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音路町ビタースイート
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俺の頼みの綱だった、過去知り合ったYouTuberのくもち、こと桜に電話をかけても全くもって出ない。途方に暮れた俺に声を掛けてくるのは……
「毎度アマさん!」
「こんちは、MLちゃん、借りて行きますよ?って、どしたんすか?アマさん」
俺の顔を覗き込んだ彩羽が言った。俺は呟くように言った。
「桜に連絡が取れないんだよ」
「桜って、くもちちゃんっすか?」
「あぁ、仕事の話なんだけどさ」
「あ~、それなら多分出ないかもしれへんですね」
「夜湾、何か知ってるのか?」
「むしろアマさん、知らへんのですか?」
俺と美音の頭に疑問符が湧いて出てくる。
「何かあったのか?」
「桜ちゃんやったら、YouTuberとして活動してへんのですわ」
「なんだって?」
「付いてきてくださいよ。きっとびっくりしますよ」
俺は【甘納豆】のあとに付いていく。
†
音路町役場からほどない場所に、それはあった。向かいを歩く人の手にはウサギの画が描かれた袋。中に入っているのは……
「ここっす。アマさん」
パチ屋の駐車場の脇を間借りしたようなスペースに、ピンクの庇の付いた店。旗が立っており、そこには【メロンパン】と書いてある。人だかりができているその店【恋するウサギ】は最近出来たメロンパン専門店らしい。
「ここは……」
鉄が腕組みして様子を見ている。中には満面の笑みを浮かべながらメロンパンを売っている数人の若い女の子。その中心にいるのが桜だった。
「あっ!」
客の切れ間にこちらに手を振る桜。オリジナルTを作ったようだ。胸にニコニコした、メロンパンを銜えたウサギの画。
「アマさん!甘納豆さん!御無沙汰しております!」
「えっ?あ、ホントだ甘納豆!」
桜の隣にいた従業員の女の子がスマホを構えてこちらを撮影した。
「ここに店、出したんだ?」
「そうなんです、忙しくてなかなか言えなくて。少し落ち着いたら言おうと思ってたんです!」
「ホンマ、アマさん情報おっそいねんて。わいらの中じゃ常識やで」
「……おれらも初めてだけどね」
「そうだ、皆も食べてってください!」
黒板の看板ににチョークで手書きされたのが店のメニュー。プレーン、メロン、マンゴー、チョコ、桜餅が好きな桜らしいさくら。
「俺はプレーン」
「あたいはメロンかな」
「あっ、わいはマンゴー」
「おれはさくら」
「我はチョコだな」
ウサギの画が描かれた袋に入ったメロンパンは、クッキーの部分に目がバツになっている顔がチョコペンで描かれている。インスタ映えを狙ったのだろうか、いかにもYouTuberの桜らしい発想。
「やばっ、うま……」
「クッキー生地がさっくさくで、中のパンがもっちりしてる!」
「めっちゃええ香りする」
プレーンは昔ながらの王道のメロンパンの味。何よりパンがうまい。クッキー生地とうまくまとまるもっちりした食感。
「そうだ桜。S1グランプリって知ってる?」
「はい、どうやら音路町の商店振興会が主催のイベントで、近々ホームページも立ち上げるって話ですよ」
「桜としては、どこが強いと思うんだ?」
「あら、やっぱアマさんも興味あるんですね?」
ないといえば噓になるが、最も気にしている男がいる事を桜に告げた。
「あ、【NACK】の名物店員さんだ」
「か、かたじけない……」
「やだ!可愛い!」
店員の女の子から言われ、女性恐怖症の鉄はまるで鍛冶屋で熱せられて赤熱した鉄みたいに真っ赤になっている。
「やはり今1番の成長株は【NACK】でしょうね。あと、うちも。古参で強いお店もいっぱいありますけど、中ではやはりダントツでアマさんのお店と、店主が替わって美味しくなったって評判の【もくれん】ですね」
鉄はさらさらとメモ帳にメモを取った。
「名物店員さん、すごく研究熱心なんですね?お店でも出されるんですか?」
「い、いやっ。我はただの手伝いでありまして……」
「やだぁ!めっちゃウケる!可愛い!」
頭から湯気が出そうなくらい真っ赤になった鉄。最早メモ帳に何を書いているのか分からないくらい震えている。
「有難う、やっぱり桜に訊いてよかったよ」
「アマさんに言われると、照れますね。またいらしてくださいね?落ち着いたら今川焼きまた買いに行きます。今度飲みましょうね」
あぁ、と約束をする。夜湾と彩羽はわいも!おれも!と手を挙げた。
「あら、そちらの可愛いお嬢さんって」
「妹です。あたい林原美音。【甘納豆】のたまにお手伝いしてる、【今川焼きあまかわ】の看板娘です。MLちゃんって読んでね」
「やだ!超絶可愛い!」
俺はメロンパンの余韻を楽しんだ後、桜に別れを告げて店をあとにした。この店もなかなかイケている。
――無双状態の【今川焼きあまかわ】も、ライバル店が続々と現れる群雄割拠の音路町に散る時代がいよいよ来たか?
