遥かなる光の旅人

しょこら

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第六章

2.時の彼方に見える夢

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「ルーリック。だめよ、外に出ないで。きっとまだ、サウルたちがあなたを捜し回っているはずよ」
 黒髪に金色の瞳をした少女が、外を出ようとしたルーリックを慌てて引き留める。
 ディアナと言う名の闇の少女は、戸口にしっかりと鍵を掛け、ルーリックを家の奥に引っ張り込む。
 突然現れた光の民に、憎しみを爆発させた人々がエルナーダに流れ着いた光の民たちを狩っているのだ。
 光に触れた同胞が目の前で消失したところを見て、彼らの理性は一気に吹き飛んでしまった。それまでは、戸惑いながらも、手を差し伸べてくれていたのだったが。
「しかし、妹たちもここに来ているはずなんだ」
 こんなふうに事態がまだ切迫していなかった時、ディアナに連れられて、ルーリックは自分が流れ着いていたという海岸端を見に行った。姿は捕えられなかったが、懐かしい気配が残っていたのだ。
 ディアナに説明して、その辺りで集めてもらった情報によると、ルーリックに良く似た金髪の人々の一行が流れ着いたと言う。
 ルーリックは残されていた気配から、それは妹ティアニーとアルダスたちのものだと確信した。
 間違えるはずのない、懐かしい気配。
 何がどうして、こんな事態になってしまったのか、ルーリックはだいたい想像が付いた。だからこそ、誤解を解きたいと思った。
「今、あなたが外に出ることは、自殺行為にも等しいわ」
 ルーリックは、御神の力で流れ着いたこの土地で、ディアナに出会えたことを感謝していた。傷付いたルーリックを献身的に介抱してくれたディアナには、言い尽くせない恩を感じている。少女には信じてもらいたいと、青年は思った。
「ディアナ。僕達に敵意はないんだ。それをサウルたちにも分かってもらいたいんだ。こんなふうに、戦いたくない」
 ディアナはにこりと笑う。
「ええ、あなたの言葉を信じるわ。ルーリック、光の子。初めてあったとき、なんて綺麗な人だろうって思ったわ。私も、あなたといがみ合いたくない」
 ディアナは、これ以上は問答無用とばかりに、ルーリックを押し込めた部屋にも鍵を掛けてしまう。
 中から青年は戸をたたき、出してくれるように頼むが答えはない。
「ディアナ! こんなことをしても無意味だよ。僕にはここから出ることなんて簡単なことだから」
「あら、何て傲慢な言い方なの。そういう事言うルーリックなんて、大嫌いよ」
「ディアナ」
 ルーリックは、切羽詰まった状況だというのに軽口をたたけるディアナに気圧されるのを感じる。
 命の恩人たるディアナに、ずっと青年は頭が上がらない。
「ディアナ」
「だめよ」
 少女の言葉には、にべもない。
「絶対だめ。私が、代わりに探して来るから。妹さんたちをここに連れて来てあげるわ。だから、安心して」
「ディアナ?」
「いい? ここから動かないで。待ってて」
 ルーリックは強く頭を振る。
「待って、ディアナ! 僕は逃げたくない!」
「私は!…生きていて欲しいのよ」
 扉一枚隔てた向う側で、少女の泣き声が聞こえて来る。
「ここでは、あなたは生きて行けない。あなたの命が危なくなる。ここは闇の大地、なの。光の…王子さま」
「ディアナ…」
「レイルーンで、私達が生きていけないように。エルナーダでは、光の子は生きていけないの」
「ディアナ、戸を開けて」
 もう一度、ルーリックは願う。
 鼻をすする音が聞こえ、だが、きっぱりと拒絶の声。
「だめよ。ルーリックはここで待っていて。私が行って来るから」
 遠のく足音。扉が閉まり、ディアナの気配もなくなった。
 望んだのは、戦などではなかった。

 すべてが、悲劇へと向かって転がり落ちて行く。
 青年が望んだのは、戦ではなかった。平和に暮らせる、故郷が欲しかっただけだ。
 そして隣に、ディアナがいてくれたら、と思う。
 叶わぬ願いなのだろうか。
 今でこそ、ルーリックは闇の神の言葉が分かるような気がした。
 戦を望まないと言った言葉を。
 それは、必然なのだ、と。
 決して交わることの出来ない神々の、数百年に一度だけの短い逢瀬。必ずつきまとう戦を、必然と言う神々の意思。
 ディアナと出会ってしまったルーリックには、何も言えない。
 言えるはずもない。
 触れ合うことすら出来ぬ恋が、どんなものであるかなど。
「神よ…闇の御神よ。あなたの言葉は真でした。偽りも何もない。あるのはただ、決して交わることのない光と、闇…」
 ルーリックはディアナの施した鍵を壊し、少女の後を追った。
 遠く、地鳴りが届く。

