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ライバル令嬢とヒロインのドレス事情
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「皆様方はドレスはお決まりですか?」
新しく紅茶をメイドに淹れ直してもらったアリスは一口飲んでから聞いた。アナベル&セシルは先程から席を外したまま、クラリアもグレースとコーネリアも揃って頷いた。
「ええ、仮縫いのドレス合わせも終わったわ」
「王都にある屋敷に何度か帰って早目に済ませておいたの」
「私は後学期前の休みで学園に戻る前に殆ど済ませておいたのよ」
因みにコーネリアには婚約者がいる。
アリスはクリラブ1ゲーム内でのライバル令嬢達のドレス姿を思い浮かべた。
皆様方、とても綺麗なドレスで着飾っていたよね~。華やかなキラキラスチルを生で見られたらどんなに素敵だろ~。
アリスは興味津々で、
「どんなドレスですか?」
「それはね、」
嬉しそうに答えようとするグレース。それをクラリアは首を横に振って制した。
「駄目よ。当日のお楽しみよ、アリス」
「そうね、ふふっ」
「その方が楽しくてよ」
グレースとコーネリアは開きかけた口を閉じてしまう。
「ネタバレ厳禁」
クラリアの言葉に二人は首を傾げるがアリスは一人ギクッとしていた。
イベント前の情報流出、見抜かれている。
男性陣は礼服なのでデザインはほぼ同じ。だが女性陣は別。
確かにイベント前にネタバレは駄目。でもキラキラグレース様を描きたいなぁ。描きたかったなぁ。
肩を落とすアリスをグレースとコーネリアは不思議そうに見る。やれやれとクラリアはスケッチブックの横に置かれたバタークッキーとビーフジャーキーの袋を見た。
両方共有アリスが手土産として持ってきた物だ。
ビーフジャーキーは発表会イベントでアリスと親しくなったという、
「猫先輩が時々自領品で試作品とか新製品とか色々ちょこちょこ下さるんです~♪」
の戴き物。
バタークッキーは発表会イベントでいじわる上級生モブ令嬢に庭園の東屋で絡まれた時にアリスを助けたカイルの取り巻きモブ上級生男子生徒が、
「時々声を掛けて下さって、お菓子を下さるんです~。フクロウ先輩、とっても良い人♪え、フクロウっぽくないですか?」
の戴き物。
どうしてこのヒロインは踊り疲れ果てて尚それなりにやらかすのかしら。フクロウ先輩って何?!本人の前では言ってないとかそういう事ではないわ。
熊とかキツネとか猫とかフクロウとか、乙女ゲームのヒロインがモブでブレーメン音楽隊を結成してどうするつもりなのよ。
モブに餌付けされるヒロインとか、マジで無い。
あのカイルの取り巻きモブの奴、デタラメに振り回わされたこん棒なんかはスッと避けるのが当たり前でしょう。しかも何気に未来の主君のクリスマス舞踏会パートナーにチョッカイ出してんじゃないよっ。
猫先輩にしても彼女の領にはびっくりミート工房の本社が有り急激に豊かになった領地だ。やっかまれ易い上に無害化されており王家のお墨付きがあるとはいえ元は魔物の肉。未だに偏見やゲテモノと下げずむ奴等はいる。そんな中で躊躇なく美味しそうに自領の新製品をパクパク食べるアリスに好感を持つのは分かるけど。
乙女ゲーモブ、自由過ぎ。
頭痛がしてくるクラリア。
そのクラリアをじーっと席からアリスは見つめていた。
アナベル&セシルは不在。グレースとコーネリアはアリス母のデザイン画を手に楽しそうに話し込んでいる。
今がチャーンスッ。
アリスはビーフジャーキーとバタークッキーを手に取るとすすっとクラリアの隣りのアナベルの席に移動した。そしてクラリアの脇をつんつん。
クラリアはオヤツ待ちの顔で見上げるアリスと手のビーフジャーキーとバタークッキーを見て、
