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クラリアパパSP 修学旅行編 唐突な出逢いにトキメいて?!
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「欲しかったなー、筐体」
呟きながらアリスはチュロスをバクッと噛じった。あの後アリスは一球入魂で杖を振るいモグラ姫救出に挑んだ。しかしミニゴーレムがささっと二歩進んでしまいそこでアリスの集中力は切れた。そしてアリスの最後のゲームは散々な点数に終わった。燃え尽きて灰となったアリスはルミアに引き摺られながらお土産コーナーに向かい残った消炭の僅かな炎で家族や友人のお土産を買った。そして早々にお土産コーナーを後にしたアリスはチュロスとLサイズのジュースを手にお土産コーナー前のベンチで一人ボーッとしていた。アリス以外は皆様今まで以上の熱心さでお土産コーナー内を絶賛買い回り中。その為にアリスの座っているベンチの後ろは皆が買った土産物の一時保管場所となっていた。が、アリスはいつまでも過ぎた事を悔やみ後悔の臍を噛み千切っていた。
あのミスさえ無ければ今頃はモグラ姫救出ゲームの筐体を梱包していたのにっ。
そもそも業務用ゲーム機本体が貰えるとは誰も言っていないのだが、
次は必ず勝つ!!
と決意を新たにしているアリスだった。そのアリスの後ろにまた土産の包みが積まれる。買った品を運んでいるメイド達が入れ代わり立ち代わり土産物の山を高くしていた。
気軽に買える値段の物が多いとはいえ、買い過ぎでしょ。まあ、良いけどさ。
アリスの買った土産はベンチの脇に少々。そして実はコッソリとクリラブ2推しキャラのアレク&娘アナベルの好感度を上げる為にとアリスは4年後用の土産を買っていた。
ぐふふふふっ。ヤバい、推し攻略成功のスチルしか見えないぜっ。
アリスは残りのチュロスを一口でパクリと食べ終えるとチラッと膝の上にスタンバっているポップコーンを見た。
モグラのイラストが可愛いポップコーンカップは先程お土産を運んできたメイドが、
「クラリア様お勧めのたっぷりキャラメルポップコーンです」
と持ってきてくれた物だ。アリスはカップに顔を近付けると大きく息を吸い込んだ。鼻孔をくすぐるキャラメルの甘い香りにアリスはウットリ。自然とヨダレが溢れてくる。
いかん、いかんっ。
アリスはキュッと表情(口元)を引き締めると、
「では♪」
ポップコーンを摘んで、
「美味しそうだね、何味?」
「たっぷりキャラメル味で~す」
問い掛けに無意識に答えながら口の中にポップコーンを放り込んだアリスは次の瞬間に固まっていた。口の中中に飛び込み損ねたポップコーンがポロッとアリスの膝の上に落ちる。その上に黒い薔薇の花びらがひらりと舞い降りた。
どどどどどど、ど~いう事?!
肩で揃えた黒髪を軽く揺らし色香を備えた美貌と魅惑の黒い瞳でじっとアリスを見つめているのは、
クククククッ、クラリア兄ー?!
ウェイン・ヴァニタス公爵令息、攻略対象の一人でクラリアの兄だった。パニックになったアリスは、
何故ここにいるの?
が頭の中を高速無限ループしていた。
ウェインって昨日に学園に居残りと連絡を入れていた筈だったよね、そもそもがウェイン登場はゲーム上では新学期が始まってから、なのに何故ここにいる?
蛇に睨まれたカエル状態のアリスをウェインは妖しく咲き誇る黒薔薇を背に魅惑的な微笑みを浮かべてまじまじと見つめている。アリスは思った。
ポップコーンを食べようとしているこの姿勢で固まっているのはマジでキツイ。半分開いた口も間抜け。でも身体が硬直したように動かない。いや動かせない。1mmでも動いたら終わる気がする。どどど、どうすればいいんだ~っ。
「隣りにいいかな?」
ウェインの言葉にアリスは、
「ひゃいっ」
反射的に頷くとベンチの左端に瞬時に飛び退った。のでアリスの膝の上のポップコーンは転がり落ち手のジュース
こぼれてウェインの足元にぶちまけられ、たら不敬罪!
