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音路町ストーリー
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†
梨緒は故郷の山形を弟と2人で離れ上京。そのままこの郊外の【音路町】に住みながら、アルバイトをして生計を立て、小説家の夢を追っていた。一方弟もアルバイトをしながらミュージシャンの夢を追っていたが、ある日急な頭痛に見舞われ救急搬送。そのまま植物状態となってしまった。脳に悪性の腫瘍ができたらしい。
梨緒は弟の世話をしながらアルバイトを掛け持ちし、なんとか日銭を稼ぐ生活をしていたが、遂にアルバイトを全て失ってしまい、職業安定所に通う生活。おしゃれをすることはおろか、好きな物を食べることすら出来ない、ただ生きているだけの毎日。
「こんな私に、少しくらい良いことがあってもいいですよね?」
「それが、指輪だと?」
「いけませんか?」
「そいつをあんたの物にしたとして、あんたは幸せになれると?」
「!?」
「あんた、自惚れてないか?」
つい口調が強くなってしまった。
「俺はな、今でこそこうやって今川焼き焼いてるけどな。親父が余所で女作って、店ほっぽらかして消えて、俺は修業もしないうちに4代目にならなきゃいけなかったんだよ」
「……」
「初めは嫌で嫌で仕方なかった。こんな単純作業は俺がやるようなもんじゃないって思ってたよ。だけどな。俺がほぼ独学で作った今川焼きを旨い旨いって食ってくれる人が沢山いて、それが嬉しくて、もっと巧くなりたいって……」
「……」
「幸せってさ、そんなでかいもんじゃなくていいんじゃないかな?あんたはなんで今生きてるんだ?弟はあんたがいなきゃ生きてけないんだぜ。あんたは必要とされてるんだ。それって、幸せなことなんだぜ?」
梨緒の目には微かに涙が光る。
「この町にいる人なんか皆そう。毎日おやつ時に小一時間くっちゃべったり、ある奴は歌を作ったり、物を作ったり、物を売って、有難うって言ったり言って貰ったりして、そうやって小さなちっぽけな幸せを積み重ねてんだよ」
そう言って俺はポケットに突っ込んだ手を梨緒に差し出した。
「タイミングおかしいかもしんねぇけど、あげるよ」
「……これは?」
「デザイナーズリングだよ」
「!!」
梨緒が捜していたデザイナーズリングがそこにあった。金に輝き、台座に小さな宝石があしらわれている。
「ただし、よく見てみ」
「?」
裏側に【HA】のサインがある。
「これ…」
「デザイナーズリングだよ。世界にたった一つの、君だけのね。ただ、作ったのは天峰だけどな」
天峰――寸分違わない贋作を作る事が出来る。しかしながら彼もアーティストである。自分の作品には【HA】の刻印を何処かにする事を忘れない。アーティストのアイデンティティ。
「もし、また何か辛くなったら、何時でも来ると良い。愚痴るだけでも違う。俺は何時でも聞いてやるぜ」
梨緒は声をあげ泣き出した。それに呼応するように鉛色の空は啜り泣くように雨を降らせ始めた。
†
それからの話は、梨緒は弟を連れ山形に帰ることにしたらしい。両親も健在。飛び出すようにして出て行った梨緒を暖かく迎え入れてくれたようだ。まぁ、彼女の愚痴を聞くことはなかったがね。
そうだ、あれからうちの店にも新しいメニューが出来た。梨緒が送ってくれた大量の【茶豆】を使って作ったずんだ餡。これがまた良い香りと歯触りのお陰で飛ぶように売れてる。値段は変わらず百円。音路町にお越しの際は、是非【今川焼きあまかわ】のずんだ餡は如何?
