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幼馴染
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昌磨は無防備に投げ出された祐樹の肢体を見ていた。花と戯れるように微笑んでいる姿は、別の世界から来た精霊のようだ。
祐樹は仰向けになると、昌磨と目があった。綺麗な景色に夢中になって、昌磨のことを忘れていた。子供みたいに転んではしゃぐ姿を全て見られたかと思う恥ずかしい。祐樹はばつが悪くなって上半身を起こした。
その傍に、昌磨は黙って座った。
何か話してほしい。
「すごくきれいだな。」祐樹は自分から話しかけた。
「はい。綺麗です。」祐樹の目をまっすぐ見て言うから、花を見ろよと顔を押しのけてやった。昌磨は笑っていた。
しばらく、二人でただ座って、ぼーっとしていた。何もない空と時折聞こえる鳥の声。穏やかだ。
ふと、昌磨の方を見ると手で何かを作っていた。
「何それ。」
「花冠です。」器用に指先を動かし、茎の部分を編みこんで小さな花をその隙間にさす。緑の部分は消えて、色が咲き乱れる花冠を昌磨は、祐樹の頭に載せた。
「お前、やめろよ。こういうの。気持ち悪いだろ。」
花に罪はないので、花が落ちないようにゆっくりはずした。
「ごめんなさい。つい。」
ついってなんだ、と思いつつも昌磨は悲しそうな表情でほほ笑むので何となく胸が痛む。
仕方ない。ここは付き合ってやるか。俺の方が年上だしな。
祐樹は、手に持っていた花冠を頭に戻した。
「認めたくないけど、俺ってこういうのが似合うんだよな。」恥ずかしいことを言っている自覚はあるので、頬が熱くなった。
その姿に、昌磨はどうしようもない気持ちにかられた。
昌磨は突然祐樹両手をつかんで押し倒し、苦しそうに祐樹の名前をつぶやく。
「何度も言います。祐樹さんのことが好きなんです。どうしたら僕の事を好きになってもらえますか?」
祐樹は突然のことに驚いた。昌磨の苦悶の表情は辛そうだが、美しかった。昌磨の顔立ちが整っていることは知っていた。だけど、こんなにも自分の心を惹きつけるものだったろうか。そして、昌磨の心はずっと自分に捧げられていた。そのことを意識すると、心臓の鼓動が全身に伝わって体が熱くなっていくのを感じた。その様子の変化は当然昌磨の目にも映った。祐樹の右手をつかんでいた手を離す。祐樹の頬は高熱を帯びて熱い。もう一つの手も離し祐樹の頬包む。唇を近づけ、そっと触れる。祐樹は抵抗しなかった。されてもいいと思った。
「好きだと言ってもらえませんか?」
「お願いすることが、好きにさせる方法?」
昌磨は指摘されて、身もだえした。祐樹さんは、時々すごく意地悪なことを言う。
「試しに、そのままキスしてみたら。」
祐樹に言われて、昌磨は驚いたが、今度は深く口づけようとした。そのとき、背後から女性の声が聞こえた。
「昌磨さん。」
今度ははっきり聞こえた。昌磨は、必死に自分の欲望と戦ってから、半身を起こした。祐樹はその様子に笑いそうになった。
声の方を向くと、鉄門が開いて、そこに可憐と形容するにふさわしい少女が現れた。
「えっと、香織さん。お久しぶり。どうしたの。」昌磨は意気消沈した表情を隠そうと笑顔を作ったが隠しきれていなかった。祐樹は堪らず笑ってしまった。
しかし、香織はその意味をくみ取れず、不思議そうに答えた。
「私も、今別荘で家族と過ごしていますの。昨晩、こちらの家に明かりがついてましたから、きっと昌磨さんがいらしていると思って、昼食のお誘いに来ました。」
香織は微笑みながら話す。その様子は小鳥のさえずりのようで、可愛らしかった。
「ところで、こちらの方は?」香織は遠慮がちに聞いた。昌磨に向けた優しい表情とは別に値踏みするように上から下へ見る。祐樹はその意味を一瞬で悟った。わかりやすい子だ。きっと、この子も自分を女だと勘違いして、昌磨の恋人かなにかと思っているのだ。そして、昌磨に好意を持っている。
