21 / 21
音路町グラフィティ
6
しおりを挟む
†
中内は倒れた御夕覚の顔を覗き込むと、合掌して言った。
「……まぁよく判らないが、有難うな」
中内が車のキーを回しながら独り言のように呟いた。
「まぁ、まさかのハプニングだったが、俺の犯行がない物になったらしい。なんて幸運。後から来る奴らに沈められちまいなよ」
乗ってきたセドリックに乗り込むと、中内は東雲株式会社の本社に向かう。安堵した表情で中内は車を走らせ、駐車場に滑らせた。
玄関から中に入ると、中内はエレベーターから社長室に向かった。
「只今帰りました」
「中内、御苦労だったな」
社長はソファに体を沈めたまま中内に向かって言う。
「犯人は片付きました」
「なるほど、これはこういう事かな?」
社長はぱちんと指を鳴らした。ボディガードの2人の屈強な男が中内の腕を掴む。
「なっ……!」
「貴様、私を騙したな」
「何を仰っているのか……」
「何をって、喋ったじゃないか」
ボイスレコーダーを入れると、そこからは中内が御夕覚に呟いた声が聞こえてきた。
「何だこれは…!」
「何って、これは自白だよな?」
社長室の入り口から入ってきたのは、死んだ筈の御夕覚、そして啓斗、【捜し屋】……
†
すっかり俺も騙されてしまったが、全ては御夕覚の自作自演だったのだ。そこに賛同したのが啓斗。啓斗が持っていたのは玩具のナイフだったのである。
「あの壁の向こうに薬物が隠されている事は、既に調べはついていた。自白さえあればお前をパクることができる。まんまとハマったな、中内」
「……!」
「俺様をなめるなよ」
「観念しろ、中内」
中内はボディガードの腕を払うと、ポケットからナイフを逆手に取りだした。
「どいつもこいつも……鬱陶しいんだよ!」
ナイフを手に社長に斬りかかる中内の前に立ちはだかった充が、中内の鳩尾に肘を叩き込んだ。怯んだ中内からナイフを奪うと、鳩尾に掌底を撃ち抜く。
「がはっ!」
中内は倒れた。御夕覚は倒れた中内に手錠をかける。啓斗を見るとにっと笑って言った。
「よかったな。親父が信じてくれて」
「へっ?親父?」
啓斗は頬を人差し指で掻きながら照れて顔を伏せた。
「これで、一件落着ってやつだな」
†
それからの話。逮捕された真犯人の中内は全面的に犯行を認めている。勿論社長秘書の椅子は別の人間に渡している。
事件からほどなくして、京は意識を取り戻した。後遺症もなくリハビリに励んでいるらしい。啓斗はまた音楽活動を再開。勿論、彼が東雲株式会社の社長の息子である事は完全に伏せている。それを別にしても啓斗のセンスも歌唱力もピカ一だ。
そして俺達は、またいつもの日常を取り戻した。
「お~い、天河~」
「いらっしゃい。あ、御夕覚じゃん」
「今川焼き、ずんだ1個くんねぇ?今川焼きだけに、今皮食べたくて……」
「結構無理あるぞ……」
「びっくりしたろ。あれは」
「いやいや、ホントに死んだと思ったよ」
腹を抱えて笑う御夕覚。
「俺様、俳優になれるかな?」
「もうちょい、ギャグセンスあればな」
「よく言うぜ」
物騒な事件に震えようが、俺はこの街が好きで離れられない。癖も強いが素敵な仲間がわんさかいるからである。俺は今日もまた、今川焼きを焼き続ける。
「そういや、訊きたいことがあるんだ」
「何だ?」
「……お前、ホントに注文したら1グロスも今川焼き焼いてくれるのか?」
「……誰から聞いたんだよ?」
「有名だぜ、一部マニアの間で」
「今は注文は受け付けないぜ」
俺は不意に、天峰にグラフィティを頼んだ事を想いだし、また1グロスの今川焼きを注文されないか、ヒヤヒヤした気持ちになった。
――それなら、一万円のミルクレープにしてくれと願いながら……
中内は倒れた御夕覚の顔を覗き込むと、合掌して言った。
「……まぁよく判らないが、有難うな」
中内が車のキーを回しながら独り言のように呟いた。
「まぁ、まさかのハプニングだったが、俺の犯行がない物になったらしい。なんて幸運。後から来る奴らに沈められちまいなよ」
乗ってきたセドリックに乗り込むと、中内は東雲株式会社の本社に向かう。安堵した表情で中内は車を走らせ、駐車場に滑らせた。
玄関から中に入ると、中内はエレベーターから社長室に向かった。
「只今帰りました」
「中内、御苦労だったな」
社長はソファに体を沈めたまま中内に向かって言う。
「犯人は片付きました」
「なるほど、これはこういう事かな?」
社長はぱちんと指を鳴らした。ボディガードの2人の屈強な男が中内の腕を掴む。
「なっ……!」
「貴様、私を騙したな」
「何を仰っているのか……」
「何をって、喋ったじゃないか」
ボイスレコーダーを入れると、そこからは中内が御夕覚に呟いた声が聞こえてきた。
「何だこれは…!」
「何って、これは自白だよな?」
社長室の入り口から入ってきたのは、死んだ筈の御夕覚、そして啓斗、【捜し屋】……