 闇の中、キラリと光が閃き、ぶつかり合う剣と剣の間に火花が散る。
 切れ切れに少女の叫び声。
 ほのかな明かりの中に、ぼんやりと人影が見える。はっきりとは分からないが、闇の民数人に囲まれた光の民たちが、剣でもって応戦している。中心にいる誰かを守っているように円陣を組んでいる。
 暗闇を不利と悟った光の剣士が光玉を手に灯し、頭上へ高々と放り投げた。
 上空で光玉は弾け、煌々と照らし出す。
 突然の光の奔流に、闇の民人は呻き、うずくまる。
 青年は、それがサウルたちであることに気が付いた。
 金髪の光の民たちに囲まれて、黒髪の少女が両手で目を押え、うずくまっている。
「ディアナ!」
 ルーリックの呼び掛けに、光の民たちが一斉に振り返り、目を見開く。
「…ルーリック?」
 ディアナを介抱していた金髪の少女が、驚きで青い目を一杯に開き、青年を見詰めていた。
 内面から輝きを放つかのような美しい少女は、青年にそっくりの顔をしていた。少女の横に立つ淡い金髪の青年も、言葉もなくルーリックを見詰めている。
「ティアニー、アルダス?」
 前に別れたときより、二人とも幾分大人びた顔になっていたが、決して忘れたことはなかった。
「ルーリック!」
 泣きながら、光の少女は、双子の兄にしがみついて来た。
 ルーリックも黙って少女を受け止める。長いときを隔てた二つの光が、半身を焦がれ、叫ぶ。重なり合う二つの光が、更に輝きを増し、双子を包み込む。
 ルーリックは、海に沈んでいくレイルーンの光景を、その光の中に垣間見た。ティアニーの記憶が伝えるその光景を、無言のまま見守る。
 少女たちが何故エルナーダに来ているのか、ルーリックは理解した。
 光は幾重にも重なり、輝きは辺りを照らし、不思議な音色を奏でる。再会を祝福するかのように。
 目を開けられないディアナは、光の乱舞を全身に感じて微笑む。
 だがそれはディアナの体をも焼く光だった。
「良かったわね」
 つぶやくディアナの目から、涙が流れ落ちた。
 狂喜する光を押え、ルーリックはサウルたち闇の民に向かう。
「サウル、聞いてくれ」
 黒髪の青年達の中で一番に目立つ男が、ぎくりと反応する。青年は、若者衆の頭とも言うべき存在だった。
 サウルは一瞬ひるんだものの、光に焼かれた目で、輝かしい光を放つ双子を、憎しみを込めて睨みつけて来た。
「僕達に害意はない。無用な戦は、起こしたくない…」
「害意はない、だと? それだけの輝きを発していながら、笑わせるな!」
 怒りに震えたサウルの金色の瞳が、鋭くルーリックを射抜く。
「戦は起こしたくないんだ」
「仕掛けて来たのは、そっちの方だ!」
 ルーリックの言葉も通じない。青年達の目には、ルーリックたち光の民に対する憎しみしかない。
 光によって同胞が目の前で焼かれ、消失した。その事実だけが、彼らの前にある。
 ティアニーがいることで、ルーリックの光は共鳴し、輝きを増しているのだ。
 光そのものが、サウルたち闇の民にとっては、死へと誘う凶器となる。
「僕達は、歩み寄ることも出来ないのか」
 悲しげにルーリックはつぶやく。
「何を世迷言を!」
 サウルたちは剣を構え直し、間合を詰めてくる。
 ルーリックたちの背後に控えていた光の民たちも、その殺気に反応して剣を構える。
「待って!」
 その間を、ディアナが割って入った。ルーリックは鋭く少女を制止するが、少女は聞かなかった。
「だめだ、ディアナ!」
 ディアナはルーリックたちを庇うように、両手を広げ、サウルたちの前に立ちはだかる。同胞の少女が前に立ちはだかったのを見て、青年達は一様にひるむ。サウルは歯がみし、ディアナを睨みつけた。
「そいつらを庇うつもりか?」
「殺し合う必要なんて、ないはずよ?」
 サウルに負けぬ強い瞳で、ディアナは気丈に語りかける。
「サイラスたちを殺された」
「それは、ルーリックたちのせいではないわ、分かっているでしょう?」