「関係については、今現在構築中なので、控えますが、今僕の別荘で一緒に泊っている浅賀祐樹さんです。」昌磨はさっきの意気消沈した顔とは打って変わって、笑みを浮かべて答えた。切り替えの早い奴だ。
「友人の浅賀祐樹です。男です。よろしく。」初対面の子にあれこれ思われるのは困る。はっきりと明言してやった。
「まあ、男性の方なのですか?驚きました。私はてっきり、女性の方だと。先ほどは失礼いたしました。私、昌磨さんの幼少のころからの友人で、筒美香織といいます。」幼馴染ということだろうか、ずいぶん幼い顔立ちだ。祐樹が同い年か聞こうとしたとき、別の訪問者が鉄門を潜り抜けて現れた。上品なご夫婦だった。昌磨は気が付くと立ち上がって、近くまで近寄ってあいさつした。祐樹がその様子を見ていると、香織が私の両親です。と説明してくれた。祐樹さんもぜひいらしてと手招きされて、祐樹は立ち上がった。
お昼は香織の別荘で食事をすることになった。昌磨は本当に乗り気ではなかったようだが、筒美一家に押されて断れなかった。
香織の別荘では、ケータリングではなくシェフとソムリエ、それに支給係がいて本格的だった。目の前で調理された鉄板焼き料理はおいしかったが朝食が遅かったせいで、それほど食べられなかった。ただ、食事中の会話は退屈だった。筒美夫婦は上品な見た目に似合わず、ずいぶんおしゃべり好きのようで昌磨相手にトークが止まらないようだった。おれは気を遣われて何回か質問されただけで、それ以外は全部、自分の知らない世界の話をされて楽しめなかった。ただ、香織ちゃんは俺との共通の話題である昌磨について話をしてくれたのは有難かった。
「浅賀さんは、昌磨さんとどういうご友人なのですか?」
祐樹は、聞かれて困った。ストーカーとその被害者とはさすがに言えない。自分と昌磨の関係を簡潔にかつ違和感なく説明できる点といえば、昌磨がリュー教授として大学に現れたときのことだろう。
「昌磨は、俺の大学に講師として来てくれて、それで知り合った。」
「そうでしたの。あのっ」香織は一瞬ためらってから口を開いた。
「私、昔から昌磨さんのことが好きなの。でも、昌磨さんは忙しい身だから、小さいころに比べて、会えなくなってきて。浅賀さん、私と昌磨さんの間を取り持っていただけませんか?」
自分を値踏みするような視線で予想はしていたが、初対面の相手に、そんなことを告白していいのか祐樹の方が戸惑った。
「浅賀さん。」上目づかいで、みつめられ、思わず祐樹は承諾しそうになる。自分が第三者の立場だったら、迷わす快諾しているところだが、今の祐樹には無理だ。
「香織さんは、昌磨のどこがいいの?」質問ではぐらかした。
「どこと言われましても、小さいころから好きでした。理由というものがあれば、それは多すぎて答えることができません。」絵にかいたような幼馴染の存在。祐樹はふと、彼女の方が昌磨にふさわしいと思った。小さいころから好きで、こんなにも思い続けてくれる相手なんて、願っても現れるものではない。祐樹は一度昌磨に目を移した。そして、香織の方に向き直る。完璧な二人だ。育ってきた環境も似ているだろうから、価値観も合うだろう。昌磨が今男の自分に執着しているのは彼の人生での間違いのような気がした。
「笑わないで聞いてくださいね。私、昌磨さんと家庭を築くのが夢なのです。小さいころしたおままごとの続きみたいな夢で恥ずかしいのですが。」
祐樹は、別に恥ずかしいことではないと肯定しようかと思ったが、自分の言っていい言葉ではない気がして思いとどまった。
香織は、なかなか協力すると返事しない祐樹に痺れを切らしていた。上目遣いでも、承諾しないなんて、こいつ本当に男か?でも昌磨様そんな嘘をつくはずがない。そもそも友人だとしても、言葉遣いで昌磨様にふさわしくない。香織は祐樹の着ているものを見た。靴は明らかに安物だ。しかし、着ている服には見覚えがあった。
「浅賀さんが来ている服は、昌磨さんのお母さんがデザインしたものですね。
「すごい。そんなことわかるの?」
