ハイソルジャー・ファイル

蛙杖平八

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ある宿場町の事例

ある宿場町のケース 2

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仲間に急接近する宇宙人を視界に捉えた瞬間、その足を止めるべくオレも銃を構えた。

引き金にかけた指に力を込めた瞬間の事だ。

度肝を抜かれるとは正にこういうことを言う。

宇宙人が一瞬にして消えたのだ。

否、オレの位置からはこのカラクリはわかる。

跳び上がったのだ。

何故なら突進の際の足元の土埃が上に向かって伸びているからだ。



そして次の瞬間、仲間がいたはずの所から派手に土煙が立った。


不意に天気雨が降って来たかと、顔にかかる水飛沫を手で拭った時だった。

それが僅かに赤く色づいているのに気が付いて、オレは声を上げずにはいられなかった。

他の仲間たちが思わずオレの方を気にしているのを感じ取れたが、オレの咆哮は止めようがなかった。

天気雨に感じた飛沫は、宇宙人にやられた仲間の血飛沫だったのだから。



血飛沫を放出している土煙の中から仲間を手にかけた宇宙人がゆっくり姿を現した。

首を回して周囲を確認すると、まっすぐオレに向かって来る。



何かが、オレを戦場に駆り立てた。

そして、敵を倒せと、オレに強く要求してきた。

天の啓示というやつか?

いや違う、これはオレの内面の暗く深いところから来ている。

冷徹な意志、憎悪だ。

こんな気持ちになった事など無かったのだが、今回は何か違った。

許せるものか!

こんなこと許せないだろう?

刹那の反応だった!



だが、充分に考えられる時間だった。

その時には、奴との距離はわずかに5メートル程度。

なんてぬるい考えだったことかと自己嫌悪する。

アイツはもう帰って来ない。

ガサツで口が悪かったが、銃の腕はオレと五分だった。

アイツだけが、銃でオレと張り合えた!

宇宙人が握った拳を突き出して迫る。



オレは銃口を大雑把に上へ向けると、そのまま銃を突き出した。

このとき、突き出された銃口が、つるっとした宇宙人の顔に開いた眼のような穴に引っ掛かった。

瞬間、酷く冷静に引き金を引いた。

装填されていたのは散弾だった。

ゴッボン!と泥を詰めたヤカンが破裂したような音を立てて宇宙人の頭は吹き飛んだ。

身体を僅かに傾けて倒れてくる宇宙人をかわす。



どうやら宇宙人は動かなくなった。 


「若頭がやったぞ!!」

「みんな! 頭だ!」


頭を狙え!