とっさにアリスはポップコーンカップを右手で押さえながら左手のカップからこぼれ落ちたジュースを右足を大きく跳ね上げてスカートの裾を翻し、ジュースの滴がウェインの足元に掛かるのをスカートの裾で防いだ。粗忽アリスのある意味華麗な立ち振る舞いにウェインはポカンとして、プッと吹き出した。
「はははっ。確かに面白い子だね、君は。クラリアもそういう君の元気な所が気に入っているのかな?」
ウェインは抱えていたポップコーンカップ3個をベンチに置いてポケットからハンカチを出しアリスのスカートの裾のジュースを拭き取った。そしてアリスの隣りに優雅な所作で腰掛けると改めてアリスを優しく見つめた。
うっ!
ずっしり重いキラキラパンチに一発KOされたアリスはベンチから転がり落ちない様に正気を保つのが精一杯だった。
眩いっ。キラキラが、妖しい色香が、イケメンオーラが、激流の如く流れ出ているウェインの隣りに座るなんてこれはもうキラキラの滝行っ。
ウェインの存在に気付いてからずっと早鐘で打った様に胸のドキドキが止まらないアリス。
もうトキメキとか可愛いレベルではない。動悸が止まらない、生命の危機、要緊急搬送状態。顔色も赤を通り越して白。の為に一見平静。だが、
攻略対象のオーラがこんなに凄まじいパワーとは、想像超えてるよー!
そう、アリスは今まで攻略対象とイベント発生どころかまともに顔を合わせた事もなかった。一番近く迄いったアーサーですら幻滅の盾を装備して横からアーサーに蹴りを入れたアリスは、
攻略対象とがっぷり四つに組もうとするだけでこんなにキツいなんて聞いてないっ。普通に会話どころがまともに呼吸すら出来ないなんて。こんなキラキラフルボッコされながらゲームを普通に進めていたゲームアリス、恐るべし。てゆーか、とんでもない女だな!
でも今はその鋼のメンタル力を少しでいいから私に分けて下さいっ。
アリスはゲームアリスを畏敬の念を込めて拝むと、チラッとウェインを見た。それに気付いたウェインは楽しそうにニコニコとアリスに笑い掛ける。
その陰りのない咲き誇る魅惑の黒薔薇の微笑みに、既にマットに沈んでいるアリスは更にマウントを取られ2・3発追加のパンチをお見舞いされた。アリスは思った。
私、ここで死ぬんだ?
「スナックワゴンの店員の女の子に聞いてオススメのポップコーンを買ったけど、君のたっぷりキャラメル味も美味しそうだね。私のポップコーンは右からキャラメル&チーズ味、ブラックペッパー味、ストロベリーミルク味なんだ。味見をしてみるかい?」
「ひぇっ?!そそそ、そんな滅相もねーですだっ」
「君の感想を聞きたいな」
「おおおオラが感想なんて、恐れ多くてとんでもねーだすっ」
何故か時代劇の農民Bが降臨しているアリス。ウェインはふむと首を傾げると、
「そう言わずに」
カップからポップコーンを摘んでウェインはポイとアリスの口に放り込んだ。
「はぐっ」
金縛り状態のアリスはいきなり口の中に飛び込んできたポップコーンを喉に詰まらせる事は無く、本能でモグモグとしていた。モグモグ無言で口を動かすアリスをウェインは興味深そうに見ている。ゴクンとポップコーンを飲み込んだアリスにウェインは、
「味はどうかな?」
アリスは正直に答えた。
「味がしません」
「えっ、そんな筈は無いけど」
ウェインは自分もポップコーンを食べて味を確認しながら頷く。
「うん、塩にブラックペッパーが効いていて美味しい」
アリスは心の中で呟いた。
でも味がしません。きっとこれが私の最後の食事。私はこのまま天に召されるんだわ。私の最推しアレク様、クリラブ2のオープニングに辿り着く事すら出来ず申し訳ございません。2のヒロイン、カレンとお幸せになって下さい。アリスは草葉の陰から見守っております。