当たり前だ。こっちが何年昌磨様を見てきたと思っている。
「ええ、有名な方ですから。自分で買われたのですか?」
「昌磨の母親からプレゼントされたんだ。」
香織は、祐樹のその台詞に心の奥から怒りが湧き出るのを感じた。香織は昌磨と付き合っていた時期もあったが、自分だってそんな特別なプレゼントはもらっていない。
そして、それを普通の友人に、しかも不釣り合いなこいつに贈るなんて、おかしい。
香織は、女のような祐樹の顔をじっとみた。そして、裏庭で昌磨が祐樹に覆いかぶさる姿を思い出す。
何が男だ。下手な嘘をつきやがって。
「浅賀さん。よろしければ、私と連絡先を交換しませんか?」
香織が、携帯電話を持ち出した瞬間昌磨が、祐樹の肩を抱いて立ち上がった。
「実は、こちらの祐樹さんは大学生で、明日には学校に行かなくてはいけません。今日はこれでお暇させていただきます。」筒美夫婦の制止も聞かず、昌磨は急いで、筒美邸を出た。
筒美夫婦のマシンガントークのせいで、既に日が沈みかける時刻になっていた。
昌磨の別荘に戻ると、急いで車庫に向かい車を出した。
「いいのかよ。」
「あれだけ、付き合ったんです。強引に帰っても責められる覚えはありません。」
昌磨がきっぱり言うので、祐樹はそれ以上言わないことにした。
「それより、香織さんに何か言われませんでした?連絡先を交換したがっていましたね。」
祐樹は、香織が告白してくれた内容について言えなかったので、お前の見間違いだよとごまかした。
昌磨は香織から復縁したいと思われているが、心が動いたりしないのだろうか?
「それより、あんなかわいい子が幼馴染だなんて、うらやましいよ。付き合った時期もあるんだって?」
「それは、本当に短い期間ですので、付き合った内に含まれるかどうか微妙ですね。」
「短い期間だったとしても、付き合ったことには変わりないだろ。」
「もしかして、嫉妬してくれていますか?」
昌磨は急に表情をキラキラさせてこっちを向いた。
「ばか、運転中なんだから危ないだろ。勘違いすんな!」祐樹は強引に昌磨の顔を正面に向かせた。
しかし、昌磨は勘違いしたままで、運転中は終始ご機嫌な様子で鼻歌まで歌ってやがった。
高速を降りて、しばらく走れば、見慣れた風景になった。もうすぐ、俺のアパートに着くというところで、昌磨は口を開いた。
「キスの続きをしてもいいですか?」
「だめ。」
「裏庭では許してくれたのに。」
「あれは、気の迷い。」
アパ-ト前に着くや否や、昌磨は、堪えきれず祐樹のシートに体を寄せた。うるさいほど目で訴えかけてくる。
「いやだという相手に迫るっていうのは、紳士的ではないよな。」
祐樹の正論に、昌磨は身を引いた。叱られた犬みたいだ。
代わりに、大きめの声で車の天井にしたいと叫んだ。
その姿は、かなり幼い。一体こいつはいくつなんだ。
「昌磨、お前本当はいくつ?」
昌磨は一瞬黙って、返事をした。
「いくつに見えますか?」
「いいから答えろよ。」
「祐樹さんは年齢差を気にしますか?」
「程度によるだろう。」
それでも、昌磨は何も答えないので話題を変えた。
「そういえば、香織ちゃんが昌磨と連絡取りたがってたよ。興味ないの?」さっきから心の中で、もやもやしていたことを思わずぶつけてしまった。
「興味はありませんね。」
「可愛い子じゃん。」
「祐樹さんと比べたら可愛いとは言えないです。」
それを言われても反応に困るが、嬉しく思う自分がいて祐樹は困った。
そんな自分を知られたくなくって、祐樹はそれじゃあもう帰ると急に話を切り上げた。
「お休み。」といって車を降りようとした祐樹を昌磨は引き留めた。
「祐樹さん、待てください。明日は僕も仕事上の用事があってお迎えできません。」
「別にいいよ。約束してたわけじゃないし。てか、仕事してたんだな。」
昌磨は指摘されて、バツが悪そうに黙った。
「ほら、からかっただけだから、一々黙んな。お休み。」
「はい。おやすみなさい。」祐樹を一瞬自分の方に寄せて、昌磨は優しく祐樹の頬にキスを落とした。
