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振り切れない
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朝、祐樹は身支度を終わらせると二限目の講義に出るために家を出た。アパートの階段を下りると、そこには昌磨が立っていた。何度祐樹が女ではなく男だと訂正しても記憶の更新をしてくれない大家と立ち話をしていた。一体、自分の個人情報が今どれほど流失しているのか想像もしたくなかった。
昌磨は、祐樹が現れたのを見ると歯磨き粉の広告に出てくるような爽やかな笑顔とあいさつで祐樹を出迎え、見るからに高そうな車のドアを開けてくれた。それを遠くで見ていた大家が何を思ったか、想像に難しくない。祐樹は全てを諦めるように、その車に乗った。
あの、応接室での話し合い以降昌磨は、言葉の通りなんでもしてくれようと、拒絶する隙間を与えず押しかけてきた。家の住所を教えていないのに来て送迎をしてくれている。もはや、なぜ住所を知っているのかという疑問は問うだけ無駄だ。今、実家の場所はここですね。と確認されて、それが合っていたとしても祐樹は、もう驚かないだろう。友達から始めるのではないかとか、友達ってこんなに尽くすものだっけ?という疑問も全部飲み込んだ。そんなことを言って通じる相手だったら、今俺はこんな諦念の境地に達していない。
「昌磨。お前会社は?社会人だろ。」相手は年上だが敬意を払う気持ちなんて微塵もわかない。
「えっと、フレキシブ制度を取り入れているので、出社は自由です。成果さえ出せば、特に言われることはありません。だから、こうして祐樹さんをお出迎えしています。」世界を股にかける企業ともなれば、社員への福祉も充実しているようだ。しかし、それがまさかストーカーの活動充実に一役立つとは、会社のほうもさすがに想像しなかっただろう。
「学校が終わったら連絡をください。」信号で止まると、昌磨は祐樹の方を向いて言った。
「気が向いたらな。」祐樹は、帰りは自分で帰っている。朝の迎えに関しては、もう抵抗しない。朝から抵抗する体力と時間はない。あと、一年は今のアパートで暮らすのだ。近隣の注目はできるだけ受けたくない。しかし、大家のみならず隣人女性が昌磨の存在を気にし始めていることを考えれば、抵抗する、しないなど、時間の経過とともに、問題ではなくなるのかもしれない。だが、それ以外においてはできるだけこいつを排除したい。だから、食事をおごるだとか、高価なプレゼントを送ってくるなどというオファーは、ことごとく断っている。
祐樹は、学校より離れた道端に車をつけるように言った。こんな目立つ車を校門前に停められたら、好奇の目にさらされる。
祐樹は、急いで車のドアを開けようとする昌磨を無視して自分で降りた。そして、さっさと学校へ向かった。後ろで昌磨が何か言っていたようだがこれも、もちろん無視した。
校門をくぐると、後ろから圭太が追いかけて祐樹の肩に勢いよく手を回してきた。
「今日もスポーツカーで送迎ですか。」圭太は面白くってたまらないという顔で、わざとらしく聞いてきた。応接室で話し合ったあの日からというもの、必ず昌磨の話題に触れる。これも、祐樹のストレスを増やしている原因の一つだが、祐樹の方も必ずローキックを一発お見舞いしているので、ストレスはすぐに解消される構造となっている。
「てか、なんで毎日車ちがうのよ。どんな、駐車場もってんのよ。」圭太の疑問は、祐樹も感じたことがあって、昌磨に聞いたことがある。車は昌磨の父や兄たち、家族のもので昌磨は車に興味がなく持っていないという。しかし、今後毎日使いたいと言ったら、大量のコレクションをずっと、倉庫に眠らせていてはバッテリーが故障するから使うついでに長く乗っていないものから順に馴らしてほしいと頼まれたのだそうだ。これを、圭太に説明すると予想通りのリアクションが帰ってきた。昌磨の家の経済力には眩暈がする。
