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北門から魔物が雪崩れ込んできた。
中央広場にいた冒険者は一斉に武器を構えて魔物に突撃する。
狭い町中で混戦状態になり、後ろから押されてシュミル達と逸れた。
細い路地に入ると人の気配はなかった。
「先輩を探さないと」
勝手に連れてきた先輩を異世界で死なせる訳にはいかない。
俺はまた中央広場に戻って行った。
人が多くて誰が誰か分からない。中央広場には魔物が多く集まってきている。
人を掻き分けて人だかりから少し距離を取った。広場の後方はまだ人が疎らで広場の様子を見渡せた。
先輩がいた。水魔法で応戦している。
俺は駆け寄った。
先輩が人型の大きな鎧を着た魔物に目掛けて石を飛ばす。しかし、全く効いていない。火弾も弾かれた。
恐怖で尻餅をついた先輩目掛けて鎧の魔物は剣を振り上げた。
剣は先輩に目掛けて振り下ろされた。
「きゃー!」先輩の叫び声と同時に俺は先輩の肩を掴み、「乾杯!」と叫びジョッキを持つようにして手を掲げた。
一瞬にして、異世界から俺の部屋に戻った。
「先輩!神村先輩!」
先輩は気絶していた。先輩をベッドに寝かせ、俺はバクバクと早打ちする心臓をどうにか落ち着かせるのに必死だった。間違いなくあと一瞬遅れでもしたら先輩も俺も鎧の魔物の餌食になっていた。
1時間後、先輩は目を覚ました。
「連司くん。ここは?」
「俺の部屋です」
ハッとして起きた先輩は辺りを見回す。
「シュミルさん達は?」
「分かりません」
「早く戻ろうよ!」
「無理です。戻り方が分かりません。異世界からこっちの世界に戻る方法は掴めました。でも異世界に行くタイミングはいつも不定期で、それに・・・」
「なに?」
「もう一度異世界に行った先は10年後の世界です」
「どういうこと?」
俺は特殊な時の流れを説明した。
「もし今戻っても10年後。つまり、戦いは終わっていて、町やシュミルさん達がどうなったか分からないという事ね」
「そうです」
「そっか」
先輩は膝を抱えて座り込んだ。
シュミル、ザイアス、リネットや町がどうなったのか俺たちには分からない。
また異世界に突然転移した時、その時には結果しか分からない。しかし先輩は救えた。それだけが最善の行為で良かったと俺は思う。
「連司くん、今日泊まっていい?一人じゃ怖くて」
「・・・はい」
お風呂も済ませ、電気を消した。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
先輩はベッドで、俺はソファーで寝る。
魔物にも怖気づかない強くなった先輩は声を殺して泣いていた。啜り泣く先輩にどう声をかけていいか分からず、異世界に連れて行って怖い思いをさせてしまった責任感が重くのしかかった。
翌日。
「おっはよー!」
いつも通り元気な先輩に戻っていた。
空元気だろうか?
「連司くん、私強くなる!」
目が燃えていた。
「強くなってまた異世界に行った時に魔王を滅ぼす!」
「本気ですか?」
「大真面目です!だから連司くん同棲しよう!」
「はい?」
目が点になった。
強くなることと同棲が全く結び付かない。
「だって連司くんしか異世界に連れて行ける人いないでしょ?いつ何時転移するか分からないから、常に一緒にいないとー」
とニッコリしていた。
無理だ!24年間他人と生活したことがない。まして会社の先輩。ストレスが増える!自由が失われてゆく!!
「早くご飯食べて会社行くよー」
予備のスーツに着替えてマンションを出発。
ノリノリ、ウキウキで通勤も一緒。
出社するタイミングも一緒。
社内でも殆ど近くにいる先輩。
「連司くん。この前の戦闘の私の動きどうだった?」
「いや、完璧な連携でした」
「連司くん、魔石を吸収して出すことは出来るの?」
「出来ません」
休憩時間もベッタリ。しかも常に異世界談話。
同期の小野寺が俺の首を掴んで、男の巣窟である休憩室へと引き込まれた。
同期・後輩・先輩社員が合わせて7人に取り囲まれた。
「神村ちゃんとどーゆー関係なの?付き合ってるの?連司くん?」
「神村先輩と比良松先輩は交際してますか?」
「連司てめぇ、神村に手出したら飲み会誘わねーぞ」
詰問されていると休憩室のドアをノックして神村先輩が入ってきた。
「連司くん。そろそろ返してもらえる?行こう連司くん」
「はい」
「それから今後、連司くんを連れて行く時は私の許可が必要です。人事権を行使します。返事は!?」
「「は、はい!」」
俺と神村先輩が出て行った後、残った男たちは
「神村あんな感じだった?」
「なんだか強くなりましたね」
「見たか?神村と連司、同じネックレス?首飾りみたいなのしてたぜ。鉄みたいな色で安っぽいけどな」
「マジかよ。お揃いかよ」
「連司に負けたな俺たち。今日は飲みに行くか!」
「やめときます先輩。本気で婚活パーティー予約しに行きます」
「俺も合コンセッティングします」
「恋って難しいな」
敗北者達はその後、しばらく恋について語り合った。