「ダメだって言っただろ。」
「これは、お休みの挨拶です。」いつの間にか、ずうずうしくなっている。いや、前からかもしれない。祐樹はそれ以上言わず、車を降りてアパートに帰った。
祐樹は仰向けになると、昌磨と目があった。綺麗な景色に夢中になって、昌磨のことを忘れていた。子供みたいに転んではしゃぐ姿を全て見られたかと思う恥ずかしい。祐樹はばつが悪くなって上半身を起こした。
その傍に、昌磨は黙って座った。
何か話してほしい。
「すごくきれいだな。」祐樹は自分から話しかけた。
「はい。綺麗です。」祐樹の目をまっすぐ見て言うから、花を見ろよと顔を押しのけてやった。昌磨は笑っていた。
しばらく、二人でただ座って、ぼーっとしていた。何もない空と時折聞こえる鳥の声。穏やかだ。
ふと、昌磨の方を見ると手で何かを作っていた。
「何それ。」
「花冠です。」器用に指先を動かし、茎の部分を編みこんで小さな花をその隙間にさす。緑の部分は消えて、色が咲き乱れる花冠を昌磨は、祐樹の頭に載せた。
「お前、やめろよ。こういうの。気持ち悪いだろ。」
花に罪はないので、花が落ちないようにゆっくりはずした。
「ごめんなさい。つい。」
ついってなんだ、と思いつつも昌磨は悲しそうな表情でほほ笑むので何となく胸が痛む。
仕方ない。ここは付き合ってやるか。俺の方が年上だしな。
祐樹は、手に持っていた花冠を頭に戻した。
「認めたくないけど、俺ってこういうのが似合うんだよな。」恥ずかしいことを言っている自覚はあるので、頬が熱くなった。
その姿に、昌磨はどうしようもない気持ちにかられた。
昌磨は突然祐樹両手をつかんで押し倒し、苦しそうに祐樹の名前をつぶやく。
「何度も言います。祐樹さんのことが好きなんです。どうしたら僕の事を好きになってもらえますか?」
祐樹は突然のことに驚いた。昌磨の苦悶の表情は辛そうだが、美しかった。昌磨の顔立ちが整っていることは知っていた。だけど、こんなにも自分の心を惹きつけるものだったろうか。そして、昌磨の心はずっと自分に捧げられていた。そのことを意識すると、心臓の鼓動が全身に伝わって体が熱くなっていくのを感じた。その様子の変化は当然昌磨の目にも映った。祐樹の右手をつかんでいた手を離す。祐樹の頬は高熱を帯びて熱い。もう一つの手も離し祐樹の頬包む。唇を近づけ、そっと触れる。祐樹は抵抗しなかった。されてもいいと思った。
「好きだと言ってもらえませんか?」
「お願いすることが、好きにさせる方法?」
昌磨は指摘されて、身もだえした。祐樹さんは、時々すごく意地悪なことを言う。
「試しに、そのままキスしてみたら。」
祐樹に言われて、昌磨は驚いたが、今度は深く口づけようとした。そのとき、背後から女性の声が聞こえた。
「昌磨さん。」
今度ははっきり聞こえた。昌磨は、必死に自分の欲望と戦ってから、半身を起こした。祐樹はその様子に笑いそうになった。
声の方を向くと、鉄門が開いて、そこに可憐と形容するにふさわしい少女が現れた。
「えっと、香織さん。お久しぶり。どうしたの。」昌磨は意気消沈した表情を隠そうと笑顔を作ったが隠しきれていなかった。祐樹は堪らず笑ってしまった。
しかし、香織はその意味をくみ取れず、不思議そうに答えた。
「私も、今別荘で家族と過ごしていますの。昨晩、こちらの家に明かりがついてましたから、きっと昌磨さんがいらしていると思って、昼食のお誘いに来ました。」
香織は微笑みながら話す。その様子は小鳥のさえずりのようで、可愛らしかった。
「ところで、こちらの方は?」香織は遠慮がちに聞いた。昌磨に向けた優しい表情とは別に値踏みするように上から下へ見る。祐樹はその意味を一瞬で悟った。わかりやすい子だ。きっと、この子も自分を女だと勘違いして、昌磨の恋人かなにかと思っているのだ。そして、昌磨に好意を持っている。
「関係については、今現在構築中なので、控えますが、今僕の別荘で一緒に泊っている浅賀祐樹さんです。」昌磨はさっきの意気消沈した顔とは打って変わって、笑みを浮かべて答えた。切り替えの早い奴だ。