「なあ、祐樹。おまえ、いつか、掘られるんじゃね。」圭太の言葉に、祐樹はどっきとした。正直自分でも、そう思った瞬間があったからだ。昌磨には諦めるという発想がない。加えて底なしの経済力。しかし、それだけは断固阻止したい。だが、現段階でその解決策が一切見つからない。
祐樹と圭太は、いったん分かれて別々の教室に向かった。祐樹はもっと余裕をもって授業を受けることもできたが、興味のある講義には自主的に出ていた。その一つが、マクロ経済学だ。社会に出たときのために考え方や知識を一つでも増やすことに損はないと考えている。経済に関しては、今後特に必要になってくる知識だろう。
祐樹は後方に座って鞄からノートを取り出し、準備を始めた。すると、開始10分前にもかかわらず、教授が教壇に現れた。まだ、友人と話している学生は慌てて席についていた。
「え~、今日は皆さんに特別な講義を受けてもらいたいと思っています。アメリカから特別講師をお呼びいたしました。先生も、この方の話を直接聞ける日が来るとは思わず驚きです。本来なら大講堂で多くの方に聞いてもらえるよう取り計らうべきなのですが、先方の希望によりごく普通の授業を特別に受け持ってもらうことになりました。先生も今日だけは、一生徒として、皆さんに混じり勉強したいと思います。」
いつの間にか、祐樹の後ろには、経済学部の教授陣が座っていた。何人かの教授は小走りで、前の席に移動している。一体どんな人物が来るというのだ。学生たちも、ざわめいた。
「お越しいただきましょう。リュー教授です。」
そう紹介されて登場したのは、昌磨だった。祐樹は叫びだしそうになるのを必死で我慢した。なんで、あの変態野郎がここにいるんだ。信じられない。一体、どんな手を使って、こんな真似をしているんだ。
「リュー教授の輝かしい経歴や、研究実績はこの世界にいる私たちからは、知っていて当然のものですが、学生の皆さんでは知らない方も多いでしょうから、蛇足ながら簡単な紹介をさせていただきます。」
マイクを持った教授は昌磨の紹介を始めたが、祐樹は一言も聞かなかった。というよりも、頭が混乱して言葉が入ってこない。
女子生徒は、かっこいいと黄色い声を出して、ざわめいていたが、祐樹はいつ昌磨に声をかけられるか冷や冷やしていた。
直ぐに、立ち去りたかったが後方は教授陣で埋め尽くされており、気にせず出ていくのは不可能だ。祐樹がどうするべきか迷っているうちに、昌磨の講義は始まってしまった。
しかし、いざ講義が始まると昌磨の話す内容がひどく面白いことに気が付いた。内容も、かなり高度なことを扱っているにも拘らず、丁寧な例えをだしては重要な点を抑え、次につなげていく。淀みなく話し、時折冗談を入れてみんなを笑わせることも忘れなかった。終わったころには、90分の時間がひどく短く感じられ、強い充実感を得られた。自分が、多くの知識を得て一歩飛躍したと勘違いできるほどだった。それは、この教室にいた人たち全員に通じるもののようで、みな講義が終わると、話題はすべて講義で受けた内容一色になっていた。
祐樹はもしかしたら、リュー教授と昌磨は別人で他人の空似ではないかと思った。あの変態ストーカーは会社員だと名乗っていた。ならば、目の前にいるこの知性に溢れた人物が昌磨と同じわけがない。祐樹は質問をしてみたかったが、リュー教授は教授たちに囲まれて受け答えをしていたため、入る隙間もなかった。自分の番が回ってくることはなさそうだ。仕方なく、諦めて教室を出た。さっきの内容を忘れないうちに、もう一度まとめようと、図書館に向かう。その途中で、聞き覚えのある声に引き留められた。
昌磨にそっくりなリュー教授だ。祐樹は、彼に引き留められるような覚えはないが、光栄な思いだった。
「祐樹さん、よかったらランチをご一緒しませんか?」
昌磨だった。
祐樹は混乱した。こいつは、つまり、どういうことだ?
