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対策その2
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夕食にも招待されたが、祐樹は頑なに断って昌磨にアパートまで送ってもらうことにした。
帰りはまた違った車に乗ったが、どうでもよかった。アパートについて、祐樹はドアを開けて降りようとしたが、あかない。ロックがかけられている。
「昌磨、ドアあかないんだけど。いじって壊れたら、いやだからなんとかしろよ。」
「祐樹さん、今僕は今日祐樹さんとの出来事を思い返していました。その中で、思ったことがあります。一つお願いなのですが。」
祐樹は昌磨の真剣な表情を見た。何を言われるかわからないが嫌な予感がする。やはり、多少の犠牲は覚悟しなければならないのか。
しかし、昌磨のお願いは意外なものだった。産みの母親について聞いてきたとき、祐樹が昌磨の袖を引っ張るしぐさが可愛かったからもう一度やってほしいということだった。祐樹の体から緊張が一気に抜けた。
なんだ、そんなことか。昌磨にはびっくりさせられっぱなしだったが、案外可愛いところもある。祐樹は少し笑ってしまった。そして、いたずら心が沸いた。もし、こいつが本当に俺のことが好きだっていうなら、迷惑を被ってきた分ちょっとした仕返しができるかもしれない。
「わかったよ。それじゃあ、車の中じゃなくって、外でやろうぜ。こういうのは、立って身長差をフルに生かした方が効果があるんだよ。」昌磨はいわれて車のカギのロックを開けて降りた。祐樹の方のドアも開いた。
昌磨の身長は181cm。祐樹は、169cmだが、周りには170cmだと言っている。
祐樹は昌磨の横に立った。
「なあ、昌磨。」
「はい。」
「お前ってさ、このあたりの地理詳しい?」
「いいえ、あまり通らないので。」
「だよな。だって、遠回りしてたし。」
「そうだったんですか。」
「俺、近道とか知ってたんだけど、教えなかったんだ。」
「どうしてですか?」
ここで、祐樹は昌磨の袖を引っ張った。昌磨の耳元に口を近づける。
「だって、少しでも長く一緒にいたかったから。回り道した分だけ、長くいられるだろ?」
昌磨の顔は暗い夜の中でもわかってしまうくらいに、真っ赤になった。
祐樹は、それを見ると我慢できずに爆笑した。
「お前、単純すぎ。童貞かよ。」祐樹は先ほどの可愛らしさとは一変して素に戻った。
祐樹は、昌磨の反応に満足してひとしきり笑うと、そのまま帰ってしまった。
昌磨は後を追って抱きしめたい衝動に駆られたが、自分をぐっと抑えた。接触を伴う愛情表現はまだ自分には許されていない。だから、その場にしゃがみこみ祐樹が与えた衝撃にじっと耐えた。わざとだと、わかっているのに、可愛すぎると思ってしまった。平気で人のことを弄ぶ。昌磨は祐樹を悪魔のような人だと思った。
祐樹は、アパートの階段を上がったところで自宅のドアの前に、人が座り込んでいるのが見えた。近くまでよると、練だということが分かった。
眠りこけている。
祐樹はしゃがんで、練の肩を揺らす。しかし、何度か声をかけても起きなかった。練はこうなるとなかなか目覚めない。健一の家にみんなで泊まった時も、練だけ一人起きなかったせいで、講義に遅れかけたこともある。ここに放って置いたら風邪をひくだろう。仕方なしに、祐樹は練を引っ張って、部屋の中に入れた。抱えてやりたかったが、祐樹の力では難しかった。
リビングの絨毯の上まで引っ張り上げて、毛布を2枚ほどかけた。春と言ってもまだ、肌寒い。引っ張るとき頭をぶつけたりしたが、それでも練はぐっすり寝ている。その様子を確かめてから祐樹は、寝る準備を済ませ寝室の自分のベットに潜り込んだ。