「友人の浅賀祐樹です。男です。よろしく。」初対面の子にあれこれ思われるのは困る。はっきりと明言してやった。
「まあ、男性の方なのですか?驚きました。私はてっきり、女性の方だと。先ほどは失礼いたしました。私、昌磨さんの幼少のころからの友人で、筒美香織といいます。」幼馴染ということだろうか、ずいぶん幼い顔立ちだ。祐樹が同い年か聞こうとしたとき、別の訪問者が鉄門を潜り抜けて現れた。上品なご夫婦だった。昌磨は気が付くと立ち上がって、近くまで近寄ってあいさつした。祐樹がその様子を見ていると、香織が私の両親です。と説明してくれた。祐樹さんもぜひいらしてと手招きされて、祐樹は立ち上がった。
お昼は香織の別荘で食事をすることになった。昌磨は本当に乗り気ではなかったようだが、筒美一家に押されて断れなかった。
香織の別荘では、ケータリングではなくシェフとソムリエ、それに支給係がいて本格的だった。目の前で調理された鉄板焼き料理はおいしかったが朝食が遅かったせいで、それほど食べられなかった。ただ、食事中の会話は退屈だった。筒美夫婦は上品な見た目に似合わず、ずいぶんおしゃべり好きのようで昌磨相手にトークが止まらないようだった。おれは気を遣われて何回か質問されただけで、それ以外は全部、自分の知らない世界の話をされて楽しめなかった。ただ、香織ちゃんは俺との共通の話題である昌磨について話をしてくれたのは有難かった。
「浅賀さんは、昌磨さんとどういうご友人なのですか?」
祐樹は、聞かれて困った。ストーカーとその被害者とはさすがに言えない。自分と昌磨の関係を簡潔にかつ違和感なく説明できる点といえば、昌磨がリュー教授として大学に現れたときのことだろう。
「昌磨は、俺の大学に講師として来てくれて、それで知り合った。」
「そうでしたの。あのっ」香織は一瞬ためらってから口を開いた。
「私、昔から昌磨さんのことが好きなの。でも、昌磨さんは忙しい身だから、小さいころに比べて、会えなくなってきて。浅賀さん、私と昌磨さんの間を取り持っていただけませんか?」
自分を値踏みするような視線で予想はしていたが、初対面の相手に、そんなことを告白していいのか祐樹の方が戸惑った。
「浅賀さん。」上目づかいで、みつめられ、思わず祐樹は承諾しそうになる。自分が第三者の立場だったら、迷わす快諾しているところだが、今の祐樹には無理だ。
「香織さんは、昌磨のどこがいいの?」質問ではぐらかした。
「どこと言われましても、小さいころから好きでした。理由というものがあれば、それは多すぎて答えることができません。」絵にかいたような幼馴染の存在。祐樹はふと、彼女の方が昌磨にふさわしいと思った。小さいころから好きで、こんなにも思い続けてくれる相手なんて、願っても現れるものではない。祐樹は一度昌磨に目を移した。そして、香織の方に向き直る。完璧な二人だ。育ってきた環境も似ているだろうから、価値観も合うだろう。昌磨が今男の自分に執着しているのは彼の人生での間違いのような気がした。
「笑わないで聞いてくださいね。私、昌磨さんと家庭を築くのが夢なのです。小さいころしたおままごとの続きみたいな夢で恥ずかしいのですが。」
祐樹は、別に恥ずかしいことではないと肯定しようかと思ったが、自分の言っていい言葉ではない気がして思いとどまった。
香織は、なかなか協力すると返事しない祐樹に痺れを切らしていた。上目遣いでも、承諾しないなんて、こいつ本当に男か?でも昌磨様そんな嘘をつくはずがない。そもそも友人だとしても、言葉遣いで昌磨様にふさわしくない。香織は祐樹の着ているものを見た。靴は明らかに安物だ。しかし、着ている服には見覚えがあった。
「浅賀さんが来ている服は、昌磨さんのお母さんがデザインしたものですね。
「すごい。そんなことわかるの?」
当たり前だ。こっちが何年昌磨様を見てきたと思っている。
「ええ、有名な方ですから。自分で買われたのですか?」