自警団は残る2体の宇宙人もなんとか倒したのだった。




 この町のファーストコンタクトは、犠牲者が出たこともあり、嫌な後味を残して終わった。

 結果として宇宙人を害してしまったのだが、信じられない事に3体とも全て機械で出来た人形だった。

どこにも人間を改造したとかいう臓器みたいなものが見当たらないのだ。

戦闘服と思われる着衣を剥ぐと透明度の高いゼリー状の何かが金属性の骨組みを覆っている。

骨組みからゼリーの中を銀色の細い線が樹木が根を張るかのように胸に向かっている。

或いは逆に胸から全身に銀色の根が張っているのかもしれない。

3体とも頭部の損傷が著しい。

それにしても、よく倒したものだと我ながら感心する。



頭部を破壊しなきゃコイツらは止まらなかった。 

噂の宇宙人の正体見たり何とやら、だ。

こんなもの、オレの知る限りこの星で作れる品物じゃない。

宇宙人がいるって話しを、少しは信じる気になるってもんだ。

だが、宇宙船が近くに降りたなどのニュースは聞いていない。

宇宙人が相手だったというだけで、厄介事がひとつ、いつも通り解決した。

そう、終わったのだ。

いつも通り。

少なくともこの時は・・・そう思っていた。




この戦闘に於いて命を落としたモノの供養を済ますと、時間は既に夕刻を示していた。



その日の夕方になって、事態の深刻さをこの宿場町は実感することになる。

昼間来た奴らと全く同じ動きで町に入ってきた宇宙人の人形たちは、通報によって駆けつけたオレ達を覚悟させるに充分な対応をしてみせたのだ。


 前回宇宙人を排撃しているオレ達自警団が到着したことに勇気付けられた町民たちが、宇宙人の人形に向かって石を投げつけ始めた。

口々に帰れと訴えている。

次の瞬間、町民の中からバタバタと倒れるものが現れた。

素手だと思われた宇宙人の人形であったが、仕組みはわからないが、石を投げた町民に反撃しているのだ。

町の入口に当たるこの広場は、瞬く間に日常を失った。

次々倒れていく町民たち。

中には親しくしている人も、見知った人もいる。

この事態に対処すべく、俺だけでなく銃を所持する自警団員全員合図なしで一斉に銃を構えた。

だが、オレ達の動きより早く、銃を持った宇宙人の人形が撃ってきた。

慌てて散開する自警団員。

白く光る霞のような球体が、自警団が立っていた場所に当たると凄まじい風が巻き起こり、今まであった構造物を削り取るように分解していく。

舞い上がった土埃の中から奴らが迫ってくる。

なんだか解らないが、あんなもん喰らったら一溜まりもない。

完全に先手を取られた自警団の面々だったが、互いに目配せし合うとやるべきことを理解したとばかりに小さく頷き合い四方へ散らばっていく。

こういう時、仲間はいい。



 「さて、自警団若頭としてはこういう時、思いっ切り欲張らないとな!」



 誰に言うでもなく大声を出して自分を励ますと、陽が沈みつつある夕焼けに赤く染まった空へ銃口を向け景気よく一発ぶっ放した。


「オレが相手だ人形どもっ! まとめて掛かってこい!!」


 宇宙人の人形が3体とも自分の方を向いたのを確認すると、町の入口にあるゲートに向かって全力で走り出す。
みんな、上手くやってくれよ!


自警団若頭が宇宙人の人形の気を引いている頃、散開した他の自警団の面々は、若頭の願い通りの働きをしていた。

銃を持てる者は広場にて宇宙人の人形との生死を賭けた戦闘に奮戦していたし、戦闘に不向きな団員たちは、各々町民の安全を確保することに勤めていた。


 敵とは言え背中を狙うというのは気分が良ろしくない。

だが、こうでもしないと確実に仕留められそうにないからな。

名誉なことだと思ってくれ。


 「確実に仕留める!」


 奴らが若頭に気を取られている今、今しかない。

物陰に身を隠しつつ、仲間同士言葉にしなくてもお互い意図するところは大体判る。

各々自分にとってのベストポジションに収まると、まるで事前に打ち合わせていたかのようなタイミングで標的を狙って銃を構えた。

昼間の戦闘で、散弾では至近距離でも標的にほとんどダメージを与えるには至らなかった経験から、この戦闘では全員スラッグ弾という大型獣などに用いる貫通力が強いタイプを選択していた。

若頭のように、散弾のゼロ距離ショットなどという曲撃ちは余程胆力がないと成功は望めない。


息を殺し、気取られないよう細心の注意を払って構えた銃の照準を定める・・・・・・・・いない・・・


「いない!」


どこだ!?

自警団員は視界に入る景色の全てを同時に観るつもりで眼球を動かした。

瞬間、夕闇が広がる空に赤く輝く星が二つ・・・・・!

宇宙人の人形の鉄兜に開いた眼のような2つの穴から漏れる輝きだ。

人形のくせに、なんて速さだ!?

自分の真上に標的を発見すると、銃口を直上へ向け照準なしで引き金を引いた。

キンッと軽い音を立てて弾は宇宙人の人形の鉄兜に弾かれた。



どのくらいの高度から降りてきたのか?

ジャンプしたとしてほとんど放物線を描いていない滑空状態で上空から降りてきた宇宙人の人形の両脚が自警団員の胸を捉え、圧し潰した。

この出来事がほぼ同時に3箇所で起きていた。

 

 
厄介な争い事は、いつも突然始まる。

そういうもんだ。

そして終わるのも突然。

しかし、この時は少し違った。

相手は宇宙人の機械人形。

人間と違い、やたらタフだった。



「奴らこんなに強かったかぁ?!」



 独りごちるといつも通り澱みない動作でリロードを済ませてショットガンを構え直した。

瞬きほども時間は掛からなかったはずだ。

「クソッ! またいなくなった」



その場をすぐさま後にする。


奴らが機械なのはよく分かってる。

機械ゆえのおごり、死を恐れない。

奴らは貪欲にオレたちを狙う。

オレたちが撃てば弾道を追って真っすぐ向かってくる。

後は狙い撃つだけ、簡単だ。

そういうもんだと理解していた。

それが今はどうだ?

奴らはまるで別物だ! 

隠れながら迫って来やがる! 

こちらが隠れてもすぐに見つかるし、一体どうなってるんだ?



ついさっきだ。

景気よく上空に一発ぶっ放して、人形3体ともオレに引き付けて走り出して間もなく。

皆の銃が一斉に火を噴いた。

確かに聞こえた、銃声3つ。

だから振り返ったんだ、勝利を信じて。



だが、見えたのは3箇所から立ち上る土煙だった・・・。



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