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元JK乙女ゲーマーアリス

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「大いなる厄災は何度も倒しました。最強のメンバーでパーティを組む方法も判りますし全員無事のルートもクリアしています。どうゲームを進めていけば良いのか見当も付きます。ここで重要なのは大いなる厄災を倒すのに必須の闇の魔法のレベル上げです。光の魔法も闇の魔法も精神干渉系の魔法です。同じ癒しの魔法ですが、光の魔法が太陽の光を浴びて体の回復力が高まるイメージに対し、闇の魔法は睡眠で回復力が高まるイメージです。光の魔法に暴走して周りにダメージを与えたというシーンはありませんが、闇の魔法はクリラブ2の主人公カレンが魔法を暴走させて周りの人を昏睡状態にしてしまうシーンがあります。その力がラスボス戦の際に必ず必要です。ラスボス昏睡させてその隙に皆でフルボッコして倒すので」
「その言い方だと人間の方が悪役ね。兎に角、カレンの居場所特定が急務か。魔力を確認するには本人を捕まえないと」「はい、カレンを探せ!です。私みたいに魔法がまともに使えなかったらどうしよう」
「人の心配の前に自分よ、アリス。貴方のヒーラー役としてのポジションも大事なのよ。大丈夫よ、魔力は強いのだから後は使い方のコツを掴むだけよ」
「ううっ、はい。一応、救護知識も身に着けておきます」
「最初から諦めないっ」
「あう、はい。それとカレンのキャラが不明な今、ひとつ心配な事が有ります。よくある転生悪役令嬢物で悪役令嬢がまともな人の場合、代りにヒール役となりストーリーを動かす問題行動を取るのがヒロイン、主人公な設定が多いという事です。大抵が自己チューで空気を読まずヒロインルートを爆走して大事故起こします」
「面倒なお約束もあったものね」
 ま、実際クリラブ1の主人公であるアリス、貴方も違う意味で問題行動をしまくっているけどね、とクラリアは思ったが口にはしなかった。アリスは天を仰いだ後、ガックリと肩を落とした。
 前世でめちゃくちゃヤリ込んでいた乙女ゲームの世界に転生したのに楽々人生設計どころか生身で乙女ゲームかなり大変なんだけど。勉強とか勉強とか勉強とか!
 しかし文句を言っても今更どうしようもない。アリスはソファの裏に置いていたバッグを引っ張り出し中からスケッチブックを取ってクラリアに渡した。
「これ、思い出すままに描いたクリラブ2の風景メインのスチル画です。裏にイベント情報書いてあります」
「もう描いてくれてるのね、ありがとう」
 クラリアはスケッチブックを受け取るとパラパラとページをめくった。クラリアは、
 推しのアレクスチルが多いな、こんなに要らないんだけど言えないなぁ、
 と心の中でグチりながらページをめくっていく。
「あ、これは大いなる厄災の闘いを繰り広げる廃坑跡の入口?入口前の大きな岩が捜す手掛かりになりそうね。細いノミ跡の残る坑道を抜けて大きな広い場所、更に先に伸びる5本の坑道ね。……成程。……で、あ、これがカレンの村ね。背景の山並みの記憶は確かに?」
「はい、田舎のじーちゃん家の窓から見える山並みによく似ているなーと覚えていたので自信あり目です」
「それは助かるわ。これでかなり捜索範囲が絞れる。カレンの村が判明すれば彼女の調査が出来るし、村が魔物に襲われる時の対策が打てるわ。……ねえ、カレンがヤンキー卒業したのはいつだったかしら」
「…魔物に村が襲われた時はまだ現役です」
「確か反抗理由はお固い厳格な両親&優秀な兄姉への反発だから…、絶賛今ヤン中か。しかも魔物に正面から立ち向かう筋金入りか。うわ~、2の主人公も手強そう」
 スケッチブックを眉間にシワ寄せて睨みながら呟くクラリアに、も?とチョイ引っ掛かりつつもアリスは前世でプレイしたカレンを思い浮かべた。
 クリラブ2 魔法省でクリスタルラブストーリー 恋も仕事もガチでヨロシク!!はお仕事系乙女ゲームだ。舞台は前作から4年後、オープニングは馬車の窓の景色の黄昏を眺めるカレンの物憂げな表情から始まる。そしてシーンが過去ヘ変わる。カレンの暮らす村が魔物の群れに襲われ逃げ惑う村人達。その中を家族がいる家へ向かう為に木刀を手に一人魔物に立ち向かうカレン。そして村全体が黒い光に包まれて。また魔法省入省の為に王都に向かう馬車に揺られているカレンのシーンに戻る。夕陽に照らされるカレンの沈んだ瞳がこの後のシリアスな展開を予感させていた。