アリスは覚悟を決めて手を合わせ、
「お兄様?!」
その時、後ろからクラリアの声が響いた。
「クラリア♪もう買物は終わったのかい?」
その声に嬉しそうに後ろを振り向くウェインの目線を追って振り返るアリス。
あ。
そこにはメイドと一緒にこちらへ駈けて来るクラリアの姿があった。ベンチに駆け寄るクラリアの背に天使の翼を見たアリスは救いを求めクラリアへと手を伸ばす。
ぺんっ。
が、あっさりとその手は払い除けられた。クラリアの背中に生えていたのは白い翼ではなかった。それは悪魔のコウモリの羽。絶望の淵でふらつくアリス。それには目もくれずクラリアはウェインの前に立った。
「お帰りでしたか、お兄様。数日は学園に残るとお聞きしておりましたから、驚きました。あんなのは放っておけば良いのです。ふふっ♪お帰りなさいませ」
「いや、私も片付けておかなければならない事があったんだよ。だから家に戻るのは数日後だ。王太子殿下も結局は公務をこなされておられるからね。だから気分転換になればと思いマジカルクリスタルランドのポップコーンを夕食のサプライズスイーツにしようと思い付いて買い求めに来たのさ」
「サプライズスイーツをここ迄?」
「ああ、カイルの驚く姿が目に浮かぶよ♪」
「まあ、驚くでしょうけど」
ちょっとした悪戯を楽しそうに話すウェイン。しかしクラリアは流石に納得出来ないでいた。
いやいや、ちょっとスイーツを買いに出るにしてはココは遠過ぎるでしょ。
喪女ルートが本当に存在するのか確かめる術が無い為、クラリアは常に攻略対象の動向に目を光らせていた。学期末になっても特に動きは無く、攻略対象者達はアリスをモブキャラクターの一人としか見ていないようだった。が、ヒロイン補正の可能性は?
……、まさか。
クラリアは手を払われてもなお、尻尾をパタパタと振りながら必死に上目遣いで自分のドレスの袖にそーっと前足を伸ばすアリスを見た。クラリアの視線に気付いたアリスは慌てて手を引っ込めるとてへへと笑う。
いや、ヒロイン補正感0ね。
その二人の無言のやり取りにウェインはクスクスと笑っている。クラリアはちょっと頬を膨らませてムクレた表情になるとウェインを睨んだ。
「なんですの?お兄様?」
「いや、そちらのお嬢さんはまるで、…可愛い子犬の様だね」
「犬?猫ではなくて?」
「猫?う~ん、私には猫要素は微塵も感じられないが」
「…、そうですわね。どこをどう見ても立派な駄犬ですわね」
「ははははっ」
クラリアのどこか諦めた口調にウェインは快活に笑った。
「手厳しいな、クラリアは。とっても魅力的なお嬢さんじゃないか。日々の食事に感謝して、行動力が旺盛でユーモアも忘れない、周りの人を明るい気分にする子だよ」
ウェインの魅力的なという言葉でパアッと明るい顔になったクラリアだったが続く台詞にどんどんと表情が引き攣っていった。
「……」
クラリアはギロリとアリスを睨んだ。
この僅かな時間でお兄様の前で何をやらかしたの?!
クラリアの厳しい視線にビクッと肩を震わせたアリス。くるりと尻尾を丸めお耳はペタンと折れてしょんぼり叱られ待ちのごめんなさい犬アリス。
ウェインルートに入る気配も無く、喪女ルートでモブ令嬢に埋没しますと決めたそばから攻略対象者の前で悪目立ちのアリス。
どういう事?!ゲームクリアする気があるの?!
目で口ほどに物を言うクラリアにアリスはうるうる瞳の上目遣いで、
だってだって、キラキラの滝の水量が半端ないだもん。
と反論を試みる。がクラリアの片頬がピクッと動いた瞬間にポキッと心が折れた。クラリアの眉間の深いシワを見たアリスの脳裏をよぎるのは、
ヒロイン断罪イベントが始まる……?