次の朝、日がだいぶのぼってから祐樹は起きた。今日は、講義がない。リビングの床に寝ている練を起こそうと呼びかけたが、起きる気配はゼロだ。一体何しに来たんだと思ったが、昨日昌磨の派手な車に乗っているところを見られていた。そのことを聞きに来て、眠りこけてしまったのだろう。こいつ、ホント暇だな。そう言えば、昌磨ほどではないが、練も金持ちだった。父親がどっかの会社の役員で、実家は都内の一等地に三階建ての一軒家を構えている。一度だけ、お邪魔したことがある。父親の会社に入ると宣言していたから、就職活動もしていない。気楽なもんだ。
祐樹は練が起きたときに「お腹が空いた。」と騒ぐことを想定して朝食を作ることにした。バターをたっぷりと、フライパンの上に溶かせば、いい香りが部屋中に広がる。その匂いに誘われて練はようやく目が覚めた。溶いた卵を熱々のフライパンの上に流し込むと、美味しそうな音がする。表面が固まってきたら、一度卵をかき回して火を止めた。あとは形を整えて皿の上に盛り付ける。味付けはシンプルに塩コショウだけ。トースターに入れていた食パンが丁度焼きあがったようで、チンという音が聞こえる。後は、簡単にサラダを作って、ウィンナーを数本茹でれば出来上がり。冷蔵庫にあったジャムを取り出して、練を待たずに祐樹は食べ始めた。とっくに起きているのに、二度寝をしようとした練は慌てて顔を洗って席について一緒に食べ始めた。練はご飯を食べている時は夢中で、おいしいとしか言わなかったが、食べ終わると当初の目的を思い出した。
「祐樹なんで昨日あの車に乗ってたの?あれって、確か一台一億円以上する車だよ。」
そんなに、高価な車だとは知らなかったが祐樹は今更驚かない。
「知り合いの車。近くを通るっていうもんだから、乗せてもらったんだよ。」
「羨ましすぎる!俺に気が付いてただろ!なんで、無視するんだよ!」
「悪かった。ちょうど道路に出るところだったから、急に止めるのは危ないだろ。」
「確かにそうだけどさ。」練は、そのあと繰り返すように羨ましいと連呼していた。幸いにも練の興味は車にしか向いておらず、運転手について触れることなくこの話題は終わった。
二人とも朝食を食べ終えて暇になると、ゲームを始めた。途中で、健一と圭太も呼んで四人で対戦ゲームをして盛り上がった。それで、一日を過ごした。練は、夕方になると今日はさすがに帰ると言って、一番早くに抜けた。圭太も、本当ならサークルの飲み会があったが、祐樹の家に集まろうと誘われた時点で、断っておいたそうだ。もちろん、目的は、祐樹と昌磨のことの顛末を聞くためだ。
「で、どうだったのよ。上手くいった?」
練の姿が消えて一番に口を開いたのは圭太だ。
「失敗。むしろ、歓迎された。」
「嘘だろ。おかしくない?」
「さあ、おおらかな家族なんだろ。」昌磨の家庭のことについては話さないことにした。たぶん昌磨は、気にしないだろうが、それでも家の事情を部外者が勝手に話すのはいいことではない。
「でも納得だよ。だって、あんな風に断られても折れなかったような性格だろ。やっぱ、家庭の方も受け入れ態勢ばっちりっていうか。」
健一には、応接室での告白については省略して話していたから、おそらく圭太のあんな風という言葉は理解していなかっただろう。しかし、深くは聞いて来なかった。
「それじゃあ、恋人がいるように装う方の作戦はどうする?話を聞く限りかなり手ごわい相手だね。」健一は一度祐樹を見てから続けていった。