「ああ、食べたいのね。こちらが用意した物は一通り出したし、実はアリスがこのお茶会に参加すると知ったカイルから菓子の差し入れが届く予定なのよ。でもまだ来ないしそちらは土産に回してこちらを頂きましょうか」
「えっ、アイルたんが私の為に菓子を♪嬉しー!でもまずは」
「メイドに用意するように言うからちょっと待って」
「いえ、あの」
アリスはチラッとドレスの話で盛り上がっているグレースとコーネリアを確認してから小声で続けた。
「実はドレスの事でご相談がありまして」
「ドレス?ああ」
クラリアはすぐにピンとくる。
「そうね、ゲーム通りならカイルが送ってくる筈だものね」
ゲームでは母のシンプルな白いドレスでクリスマス舞踏会に出席するつもりのアリスの元に当日の朝、カイルからドレスが届くのだ。ゲームアリスは頬を薔薇色に染めて喜んでそのドレスを身に纏うのだが。
「現実的には有り得ないわ。仮縫いで合わせもしないでピッタリなドレスなんて用意出来る訳がない。ドレスに合わせる小物は?アクセサリーは?靴は?髪型は?当日の朝にいきなり届くドレスなんて嫌がらせでしかないわ」
「はい、流石に私も同感です」
「…、カイルから何かフクロウ先輩から言伝てがあったとか、アレ?って思う事があったりしなかった?」
クラリアに謂われてアリスは、ん~?と考えて記憶を巻き戻す。が、
「…特に、無いです」
心当たりの無い顔のアリスにクラリアは溜め息をついた。
「クリスマス舞踏会当日の朝にサプライズでドレスが届くかもしれないから、もし届いたら寮長様に泣きついてお母様には気の毒だけど王太子ドレスを優先なさい」
「はい。それでなんですけど~」
「ん、なあに?」
「私のドレスを友人に着てもらえたらなーって」
アリスはクラリアにサーシャの事をざっと説明した。
「母のドレスを素敵って言ってくれたし、やっぱり新しいドレスが着たいだろうし、折角のドレスがもったいないし」
真面目な顔で言うアリスにクラリアは、
「…」
更に頭痛を覚えてこめかみを押さえた。
友達思いなのは良い。でも家族の為に新しいドレスを諦めるとかめっちゃヒロインエピソードなんですけど。どうしてモブがヒロインエピソードの主役でヒロインがシンデレラに出てくる魔法使いの立ち位置なのよ。しかも花飾りの素敵アイデアまで提供しちゃって。
そのヒロインはというと、
「サーシャの方が私より背が低いけど幸い色々と調整がきくドレスだからー」
とすっかり友人に自分のドレスを譲る気でいる。
「…当日お届けバージョンだとどうしょうもないから私がそれとなくカイルに探りを入れてみるわ」
「ありがとうございます、クラリア様様。当日ドレスは嫌です~」
「そうよ。普通は困るのよ」
アリスとクラリアは頷き合い、その時音楽が突然流れ始めた。ワルツの調べにビクッと肩を震わせるアリス。扉が開きそこから現れたのはオレンジ色の礼服で男装したアナベルと揃いのオレンジ色のフリルがふんだんにあしらわれたドレスに身を包んだセシルだった。
アナベルはセシルをエスコートしてアリス達のテーブルの前方まで来て、アナベルが自分の席にいるアリスを睨みつける。慌ててアリスは立ち上がり、それを確認したアナベル&セシルは顔を見合わせそして二人は音楽に合わせて優雅にワルツを踊り始めた。
「まあ、なんて可愛いの♪」
ぐいっ。
それを見た途端、クラリアはアリスを押し退け小さく拍手しながら双子のダンスに釘付けになる。グレースとコーネリアも、
「本当に見惚れてしまうわね」
「男装している時に踊ってもらおうかしら」
とアナベル&セシルのダンスをうっとりと眺めている。
ゲームでライバル令嬢が男装した双子令嬢にダンスを申し込むなんてスチルがあったかな?
