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ちょっとした夜ふかし
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「ねぇパパ!」
両手いっぱいに抱える大きな絵本を手に、彼は笑顔を見せる。目は少し水色がかっていた。きっと何か変な夢でも見たのだろう。少年は答える。
「読んであげるから、先にベッドまで行っていてくれ。」
彼は黄色に輝きながら嬉しそうに歩いていった。さぁ、今夜はどこから話そう。
これは、まだ色が無かった時の一つの国のお話。国ができて最初の民は、国王たった一人でした。なんの色も持たない、虚無がぴったりな国王でした。国王は寂しくなって、神に祈りました。
「神様、どうか私の国に民をください。」
神様はその国に百人の民を送りました。一人一人違う色を持った国民は、国をそれぞれの自分の色で染め上げていったのです。しかし、王様は困りました。皆が皆自分の色を少しでも広げようとして喧嘩をし始め、気づけば辺りは真っ暗に。最初と変わらない、一つの色の国に戻ってしまいました。
そこで国王は国民に告げました。
「同じ地域の色たちで集まり、代表をひとり決めなさい。」
そこで民達は五つにわかれて、五人の代表を選びました。深い赤色をもつ「紅」、空のように淡い「浅葱」、優しい目をむける「緑青」、大輪を咲かせる「黄蘗」、純粋を象徴する「白慈」。王様は五人を自分の城に呼び、こう言いました。
「私と一緒に美しい国をつくろう。」
五人は笑顔で頷き、王様と共に国を作るために考えを出し合いました。
まず最初に声をあげたのは紅でした。
「皆が元気になれるような場所には私たちの色を使いたい。例えば、王様の城とか。」
それを聞いて王様は自分の城を鮮やかな暖色に染め上げました。丁寧に、時には激しく。王様の城はたちまち辺りに知れ渡り、人気になりました。
次に黄蘗が言いました。
「皆が笑顔になれる場所には私たちの色をお使い下さい!」
それを聞いて王様は噴水のある広場を眩しく、それでいて綺麗な色に染め上げました。噴水の広場はたちまち人でいっぱいになりました。
次に浅葱は言いました。
「皆が見上げる場所には私たちを。」
それを聞いて王様は自分を見下ろすめいいっぱいに広がる天を淡く清らかな色に染め上げました。夜の天は国民の誰もが見とれる美しさになりました。
次に緑青は言いました。
「皆が愛でるようなものには私たちを使ってみてはどうですか。」
それを聞いて王様は全ての植物たちを深く落ち着くような色に染め上げました。国民は皆、自ら花や木々を育てるようになりました。
最後に白磁は言いました。
「皆が目立つように、私たちを少しずつ色んなところに散りばめてはくれませんか。」
それを聞いて王様は今までで染めてきた場所やモノのところどころを狂いのない色で染め上げました。すると、城には美しい配色美が、広場にはキラキラ輝く飛沫が、天には様々な形をした雲が、植物には更に美しい色が。国民は皆喜びました。しかし、うつむいて歩くある1人の少年は違いました。お父さんはなんとか周りを見させようと、
「ほら、外へ出たよ。上を見上げてごらんよ。辺りを見渡してごらん。」
そう伝えるも反応はありませんでした。
彼は気づいていたのです。色んな場所を染め上げてきたせいで、国民一人ひとりの色は、国王の色は全て消えてしまっていたことに。少年はお父さんに聞きました。
「どうして皆自分の色が無くなったことに気がつかないの。嫌じゃないのかな。」
お父さんは少し唸るように考えると、こう言いました。
「それはね、皆自分の色が無くなったことに気がつかないからだよ。」
「どうして。」
「周りが今までで見てきた色よりもずっとずっと綺麗だからだよ。」
少年はハッとするともう一度辺りを見回しました。自分の目に入ってきたたくさんの色達は、自分の色よりも本当にずっとずっと綺麗だったのです。今までで見てきた景色よりもずっとずっと、何よりも綺麗でした。
「お前は優しいね。誰よりも皆をおもっているんだね。でも、大丈夫だよ。誰もが今を幸せだと思ってる。」
それからの少年は、下を向くことはありませんでした。ずっとずっと綺麗な色を目に焼きつけたまま、幸せに生きることが大切だと思ったのです。
その後、少年は城で働くようになり自分の心を切り開いてくれた国王に仕えるようになり、誰よりも色を大切にしました。
パタリ。''真っ白な''絵本を閉じる。横を見ると、そこにはすやすやと寝息を立てる我が子がいた。話を作ることに夢中で一体どこから寝ていたのか、検討もつかない。色のことになるとやっぱり夢中になってしまう。なんせ、一回一回最初から話さなければならないからだ。だから最後のほうなんて、少しばかり適当になっていたって誰も聞いてなんかいない。もしも聞いている人がいてもどこかの物好きぐらいしかいないだろう。我が子の目から水色はすっかりと消え、黄蘗のような色が少しずつ増えてきている。