「一応女の子に声はかけてみた。承諾してくれた子はこんな感じ。」健一は、携帯電話の画面を見せて、写真を何枚かスライドさせた。さすが健一だ。かわいい子の知り合いが多い。祐樹は試すだけ試したいと健一にいうと、元から承諾していたこともあり、そのまま話を進めることにした。まずは女の子を誰かにするか決めることから始めた。選考はあっさりと、読者モデルをしているマリアちゃんに決まった。可愛い子の方が、相手に与える衝撃も大きいだろうという圭太の理屈と、健一の口の堅い子だという後押しにより満場一致での採用となった。
次の日、三人はそれぞれの用事を終わらせると、大学近くのカフェに集合した。マリアと待ち合わせるためだ。時間通り、集まると早速詳しい事情を説明した。健一は最初祐樹が男に付きまとわれているという点を言わなかった。しかし、協力してもらうにあたって、やはり言っておかなければならない。必要な情報だけを話すと、マリアはわかりましたと合意してくれた。
「こんなことを言っては失礼ですが、確かに祐樹さんのお顔は綺麗ですもの。男性が好きになってしまうのも仕方がないと思います。」マリアはなかなか良い家庭に育ったようで、言葉遣いも丁寧で、ほんわかして可愛らしい女の子だった。祐樹を気遣ってフォローもしてくれる。圭太は、作戦そっちのけで、マリアに色々質問して話しかけたが、マリアは同じ笑顔ではいといいえしか言わなかった。しかし、健一が「始めよっか。」というと、圭太に向けていた笑顔とは比べ物にならない輝きを振りまいて、健一の指示に従った。明らかにマリアちゃんは健一が好きだ。それもそうだろう。こんな面倒なことを、簡単に引き受けてくれる女の子の方にもメリットがなければならない。
健一に向ける笑顔で、圭太の淡い思いは跡形もなく消え去った。祐樹は圭太の肩に手をのせて慰めるふりをして、わざとニヤついて笑ってやった。日ごろ昌磨のことでからかってきたし返しだ。
健一は、そんな二人をよそにマリアをカフェの窓際席に座らせた。次に祐樹をよんで、隣合わせになるよう座らせ、頬をくっつけさせて自撮り写真を撮るように指示した。
すぐに、雰囲気のいいオシャレなカフェで仲良く過ごすカップルの写真が完成した。撮った写真はさっそく昌磨に送られる。すぐ返事が来るかと思ったが、来なかった。四人は、カフェで雑談して時間を潰したが、昌磨の返事が来ないようなので、その日はそれでお開きになった。何かリアクションがあれば、連絡することを三人に約束した。
一応昌磨も、あれで大企業の社員だ。いつも、暇なはずもないだろう。今日はもしかして返事は来ないのかもしれない。しかし、祐樹がアパートに着くとそこにはオレンジ色のスポーツカーが停まっていた。考えなくても、運転席にいるのは昌磨だ。電話ではなく直接話に来たようだ。こいつは、一体いつ仕事をしているのか。
祐樹は車の運転席の窓をノックした。自動的に窓が開く。
「祐樹さん。ドライブに行きませんか。」昌磨は笑顔で聞いてきた。
祐樹は昌磨の笑顔の意味が分からず、一瞬たじろいだが笑顔で答えた。たぶん、このドライブで行われる話し合い次第で、この関係に終止符が打たれる。そう考えて、祐樹は車に乗った。昌磨は祐樹のシートベルトが装着されるのを確認すると出発した。車は、高速を経て山道に入った。祐樹の知らないところだ。もし、こんなところに置き去りにされたら、と思うと怖い。もちろん、そんなことをするような奴だとは思わないが、万一の可能性が残って不安がぬぐえない。車は見晴台のある駐車スペースで停まった。昌磨はずっと黙っていたが、頭をハンドルに預けると、ようやくしゃべりだした。
「祐樹さん。写真の方とは本当に付き合っているのですか?」
「そうだよ。」
「僕に、こんなことを言う資格がないことは重々承知ですが、その方と別れてください。」
「いやだよ。せっかくできた可愛い彼女なんだから。」昌磨のいつもとは違う雰囲気に緊張する。少し、怖い。でもここで、退いてはいけないと自分に言い聞かせる。
帰りはまた違った車に乗ったが、どうでもよかった。アパートについて、祐樹はドアを開けて降りようとしたが、あかない。ロックがかけられている。
「昌磨、ドアあかないんだけど。いじって壊れたら、いやだからなんとかしろよ。」
「祐樹さん、今僕は今日祐樹さんとの出来事を思い返していました。その中で、思ったことがあります。一つお願いなのですが。」
祐樹は昌磨の真剣な表情を見た。何を言われるかわからないが嫌な予感がする。やはり、多少の犠牲は覚悟しなければならないのか。
しかし、昌磨のお願いは意外なものだった。産みの母親について聞いてきたとき、祐樹が昌磨の袖を引っ張るしぐさが可愛かったからもう一度やってほしいということだった。祐樹の体から緊張が一気に抜けた。
なんだ、そんなことか。昌磨にはびっくりさせられっぱなしだったが、案外可愛いところもある。祐樹は少し笑ってしまった。そして、いたずら心が沸いた。もし、こいつが本当に俺のことが好きだっていうなら、迷惑を被ってきた分ちょっとした仕返しができるかもしれない。
「わかったよ。それじゃあ、車の中じゃなくって、外でやろうぜ。こういうのは、立って身長差をフルに生かした方が効果があるんだよ。」昌磨はいわれて車のカギのロックを開けて降りた。祐樹の方のドアも開いた。
昌磨の身長は181cm。祐樹は、169cmだが、周りには170cmだと言っている。
祐樹は昌磨の横に立った。
「なあ、昌磨。」
「はい。」
「お前ってさ、このあたりの地理詳しい?」
「いいえ、あまり通らないので。」
「だよな。だって、遠回りしてたし。」
「そうだったんですか。」
「俺、近道とか知ってたんだけど、教えなかったんだ。」
「どうしてですか?」
ここで、祐樹は昌磨の袖を引っ張った。昌磨の耳元に口を近づける。
「だって、少しでも長く一緒にいたかったから。回り道した分だけ、長くいられるだろ?」
昌磨の顔は暗い夜の中でもわかってしまうくらいに、真っ赤になった。
祐樹は、それを見ると我慢できずに爆笑した。
「お前、単純すぎ。童貞かよ。」祐樹は先ほどの可愛らしさとは一変して素に戻った。
祐樹は、昌磨の反応に満足してひとしきり笑うと、そのまま帰ってしまった。
昌磨は後を追って抱きしめたい衝動に駆られたが、自分をぐっと抑えた。接触を伴う愛情表現はまだ自分には許されていない。だから、その場にしゃがみこみ祐樹が与えた衝撃にじっと耐えた。わざとだと、わかっているのに、可愛すぎると思ってしまった。平気で人のことを弄ぶ。昌磨は祐樹を悪魔のような人だと思った。
祐樹は、アパートの階段を上がったところで自宅のドアの前に、人が座り込んでいるのが見えた。近くまでよると、練だということが分かった。
眠りこけている。
祐樹はしゃがんで、練の肩を揺らす。しかし、何度か声をかけても起きなかった。練はこうなるとなかなか目覚めない。健一の家にみんなで泊まった時も、練だけ一人起きなかったせいで、講義に遅れかけたこともある。ここに放って置いたら風邪をひくだろう。仕方なしに、祐樹は練を引っ張って、部屋の中に入れた。抱えてやりたかったが、祐樹の力では難しかった。
リビングの絨毯の上まで引っ張り上げて、毛布を2枚ほどかけた。春と言ってもまだ、肌寒い。引っ張るとき頭をぶつけたりしたが、それでも練はぐっすり寝ている。その様子を確かめてから祐樹は、寝る準備を済ませ寝室の自分のベットに潜り込んだ。
