妖符師少女の封印絵巻

リュース

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二章 高校入学編

39 <上位符変換>

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 霊界回廊から帰還して、巡回の続き・・・ではなく、家に帰ってきました。


「白ポプラって、意外と重いね・・・!」

「見た目以上に重量があるからね。それに、物理的重さだけじゃなく、精神的にもそれなりの重さだコン」


 つまり、持っているだけで心身ともに疲れるということですね。
 不思議な物質です。やはり、普通の白ポプラとは違うようですね。

 今日はもう疲れました・・・。
 明日は土曜で学校はお休みですし、夜更かしして寝坊しても大丈夫ですね。
 という訳で、しばらく休憩にしてから巡回を再開しましょう。
 白ポプラは倉庫に仕舞っておきましょうね。


「フォーン、私もう疲れたよ・・・」

「そのセリフは何かダメな気がするコン!!」


 ダメと言われても、厳然たる事実ですし・・・。
 どこぞの犬と少年の童話とは一切関係がありませんからね?

 とりあえず、フォーンをモフモフして癒されるとしましょう・・・。









「壱ノ舞・悠扇乱舞!」

<だからそんな舞は存在してないコン!勝手につくるなコン!>


 何を言っているのやら・・・私には分かりかねます。
 形あるものは大抵変化していくのですから、ある意味自然の摂理でしょう。

 それとも、今の舞にこだわりでもあるのでしょうか?

 だとしても、致命的問題が発生しないのなら、やめるつもりはありませんが。
 わがままでごめんなさい。

 と、<低位符>を十枚ほどゲットです。ホクホクです。



 巡回を終えて帰宅すると、もう日が昇り始めていました。


「フォーン、今日もお疲れ様。はい、油揚げ」

「いただきますっ! はむはむ・・・むしゃむしゃ・・・」


 ふふっ・・・尻尾をブンブン振りながら夢中で油揚げを食むフォーン、とっても可愛いですね・・・!
 思わず抱きしめたくなりますが、邪魔になってしまうので我慢です・・・!

 ・・・おや? フォーンの尻尾の数、四本でしたっけ・・・?

 あ、三本に戻りました。目の錯覚だったのでしょうか?
 まあ、些細な問題ですよね。
 可愛いは正義! とはよく言ったものです。

 油揚げを食べ終わったフォーンをギュッと抱き締めて言ってあげます。


「あなたの尻尾が何本でも、変わらずに抱き締めるよっ・・・!」

「コン!?いきなり何の話コン!?」

「モフモフフカフカ・・・」

「話を聞くコン、若葉っ!!」


 では、このまま寝てしまいたい気分なのを我慢して、召喚を解除します。
 おやすみなさい、フォーン・・・。










 明けた翌日の土曜日。
 今日は一日開店の日なのですが、朝から大繁盛でした。

 なんと、『悪霊退散のお守り』が五つも売れたのです・・・!
 その上、内二つは一万円からの梅です・・・!
 先行投資した甲斐がありました・・・!

 あ、販売する時はちゃんと説明しましたよ?
 このお守りは安全を保障するものではありません、と。

 それでもお買い上げになるのですから、よほど困っているのでしょう。

 ・・・え? 別にお守りにおかしな仕掛けはありませんよ、ええ。
 ごく普通の、何の効果も無いお守りですとも、はい。

 悪霊絡みで困っている人が買いたくなるような仕掛けなんて・・・!
 そんなものはどこにも無いんです・・・!


 と、いう訳で、本日は大忙しでした。
 つい先ほど最後の依頼先で<中位悪霊>を封印したところです。

 本日の収穫は<中位符>が六枚という素晴らしい結果に。
 私の持つ<中位符>は計二十一枚となりました。

 これで、<上位符変換>が可能になりました。

 あ、<上位符変換>というのは、<妖符>を合成して一段上の<妖符>にする技術のことです。これができるのとできないのとでは違いが大きいです。

 例えば、<低位符>を十枚合成することで<中位符>が一枚出来上がります。
 同様に、<中位符>を二十五枚合成すると<高位符>が一枚出来上がります。

 つまり、<高位悪霊>に勝たなくとも<高位符>が手に入るということです。

 この<上位符変換>がどれだけ大事な要素かよく分かりますね。
 私たち<妖符師>からすれば、死活問題です。

 先日の病院における<高位悪霊>との戦いでも<高位符>があれば、命の危険はあれど、あそこまで賭けに出なくともよかったはずです。


「それじゃあ、<上位符変換>をするから、フォーンは離れててね?」

「うん、分かったコン」


 家に帰ってからすぐに準備を開始して、実践。
 場合によっては爆発の恐れもありますので、念の為です。
 場所も倉庫の中です。

 一度深呼吸をして・・・


「<妖符師>の血族たる私が命ず。
 この世ならざる封印符よ、今一度ひとたびその摂理を紐解き、更なる高みへと昇れ」


 暴発しそうになる妖力を必死に制御し、宙に浮かぶ、
 <低位符>四十枚と<中位符>二十一枚に籠る妖力に干渉。
 その存在を溶かしてゆき、新たな存在へと生まれ変わらせる。

 <妖符>たちはうっすらと光を放ちながら、一つに纏まっていき・・・


「・・・覚醒せよ、<上位符変換ハイアップ・プロモーション>ッ!!」


 次の瞬間。
 大きなもやとなっていた<妖符>たちは収縮し、同時に眩い光を放ちました。

 あとに残ったのは一枚の<妖符>・・・<高位符>です。

 成功、ですね。

 そういう訳で・・・少しおやすみなさい。
 私は目の前が真っ暗になって、為すすべもなくその場に倒れていきました。

 これが、気絶する、感覚、で、す、か・・・。

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