「リュー教授?」一応確かめるためにも聞いてみた。
「はい。父方の苗字がリューなので。母方は西園寺です。日本にいるときは、母方を名乗っています。」
完璧に騙された。いや勘違いしたのか?それでも、俺の一瞬でも生まれた敬意を返してほしい。
「お前、一体何もんだよ。ただの変態じゃねえのかよ。」
「えっと、一応アメリカでドクターまで学びました。」
「なんで、うちの大学にいんの?」
「理事長にお願いされてたので、祐樹さんの出ている授業だったらやりたいと話したらこのような形になりました。」
「ちょっと待てよ。お前、会社員じゃないのかよ!?」
昌磨はわかりやすい態度で目をそらした。
「それも、嘘ではありません。契約で顧問の役職を頂いています。」
祐樹は、鞄にしまってあった名刺を取り出した。英語だったから、意味が分からなかったがspecialという文字がある。その後に続く単語の意味は理解できなかったが、CEOという意味は確か取締役の意味だったか?思い出せない。
祐樹は怪しすぎると思った。しかし、確かにさっきまで祐樹の大学の教授陣に囲まれ敬意を払われるほど素晴らしい講義をしたのも確かだ。
「お前、他に俺に言ってないことはある?もしくは、嘘をついてることがあるなら今は白状しろ。」
昌磨はどうするべきか、言葉に詰まったが祐樹の剣幕に押されて白状した。
「本当は、祐樹さんより年下です。」
「はあ!?どうやって、大学院まで卒業したんだよ?」
「飛び級です。日本は、その制度がないのでなじみがないですが、アメリカではよくあることです。」
俺の、常識が狭いってことなのか。
祐樹は、目の前のとんでもない人物を見た。そんな、経歴を持ちながら俺のストーカーをしているとは、残酷すぎる。もっと、ほかにやることがあるだろう。
卒業した大学と大学院の名前を聞いたが、一度世界一の大学はどこだろうと興味本位で調べたランキングのトップと同じ名前だった。そんなに頭脳明晰なのに。
「あの、祐樹さんランチをご一緒に。」
馬鹿だ。こいつは、勉強のできるタイプの馬鹿だ。
「するわけねえだろ。」
「年齢で嘘をついたことに関しては謝ります。気分を害してしまい申し訳ありません。でも、正直に話しても信じてもらいえない気がして。」
昌磨の判断はある意味正しい。初対面で、駅の構内で出会った相手に、そんな経歴で自己紹介されても、本物の頭のおかしい奴だと考えて、見向きもしなかっただろう。
「あの、理事長にこの近くに美味しいフレンチのレストランがあると伺って、そこが嫌であれば、少し遠くなりますが、僕がよくいくお店にぜひお連れしたいと考えています。」
祐樹は、答えず昌磨の方を見ていた。昌磨は返答を待った。
その、昌磨の後ろに先ほど講義を受けた女子学生が大勢集まってきた。皆ひそひそと話して、誰が一番最初に声をかけるか言い合っている。
祐樹はその様子を昌磨より先に気が付いた。そして、大きめの声をだした。
「リュー教授がみんなにランチをおごりたいってさっ!」
祐樹の言葉を聞いて、女子学生は瞬く間に昌磨を囲い込み騒ぎ出した。祐樹はその間に逃げた。図書館に行くのは、やめだ。昌磨の講義のせいで忘れていたが、圭太と合流するという約束があった。思い出して、学生ホールに向かうと、その端で携帯電話をいじりながら待っている圭太を見かけた。祐樹は圭太の腕を引っ張って、さっさと大学をでた。そして、近くのファミレスに入った。
昌磨は、祐樹が現れたのを見ると歯磨き粉の広告に出てくるような爽やかな笑顔とあいさつで祐樹を出迎え、見るからに高そうな車のドアを開けてくれた。それを遠くで見ていた大家が何を思ったか、想像に難しくない。祐樹は全てを諦めるように、その車に乗った。
あの、応接室での話し合い以降昌磨は、言葉の通りなんでもしてくれようと、拒絶する隙間を与えず押しかけてきた。家の住所を教えていないのに来て送迎をしてくれている。もはや、なぜ住所を知っているのかという疑問は問うだけ無駄だ。今、実家の場所はここですね。と確認されて、それが合っていたとしても祐樹は、もう驚かないだろう。友達から始めるのではないかとか、友達ってこんなに尽くすものだっけ?という疑問も全部飲み込んだ。そんなことを言って通じる相手だったら、今俺はこんな諦念の境地に達していない。
「昌磨。お前会社は?社会人だろ。」相手は年上だが敬意を払う気持ちなんて微塵もわかない。
「えっと、フレキシブ制度を取り入れているので、出社は自由です。成果さえ出せば、特に言われることはありません。だから、こうして祐樹さんをお出迎えしています。」世界を股にかける企業ともなれば、社員への福祉も充実しているようだ。しかし、それがまさかストーカーの活動充実に一役立つとは、会社のほうもさすがに想像しなかっただろう。
「学校が終わったら連絡をください。」信号で止まると、昌磨は祐樹の方を向いて言った。
「気が向いたらな。」祐樹は、帰りは自分で帰っている。朝の迎えに関しては、もう抵抗しない。朝から抵抗する体力と時間はない。あと、一年は今のアパートで暮らすのだ。近隣の注目はできるだけ受けたくない。しかし、大家のみならず隣人女性が昌磨の存在を気にし始めていることを考えれば、抵抗する、しないなど、時間の経過とともに、問題ではなくなるのかもしれない。だが、それ以外においてはできるだけこいつを排除したい。だから、食事をおごるだとか、高価なプレゼントを送ってくるなどというオファーは、ことごとく断っている。
