占い師さんは名探偵

回転焼き。

文字の大きさ
2 / 15

2

しおりを挟む
 閑静な高級住宅街にパトカーのパトランプが出す真っ赤な光が広がる。時刻は早朝、5時。サイレンを鳴らさずに走るパトカーの運転席に座った相棒の小杉慎也こすぎしんやは、大きな欠伸をしながら目覚まし用のメントールがきつめのチューインガムを噛む。 

「センパイが飲んでなきゃなぁ」
「なんだよ。しょうがないだろ。前々から友達と飲もうって言ってたんだから」
「俺なんて合コン中だったんすよ?なのにいきなり臨場しろって…」
「どうせいいじゃんか。女の子送って口説こうとでもしてたんだろ?だから車で行ったんじゃないの?」

 目指す先は白い豪邸だ。入り口にはインターホン、高い塀の向こうには南国の植物みたいな平べったい葉っぱの木が揺れて見える。
 インターホンを押すと、中から忙しなさそうな甲高い声のおばちゃんの声がした。僕と小杉は警察手帳をインターホンカメラに見えるように掲げた。
 かちゃんと門扉の自動ロックが外れた。入れということらしい。門扉の奥のなんちゃって南国を抜けると、玄関ドアが立ち塞がる。中にはもう既に鑑識官が入っている。

「うっ……」

 僕はつい中に入って思ったこと。とにかく、暑い。外の庭の暑苦しさに負けないくらいに暑い。僕と小杉は持参した袋に靴を突っ込み、中に入っていく。
 壁には国内外のアーティストのポスターやら海外の絵画が飾られている。そして、件のリビングのドアを開いた。

「ごくろうさまです」
「こりゃあ…」

 小杉は僕に倣って手を合わせた。リビングのガラステーブルの上のシャンデリア。その隣の止まったシーリングファンからぶら下がるのは、人だ。しかも、見たことがある。

「音楽評論家の、六車慶勝むぐるまよしかつ…」

 軽妙な喋り方とハンサムな顔立ちで、女性ファンも多いという六車。やはり話がうまいほうがモテるのだろうか。実は相棒の小杉も、話がうまくモテる。顔は子役時代のえなり君をそのまんま大きくし、眉毛を濃い一本眉にしたようなフォルムだが。

「自殺、ですかね」
「これか?」

 ガラステーブルには、直筆で名前を書いたとみられる遺書があった。

「今回は、本当に取り返しのつかない、大変な事を致しました。この生命で償います。六車慶勝…」
「確か、女優の羽生はにうみずほとの不倫と、妊娠中絶の話…」
「だろうな」

 羽生みずほは、今最も勢いのある若手清純派女優として売っている。色白で、笑うとできる笑窪とハスキーな声がチャームポイント。そんな中、いきなり沸いたのが2年前の話。かつて妻がいる身でありながら、羽生みずほと不倫関係にあった六車のスキャンダル。それに輪をかけたのが、羽生みずほの中絶問題。六車は不妊治療中の妻がいながら、羽生みずほに妊娠させてしまい、多額の手切金と共に中絶をさせたのだ。
――ここまで聞いても、救いようのないクズ野郎だ。こんな奴が、自殺?と思ったが……

「あれに乗って、首を吊ったんだと?」

 白木の床にスツールが転がっている。爪先と床の距離からしても間違いなさそうだ。電気コードが首に巻き付いている。

「っすね。にしてもエアコンすら付けずに、あっつい部屋…これじゃいつ死んだかわかんないんじゃないスかね?」
「隣人の話によれば、昨晩もラジオを聴いていたそうなんです」
「ラジオ?」
「えぇ、SKYFMの毎週水曜日深夜0時にやる番組、【石井由梨亜いしいゆりあのてっぺんGROOVE】」

 ――石井由梨亜のてっぺんGROOVEは、歌手兼パーソナリティの石井由梨亜が水曜日0時に生放送するラジオ番組。リスナーのリクエストから主に海外の曲を紹介する番組。あまり音楽に詳しくない僕でも、名前だけなら聞いた事がある。

「昨日もやってましたね。帰りの車で聴いてました。【さぁ、てっぺんですよ皆さん、日付が変わってもテンションてっぺんでグルービーにいきますよ!】っスよね」
「あれを、毎回聴いてるって?」
「えぇ、しかも結構大音量」
「こんな防音もしっかりしてそうなのに?」
「そこには、金かけてないみたいっスね」

 僕は傍にある水槽に目を向けた。中には和金と出目金が数匹泳いでいる。毎回思うが、金魚ってあんな長いフンをずっとくっつけて、気持ち悪くないんだろうか。余計なお世話だな。

「動機もほぼ明確だし、多分自殺で送検っスね。先輩。今日はちょっと用事あるんスけど、明日【さくら庵】の安倍川餅奢ってくださいよ?」
「はぁ?なんで僕が?」
「一人だけ酒飲んでおいて運転させといて、そりゃなくないスか?」

――いや、勝手に飲まなかったの、オマエじゃんよ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...