 これは中盤で明らかになるエピソードだがカレンは魔物に襲われた家族を助けようとして闇の魔力を保持している事に気付いていなかったカレンは闇の魔法を暴走させてしまう。それが原因で魔物だけでなく村人全員が昏睡状態に陥ってしまう。村人達は徐々に目覚めていくのだが、一番近くに居た家族は未だに意識を取り戻さないでいる。仕事やる気0を装いながらも家族を助ける手掛かりを求めて魔物絡みの事件には真摯に取り組むカレン。口では、関係無いねとか悪ぶってクールな態度を取るカレンだが本当は家族思いの優しい子。
 ヤンキー魂と拳で恋に仕事にカタをつけていくクリラブ2の主人公カレンは中々にパンチの効いたキャラクターだった。そこでアリスははたと思い当たった。
 ちょい待ち。たとえゲーム通りのキャラクターだったとしてもカレンって同僚として見た時に結構面倒臭いタイプじゃない?特に拳とか。
 カレンが魔法省の制服の上に羽織った特攻服っぽい上着の裾を翻して、
「お花畑を見に行く覚悟がある奴だけ掛かってきな」
 とか、決め台詞のスチルは見ている分には愉しいけど、自分に向かって言われるのは嫌だなぁ。ゲームアリスはどう対象していたっけ?…確か、格上感満載で巧みに捌いていたような…。ヤバい、出来る気がしない。
 アレク様へのアピールポイントがカレンの規格外対アリスの模範生なのに、このままでは両方趣きの異なる規格外。拳に剣で立ち向かったらバトルアクションゲームになってしまう。どうしよう。
 カレンのキャラが不明なのに先走って一人ぐるぐるアリス。それを怪訝な顔でチラッと一瞥したクラリアは、まあいいかと攻略ノートとスチルの突き合わせを優先した。アリスは一人でぐるぐるぐるぐる。
 クリラブ2は恋愛パートとお仕事パートに分かれていて、それを同時にこなしながら進行していく。乙女ゲームなので恋愛パートがメインなのだが、その恋愛イベントや攻略対象との会話、選択の為にお仕事パートでの仕事スキル上げがかなり重要になっている。
 最初の入省したてはお仕事ミニゲームなる、書類間違い探しゲーム、ハンコ早押しゲーム、お茶汲みゲーム等で出したスコアで恋愛パートのイベント発生数や会話の選択肢の数が決まり、その中でゲームを進めていく。勿論ハイスコアを出した方がイベント発生が増えるし様々な選択肢も多くの中から選ぶ事が出来る様になる。つまりスチルやボイスにムービーをより多く堪能する事が出来る。
 中盤に進むと申請書類の再チェック業務になり、関係する対象に書類確認したり現場に出て申請書類通りかチェックしたりの仕事になる。仕事を理由に攻略対象に話し掛けたり同行を依頼したりしつつ、あちこちに散りばめられた魔物絡みの出来事をGETしまくる。仕事をどんどん片付けてお仕事スキルを上げると攻略対象との会話が好意的に変化しランチデートに誘ってくれるイベントも発生する。が、ライバル同僚がアイテムを渡してくれなくなったりして結構面倒臭い。しかしここで頑張らないと最終ステージ、大いなる厄災の潜む廃坑へ調査に向かうパーティのメンバーの選択キャラがショボい事になる。
 最終ステージでラスボスにショボいパーティで挑めば当然パーティはボロボロでも辛くも勝てれば良いが、最悪全滅で国内を大いなる厄災がお散歩して国王が何度も派遣した討伐隊が何とか倒すがカレンの家族は目覚めないままゲームエンドを向えてしまう。ちなみに大いなる厄災の正体は前王時代に浄化をおざなりにしたせいで溜まった瘴気と相次ぐ飢饉による飢餓で亡くなった人々の怨念が混じり合い膨れ上がった黒い闇の集合体で、それが取り憑いた物だ。廃坑にいた集合体は大猪の魔物に取り憑いていたが調査パーティに参加させられていた魔力の強いアナベルに取り憑き、そして大いなる厄災になるのだ。その為にクラリア、アナベル&セシルはパーティに強制参加となっている。何故かしゃしゃるクラリアに学園に引き続き仕事を押し付けられたり後始末をさせられているアナベル&セシルが付き合わされる形、魔法省的には優秀なアナベル&セシルを同行させクラリアがオマケのメンバー決定だ。
 どーりで大いなる厄災がバカ強い訳だ。
 ふるふるふる。
 アリスは身を震わせた。
 学園トップクラスの魔力保持者のアナベルが核になった大いなる厄災は、肩辺りにセシルを何故か乗せてプチっとされる筈のクラリアの、
「やっておしまいっ」
 の声にギロリとアリスを睨んだ。
 ひ~え~。
 恐怖により気が遠くなりかけるアリス。
 ペンッ!