祐樹は、学校より離れた道端に車をつけるように言った。こんな目立つ車を校門前に停められたら、好奇の目にさらされる。
祐樹は、急いで車のドアを開けようとする昌磨を無視して自分で降りた。そして、さっさと学校へ向かった。後ろで昌磨が何か言っていたようだがこれも、もちろん無視した。
校門をくぐると、後ろから圭太が追いかけて祐樹の肩に勢いよく手を回してきた。
「今日もスポーツカーで送迎ですか。」圭太は面白くってたまらないという顔で、わざとらしく聞いてきた。応接室で話し合ったあの日からというもの、必ず昌磨の話題に触れる。これも、祐樹のストレスを増やしている原因の一つだが、祐樹の方も必ずローキックを一発お見舞いしているので、ストレスはすぐに解消される構造となっている。
「てか、なんで毎日車ちがうのよ。どんな、駐車場もってんのよ。」圭太の疑問は、祐樹も感じたことがあって、昌磨に聞いたことがある。車は昌磨の父や兄たち、家族のもので昌磨は車に興味がなく持っていないという。しかし、今後毎日使いたいと言ったら、大量のコレクションをずっと、倉庫に眠らせていてはバッテリーが故障するから使うついでに長く乗っていないものから順に馴らしてほしいと頼まれたのだそうだ。これを、圭太に説明すると予想通りのリアクションが帰ってきた。昌磨の家の経済力には眩暈がする。
「なあ、祐樹。おまえ、いつか、掘られるんじゃね。」圭太の言葉に、祐樹はどっきとした。正直自分でも、そう思った瞬間があったからだ。昌磨には諦めるという発想がない。加えて底なしの経済力。しかし、それだけは断固阻止したい。だが、現段階でその解決策が一切見つからない。
祐樹と圭太は、いったん分かれて別々の教室に向かった。祐樹はもっと余裕をもって授業を受けることもできたが、興味のある講義には自主的に出ていた。その一つが、マクロ経済学だ。社会に出たときのために考え方や知識を一つでも増やすことに損はないと考えている。経済に関しては、今後特に必要になってくる知識だろう。
祐樹は後方に座って鞄からノートを取り出し、準備を始めた。すると、開始10分前にもかかわらず、教授が教壇に現れた。まだ、友人と話している学生は慌てて席についていた。
「え~、今日は皆さんに特別な講義を受けてもらいたいと思っています。アメリカから特別講師をお呼びいたしました。先生も、この方の話を直接聞ける日が来るとは思わず驚きです。本来なら大講堂で多くの方に聞いてもらえるよう取り計らうべきなのですが、先方の希望によりごく普通の授業を特別に受け持ってもらうことになりました。先生も今日だけは、一生徒として、皆さんに混じり勉強したいと思います。」
いつの間にか、祐樹の後ろには、経済学部の教授陣が座っていた。何人かの教授は小走りで、前の席に移動している。一体どんな人物が来るというのだ。学生たちも、ざわめいた。
「お越しいただきましょう。リュー教授です。」
そう紹介されて登場したのは、昌磨だった。祐樹は叫びだしそうになるのを必死で我慢した。なんで、あの変態野郎がここにいるんだ。信じられない。一体、どんな手を使って、こんな真似をしているんだ。
「リュー教授の輝かしい経歴や、研究実績はこの世界にいる私たちからは、知っていて当然のものですが、学生の皆さんでは知らない方も多いでしょうから、蛇足ながら簡単な紹介をさせていただきます。」
マイクを持った教授は昌磨の紹介を始めたが、祐樹は一言も聞かなかった。というよりも、頭が混乱して言葉が入ってこない。
女子生徒は、かっこいいと黄色い声を出して、ざわめいていたが、祐樹はいつ昌磨に声をかけられるか冷や冷やしていた。
直ぐに、立ち去りたかったが後方は教授陣で埋め尽くされており、気にせず出ていくのは不可能だ。祐樹がどうするべきか迷っているうちに、昌磨の講義は始まってしまった。
しかし、いざ講義が始まると昌磨の話す内容がひどく面白いことに気が付いた。内容も、かなり高度なことを扱っているにも拘らず、丁寧な例えをだしては重要な点を抑え、次につなげていく。淀みなく話し、時折冗談を入れてみんなを笑わせることも忘れなかった。終わったころには、90分の時間がひどく短く感じられ、強い充実感を得られた。自分が、多くの知識を得て一歩飛躍したと勘違いできるほどだった。それは、この教室にいた人たち全員に通じるもののようで、みな講義が終わると、話題はすべて講義で受けた内容一色になっていた。
祐樹はもしかしたら、リュー教授と昌磨は別人で他人の空似ではないかと思った。あの変態ストーカーは会社員だと名乗っていた。ならば、目の前にいるこの知性に溢れた人物が昌磨と同じわけがない。祐樹は質問をしてみたかったが、リュー教授は教授たちに囲まれて受け答えをしていたため、入る隙間もなかった。自分の番が回ってくることはなさそうだ。仕方なく、諦めて教室を出た。さっきの内容を忘れないうちに、もう一度まとめようと、図書館に向かう。その途中で、聞き覚えのある声に引き留められた。
昌磨にそっくりなリュー教授だ。祐樹は、彼に引き留められるような覚えはないが、光栄な思いだった。
「祐樹さん、よかったらランチをご一緒しませんか?」
昌磨だった。
祐樹は混乱した。こいつは、つまり、どういうことだ?
