妖符師少女の封印絵巻

リュース

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二章 高校入学編

38 手鏡と繋がり

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「ところで、あなたは何者なのかな?」

<それ、抱き締めてから聞くことじゃないコン・・・>

「そうは言うけど、危険な気配はしないんだよね?」

<そうだけど・・・普通、平気だと分かっていても毒は飲みたくないものだコン>


 フォーンの心配は分かりますが、誘惑というわけでも無さそうですし・・・。

 女の子はコテンと首を傾げています。
 何者かという質問は難しかったですかね?


「それじゃあ・・・貴方の名前は?」

「・・・・・・せつな」

「セツナちゃんかぁ・・・いい名前だね?」

「・・・(こくり)」


 セツナちゃんは名前を褒められて嬉しそうに頷きました。
 可愛らしいですねぇ・・・。

 明らかに普通の人間ではありませんが、そんなことは些細な問題です。


<ちっとも些細じゃないコン>

「あれ、声に出てた?」

<顔に書いてあったコン>

「えっ、顔に・・・!?」


 慌てて手鏡を取り出して覗いてみますが、何も書いてありません。
 フォーンは嘘を吐いたようです。


「フォーン、どこにも書いてないよ・・・!?」

<そういう意味じゃないコン!今の比喩表現が通じなかったコン!?>

「・・・あっ、そういう意味だったんだ」


 言われてみれば、そういう意味にしか聞こえませんね。
 ちょっと冷静さを欠いていたみたいです。

 ・・・セツナちゃんが手鏡をじーっと見つめています。


「セツナちゃん、これが欲しいの・・・?」

「・・・(こくり)」

「そっかぁ・・・」


 セツナちゃんは物欲しそうにしながらも、遠慮する空気を醸し出しています。
 欲しくはあるけれど貰うのは申し訳ない、と思っているのでしょうね。

 まだ小さいのに賢い子です。
 きっと、この手鏡が私にとって大事なものだと分かるのでしょう。

 この手鏡は・・・お母さんの遺品なんです。

 幼い頃の私が、母が使っていたこの手鏡を欲しがったことがありました。
 すると母は、こう言いました。


『ん・・・ごめんね。これは大事なものだからあげられないけれど、もし私が事故か何かで死んだら、若葉が使ってもいいわよ?』


 私は、お母さんが死ぬくらいなら一生手鏡なんて要らない、と叫びました。

 あの時は、半泣き状態だったと思います。
 母の顔があまりにも真剣だったもので、そこに何かを感じ取ったのでしょう。

 私は母に優しく抱きしめられて、その日は一緒のベッドで寝たことを覚えてます。

 結局、母は事故で亡くなって、私は悩んだ末にこの手鏡を使うことにしました。
 理由は・・・私自身よく分かりません。
 ただただ、母を近くに感じていたかっただけかもしれませんね。


 ですから、この手鏡は・・・。


「・・・セツナちゃん、もしこの手鏡をあげたら、大事にしてくれる?」

「・・・(こくこく)」


 セツナちゃんは何度も首を縦に振りました。

 ・・・心は決まりました。


「うん。じゃあ、セツナちゃんにあげるから、大事にしてね?」

「・・・!」


 手鏡を覗き込んで、嬉しそうですね・・・。
 涙を飲んでセツナちゃんにあげた甲斐がありました。

 私が、母の温もりを思い出せるこの手鏡を欲したように、彼女もこの手鏡を欲しているのでしょう。

 私はもう乗り越えましたから、この手鏡は必須ではありません。
 ですから、必要としているセツナちゃんに譲り渡すのが道理というものです。

 無駄な行いと思う人は沢山居るでしょうね。
 でも、私は知っています。

 こういう繋がりこそが、何よりも大事なことなのだと。

 あやかし屋も、そういうスタイルで経営していますし、ある意味両親の意志を継いだ行為と言えますね。
 心と心の繋がりは、目に見えない奇跡を、人知れず成立させる。

 願わくば、セツナちゃんの未来に、幸あらんことを・・・。


<若葉、そろそろ時間だコン>

「ん、そうだね。セツナちゃん、私はもう行くね?」

「・・・(うるうる)」

「ごめんね・・・? 私、長居すると帰れなくなっちゃうから・・・」


 涙目でコートの裾を掴まれてしましましたが、こればっかりは・・・。
 心を鬼にしてでも帰らなくてはなりません。


「セツナちゃん、またここに来るから、ね?」

「・・・・・・(こくり)」


 しばらく頭を撫でてあげたところ、ゆっくりと頷き、手を離してくれました。
 物わかりの良い、いい子です。


「またね、セツナちゃん」

「・・・!」


 別れの挨拶をして歩きだし、それからすぐに後ろを振り返る。
 すると、もうそこには誰も居ませんでした。

 とても不思議な時間でしたね・・・。

 さて、時間も迫っていますし、大急ぎで霊界回廊を脱出しましょう。
 勿論、白ポプラを抱えることも忘れません。




 五分後、無事に回廊を脱出。
 その直後に、回廊は霧とともに消えてなくなり、元通りの道になりました。

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