呟きながらアリスはチュロスをバクッと噛じった。あの後アリスは一球入魂で杖を振るいモグラ姫救出に挑んだ。しかしミニゴーレムがささっと二歩進んでしまいそこでアリスの集中力は切れた。そしてアリスの最後のゲームは散々な点数に終わった。燃え尽きて灰となったアリスはルミアに引き摺られながらお土産コーナーに向かい残った消炭の僅かな炎で家族や友人のお土産を買った。そして早々にお土産コーナーを後にしたアリスはチュロスとLサイズのジュースを手にお土産コーナー前のベンチで一人ボーッとしていた。アリス以外は皆様今まで以上の熱心さでお土産コーナー内を絶賛買い回り中。その為にアリスの座っているベンチの後ろは皆が買った土産物の一時保管場所となっていた。が、アリスはいつまでも過ぎた事を悔やみ後悔の臍を噛み千切っていた。
あのミスさえ無ければ今頃はモグラ姫救出ゲームの筐体を梱包していたのにっ。
そもそも業務用ゲーム機本体が貰えるとは誰も言っていないのだが、
次は必ず勝つ!!
と決意を新たにしているアリスだった。そのアリスの後ろにまた土産の包みが積まれる。買った品を運んでいるメイド達が入れ代わり立ち代わり土産物の山を高くしていた。
気軽に買える値段の物が多いとはいえ、買い過ぎでしょ。まあ、良いけどさ。
アリスの買った土産はベンチの脇に少々。そして実はコッソリとクリラブ2推しキャラのアレク&娘アナベルの好感度を上げる為にとアリスは4年後用の土産を買っていた。
ぐふふふふっ。ヤバい、推し攻略成功のスチルしか見えないぜっ。
アリスは残りのチュロスを一口でパクリと食べ終えるとチラッと膝の上にスタンバっているポップコーンを見た。
モグラのイラストが可愛いポップコーンカップは先程お土産を運んできたメイドが、
「クラリア様お勧めのたっぷりキャラメルポップコーンです」
と持ってきてくれた物だ。アリスはカップに顔を近付けると大きく息を吸い込んだ。鼻孔をくすぐるキャラメルの甘い香りにアリスはウットリ。自然とヨダレが溢れてくる。
いかん、いかんっ。
アリスはキュッと表情(口元)を引き締めると、
「では♪」
ポップコーンを摘んで、
「美味しそうだね、何味?」
「たっぷりキャラメル味で~す」
問い掛けに無意識に答えながら口の中にポップコーンを放り込んだアリスは次の瞬間に固まっていた。口の中中に飛び込み損ねたポップコーンがポロッとアリスの膝の上に落ちる。その上に黒い薔薇の花びらがひらりと舞い降りた。
どどどどどど、ど~いう事?!
肩で揃えた黒髪を軽く揺らし色香を備えた美貌と魅惑の黒い瞳でじっとアリスを見つめているのは、
クククククッ、クラリア兄ー?!
ウェイン・ヴァニタス公爵令息、攻略対象の一人でクラリアの兄だった。パニックになったアリスは、
何故ここにいるの?
が頭の中を高速無限ループしていた。
ウェインって昨日に学園に居残りと連絡を入れていた筈だったよね、そもそもがウェイン登場はゲーム上では新学期が始まってから、なのに何故ここにいる?
蛇に睨まれたカエル状態のアリスをウェインは妖しく咲き誇る黒薔薇を背に魅惑的な微笑みを浮かべてまじまじと見つめている。アリスは思った。
ポップコーンを食べようとしているこの姿勢で固まっているのはマジでキツイ。半分開いた口も間抜け。でも身体が硬直したように動かない。いや動かせない。1mmでも動いたら終わる気がする。どどど、どうすればいいんだ~っ。
「隣りにいいかな?」
ウェインの言葉にアリスは、
「ひゃいっ」
反射的に頷くとベンチの左端に瞬時に飛び退った。のでアリスの膝の上のポップコーンは転がり落ち手のジュース
こぼれてウェインの足元にぶちまけられ、たら不敬罪!