「リュー教授?」一応確かめるためにも聞いてみた。
「はい。父方の苗字がリューなので。母方は西園寺です。日本にいるときは、母方を名乗っています。」
完璧に騙された。いや勘違いしたのか?それでも、俺の一瞬でも生まれた敬意を返してほしい。
「お前、一体何もんだよ。ただの変態じゃねえのかよ。」
「えっと、一応アメリカでドクターまで学びました。」
「なんで、うちの大学にいんの?」
「理事長にお願いされてたので、祐樹さんの出ている授業だったらやりたいと話したらこのような形になりました。」
「ちょっと待てよ。お前、会社員じゃないのかよ!?」
昌磨はわかりやすい態度で目をそらした。
「それも、嘘ではありません。契約で顧問の役職を頂いています。」
祐樹は、鞄にしまってあった名刺を取り出した。英語だったから、意味が分からなかったがspecialという文字がある。その後に続く単語の意味は理解できなかったが、CEOという意味は確か取締役の意味だったか?思い出せない。
祐樹は怪しすぎると思った。しかし、確かにさっきまで祐樹の大学の教授陣に囲まれ敬意を払われるほど素晴らしい講義をしたのも確かだ。
「お前、他に俺に言ってないことはある?もしくは、嘘をついてることがあるなら今は白状しろ。」
昌磨はどうするべきか、言葉に詰まったが祐樹の剣幕に押されて白状した。
「本当は、祐樹さんより年下です。」
「はあ!?どうやって、大学院まで卒業したんだよ?」
「飛び級です。日本は、その制度がないのでなじみがないですが、アメリカではよくあることです。」
俺の、常識が狭いってことなのか。
祐樹は、目の前のとんでもない人物を見た。そんな、経歴を持ちながら俺のストーカーをしているとは、残酷すぎる。もっと、ほかにやることがあるだろう。
卒業した大学と大学院の名前を聞いたが、一度世界一の大学はどこだろうと興味本位で調べたランキングのトップと同じ名前だった。そんなに頭脳明晰なのに。
「あの、祐樹さんランチをご一緒に。」
馬鹿だ。こいつは、勉強のできるタイプの馬鹿だ。
「するわけねえだろ。」
「年齢で嘘をついたことに関しては謝ります。気分を害してしまい申し訳ありません。でも、正直に話しても信じてもらいえない気がして。」
昌磨の判断はある意味正しい。初対面で、駅の構内で出会った相手に、そんな経歴で自己紹介されても、本物の頭のおかしい奴だと考えて、見向きもしなかっただろう。
「あの、理事長にこの近くに美味しいフレンチのレストランがあると伺って、そこが嫌であれば、少し遠くなりますが、僕がよくいくお店にぜひお連れしたいと考えています。」
祐樹は、答えず昌磨の方を見ていた。昌磨は返答を待った。
その、昌磨の後ろに先ほど講義を受けた女子学生が大勢集まってきた。皆ひそひそと話して、誰が一番最初に声をかけるか言い合っている。
祐樹はその様子を昌磨より先に気が付いた。そして、大きめの声をだした。
「リュー教授がみんなにランチをおごりたいってさっ!」
祐樹の言葉を聞いて、女子学生は瞬く間に昌磨を囲い込み騒ぎ出した。祐樹はその間に逃げた。図書館に行くのは、やめだ。昌磨の講義のせいで忘れていたが、圭太と合流するという約束があった。思い出して、学生ホールに向かうと、その端で携帯電話をいじりながら待っている圭太を見かけた。祐樹は圭太の腕を引っ張って、さっさと大学をでた。そして、近くのファミレスに入った。
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