そして忙しい中、せっせと指輪を作ってくれた天峰から請求書が届いたのは、音路町が25℃の夏日の日だった。
「毎度、アマさん!」
「お疲れさまっす」
持ってきたのは【甘納豆】の二人、新曲の作曲が終わった夜湾の手に握られていた。メモが貼ってある。
「お代はいりません、中に書かれた物品でいいです。針生天峰」
「へぇ、何やろ」
俺はその茶封筒を開く。中には【請求書】と書いた薄い紙と…
「今日の3時のおやつをお願いします。だって。え~何?」
彩羽が眉間に皺を寄せた。天峰は器用だが字はミミズが這ったような字を書く。
「今川焼き、1グロス。黒と白半々で願います」
「…なんか嫌な予感がするんだけど、なぁ彩羽。1グロスって?」
「12ダースっす」
「ええと?12×12で144個…2で割ったら黒と白が各72個!」
「あいつは俺を殺す気か!」
「てか、3時のおやつの次元やあらへんやん!」
空は青いペンキを塗ったような青空。一人の女性の心を青空にした代金代わりと思えば…まぁ、割に合うかは考えないことにしよう。
俺は熱々に熱した丸い今川焼きの型に連発して生地を流し込んだ。
――144個の今川焼きを焼くために。
梨緒は故郷の山形を弟と2人で離れ上京。そのままこの郊外の【音路町】に住みながら、アルバイトをして生計を立て、小説家の夢を追っていた。一方弟もアルバイトをしながらミュージシャンの夢を追っていたが、ある日急な頭痛に見舞われ救急搬送。そのまま植物状態となってしまった。脳に悪性の腫瘍ができたらしい。
梨緒は弟の世話をしながらアルバイトを掛け持ちし、なんとか日銭を稼ぐ生活をしていたが、遂にアルバイトを全て失ってしまい、職業安定所に通う生活。おしゃれをすることはおろか、好きな物を食べることすら出来ない、ただ生きているだけの毎日。
「こんな私に、少しくらい良いことがあってもいいですよね?」
「それが、指輪だと?」
「いけませんか?」
「そいつをあんたの物にしたとして、あんたは幸せになれると?」
「!?」
「あんた、自惚れてないか?」
つい口調が強くなってしまった。
「俺はな、今でこそこうやって今川焼き焼いてるけどな。親父が余所で女作って、店ほっぽらかして消えて、俺は修業もしないうちに4代目にならなきゃいけなかったんだよ」
「……」
「初めは嫌で嫌で仕方なかった。こんな単純作業は俺がやるようなもんじゃないって思ってたよ。だけどな。俺がほぼ独学で作った今川焼きを旨い旨いって食ってくれる人が沢山いて、それが嬉しくて、もっと巧くなりたいって……」
「……」
「幸せってさ、そんなでかいもんじゃなくていいんじゃないかな?あんたはなんで今生きてるんだ?弟はあんたがいなきゃ生きてけないんだぜ。あんたは必要とされてるんだ。それって、幸せなことなんだぜ?」
梨緒の目には微かに涙が光る。
「この町にいる人なんか皆そう。毎日おやつ時に小一時間くっちゃべったり、ある奴は歌を作ったり、物を作ったり、物を売って、有難うって言ったり言って貰ったりして、そうやって小さなちっぽけな幸せを積み重ねてんだよ」
そう言って俺はポケットに突っ込んだ手を梨緒に差し出した。
「タイミングおかしいかもしんねぇけど、あげるよ」
「……これは?」
「デザイナーズリングだよ」
「!!」
梨緒が捜していたデザイナーズリングがそこにあった。金に輝き、台座に小さな宝石があしらわれている。
「ただし、よく見てみ」
「?」
裏側に【HA】のサインがある。
「これ…」
「デザイナーズリングだよ。世界にたった一つの、君だけのね。ただ、作ったのは天峰だけどな」
天峰――寸分違わない贋作を作る事が出来る。しかしながら彼もアーティストである。自分の作品には【HA】の刻印を何処かにする事を忘れない。アーティストのアイデンティティ。
「もし、また何か辛くなったら、何時でも来ると良い。愚痴るだけでも違う。俺は何時でも聞いてやるぜ」
梨緒は声をあげ泣き出した。それに呼応するように鉛色の空は啜り泣くように雨を降らせ始めた。
†
それからの話は、梨緒は弟を連れ山形に帰ることにしたらしい。両親も健在。飛び出すようにして出て行った梨緒を暖かく迎え入れてくれたようだ。まぁ、彼女の愚痴を聞くことはなかったがね。
そうだ、あれからうちの店にも新しいメニューが出来た。梨緒が送ってくれた大量の【茶豆】を使って作ったずんだ餡。これがまた良い香りと歯触りのお陰で飛ぶように売れてる。値段は変わらず百円。音路町にお越しの際は、是非【今川焼きあまかわ】のずんだ餡は如何?
そして忙しい中、せっせと指輪を作ってくれた天峰から請求書が届いたのは、音路町が25℃の夏日の日だった。
「毎度、アマさん!」
「お疲れさまっす」
持ってきたのは【甘納豆】の二人、新曲の作曲が終わった夜湾の手に握られていた。メモが貼ってある。
「お代はいりません、中に書かれた物品でいいです。針生天峰」
「へぇ、何やろ」
俺はその茶封筒を開く。中には【請求書】と書いた薄い紙と…
「今日の3時のおやつをお願いします。だって。え~何?」
彩羽が眉間に皺を寄せた。天峰は器用だが字はミミズが這ったような字を書く。
「今川焼き、1グロス。黒と白半々で願います」
「…なんか嫌な予感がするんだけど、なぁ彩羽。1グロスって?」
「12ダースっす」
「ええと?12×12で144個…2で割ったら黒と白が各72個!」
「あいつは俺を殺す気か!」
「てか、3時のおやつの次元やあらへんやん!」
空は青いペンキを塗ったような青空。一人の女性の心を青空にした代金代わりと思えば…まぁ、割に合うかは考えないことにしよう。
俺は熱々に熱した丸い今川焼きの型に連発して生地を流し込んだ。
――144個の今川焼きを焼くために。
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