「毎度アマさん!」
「こんちは、MLちゃん、借りて行きますよ?って、どしたんすか?アマさん」
俺の顔を覗き込んだ彩羽が言った。俺は呟くように言った。
「桜に連絡が取れないんだよ」
「桜って、くもちちゃんっすか?」
「あぁ、仕事の話なんだけどさ」
「あ~、それなら多分出ないかもしれへんですね」
「夜湾、何か知ってるのか?」
「むしろアマさん、知らへんのですか?」
俺と美音の頭に疑問符が湧いて出てくる。
「何かあったのか?」
「桜ちゃんやったら、YouTuberとして活動してへんのですわ」
「なんだって?」
「付いてきてくださいよ。きっとびっくりしますよ」
俺は【甘納豆】のあとに付いていく。
†
音路町役場からほどない場所に、それはあった。向かいを歩く人の手にはウサギの画が描かれた袋。中に入っているのは……
「ここっす。アマさん」
パチ屋の駐車場の脇を間借りしたようなスペースに、ピンクの庇の付いた店。旗が立っており、そこには【メロンパン】と書いてある。人だかりができているその店【恋するウサギ】は最近出来たメロンパン専門店らしい。
「ここは……」
鉄が腕組みして様子を見ている。中には満面の笑みを浮かべながらメロンパンを売っている数人の若い女の子。その中心にいるのが桜だった。
「あっ!」
客の切れ間にこちらに手を振る桜。オリジナルTを作ったようだ。胸にニコニコした、メロンパンを銜えたウサギの画。
「アマさん!甘納豆さん!御無沙汰しております!」
「えっ?あ、ホントだ甘納豆!」
桜の隣にいた従業員の女の子がスマホを構えてこちらを撮影した。
「ここに店、出したんだ?」
「そうなんです、忙しくてなかなか言えなくて。少し落ち着いたら言おうと思ってたんです!」
「ホンマ、アマさん情報おっそいねんて。わいらの中じゃ常識やで」
「……おれらも初めてだけどね」
「そうだ、皆も食べてってください!」
黒板の看板ににチョークで手書きされたのが店のメニュー。プレーン、メロン、マンゴー、チョコ、桜餅が好きな桜らしいさくら。
「俺はプレーン」
「あたいはメロンかな」
「あっ、わいはマンゴー」
「おれはさくら」
「我はチョコだな」
ウサギの画が描かれた袋に入ったメロンパンは、クッキーの部分に目がバツになっている顔がチョコペンで描かれている。インスタ映えを狙ったのだろうか、いかにもYouTuberの桜らしい発想。
「やばっ、うま……」
「クッキー生地がさっくさくで、中のパンがもっちりしてる!」
「めっちゃええ香りする」
プレーンは昔ながらの王道のメロンパンの味。何よりパンがうまい。クッキー生地とうまくまとまるもっちりした食感。
「そうだ桜。S1グランプリって知ってる?」
「はい、どうやら音路町の商店振興会が主催のイベントで、近々ホームページも立ち上げるって話ですよ」
「桜としては、どこが強いと思うんだ?」
「あら、やっぱアマさんも興味あるんですね?」
ないといえば噓になるが、最も気にしている男がいる事を桜に告げた。
「あ、【NACK】の名物店員さんだ」
「か、かたじけない……」
「やだ!可愛い!」
店員の女の子から言われ、女性恐怖症の鉄はまるで鍛冶屋で熱せられて赤熱した鉄みたいに真っ赤になっている。
「やはり今1番の成長株は【NACK】でしょうね。あと、うちも。古参で強いお店もいっぱいありますけど、中ではやはりダントツでアマさんのお店と、店主が替わって美味しくなったって評判の【もくれん】ですね」
鉄はさらさらとメモ帳にメモを取った。
「名物店員さん、すごく研究熱心なんですね?お店でも出されるんですか?」
「い、いやっ。我はただの手伝いでありまして……」
「やだぁ!めっちゃウケる!可愛い!」
頭から湯気が出そうなくらい真っ赤になった鉄。最早メモ帳に何を書いているのか分からないくらい震えている。
「有難う、やっぱり桜に訊いてよかったよ」
「アマさんに言われると、照れますね。またいらしてくださいね?落ち着いたら今川焼きまた買いに行きます。今度飲みましょうね」
あぁ、と約束をする。夜湾と彩羽はわいも!おれも!と手を挙げた。
「あら、そちらの可愛いお嬢さんって」
「妹です。あたい林原美音。【甘納豆】のたまにお手伝いしてる、【今川焼きあまかわ】の看板娘です。MLちゃんって読んでね」
「やだ!超絶可愛い!」
俺はメロンパンの余韻を楽しんだ後、桜に別れを告げて店をあとにした。この店もなかなかイケている。
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