時折アリスに向かってドヤ顔しながら踊るアナベル&セシルに、アリスは席で一人侘しく紅茶を啜るしかなかった。
確かに着飾った双子が踊る姿はどんぶり飯がイケる程そりゃあ可憐だけど。喪女ルート特別スチルなんだろうけど、ドヤ顔がなぁ~。
スッ。
その時アリスの目の前に白い手袋を嵌めた手が現れた。見上げるとニヤリと笑うアナベルがエスコートしようとアリスの手を掴み、その時寸前で手を引っ込めるアリス。いつの間にかアリスの背後に回っていたセシルがグイッとアリスの椅子を力任せに引き、
「ひゃっ?!」
バランスを崩してコケそうなアリスの手をアナベルは強引に取ろうとする。が、ギリでかわすアリス。アリスは椅子から転げ落ちるようにテーブルの下に逃げ込んだ。
『エスコートの誘いを断るなんて無礼ですわっ』
バッとセシルがテーブルクロスの裾を上げて、アリスはその反対側の、グレースとコーネリアの椅子の間から顔を出した。
『何てお行儀が悪いの?!』
激高する双子にアリスは腕で大きくバツを作って首をブンブンと振る。
「先程踊ったので~」
『一人で踊れても意味がなくてよっ』
その通りだけど~。
アリスはチラッと、
「あははははははははっ」
大爆笑しているクラリアと、
「ぷっ…」
「…くくっ」
笑いを堪えているグレースとコーネリアを見た。
笑ってないで助けて下さい~。
コンコンコン。
そこにノックの音がして、
「ご歓談中に申し訳御座いませ、」
ドアを開けたメイドは室内の状況に一瞬言葉を切り、何事も無かったかのように続けた。
「ん。クラリア様、取り急ぎお伝えしたい事が」
「ん、何?」
笑いを噛み殺しながら聞くクラリアに入室したメイドはクラリアの傍らで何事か耳打ちした。ふ~んと頷いたクラリアは、
「希望通りにして差し上げて。先ずはこちらへお通しして頂戴」
と答えている。
「承知致しました」
と一礼して部屋を出ていくメイドに、
「?」
グレースとコーネリアの間でテーブルの縁に掴まったまま首を傾げるアリスに、クラリアはニッコリと微笑んだ。
「ようやく王子様からの貢ぎ物が届いたようよ」
クラリアに指示を受けたメイドが程なく戻り、そのメイドに案内されて部屋に通されたのは二人の年配の女性だった。
二人で自分達の背たけ程ありそうな細長い箱を抱えており、脇には紙袋を持っている。
「?」
グレースに促され自分の席に戻ろうとしたアリスは足を止めてまじまじと箱を見た。
これが攻略対象キャラクターカイルからのアリスへの差し入れ?何だろう。ゲームではお茶会に出席しているアリスへカイルからの差し入れが届くなんてシーンは無いから喪女仕様?それにしても箱がデカいなー。クッキーなら一年分はありそう。
他の皆も不思議そうな表情で箱を立てて床に置く女性達を眺めている。その時、ああっと思い付いた様に頷いたクラリアがコソッとアリスに、
「アレは飴細工ね。見栄えもするし何気に金掛けてる感も出るし。鳥が花ね、皆で戴きましょう。思い切り叩き割ってストレス解消ね♪」
「…はあ」
不意に、
やっておしまいっ。
なクラリアが頭に浮かんだアリスは慌ててその映像を振り払うと箱を見た。
女性達は箱を置いた後に紙袋の中からホールケーキが入りそうな大きさの箱を取り出すとテーブルの上に置く。
もしかして大きいつづらと小さいつづらとどっちがいい?とかだろうか。
大きい箱と小さい箱を交互に見るアリスに女性の一人がニッコリと笑い掛ける。
あれ?