 闇の民にとって、光は毒にも等しい。
 ただ、それだけのことなのだ。
 光の民に、その意志はなくても。
 逆もまた、そうなのだ。
 ルーリックは、レイルーンが消失したときのことを思い出した。
 深い闇がレイルーンを覆い、光の大地から光そのものを奪った。
 サウルたちの目は、あのときルーリックが闇の神に向けた目と同じだ。
「光と闇は決して、相入れはしない。そこをどけ、ディアナ」
「いやよ!」
 黒髪の少女は断固として拒絶する。
 サウルは、ディアナの激しい意志に硬直した。その横合いから、黒髪の青年セッツが剣を構え、飛び出した。
「この、裏切り者がっ!」
 サウルが止める暇さえなく、青年の振り上げた剣が、少女の体を貫く。
 その瞬間、誰もが息を飲んだ。
 少女に切り付けた青年に向けて、今までティアニーを守るようにして控えていた金髪の青年アルダスが、光玉をたたき付けた。
 セッツの体がたまらず吹っ飛ぶ。地にたたき付けられる前に、青年の体は光に焼かれ消滅した。
「セッツ!!」
 サウルは呆然と立ち尽くす。
 鮮血を吐き、ディアナの体がぐらりと傾ぐ。
「ディアナ!」
 ルーリックはその体を抱きとめた。
 金色の瞳が、ルーリックを映し、弱々しく微笑む。
「…ル…リッ…ク、生き、て…」
 伸ばされた手が、ルーリックに触れる前に、それは力を失って落ちた。
 金色の瞳は閉ざされ、重みさえも失われる。
「ディアナ?ディアナ!」
 何度呼び掛けても、応えはない。青年は呆然と少女を見下ろす。まだ、温もりは残っているのに、少女が二度と笑うことはない。
「嫌、だ。ディアナ、目を、目を開けてくれ。ディアナ…」
 触れ合うことすら出来なかった少女を、ルーリックは抱き締める。
 涙が流れ落ち、少女の頬を濡らす。
「ディアナ」
 ルーリックの光に包まれた少女の体は、まるで風化するように薄らぎ、消えて行く。
 少女の体があった場所に、一陣の風が生まれ、優しくルーリックの頬に触れて去って行く。
 ルーリックは自らの両手を眺め見た。先程まで確かにあった少女の重みは、風と共に消えてしまった。
 ディアナの流した血がルーリックの両手を赤く染めている。残されたものは、この血痕だけ。いずれそれも跡形もなく消えてしまうだろう。ルーリックは嗚咽をもらし、両手を握り締める。
「ディアナ…」
 死は無へと…。
 愛しい少女は自分に何も残さない。
「っ!」
 サウルが獣のような咆哮を上げる。
「お前さえ、お前たちさえ、現れなければ…っ!」
 猛り狂い剣を振りかざし迫るサウルを、ルーリックはただ見詰めていた。
 ゆらりと立ち上がり、ルーリックは上空を仰ぐ。闇が渦を巻き、上空を覆っている。
「神よ! 闇の御神よ! これが、あなたのおっしゃる必然なのか!」
 青年の叫びが届いたのか、白刃が閃いた瞬間、地鳴りと共に大いなる闇が青年の前に現れた。突然噴き出した闇によって、サウルとルーリックは引き離される。抗えない闇の力の奔流。逆らう気力も、今のルーリックにはなかった。
 絶望だけが、ルーリックの中にあった。
「光と闇の間には、死以外の何もない」
 御神はいつも姿を現さない。意志だけを青年に向け、問う。
『ティアリス・エル・クルト、救いはなかったか? 望みは何もなかったか?』
 闇の神は、ルーリックを時を渡る光の子と呼んだ。
「闇の御神よ。救いは失われました、僕の目の前で。…僕の望みはただ一つ。光と闇が共に暮らせる大地」
 闇の神は笑ったようだった。
『お前の望みは、いつか叶うだろう。長い時の中で、幾つもの望みは叶えられる。ティアリス・エル・クルト、お前は探す者だ。望みの叶う時をその目で見るが良い』
 そうして、ルーリックの時間を渡る旅が始まった。

 
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