†
すっかり俺も騙されてしまったが、全ては御夕覚の自作自演だったのだ。そこに賛同したのが啓斗。啓斗が持っていたのは玩具のナイフだったのである。
「あの壁の向こうに薬物が隠されている事は、既に調べはついていた。自白さえあればお前をパクることができる。まんまとハマったな、中内」
「……!」
「俺様をなめるなよ」
「観念しろ、中内」
中内はボディガードの腕を払うと、ポケットからナイフを逆手に取りだした。
「どいつもこいつも……鬱陶しいんだよ!」
ナイフを手に社長に斬りかかる中内の前に立ちはだかった充が、中内の鳩尾に肘を叩き込んだ。怯んだ中内からナイフを奪うと、鳩尾に掌底を撃ち抜く。
「がはっ!」
中内は倒れた。御夕覚は倒れた中内に手錠をかける。啓斗を見るとにっと笑って言った。
「よかったな。親父が信じてくれて」
「へっ?親父?」
啓斗は頬を人差し指で掻きながら照れて顔を伏せた。
「これで、一件落着ってやつだな」
†
それからの話。逮捕された真犯人の中内は全面的に犯行を認めている。勿論社長秘書の椅子は別の人間に渡している。
事件からほどなくして、京は意識を取り戻した。後遺症もなくリハビリに励んでいるらしい。啓斗はまた音楽活動を再開。勿論、彼が東雲株式会社の社長の息子である事は完全に伏せている。それを別にしても啓斗のセンスも歌唱力もピカ一だ。
そして俺達は、またいつもの日常を取り戻した。
「お~い、天河~」
「いらっしゃい。あ、御夕覚じゃん」
「今川焼き、ずんだ1個くんねぇ?今川焼きだけに、今皮食べたくて……」
「結構無理あるぞ……」
「びっくりしたろ。あれは」
「いやいや、ホントに死んだと思ったよ」
腹を抱えて笑う御夕覚。
「俺様、俳優になれるかな?」
「もうちょい、ギャグセンスあればな」
「よく言うぜ」
物騒な事件に震えようが、俺はこの街が好きで離れられない。癖も強いが素敵な仲間がわんさかいるからである。俺は今日もまた、今川焼きを焼き続ける。
「そういや、訊きたいことがあるんだ」
「何だ?」
「……お前、ホントに注文したら1グロスも今川焼き焼いてくれるのか?」
「……誰から聞いたんだよ?」
「有名だぜ、一部マニアの間で」
「今は注文は受け付けないぜ」
俺は不意に、天峰にグラフィティを頼んだ事を想いだし、また1グロスの今川焼きを注文されないか、ヒヤヒヤした気持ちになった。
――それなら、一万円のミルクレープにしてくれと願いながら……
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる
鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳――
それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。
公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。
だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、
王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。
政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。
紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが――
魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、
まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。
「……私が女王? 冗談じゃないわ」
回避策として動いたはずが、
誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。
しかも彼は、
幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた――
年を取らぬ姿のままで。
永遠に老いない少女と、
彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。
王妃になどなる気はない。
けれど、逃げ続けることももうできない。
これは、
歴史の影に生きてきた少女が、
はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。
ざまぁも陰謀も押し付けない。
それでも――
この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる