15 / 21
音路町ライオット
1
しおりを挟む
秋口はいつもよりも日が落ちるのが早い。街路樹として植えられた桜の木や銀杏の木が用が済んだような木の葉を地面に放り投げるように落としている。
駅前のカフェは一足早くイルミネーションの準備をしている。駅前広場に置かれたゆるキャラの【MLくん】も窮屈そうに配線をぐるぐる巻かれている。
「話を訊かせてくれないか?」
もえむは一足早くジョンレノンの【War is over】を流すカフェの中でアールグレイのカップを両手で包むように飲んでいる。俺と美音はもえむの話を訊く。
「あたし、このへんの人じゃないんです」
「なるほどな、何を捜しに来たんだ?」
「あの、あたし。遠距離恋愛してるんですよ」
もえむは1枚の写真をバッグから抜いた。プリクラのようだ。頬の脇でピースをする隣に、にっこりと笑った素朴なパーカー姿の色白の男の子。こちらはなかなか垢抜けない感じ。
「この街に、彼はいるんですか?」
「えぇ、の、ハズなんですけど」
「ハズ、っていうのは?」
少し震えながらもえむは口を開いた。
「行方が分からないんです」
「なるほどな」
「お兄ちゃん、ちょっと待って」
美音はもえむに身を乗り出しながら訊く。
「遠距離恋愛なんでしょ?なんで行方が分からないって?」
「毎日連絡をしてたのに、いきなり来なくなったんです。3日もですよ?」
「ところで、その彼は?」
「裕太郎。我相裕太郎です」
「何をやってる人?」
「音楽系の専門学生なんですけど、ボカロPをやってるんです」
「ボカロPって?美音」
「ボカロっていって、歌を歌うAIみたいなのが歌う曲を作ったりする人たち。よね?」
俺にはいまいちよくは分からない世界だ。美音は訊いた。
「何ていう曲を?」
「【密室】って曲……」
「はぁ!?マジで?」
「ちょ、美音。有名なのか?」
「有名も何も、むちゃくちゃ有名だよ!ほら、これ」
美音が渡してきたイヤホンから流れてきたのは、渋いメロディーと曲調の曲。メロディーに合わせて甲高い声のAIが平坦な声で歌っている。
「これを、こいつが作ったのか?」
「はい」
「そういえば、【ワーイ】さんの新曲も作るって言ったきりなくなったし、だとしたら頷けるなぁ」
俺は不意に外をちらりと見る。もう【MLくん】に巻かれた配線も虹みたいなカラフルな電飾に変わっている。
「お願いです。裕太郎くんを捜してください!」
「構わないよ。うちは料金は基本取らない。捜査によっては別途かかるかもしれないが、了承してくれ」
「はい」
俺はコーヒーを片付け、伝票をかすめ取った。もえむはもじもじしながらアールグレイをちびちびと飲んでいる。
「部屋には行ったのか?」
「……いや」
「どこに住んでるのかは?」
「わかります。ただ、鍵がなくて……」
「アパートなのか?」
「いや、一軒家みたいです。一人で借りて住んでいます」
――一人で住んでる音楽系の専門学生にしては、やや大きすぎる気はしたが……
「お願いです。あたし、心配で心配で、夜も9時間しか眠れなくて」
「しっかり寝てるじゃないの!」
てへっ、と舌を出すもえむ。俺はもえむに訊いた住所をスマホのメモに書いた。
「ついでに、その写真貸してくれないか?」
「これは、ちょっと……」
「お兄ちゃん、写メっちゃえばいいじゃない?」
美音の言う通り、俺は写真をスマホで撮影した。これさえあればだいたいの材料としては申し分ない。
我相が、この音路町界隈にいればの話だが……
駅前のカフェは一足早くイルミネーションの準備をしている。駅前広場に置かれたゆるキャラの【MLくん】も窮屈そうに配線をぐるぐる巻かれている。
「話を訊かせてくれないか?」
もえむは一足早くジョンレノンの【War is over】を流すカフェの中でアールグレイのカップを両手で包むように飲んでいる。俺と美音はもえむの話を訊く。
「あたし、このへんの人じゃないんです」
「なるほどな、何を捜しに来たんだ?」
「あの、あたし。遠距離恋愛してるんですよ」
もえむは1枚の写真をバッグから抜いた。プリクラのようだ。頬の脇でピースをする隣に、にっこりと笑った素朴なパーカー姿の色白の男の子。こちらはなかなか垢抜けない感じ。
「この街に、彼はいるんですか?」
「えぇ、の、ハズなんですけど」
「ハズ、っていうのは?」
少し震えながらもえむは口を開いた。
「行方が分からないんです」
「なるほどな」
「お兄ちゃん、ちょっと待って」
美音はもえむに身を乗り出しながら訊く。
「遠距離恋愛なんでしょ?なんで行方が分からないって?」
「毎日連絡をしてたのに、いきなり来なくなったんです。3日もですよ?」
「ところで、その彼は?」
「裕太郎。我相裕太郎です」
「何をやってる人?」
「音楽系の専門学生なんですけど、ボカロPをやってるんです」
「ボカロPって?美音」
「ボカロっていって、歌を歌うAIみたいなのが歌う曲を作ったりする人たち。よね?」
俺にはいまいちよくは分からない世界だ。美音は訊いた。
「何ていう曲を?」
「【密室】って曲……」
「はぁ!?マジで?」
「ちょ、美音。有名なのか?」
「有名も何も、むちゃくちゃ有名だよ!ほら、これ」
美音が渡してきたイヤホンから流れてきたのは、渋いメロディーと曲調の曲。メロディーに合わせて甲高い声のAIが平坦な声で歌っている。
「これを、こいつが作ったのか?」
「はい」
「そういえば、【ワーイ】さんの新曲も作るって言ったきりなくなったし、だとしたら頷けるなぁ」
俺は不意に外をちらりと見る。もう【MLくん】に巻かれた配線も虹みたいなカラフルな電飾に変わっている。
「お願いです。裕太郎くんを捜してください!」
「構わないよ。うちは料金は基本取らない。捜査によっては別途かかるかもしれないが、了承してくれ」
「はい」
俺はコーヒーを片付け、伝票をかすめ取った。もえむはもじもじしながらアールグレイをちびちびと飲んでいる。
「部屋には行ったのか?」
「……いや」
「どこに住んでるのかは?」
「わかります。ただ、鍵がなくて……」
「アパートなのか?」
「いや、一軒家みたいです。一人で借りて住んでいます」
――一人で住んでる音楽系の専門学生にしては、やや大きすぎる気はしたが……
「お願いです。あたし、心配で心配で、夜も9時間しか眠れなくて」
「しっかり寝てるじゃないの!」
てへっ、と舌を出すもえむ。俺はもえむに訊いた住所をスマホのメモに書いた。
「ついでに、その写真貸してくれないか?」
「これは、ちょっと……」
「お兄ちゃん、写メっちゃえばいいじゃない?」
美音の言う通り、俺は写真をスマホで撮影した。これさえあればだいたいの材料としては申し分ない。
我相が、この音路町界隈にいればの話だが……
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる