電人ジャンク

回転饅頭。

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序章

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 ゆっくりと瞼を開く。視界はまだぼんやりとぼやけている。視点が漸く定まってきた後目覚めたのは痛覚だった。ズキズキと脳髄あたりが痛む。寝かされているらしく、ベッドから腰を上げると、大輝は周囲を見渡した。
 どこだろう。金属質な部屋だ。まるでどこかの研究室のような雰囲気だ。

「あ、目が醒めたみたいだね」

 大輝に話しかけてきたのは、軽いパーマのかかったような髪型の若い男。同い年くらいだろうか。色白で鼻筋の通った育ちのよさそうな、切れ長の瞳をした軽く筋肉質の男。がっちりしているわけじゃなく、無駄な贅肉がなさそうな感じ…

「ここは…?」
「僕らの秘密のラボさ」
「へ?」

 大輝は身体を起こそうとする。胸から背中にかけて強打したようだ、ズキッとした痛みに眉を顰めた。

「僕は錦織虎之介。錦織グループ、知ってるよね?」
「え?あの錦織グループの?」
「そ」

 奥のほうから8頭身くらいの黒髪ロングの美人がやってきた。美人だが、冷たそうなイメージがする。鋭い目線を大輝に向ける。

「あんたは?」
「…俺に訊いてるのか?」
「あんた以外に誰がいるのよ」
「……失礼な奴だな」
「あっ、ごめんよ。悪気なんかないんだ。こっちは錦織マリ。僕の姉だよ」
「…俺は、三条大輝」
「あっそ、わかった。怪我してんでしょ?ちょっと安静にしておきなさい。とりあえず治療はしたからね」
「何だかんだぶつぶつ言いながらも、ちゃんと手当てしてくれたんだよ」

 ふんと鼻で笑うように言うと、マリはさて、と腰に手を当てて口を開いた。

「何で、あんたのとこがあのカニ怪人にやられたのか、理由が知りたいの」
「!そうだ…あの…!」
「あんたに何ができるのよ。あいつは人造人間よ」
「何だって?」
「アレの製造に関わった何かなんでしょうね。あいつ、あんたのとこに狙いを定めて行ったような感じがするのよ」
「…俺は、何も知らない」
「知らないんだったら、多分あんたの父親ね」

 確かに、大輝は父親のことはよく分からなかった。エンジニアであるというだけ。あまり会社の情報は他所に漏らしてはいけないんだときつく言われていた。だから大輝は訊かなかった。

「ドクター・ヌルって名前に心当たりは?」
「何だそれは?」
「あ、そう。ならいいわ。遠回りしたけど、本題に入るわね」

 マリは椅子に腰掛けると、口を開いた。

「単刀直入に言うと、あんたの家族を殺したのは、ドクター・ヌルって名前のふざけた科学者の率いる秘密結社よ」
「はぁ?」
「信じるか信じないかはあんた次第だけど、あんたは実際あのカニ怪人にやられてるの。あれは普通なんかじゃないでしょう?」
「…」
「そんな事が現実に起こってるの。そいつらの存在を嗅ぎつけたのはついこないだなんだけどね」

 大輝は虎之介を見た、虎之介はただうんと頷くだけだった。

「あんたに訊く。あんた、アレを潰す為に力を貸さない?」
「え?」
「正直言えば、改造人間にならないかって事よ」
「何だって?」

 大輝は眉間に皺を寄せた。それでも冷静にマリは続ける。

「ならないならならないで良いけど、それならここの事はさっぱり忘れて」
「ちょっと待ってくれ。そんな話をされたって…」
「悔しくない?」
「え?」
「そりゃ悔しいわよね。戦いたいって思うわよね」
「そりゃあ、あいつは憎い、殺してやりたいくらい」
「だけど、あんたには無理なの。だからその力を与えてやろうってわけ」
「俺に?」
「そ」

 マリは髪をさらっとかき上げて続けた。

「改造人間って言っても、自我がなくなるわけじゃないし、サイボーグなんてダサいもんじゃない。強化人間のそれに近い。それにちょっとした能力が備わるだけ」
「…マリに任せてもらって、僕は構わないと思うな」
「ちょっと待ってくれよ。そんな…俺に…」
「見た目と違って、意気地のないオトコね、あんたは」
「何だと?」
「そりゃそうでしょうよ。誰だってそう思うわよ」

 虎之介はまぁまぁとマリを宥める。

「…すまない。助けてもらったのに。いきなり改造人間だなんて言われても、整理がつかないんだ。少し、考えさせてくれないか?」
「は?」
「頼むよ」

 マリははぁっと大きな溜息をついた。

「明後日」
「…」
「家族を弔う時間くらいはあげるわ。明後日になったら返事をちょうだい」

 そう言うと、マリは背中を向けた。

「虎之介、この場所は知られるわけにはいかないから、そいつを帰してやんな」
「はいはい、悪いね大輝。ちょっと眠ってくれ」

 虎之介は大輝に何かを嗅がせた。その瞬間大輝は一気に睡魔に襲われ眠りに落ちた。
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