アリスは首を傾げた。
この二人の女性、見覚えが何かあるような…。
女性は大きい箱と小さい箱のそれぞれに手を掛けて、
「どっち?」
とは聞かず同時にフタを開けた。
小さな箱にはメレンゲの焼き菓子。そして大きな箱には、白地に青いリボンとレースがあしらわれた仮縫いを終えたドレスが入っていた。
アリスだけでなくクラリアやグレースとコーネリア、アナベル&セシルも叫んだ。
「えーーーっ?!」
新しく紅茶をメイドに淹れ直してもらったアリスは一口飲んでから聞いた。アナベル&セシルは先程から席を外したまま、クラリアもグレースとコーネリアも揃って頷いた。
「ええ、仮縫いのドレス合わせも終わったわ」
「王都にある屋敷に何度か帰って早目に済ませておいたの」
「私は後学期前の休みで学園に戻る前に殆ど済ませておいたのよ」
因みにコーネリアには婚約者がいる。
アリスはクリラブ1ゲーム内でのライバル令嬢達のドレス姿を思い浮かべた。
皆様方、とても綺麗なドレスで着飾っていたよね~。華やかなキラキラスチルを生で見られたらどんなに素敵だろ~。
アリスは興味津々で、
「どんなドレスですか?」
「それはね、」
嬉しそうに答えようとするグレース。それをクラリアは首を横に振って制した。
「駄目よ。当日のお楽しみよ、アリス」
「そうね、ふふっ」
「その方が楽しくてよ」
グレースとコーネリアは開きかけた口を閉じてしまう。
「ネタバレ厳禁」
クラリアの言葉に二人は首を傾げるがアリスは一人ギクッとしていた。
イベント前の情報流出、見抜かれている。
男性陣は礼服なのでデザインはほぼ同じ。だが女性陣は別。
確かにイベント前にネタバレは駄目。でもキラキラグレース様を描きたいなぁ。描きたかったなぁ。
肩を落とすアリスをグレースとコーネリアは不思議そうに見る。やれやれとクラリアはスケッチブックの横に置かれたバタークッキーとビーフジャーキーの袋を見た。
両方共有アリスが手土産として持ってきた物だ。
ビーフジャーキーは発表会イベントでアリスと親しくなったという、
「猫先輩が時々自領品で試作品とか新製品とか色々ちょこちょこ下さるんです~♪」
の戴き物。
バタークッキーは発表会イベントでいじわる上級生モブ令嬢に庭園の東屋で絡まれた時にアリスを助けたカイルの取り巻きモブ上級生男子生徒が、
「時々声を掛けて下さって、お菓子を下さるんです~。フクロウ先輩、とっても良い人♪え、フクロウっぽくないですか?」
の戴き物。
どうしてこのヒロインは踊り疲れ果てて尚それなりにやらかすのかしら。フクロウ先輩って何?!本人の前では言ってないとかそういう事ではないわ。
熊とかキツネとか猫とかフクロウとか、乙女ゲームのヒロインがモブでブレーメン音楽隊を結成してどうするつもりなのよ。
モブに餌付けされるヒロインとか、マジで無い。
あのカイルの取り巻きモブの奴、デタラメに振り回わされたこん棒なんかはスッと避けるのが当たり前でしょう。しかも何気に未来の主君のクリスマス舞踏会パートナーにチョッカイ出してんじゃないよっ。
猫先輩にしても彼女の領にはびっくりミート工房の本社が有り急激に豊かになった領地だ。やっかまれ易い上に無害化されており王家のお墨付きがあるとはいえ元は魔物の肉。未だに偏見やゲテモノと下げずむ奴等はいる。そんな中で躊躇なく美味しそうに自領の新製品をパクパク食べるアリスに好感を持つのは分かるけど。
乙女ゲーモブ、自由過ぎ。
頭痛がしてくるクラリア。
そのクラリアをじーっと席からアリスは見つめていた。
アナベル&セシルは不在。グレースとコーネリアはアリス母のデザイン画を手に楽しそうに話し込んでいる。
今がチャーンスッ。
アリスはビーフジャーキーとバタークッキーを手に取るとすすっとクラリアの隣りのアナベルの席に移動した。そしてクラリアの脇をつんつん。