中央広場にいた冒険者は一斉に武器を構えて魔物に突撃する。
狭い町中で混戦状態になり、後ろから押されてシュミル達と逸れた。
細い路地に入ると人の気配はなかった。
「先輩を探さないと」
勝手に連れてきた先輩を異世界で死なせる訳にはいかない。
俺はまた中央広場に戻って行った。
人が多くて誰が誰か分からない。中央広場には魔物が多く集まってきている。
人を掻き分けて人だかりから少し距離を取った。広場の後方はまだ人が疎らで広場の様子を見渡せた。
先輩がいた。水魔法で応戦している。
俺は駆け寄った。
先輩が人型の大きな鎧を着た魔物に目掛けて石を飛ばす。しかし、全く効いていない。火弾も弾かれた。
恐怖で尻餅をついた先輩目掛けて鎧の魔物は剣を振り上げた。
剣は先輩に目掛けて振り下ろされた。
「きゃー!」先輩の叫び声と同時に俺は先輩の肩を掴み、「乾杯!」と叫びジョッキを持つようにして手を掲げた。
一瞬にして、異世界から俺の部屋に戻った。
「先輩!神村先輩!」
先輩は気絶していた。先輩をベッドに寝かせ、俺はバクバクと早打ちする心臓をどうにか落ち着かせるのに必死だった。間違いなくあと一瞬遅れでもしたら先輩も俺も鎧の魔物の餌食になっていた。
1時間後、先輩は目を覚ました。
「連司くん。ここは?」
「俺の部屋です」
ハッとして起きた先輩は辺りを見回す。
「シュミルさん達は?」
「分かりません」
「早く戻ろうよ!」
「無理です。戻り方が分かりません。異世界からこっちの世界に戻る方法は掴めました。でも異世界に行くタイミングはいつも不定期で、それに・・・」
「なに?」
「もう一度異世界に行った先は10年後の世界です」
「どういうこと?」
俺は特殊な時の流れを説明した。
「もし今戻っても10年後。つまり、戦いは終わっていて、町やシュミルさん達がどうなったか分からないという事ね」
「そうです」
「そっか」
先輩は膝を抱えて座り込んだ。
シュミル、ザイアス、リネットや町がどうなったのか俺たちには分からない。
また異世界に突然転移した時、その時には結果しか分からない。しかし先輩は救えた。それだけが最善の行為で良かったと俺は思う。
「連司くん、今日泊まっていい?一人じゃ怖くて」
「・・・はい」
お風呂も済ませ、電気を消した。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
先輩はベッドで、俺はソファーで寝る。
魔物にも怖気づかない強くなった先輩は声を殺して泣いていた。啜り泣く先輩にどう声をかけていいか分からず、異世界に連れて行って怖い思いをさせてしまった責任感が重くのしかかった。
翌日。
「おっはよー!」
いつも通り元気な先輩に戻っていた。
空元気だろうか?
「連司くん、私強くなる!」
目が燃えていた。
「強くなってまた異世界に行った時に魔王を滅ぼす!」
「本気ですか?」
「大真面目です!だから連司くん同棲しよう!」
「はい?」
目が点になった。
強くなることと同棲が全く結び付かない。
「だって連司くんしか異世界に連れて行ける人いないでしょ?いつ何時転移するか分からないから、常に一緒にいないとー」
とニッコリしていた。
無理だ!24年間他人と生活したことがない。まして会社の先輩。ストレスが増える!自由が失われてゆく!!
「早くご飯食べて会社行くよー」
予備のスーツに着替えてマンションを出発。
ノリノリ、ウキウキで通勤も一緒。
出社するタイミングも一緒。
社内でも殆ど近くにいる先輩。
「連司くん。この前の戦闘の私の動きどうだった?」
「いや、完璧な連携でした」
「連司くん、魔石を吸収して出すことは出来るの?」
「出来ません」
休憩時間もベッタリ。しかも常に異世界談話。
同期の小野寺が俺の首を掴んで、男の巣窟である休憩室へと引き込まれた。
同期・後輩・先輩社員が合わせて7人に取り囲まれた。
「神村ちゃんとどーゆー関係なの?付き合ってるの?連司くん?」
「神村先輩と比良松先輩は交際してますか?」
「連司てめぇ、神村に手出したら飲み会誘わねーぞ」
詰問されていると休憩室のドアをノックして神村先輩が入ってきた。
「連司くん。そろそろ返してもらえる?行こう連司くん」
「はい」
「それから今後、連司くんを連れて行く時は私の許可が必要です。人事権を行使します。返事は!?」
「「は、はい!」」
俺と神村先輩が出て行った後、残った男たちは
「神村あんな感じだった?」
「なんだか強くなりましたね」
「見たか?神村と連司、同じネックレス?首飾りみたいなのしてたぜ。鉄みたいな色で安っぽいけどな」
「マジかよ。お揃いかよ」
「連司に負けたな俺たち。今日は飲みに行くか!」
「やめときます先輩。本気で婚活パーティー予約しに行きます」
「俺も合コンセッティングします」
「恋って難しいな」
敗北者達はその後、しばらく恋について語り合った。
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