 そこをクラリアに攻略ノートで頭を叩かれてアリスは我に返った。
「眠いのは解るけど今が頑張り時なのよ、アリス」
 頭を押さえながら涙目でアリスはクラリアを見上げた。
「頑張ってます~」
「そお?寝てたよね、私だって眠いのよ」
 クラリアは欠伸を噛み殺すと手の攻略ノートをアリスに手渡した。受け取りながらもアリスは必死で抗弁する。
「誤解です。気を失い掛けていたんです。だってクラリア様が」
「アリス、それは寝落ちというのよ。いいから攻略ノートを見て」
「はい」
 アリスはクラリアに言われた通りにノートを開いた。
「赤いペンで丸が付けてあるイベントのスチルが場所特定に必要なのでそのシーンを可能な限り風景を含めて描いてね」
「了解です。先ずはカレンの出身地に関するスチルですね。後はラスボス戦と各攻略対象に関してですか」
「クリラブ2の主人公カレンの好感度アップを手助けしてラスボス戦のパーティのメンバーを選び放題にする必要があるからね。魔法省購買部で店員として身分を隠して社会勉強中のカイル王太子をGETすると誰でも選べる特典付きなのよね。流石腐っても王族。押さえておきたいわ~」
「そうですね。でもでも難易度高いです」
「生意気な奴め。まあ未来の国王だし、私達も嫌われない様にもしないとね。喪女ルートをキープしつつも」
「え~と、つまり喪女りつつ愛想を振りまく的な?」
「違う、喪女りつつモブ令嬢に埋没して攻略対象に目を付けられない様に心掛けて勉学に励んで無事に卒業して魔法省の、えーと工業デザイン専攻だから、兎に角正職員として入省してカレンの入省したらラスボス戦に向けてアシストしてぶっ倒してから推し攻略、って感じ?」
「はいぃぃい?もう乙女ゲームに転生した気がしません、クラリア様」
「私も同感よ、アリス。何シュミレーションゲームだ?コレ」
「少なくともドキドキときめき恋愛シュミレーションゲームじゃないです~」
「確かに恋愛要素が少ない所か今の所、0だわ。どうしたものかしら」
 アリスとクラリアは腕を組むとうーんと唸った。眉間にシワを寄せ策略を巡らすクラリアを眺めていたアリスは部屋の奥に置かれた姿見に自分達がぼんやり映っているのに気が付いた。その姿を見たアリスは、
「閃いたっ」
「んっ?何?」
 首を傾げるクラリアにアリスはニカッと笑うとテーブルの上の攻略ノートの山を脇に避け、真ん中に半分姿を消したサンドイッチを盛り付け直した大皿、そして注ぎ直したお茶を入れたティカップをセットした。
「どうしたの?あぁ、お腹が空いたのね」
「いえ、先ずは形からと思って」
 アリスは自分達が映った姿見を指差した。
「女子会の定番、パジャマパーティーに見えませんか?女友達が集まってワイワイ楽しくお喋り。鉄板ネタは恋バナです。恋愛トークで盛り上がればきっと素敵な恋愛イベントが寄って来ますっ」
 ちょっとドヤ顔のアリスに言わんと言わんとしている事を理解したクラリアは、はぁっと溜息を付いた。
「アリス、彼氏が欲しいなら外へ行きなさい。戦場へ行かずに戦果は上げられなくてよ。自分好みの獲物がいるサバンナへ行き自分の得意分野を武器に狩らずして最良物件は手に入らないわ。同類の女友達とダベっている暇があるなら武器を磨きなさい。それを手に出陣よ」
「えぇぇえぇ~?!」
 思い掛けないクラリアの肉食女子発言にアリスは卒倒しそうになった。
 私、クラリア様も勝手に前世は喪女だと思っていた。リア充女子だったんだ。
 白目剥き掛けのアリスにクラリアはハッと我に返って、コホンと咳をするとちょっと照れ臭そうに笑った。