クラリアはオヤツ待ちの顔で見上げるアリスと手のビーフジャーキーとバタークッキーを見て、
「ああ、食べたいのね。こちらが用意した物は一通り出したし、実はアリスがこのお茶会に参加すると知ったカイルから菓子の差し入れが届く予定なのよ。でもまだ来ないしそちらは土産に回してこちらを頂きましょうか」
「えっ、アイルたんが私の為に菓子を♪嬉しー!でもまずは」
「メイドに用意するように言うからちょっと待って」
「いえ、あの」
アリスはチラッとドレスの話で盛り上がっているグレースとコーネリアを確認してから小声で続けた。
「実はドレスの事でご相談がありまして」
「ドレス?ああ」
クラリアはすぐにピンとくる。
「そうね、ゲーム通りならカイルが送ってくる筈だものね」
ゲームでは母のシンプルな白いドレスでクリスマス舞踏会に出席するつもりのアリスの元に当日の朝、カイルからドレスが届くのだ。ゲームアリスは頬を薔薇色に染めて喜んでそのドレスを身に纏うのだが。
「現実的には有り得ないわ。仮縫いで合わせもしないでピッタリなドレスなんて用意出来る訳がない。ドレスに合わせる小物は?アクセサリーは?靴は?髪型は?当日の朝にいきなり届くドレスなんて嫌がらせでしかないわ」
「はい、流石に私も同感です」
「…、カイルから何かフクロウ先輩から言伝てがあったとか、アレ?って思う事があったりしなかった?」
クラリアに謂われてアリスは、ん~?と考えて記憶を巻き戻す。が、
「…特に、無いです」
心当たりの無い顔のアリスにクラリアは溜め息をついた。
「クリスマス舞踏会当日の朝にサプライズでドレスが届くかもしれないから、もし届いたら寮長様に泣きついてお母様には気の毒だけど王太子ドレスを優先なさい」
「はい。それでなんですけど~」
「ん、なあに?」
「私のドレスを友人に着てもらえたらなーって」
アリスはクラリアにサーシャの事をざっと説明した。
「母のドレスを素敵って言ってくれたし、やっぱり新しいドレスが着たいだろうし、折角のドレスがもったいないし」
真面目な顔で言うアリスにクラリアは、
「…」
更に頭痛を覚えてこめかみを押さえた。
友達思いなのは良い。でも家族の為に新しいドレスを諦めるとかめっちゃヒロインエピソードなんですけど。どうしてモブがヒロインエピソードの主役でヒロインがシンデレラに出てくる魔法使いの立ち位置なのよ。しかも花飾りの素敵アイデアまで提供しちゃって。
そのヒロインはというと、
「サーシャの方が私より背が低いけど幸い色々と調整がきくドレスだからー」
とすっかり友人に自分のドレスを譲る気でいる。
「…当日お届けバージョンだとどうしょうもないから私がそれとなくカイルに探りを入れてみるわ」
「ありがとうございます、クラリア様様。当日ドレスは嫌です~」
「そうよ。普通は困るのよ」
アリスとクラリアは頷き合い、その時音楽が突然流れ始めた。ワルツの調べにビクッと肩を震わせるアリス。扉が開きそこから現れたのはオレンジ色の礼服で男装したアナベルと揃いのオレンジ色のフリルがふんだんにあしらわれたドレスに身を包んだセシルだった。
アナベルはセシルをエスコートしてアリス達のテーブルの前方まで来て、アナベルが自分の席にいるアリスを睨みつける。慌ててアリスは立ち上がり、それを確認したアナベル&セシルは顔を見合わせそして二人は音楽に合わせて優雅にワルツを踊り始めた。
「まあ、なんて可愛いの♪」
ぐいっ。
それを見た途端、クラリアはアリスを押し退け小さく拍手しながら双子のダンスに釘付けになる。グレースとコーネリアも、
「本当に見惚れてしまうわね」
「男装している時に踊ってもらおうかしら」
とアナベル&セシルのダンスをうっとりと眺めている。
ゲームでライバル令嬢が男装した双子令嬢にダンスを申し込むなんてスチルがあったかな?