とっさにアリスはポップコーンカップを右手で押さえながら左手のカップからこぼれ落ちたジュースを右足を大きく跳ね上げてスカートの裾を翻し、ジュースの滴がウェインの足元に掛かるのをスカートの裾で防いだ。粗忽アリスのある意味華麗な立ち振る舞いにウェインはポカンとして、プッと吹き出した。
「はははっ。確かに面白い子だね、君は。クラリアもそういう君の元気な所が気に入っているのかな?」
ウェインは抱えていたポップコーンカップ3個をベンチに置いてポケットからハンカチを出しアリスのスカートの裾のジュースを拭き取った。そしてアリスの隣りに優雅な所作で腰掛けると改めてアリスを優しく見つめた。
うっ!
ずっしり重いキラキラパンチに一発KOされたアリスはベンチから転がり落ちない様に正気を保つのが精一杯だった。
眩いっ。キラキラが、妖しい色香が、イケメンオーラが、激流の如く流れ出ているウェインの隣りに座るなんてこれはもうキラキラの滝行っ。
ウェインの存在に気付いてからずっと早鐘で打った様に胸のドキドキが止まらないアリス。
もうトキメキとか可愛いレベルではない。動悸が止まらない、生命の危機、要緊急搬送状態。顔色も赤を通り越して白。の為に一見平静。だが、
攻略対象のオーラがこんなに凄まじいパワーとは、想像超えてるよー!
そう、アリスは今まで攻略対象とイベント発生どころかまともに顔を合わせた事もなかった。一番近く迄いったアーサーですら幻滅の盾を装備して横からアーサーに蹴りを入れたアリスは、
攻略対象とがっぷり四つに組もうとするだけでこんなにキツいなんて聞いてないっ。普通に会話どころがまともに呼吸すら出来ないなんて。こんなキラキラフルボッコされながらゲームを普通に進めていたゲームアリス、恐るべし。てゆーか、とんでもない女だな!
でも今はその鋼のメンタル力を少しでいいから私に分けて下さいっ。
アリスはゲームアリスを畏敬の念を込めて拝むと、チラッとウェインを見た。それに気付いたウェインは楽しそうにニコニコとアリスに笑い掛ける。
その陰りのない咲き誇る魅惑の黒薔薇の微笑みに、既にマットに沈んでいるアリスは更にマウントを取られ2・3発追加のパンチをお見舞いされた。アリスは思った。
私、ここで死ぬんだ?
「スナックワゴンの店員の女の子に聞いてオススメのポップコーンを買ったけど、君のたっぷりキャラメル味も美味しそうだね。私のポップコーンは右からキャラメル&チーズ味、ブラックペッパー味、ストロベリーミルク味なんだ。味見をしてみるかい?」
「ひぇっ?!そそそ、そんな滅相もねーですだっ」
「君の感想を聞きたいな」
「おおおオラが感想なんて、恐れ多くてとんでもねーだすっ」
何故か時代劇の農民Bが降臨しているアリス。ウェインはふむと首を傾げると、
「そう言わずに」
カップからポップコーンを摘んでウェインはポイとアリスの口に放り込んだ。
「はぐっ」
金縛り状態のアリスはいきなり口の中に飛び込んできたポップコーンを喉に詰まらせる事は無く、本能でモグモグとしていた。モグモグ無言で口を動かすアリスをウェインは興味深そうに見ている。ゴクンとポップコーンを飲み込んだアリスにウェインは、
「味はどうかな?」
アリスは正直に答えた。
「味がしません」
「えっ、そんな筈は無いけど」
ウェインは自分もポップコーンを食べて味を確認しながら頷く。
「うん、塩にブラックペッパーが効いていて美味しい」
アリスは心の中で呟いた。
でも味がしません。きっとこれが私の最後の食事。私はこのまま天に召されるんだわ。私の最推しアレク様、クリラブ2のオープニングに辿り着く事すら出来ず申し訳ございません。2のヒロイン、カレンとお幸せになって下さい。アリスは草葉の陰から見守っております。