「ゴメン、ゴメン。喪女ルートを選択しろとか言っておきながら矛盾しているわね。私が若い頃は皆恋愛に積極的な時代だったから。今時は流行らないか。出掛けるというよりSNSかな?ここには無いけど」
「いえ、彼氏が欲しかったら狩りに出ろは正論です。でも私は初期装備のこん棒しか持っていません」
「何を言っているの。他にもあるでしょう」
「例えば?」
「例えば、……、そうね、…考えてみたらここは乙女ゲームの世界なのだからアリスの言う通りそれっぽいシーンは必要ね。してみましょう、恋バナ♪」
 クラリアは誤魔化した。
 アリスのHPが50減少した。
「前世でも今世の記憶が戻る前でもいいのよ。甘くても酸っぱくても苦くても恋バナなら何でも」
「…はい、しましょう、恋バナ」
 クラリアの気を引き立てる様な言い方にアリスも気を取り直して、二人は頷き合うと、
「……」
「……」
 二人は沈黙した。長い沈黙の後、クラリアはガックリと膝をついた。
「無い。乙女ゲームネタがひとつも無い。せっかく美少女に転生しておきながら迂闊だった。死亡フラグを折るのに必死で忘れてた…」
「私、前世も今世も彼氏いない歴と年令が一緒です~」
 アリスの悲しい告白を背にクラリアはフッと自嘲気味に笑った。
「前世も後半は激務と介護で文字通り死ぬ程忙しかったし、前半の元彼話は女子高生にはヘビー過ぎる。あ、パリの高級ブランドバッグ店で他の観光客とケンカになったをしようか?それとも友達が高校デビューに失敗した話とかどうかな、テッパンでウケるの♪」
「凄く興味有るけど今は止めておきます」
「そうね。アリス、私達が乙女ゲームキャラにも係わらず恋愛に縁遠いのは喪女ルートを選択する為に必要なキャラ設定だったのよ。でも安心しなさい。何の問題も無いわ。アリスの推しは2から登場、前世今世合わせたら還暦超の私にとってお子ちゃまは対象外。淫行条例が怖い。国を救う為に私達が恋愛が二の次キャラなのはそう、必然」
 きっぱりと言い切ったクラリアにアリスはこっくり頷いた。そう思うしかないアリスだった。
 みんなゲームが悪いんだ。
「貴方が世界の平和より男を選ぶキャラじゃなくて本当に良かったわ」
「そんな人がいます?」
「居るのよ。乙女ゲームって恐ろしいと思うわ」
「はあ」
 アリスはお茶を一気飲みして、ふあぁと大きな欠伸が出た。
「クラリア様、流石に眠いです~」
「そうね、一気に睡魔が襲って来たわ」
 つられてて欠伸したクラリアも同意した。
「もう休みましょう。明日、いえ、もう今日ね、はマジカルクリスタルランドで遊び倒すのだから。で、その前に」
 クラリアはそう言いながらノートの山の中から一枚の大きな紙を取り出すとアリスの前に広げた。それはクラリアお手製のマジカルクリスタルランド攻略マップだった。全体図にお勧めアトラクションや食べなきゃ損!フードに鉄板お土産等が事細かに書き込まれていた。妙に懐かしさを感じさせるマップだった。思わず食い入るアリスにクラリアは満足気な笑顔で、
「明日の出発は早いわ。今日一日たっぷりと楽しむわよ!」
「はい!」
「しっかり寝て体力を回復しておくのよ」
「はい!」
 自分の荷物を小脇に抱え、そっーと部屋を出ていくクラリアをアリスは両手を振って見送ると、ベットに向かい、三歩目でクルッとターンして戻りクラリアお手製マップを手にしてベットに潜り込んだ。
 じっくり読み込みたい。でも寝なきゃだし。
 アリスはマップを枕の下に入れると目を閉じた。頭の中で流れているのは、
「ネズミの親分~♪」


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