次の朝、日がだいぶのぼってから祐樹は起きた。今日は、講義がない。リビングの床に寝ている練を起こそうと呼びかけたが、起きる気配はゼロだ。一体何しに来たんだと思ったが、昨日昌磨の派手な車に乗っているところを見られていた。そのことを聞きに来て、眠りこけてしまったのだろう。こいつ、ホント暇だな。そう言えば、昌磨ほどではないが、練も金持ちだった。父親がどっかの会社の役員で、実家は都内の一等地に三階建ての一軒家を構えている。一度だけ、お邪魔したことがある。父親の会社に入ると宣言していたから、就職活動もしていない。気楽なもんだ。
祐樹は練が起きたときに「お腹が空いた。」と騒ぐことを想定して朝食を作ることにした。バターをたっぷりと、フライパンの上に溶かせば、いい香りが部屋中に広がる。その匂いに誘われて練はようやく目が覚めた。溶いた卵を熱々のフライパンの上に流し込むと、美味しそうな音がする。表面が固まってきたら、一度卵をかき回して火を止めた。あとは形を整えて皿の上に盛り付ける。味付けはシンプルに塩コショウだけ。トースターに入れていた食パンが丁度焼きあがったようで、チンという音が聞こえる。後は、簡単にサラダを作って、ウィンナーを数本茹でれば出来上がり。冷蔵庫にあったジャムを取り出して、練を待たずに祐樹は食べ始めた。とっくに起きているのに、二度寝をしようとした練は慌てて顔を洗って席について一緒に食べ始めた。練はご飯を食べている時は夢中で、おいしいとしか言わなかったが、食べ終わると当初の目的を思い出した。
「祐樹なんで昨日あの車に乗ってたの?あれって、確か一台一億円以上する車だよ。」
そんなに、高価な車だとは知らなかったが祐樹は今更驚かない。
「知り合いの車。近くを通るっていうもんだから、乗せてもらったんだよ。」
「羨ましすぎる!俺に気が付いてただろ!なんで、無視するんだよ!」
「悪かった。ちょうど道路に出るところだったから、急に止めるのは危ないだろ。」
「確かにそうだけどさ。」練は、そのあと繰り返すように羨ましいと連呼していた。幸いにも練の興味は車にしか向いておらず、運転手について触れることなくこの話題は終わった。
二人とも朝食を食べ終えて暇になると、ゲームを始めた。途中で、健一と圭太も呼んで四人で対戦ゲームをして盛り上がった。それで、一日を過ごした。練は、夕方になると今日はさすがに帰ると言って、一番早くに抜けた。圭太も、本当ならサークルの飲み会があったが、祐樹の家に集まろうと誘われた時点で、断っておいたそうだ。もちろん、目的は、祐樹と昌磨のことの顛末を聞くためだ。
「で、どうだったのよ。上手くいった?」
練の姿が消えて一番に口を開いたのは圭太だ。
「失敗。むしろ、歓迎された。」
「嘘だろ。おかしくない?」
「さあ、おおらかな家族なんだろ。」昌磨の家庭のことについては話さないことにした。たぶん昌磨は、気にしないだろうが、それでも家の事情を部外者が勝手に話すのはいいことではない。
「でも納得だよ。だって、あんな風に断られても折れなかったような性格だろ。やっぱ、家庭の方も受け入れ態勢ばっちりっていうか。」
健一には、応接室での告白については省略して話していたから、おそらく圭太のあんな風という言葉は理解していなかっただろう。しかし、深くは聞いて来なかった。
「それじゃあ、恋人がいるように装う方の作戦はどうする?話を聞く限りかなり手ごわい相手だね。」健一は一度祐樹を見てから続けていった。
「一応女の子に声はかけてみた。承諾してくれた子はこんな感じ。」健一は、携帯電話の画面を見せて、写真を何枚かスライドさせた。さすが健一だ。かわいい子の知り合いが多い。祐樹は試すだけ試したいと健一にいうと、元から承諾していたこともあり、そのまま話を進めることにした。まずは女の子を誰かにするか決めることから始めた。選考はあっさりと、読者モデルをしているマリアちゃんに決まった。可愛い子の方が、相手に与える衝撃も大きいだろうという圭太の理屈と、健一の口の堅い子だという後押しにより満場一致での採用となった。