アリスは覚悟を決めて手を合わせ、
「お兄様?!」
その時、後ろからクラリアの声が響いた。
「クラリア♪もう買物は終わったのかい?」
その声に嬉しそうに後ろを振り向くウェインの目線を追って振り返るアリス。
あ。
そこにはメイドと一緒にこちらへ駈けて来るクラリアの姿があった。ベンチに駆け寄るクラリアの背に天使の翼を見たアリスは救いを求めクラリアへと手を伸ばす。
ぺんっ。
が、あっさりとその手は払い除けられた。クラリアの背中に生えていたのは白い翼ではなかった。それは悪魔のコウモリの羽。絶望の淵でふらつくアリス。それには目もくれずクラリアはウェインの前に立った。
「お帰りでしたか、お兄様。数日は学園に残るとお聞きしておりましたから、驚きました。あんなのは放っておけば良いのです。ふふっ♪お帰りなさいませ」
「いや、私も片付けておかなければならない事があったんだよ。だから家に戻るのは数日後だ。王太子殿下も結局は公務をこなされておられるからね。だから気分転換になればと思いマジカルクリスタルランドのポップコーンを夕食のサプライズスイーツにしようと思い付いて買い求めに来たのさ」
「サプライズスイーツをここ迄?」
「ああ、カイルの驚く姿が目に浮かぶよ♪」
「まあ、驚くでしょうけど」
ちょっとした悪戯を楽しそうに話すウェイン。しかしクラリアは流石に納得出来ないでいた。
いやいや、ちょっとスイーツを買いに出るにしてはココは遠過ぎるでしょ。
喪女ルートが本当に存在するのか確かめる術が無い為、クラリアは常に攻略対象の動向に目を光らせていた。学期末になっても特に動きは無く、攻略対象者達はアリスをモブキャラクターの一人としか見ていないようだった。が、ヒロイン補正の可能性は?
……、まさか。
クラリアは手を払われてもなお、尻尾をパタパタと振りながら必死に上目遣いで自分のドレスの袖にそーっと前足を伸ばすアリスを見た。クラリアの視線に気付いたアリスは慌てて手を引っ込めるとてへへと笑う。
いや、ヒロイン補正感0ね。
その二人の無言のやり取りにウェインはクスクスと笑っている。クラリアはちょっと頬を膨らませてムクレた表情になるとウェインを睨んだ。
「なんですの?お兄様?」
「いや、そちらのお嬢さんはまるで、…可愛い子犬の様だね」
「犬?猫ではなくて?」
「猫?う~ん、私には猫要素は微塵も感じられないが」
「…、そうですわね。どこをどう見ても立派な駄犬ですわね」
「ははははっ」
クラリアのどこか諦めた口調にウェインは快活に笑った。
「手厳しいな、クラリアは。とっても魅力的なお嬢さんじゃないか。日々の食事に感謝して、行動力が旺盛でユーモアも忘れない、周りの人を明るい気分にする子だよ」
ウェインの魅力的なという言葉でパアッと明るい顔になったクラリアだったが続く台詞にどんどんと表情が引き攣っていった。
「……」
クラリアはギロリとアリスを睨んだ。
この僅かな時間でお兄様の前で何をやらかしたの?!
クラリアの厳しい視線にビクッと肩を震わせたアリス。くるりと尻尾を丸めお耳はペタンと折れてしょんぼり叱られ待ちのごめんなさい犬アリス。
ウェインルートに入る気配も無く、喪女ルートでモブ令嬢に埋没しますと決めたそばから攻略対象者の前で悪目立ちのアリス。
どういう事?!ゲームクリアする気があるの?!
目で口ほどに物を言うクラリアにアリスはうるうる瞳の上目遣いで、
だってだって、キラキラの滝の水量が半端ないだもん。
と反論を試みる。がクラリアの片頬がピクッと動いた瞬間にポキッと心が折れた。クラリアの眉間の深いシワを見たアリスの脳裏をよぎるのは、
ヒロイン断罪イベントが始まる……?
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