音路町ストーリー

回転焼き。

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音路町ラブストーリー

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 暫くぶりに訪れたスタバ、店の奥の誰も居なそうな席に充と乃月を連れて向かうが……
 
「あ!アマさん!充さんも!」
「誰すか?その可愛い娘?ひょっとしてナンパしてきたとか?」

 【甘納豆】の夜湾と彩羽だ。紙を広げてるってことは、多分作詞の途中なのだろうか。紙をかき集めると持っていたソイラテをこちらに運んできた。

「ヒメ子さんの店のバイトの娘だよ」
「あっ、初めまして、内海乃月です」
「初めまして~、おれ、彩羽」
「わい、夜湾。早い話結婚してくれへん?」
「初対面の自己紹介のクセ!!」

 乃月はくすっと笑った。俺は乃月を連れて来た経緯を2人にも話した。乃月は注文した抹茶フラペチーノをちびりちびり飲んでいる。

「ひゅ~、可愛い~、誰やねんその幸せな男っちゅうのは……」
「不本意だけど、捜すしかないっすねぇ」

 乃月はその男の特徴を端的に話し始めた。それを聞きながら充がメモ帳にさらさらとペンを走らせる。

「ふぅん、極めてやせ型、黒髪、色白……ねぇ」
「……はい」

 言ってる側から顔を紅潮させる乃月。余程の一目惚れなのだろう。

「とりあえず、その道のプロに言って似顔絵描いて貰うから。できればLINEでも教えてくれないかな?」
「ちょっとアマさん!ずるいっす!そんならおれに!」
「いや、それはわいやろうが!」
「……とにかく、いいかな?」

 乃月は苦笑いをしながら俺にLINEを教えてくれた。その流れで3人も交換することになった。
 本来の目的を見失いそうだ。南無三……



 乃月に訊いた特徴をもとに、バイトに戻った乃月を除いた4人は天峰のアトリエに向かう。居留守を使う頻度が極めて高いアーティストを訪問するのは非常に疲れるが……
 珍しく天峰はどこかに行っていたらしく、サンダルの踵を引き摺りながらアトリエに入る所を捕獲する。

「天峰、ちょっといいかな?」
「オレ、天峰じゃないっす」
「噓言いなや~、今川焼きあるで?」
「……間違いなく、オレ針生天峰です」
「噓のクオリティ低っ!」

 俺達は狭い天峰のアトリエに入る。作品群の中にある折りたたみ式のキティちゃんのちゃぶ台を面倒臭そうに組み立てると、俺達を促す。

「要件は?」
「似顔絵をまた描いて欲しいんだ」
「なるほど、ちょっと待ってて貰っていいすか?」

 天峰は【スーパーおとみち】のチラシを出してきた。特売のジャガイモに丸がついている。多分それを買ってきたのかもしれない。

「頼む」

 充はその特徴を話す。天峰はまたさらさらと鉛筆で陰陽をつけながら似顔絵を描いていく。流石アーティスト、描いている間は無我の境地なのだろう。一種異様な雰囲気……

「できたぞ」
「待ってました!どんな奴すか……」
「……って……」

 天峰が描き終わった似顔絵を見て一言。

「……オレ?」
「描いててわからへんのかい!頼んますわハリさん」

 しかし人違いかもしれない。俺は似顔絵をスマホのカメラで撮影し、乃月にLINEで送信した。

「しかし、何がどうしたんだ?」
「いや、依頼人が一目惚れした相手を捜してるんだが……」
「なるほど、それがこの……」

 すぐに返信があった。その件の乃月からの返事はこうだった。

【この人です!間違いないです!】

 4人は目の前の片目が前髪で隠れた不健康そうな男に視線を送る。天峰は目を左右に泳がせながら言った。

「なっ、ななっ、何で?」
「隅に置けんやないですかホンマに、ハリさん」
「待ってくれって、オレは心当たりが全く……」
「無いわけはないはずだぜ?思い出してみろ?」

 俺は天峰に乃月の特徴を話した。天峰ははっとしたように言う。

「あ、確か……」



 ここからは天峰の話、又聞きの話だから若干の齟齬があるかもしれないがそこはご愛嬌で…
 あの日は雨が降っていた。乃月が訪れたアジア雑貨の店に入る前はしとしとと降っていたが、買い物が終わった頃には本降りの雨に変わっていた。
 乃月は店の傘立ての前で眉間に皺を寄せながら小さく呟いた。

「勘弁してよ……」

 誰かが間違ってしまったのか、彼女が持ってきたマーブル模様の傘は姿を消していた。店の庇の前には打ち付ける雨が波紋をつくっている。時間が経つにつれて雨足は強まるばかり……

「あ?」

 乃月の前に見慣れない男が一人、立ち止まってこっちを見ている。不健康そうなやせ型。右手にぶら下げた【スーパーおとみち】の緑のレジ袋の中にはかなりの数のプッチンプリンが乱暴に詰め込まれている。

「傘、ないのか?」
「えっ?えぇ……」

 男は黒いよれよれのナイロンジャンパーの内側ポケットから折りたたみ式の傘を取り出す。取っ手にはキティちゃんの頭部がくっついている。

「オレはこっちでいい。傘、持っていきな」
「で……でも……」
「いい、傘ならまた買えばいいんだから」

 男はキティちゃんの折りたたみ傘をさし、今まで使っていた黒いビニール傘を乃月に差し出した。

「悪いです……」
「いい。今日は雨止まないから。濡れたら風邪ひいちゃうぞ」

 男はあと袋からプッチンプリンを1個取り出し、乃月に差し出した。

「え?」
「ついでに持ってけ。日本で1番売れてるプリンだって。じゃ……」

 男は乃月に目を合わせないまま雨の音路町に消えていった。



「それが、ハリさんかいな」
「格好いいじゃないっすかハリさん……」

 彩羽と夜湾は頷いた。

「オレは彼女の顔はまともに見ていない。でもそんな記憶はある。」
「……何で見なかったんだよ?」
「苦手なんだよ。基本的に女性は……」

 充はくすっと笑いながら天峰に言う。

「減るもんじゃないから、一度デートしてみたら?」
「んなっ……!」

 ウブな中学生みたいに顔を真っ赤にして凄腕のアーティストは下を向いた。

「ばっ、バカなこと言うなよ!」
「ええやないですかハリさん。なんならわいが行きたいくらいですよ?」
「そうですって。あんな可愛い娘、勿体ないっすよ~」

 天峰は顔を上げて言った。

「なら……た、頼みがある」





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