今度せがまれた時はどう話そうか。
両手いっぱいに抱える大きな絵本を手に、彼は笑顔を見せる。目は少し水色がかっていた。きっと何か変な夢でも見たのだろう。少年は答える。
「読んであげるから、先にベッドまで行っていてくれ。」
彼は黄色に輝きながら嬉しそうに歩いていった。さぁ、今夜はどこから話そう。
これは、まだ色が無かった時の一つの国のお話。国ができて最初の民は、国王たった一人でした。なんの色も持たない、虚無がぴったりな国王でした。国王は寂しくなって、神に祈りました。
「神様、どうか私の国に民をください。」
神様はその国に百人の民を送りました。一人一人違う色を持った国民は、国をそれぞれの自分の色で染め上げていったのです。しかし、王様は困りました。皆が皆自分の色を少しでも広げようとして喧嘩をし始め、気づけば辺りは真っ暗に。最初と変わらない、一つの色の国に戻ってしまいました。
そこで国王は国民に告げました。
「同じ地域の色たちで集まり、代表をひとり決めなさい。」
そこで民達は五つにわかれて、五人の代表を選びました。深い赤色をもつ「紅」、空のように淡い「浅葱」、優しい目をむける「緑青」、大輪を咲かせる「黄蘗」、純粋を象徴する「白慈」。王様は五人を自分の城に呼び、こう言いました。
「私と一緒に美しい国をつくろう。」
五人は笑顔で頷き、王様と共に国を作るために考えを出し合いました。
まず最初に声をあげたのは紅でした。
「皆が元気になれるような場所には私たちの色を使いたい。例えば、王様の城とか。」
それを聞いて王様は自分の城を鮮やかな暖色に染め上げました。丁寧に、時には激しく。王様の城はたちまち辺りに知れ渡り、人気になりました。
次に黄蘗が言いました。
「皆が笑顔になれる場所には私たちの色をお使い下さい!」
それを聞いて王様は噴水のある広場を眩しく、それでいて綺麗な色に染め上げました。噴水の広場はたちまち人でいっぱいになりました。
次に浅葱は言いました。
「皆が見上げる場所には私たちを。」
それを聞いて王様は自分を見下ろすめいいっぱいに広がる天を淡く清らかな色に染め上げました。夜の天は国民の誰もが見とれる美しさになりました。
次に緑青は言いました。
「皆が愛でるようなものには私たちを使ってみてはどうですか。」
それを聞いて王様は全ての植物たちを深く落ち着くような色に染め上げました。国民は皆、自ら花や木々を育てるようになりました。
最後に白磁は言いました。
「皆が目立つように、私たちを少しずつ色んなところに散りばめてはくれませんか。」
それを聞いて王様は今までで染めてきた場所やモノのところどころを狂いのない色で染め上げました。すると、城には美しい配色美が、広場にはキラキラ輝く飛沫が、天には様々な形をした雲が、植物には更に美しい色が。国民は皆喜びました。しかし、うつむいて歩くある1人の少年は違いました。お父さんはなんとか周りを見させようと、
「ほら、外へ出たよ。上を見上げてごらんよ。辺りを見渡してごらん。」
そう伝えるも反応はありませんでした。
彼は気づいていたのです。色んな場所を染め上げてきたせいで、国民一人ひとりの色は、国王の色は全て消えてしまっていたことに。少年はお父さんに聞きました。
「どうして皆自分の色が無くなったことに気がつかないの。嫌じゃないのかな。」
お父さんは少し唸るように考えると、こう言いました。
「それはね、皆自分の色が無くなったことに気がつかないからだよ。」
「どうして。」
「周りが今までで見てきた色よりもずっとずっと綺麗だからだよ。」
少年はハッとするともう一度辺りを見回しました。自分の目に入ってきたたくさんの色達は、自分の色よりも本当にずっとずっと綺麗だったのです。今までで見てきた景色よりもずっとずっと、何よりも綺麗でした。
「お前は優しいね。誰よりも皆をおもっているんだね。でも、大丈夫だよ。誰もが今を幸せだと思ってる。」
それからの少年は、下を向くことはありませんでした。ずっとずっと綺麗な色を目に焼きつけたまま、幸せに生きることが大切だと思ったのです。
その後、少年は城で働くようになり自分の心を切り開いてくれた国王に仕えるようになり、誰よりも色を大切にしました。
パタリ。''真っ白な''絵本を閉じる。横を見ると、そこにはすやすやと寝息を立てる我が子がいた。話を作ることに夢中で一体どこから寝ていたのか、検討もつかない。色のことになるとやっぱり夢中になってしまう。なんせ、一回一回最初から話さなければならないからだ。だから最後のほうなんて、少しばかり適当になっていたって誰も聞いてなんかいない。もしも聞いている人がいてもどこかの物好きぐらいしかいないだろう。我が子の目から水色はすっかりと消え、黄蘗のような色が少しずつ増えてきている。
今度せがまれた時はどう話そうか。
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