど……」
「なぁ、お嬢ちゃん」
「なぁに?あ、お兄ちゃん達見たことある!」
「お、せやろ?って、ちゃうがな。お嬢ちゃんは……」
「天河燎は、あたいのお兄ちゃんなの」
名前まで知っているとは……何かありそうだ。俺は美音に言う。
「もうちょいしたら、午前中の仕事が終わるから、待っててくれよ」
†
俺は【甘納豆】と美音を連れて、親父の飲み仲間が営む喫茶店に向かった。俺はブレンドを頼み、夜湾はキリマンジャロ、彩羽はブルーマウンテン、美音はリンゴジュースを頼んだ。
この店はマスターが呑兵衛だが、物凄くこだわった上質なコーヒーを安い値段で出してくれる。呑兵衛で酒が入ると喋り出すが、普段は無愛想を絵に描いたようなおっさんだ。
「お父さんは?」
「……ジュース、飲んでいい?」
「あぁ、構わないよ」
「ってか、この娘よく見たらめっちゃ可愛いじゃないすか。アマさんにちょっと似てるかも」
「馬鹿いうなよ。なぁ、お前のお父さん、俺らが捜してやるよ」
「?」
「わいら、この街では【捜し屋】いうモグリの探偵みたいなことをやっててん……」
にやりと笑うと、美音は1枚の封筒を手渡してきた。
「何すか?それは」
俺は封筒を開けると、中身を確認した。
「……燎。お前がこれを読んでいるってことは、俺の娘がお前を見つけたってことだろう。その娘は紛れもなく俺とイギリス人ハーフの娘との間の、腹違いのお前の妹だ。」
「なんやねんそれ!」
「……彼女はもう俺とは別れ、イギリスに帰った。だからこの娘はお前が当面面倒を見てくれ。追伸。俺のことは捜さないでくれ。天河一番」
「天河一番って……」
「うちの馬鹿親父じゃねぇかよ!」
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「そ、宜しくね☆お兄ちゃん!」
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