「昌磨の母親からプレゼントされたんだ。」
香織は、祐樹のその台詞に心の奥から怒りが湧き出るのを感じた。香織は昌磨と付き合っていた時期もあったが、自分だってそんな特別なプレゼントはもらっていない。
そして、それを普通の友人に、しかも不釣り合いなこいつに贈るなんて、おかしい。
香織は、女のような祐樹の顔をじっとみた。そして、裏庭で昌磨が祐樹に覆いかぶさる姿を思い出す。
何が男だ。下手な嘘をつきやがって。
「浅賀さん。よろしければ、私と連絡先を交換しませんか?」
香織が、携帯電話を持ち出した瞬間昌磨が、祐樹の肩を抱いて立ち上がった。
「実は、こちらの祐樹さんは大学生で、明日には学校に行かなくてはいけません。今日はこれでお暇させていただきます。」筒美夫婦の制止も聞かず、昌磨は急いで、筒美邸を出た。
筒美夫婦のマシンガントークのせいで、既に日が沈みかける時刻になっていた。
昌磨の別荘に戻ると、急いで車庫に向かい車を出した。
「いいのかよ。」
「あれだけ、付き合ったんです。強引に帰っても責められる覚えはありません。」
昌磨がきっぱり言うので、祐樹はそれ以上言わないことにした。
「それより、香織さんに何か言われませんでした?連絡先を交換したがっていましたね。」
祐樹は、香織が告白してくれた内容について言えなかったので、お前の見間違いだよとごまかした。
昌磨は香織から復縁したいと思われているが、心が動いたりしないのだろうか?
「それより、あんなかわいい子が幼馴染だなんて、うらやましいよ。付き合った時期もあるんだって?」
「それは、本当に短い期間ですので、付き合った内に含まれるかどうか微妙ですね。」
「短い期間だったとしても、付き合ったことには変わりないだろ。」
「もしかして、嫉妬してくれていますか?」
昌磨は急に表情をキラキラさせてこっちを向いた。
「ばか、運転中なんだから危ないだろ。勘違いすんな!」祐樹は強引に昌磨の顔を正面に向かせた。
しかし、昌磨は勘違いしたままで、運転中は終始ご機嫌な様子で鼻歌まで歌ってやがった。
高速を降りて、しばらく走れば、見慣れた風景になった。もうすぐ、俺のアパートに着くというところで、昌磨は口を開いた。
「キスの続きをしてもいいですか?」
「だめ。」
「裏庭では許してくれたのに。」
「あれは、気の迷い。」
アパ-ト前に着くや否や、昌磨は、堪えきれず祐樹のシートに体を寄せた。うるさいほど目で訴えかけてくる。
「いやだという相手に迫るっていうのは、紳士的ではないよな。」
祐樹の正論に、昌磨は身を引いた。叱られた犬みたいだ。
代わりに、大きめの声で車の天井にしたいと叫んだ。
その姿は、かなり幼い。一体こいつはいくつなんだ。
「昌磨、お前本当はいくつ?」
昌磨は一瞬黙って、返事をした。
「いくつに見えますか?」
「いいから答えろよ。」
「祐樹さんは年齢差を気にしますか?」
「程度によるだろう。」
それでも、昌磨は何も答えないので話題を変えた。
「そういえば、香織ちゃんが昌磨と連絡取りたがってたよ。興味ないの?」さっきから心の中で、もやもやしていたことを思わずぶつけてしまった。
「興味はありませんね。」
「可愛い子じゃん。」
「祐樹さんと比べたら可愛いとは言えないです。」
それを言われても反応に困るが、嬉しく思う自分がいて祐樹は困った。
そんな自分を知られたくなくって、祐樹はそれじゃあもう帰ると急に話を切り上げた。
「お休み。」といって車を降りようとした祐樹を昌磨は引き留めた。
「祐樹さん、待てください。明日は僕も仕事上の用事があってお迎えできません。」
「別にいいよ。約束してたわけじゃないし。てか、仕事してたんだな。」
昌磨は指摘されて、バツが悪そうに黙った。
「ほら、からかっただけだから、一々黙んな。お休み。」
「はい。おやすみなさい。」祐樹を一瞬自分の方に寄せて、昌磨は優しく祐樹の頬にキスを落とした。
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