時折アリスに向かってドヤ顔しながら踊るアナベル&セシルに、アリスは席で一人侘しく紅茶を啜るしかなかった。
確かに着飾った双子が踊る姿はどんぶり飯がイケる程そりゃあ可憐だけど。喪女ルート特別スチルなんだろうけど、ドヤ顔がなぁ~。
スッ。
その時アリスの目の前に白い手袋を嵌めた手が現れた。見上げるとニヤリと笑うアナベルがエスコートしようとアリスの手を掴み、その時寸前で手を引っ込めるアリス。いつの間にかアリスの背後に回っていたセシルがグイッとアリスの椅子を力任せに引き、
「ひゃっ?!」
バランスを崩してコケそうなアリスの手をアナベルは強引に取ろうとする。が、ギリでかわすアリス。アリスは椅子から転げ落ちるようにテーブルの下に逃げ込んだ。
『エスコートの誘いを断るなんて無礼ですわっ』
バッとセシルがテーブルクロスの裾を上げて、アリスはその反対側の、グレースとコーネリアの椅子の間から顔を出した。
『何てお行儀が悪いの?!』
激高する双子にアリスは腕で大きくバツを作って首をブンブンと振る。
「先程踊ったので~」
『一人で踊れても意味がなくてよっ』
その通りだけど~。
アリスはチラッと、
「あははははははははっ」
大爆笑しているクラリアと、
「ぷっ…」
「…くくっ」
笑いを堪えているグレースとコーネリアを見た。
笑ってないで助けて下さい~。
コンコンコン。
そこにノックの音がして、
「ご歓談中に申し訳御座いませ、」
ドアを開けたメイドは室内の状況に一瞬言葉を切り、何事も無かったかのように続けた。
「ん。クラリア様、取り急ぎお伝えしたい事が」
「ん、何?」
笑いを噛み殺しながら聞くクラリアに入室したメイドはクラリアの傍らで何事か耳打ちした。ふ~んと頷いたクラリアは、
「希望通りにして差し上げて。先ずはこちらへお通しして頂戴」
と答えている。
「承知致しました」
と一礼して部屋を出ていくメイドに、
「?」
グレースとコーネリアの間でテーブルの縁に掴まったまま首を傾げるアリスに、クラリアはニッコリと微笑んだ。
「ようやく王子様からの貢ぎ物が届いたようよ」
クラリアに指示を受けたメイドが程なく戻り、そのメイドに案内されて部屋に通されたのは二人の年配の女性だった。
二人で自分達の背たけ程ありそうな細長い箱を抱えており、脇には紙袋を持っている。
「?」
グレースに促され自分の席に戻ろうとしたアリスは足を止めてまじまじと箱を見た。
これが攻略対象キャラクターカイルからのアリスへの差し入れ?何だろう。ゲームではお茶会に出席しているアリスへカイルからの差し入れが届くなんてシーンは無いから喪女仕様?それにしても箱がデカいなー。クッキーなら一年分はありそう。
他の皆も不思議そうな表情で箱を立てて床に置く女性達を眺めている。その時、ああっと思い付いた様に頷いたクラリアがコソッとアリスに、
「アレは飴細工ね。見栄えもするし何気に金掛けてる感も出るし。鳥が花ね、皆で戴きましょう。思い切り叩き割ってストレス解消ね♪」
「…はあ」
不意に、
やっておしまいっ。
なクラリアが頭に浮かんだアリスは慌ててその映像を振り払うと箱を見た。
女性達は箱を置いた後に紙袋の中からホールケーキが入りそうな大きさの箱を取り出すとテーブルの上に置く。
もしかして大きいつづらと小さいつづらとどっちがいい?とかだろうか。
大きい箱と小さい箱を交互に見るアリスに女性の一人がニッコリと笑い掛ける。
あれ?
アリスは首を傾げた。
この二人の女性、見覚えが何かあるような…。
女性は大きい箱と小さい箱のそれぞれに手を掛けて、
「どっち?」
とは聞かず同時にフタを開けた。
小さな箱にはメレンゲの焼き菓子。そして大きな箱には、白地に青いリボンとレースがあしらわれた仮縫いを終えたドレスが入っていた。
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