次の日、三人はそれぞれの用事を終わらせると、大学近くのカフェに集合した。マリアと待ち合わせるためだ。時間通り、集まると早速詳しい事情を説明した。健一は最初祐樹が男に付きまとわれているという点を言わなかった。しかし、協力してもらうにあたって、やはり言っておかなければならない。必要な情報だけを話すと、マリアはわかりましたと合意してくれた。
「こんなことを言っては失礼ですが、確かに祐樹さんのお顔は綺麗ですもの。男性が好きになってしまうのも仕方がないと思います。」マリアはなかなか良い家庭に育ったようで、言葉遣いも丁寧で、ほんわかして可愛らしい女の子だった。祐樹を気遣ってフォローもしてくれる。圭太は、作戦そっちのけで、マリアに色々質問して話しかけたが、マリアは同じ笑顔ではいといいえしか言わなかった。しかし、健一が「始めよっか。」というと、圭太に向けていた笑顔とは比べ物にならない輝きを振りまいて、健一の指示に従った。明らかにマリアちゃんは健一が好きだ。それもそうだろう。こんな面倒なことを、簡単に引き受けてくれる女の子の方にもメリットがなければならない。
健一に向ける笑顔で、圭太の淡い思いは跡形もなく消え去った。祐樹は圭太の肩に手をのせて慰めるふりをして、わざとニヤついて笑ってやった。日ごろ昌磨のことでからかってきたし返しだ。
健一は、そんな二人をよそにマリアをカフェの窓際席に座らせた。次に祐樹をよんで、隣合わせになるよう座らせ、頬をくっつけさせて自撮り写真を撮るように指示した。
すぐに、雰囲気のいいオシャレなカフェで仲良く過ごすカップルの写真が完成した。撮った写真はさっそく昌磨に送られる。すぐ返事が来るかと思ったが、来なかった。四人は、カフェで雑談して時間を潰したが、昌磨の返事が来ないようなので、その日はそれでお開きになった。何かリアクションがあれば、連絡することを三人に約束した。
一応昌磨も、あれで大企業の社員だ。いつも、暇なはずもないだろう。今日はもしかして返事は来ないのかもしれない。しかし、祐樹がアパートに着くとそこにはオレンジ色のスポーツカーが停まっていた。考えなくても、運転席にいるのは昌磨だ。電話ではなく直接話に来たようだ。こいつは、一体いつ仕事をしているのか。
祐樹は車の運転席の窓をノックした。自動的に窓が開く。
「祐樹さん。ドライブに行きませんか。」昌磨は笑顔で聞いてきた。
祐樹は昌磨の笑顔の意味が分からず、一瞬たじろいだが笑顔で答えた。たぶん、このドライブで行われる話し合い次第で、この関係に終止符が打たれる。そう考えて、祐樹は車に乗った。昌磨は祐樹のシートベルトが装着されるのを確認すると出発した。車は、高速を経て山道に入った。祐樹の知らないところだ。もし、こんなところに置き去りにされたら、と思うと怖い。もちろん、そんなことをするような奴だとは思わないが、万一の可能性が残って不安がぬぐえない。車は見晴台のある駐車スペースで停まった。昌磨はずっと黙っていたが、頭をハンドルに預けると、ようやくしゃべりだした。
「祐樹さん。写真の方とは本当に付き合っているのですか?」
「そうだよ。」
「僕に、こんなことを言う資格がないことは重々承知ですが、その方と別れてください。」
「いやだよ。せっかくできた可愛い彼女なんだから。」昌磨のいつもとは違う雰囲気に緊張する。少し、怖い。でもここで、退いてはいけないと自分に言い聞かせる。
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