ハイソルジャー・ファイル

蛙杖平八

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ある宿場町の事例

ある宿場町のケース 1

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夏祭りが終わり、その余韻もまだ冷めない空気をそこかしこに感じながら、オレは暇を持て余していた。


オレはこの宿場町の自警団の若頭を任されてる。

そんな訳で、争い事があれば出張って収めるのも仕事の内だと割り切ってきた。

だが、容姿に似合わず、オレは争い事が好きじゃないんだ。

オレは、この町内ではちょっとした有名人てヤツで、背もまあまあ高く、あ・・・足も長い方だ。

顔については聞いてくれるな。

・・・・・わかった、言うよ。

右の頬にこれ見よがしに自己主張する傷痕ではあるが、勇ましく戦って出来たとかの武勇伝などはない。

この頬の傷は、生まれ付きあった痣を取った痕なんだ。

だから本当は怖がらないで欲しいのだ。

だが、この顔の傷痕のおかげで、よそ者同士のトラブルなんかはオレが出張るだけで大概収まるんだ。

だからって、オレに実力がないと思わないでくれよ。

格闘術は使えないが、喧嘩はこれでなかなかやるもんなんだ。

いやいや、争い事は好きじゃないんだけどな。



オレもそうだが、この町で銃を扱うことを許されているのは、猟友会に所属している者だけだ。

この町の猟友会に所属するのは大層難しいので有名だ。


ここは周囲を山に囲まれた小さな宿場町だ。

誰もが山の幸の恩恵に与かりたいと考える。

だからルールが必要になる。

ルールの下に厳しく管理されてこそ、幸の価値が保たれるのだ。

つまりこの町において猟友会とは、ルールを守り、守らせるための実行力を備える者たちの会という事だ。

オレ達がルールだ!

とハズカシイ事をいうヤツは勿論いない!

そして自警団の中でもオレの存在は一目置かれ、待遇というか、扱いや発言力などは強く、大きい。

だからといって、のぼせ上がらないのが、オレの良いところだと・・・自分で言ってりゃ世話ないな。


 それはそれとして・・・

 最近、よく耳にするのは宇宙人が・・・笑うにはチト早いぞ。宇宙人がこの星に攻めてきたって話しなんだが・・・。

新聞発表もホットで、連日取り上げられているくらいだ。

そんな時だった。

ほんの何日か前、旅人が変な奴らを峠を越えるときに見かけたってんで、一応確認したときのことだ。

町を囲むようにそびえる山々に確かに妙なナリをした奴らがうろついているのを自警団のメンバー数名が目撃した。

その時も、奴ら遠巻きにオレ達を見ているだけだったので、みんな緊急対策が必要なほどの危険はないと思っていたんだ。

いや、危険はないと思い込みたかったのかもしれない・・・。




そして奴らがオレ達の町に来たのが一昨日の昼過ぎの事だった。


 どうやら世間じゃ宇宙人共とドンパチやるなんてのは、最近じゃ当たり前になってるらしいから、自警団であれば、充分に気を付けておくべきだった。

この穏やかな宿場町に争い事は似合わない。

まして、戦争なんて有り得ない。

なんて、事態を軽く見ていたから、こんな事になった。

争い事は、ホント嫌なんだがな………。



 これが宇宙人か…。

 先頭を歩く一人が銃のようなモノを持って武装しているが、後ろにつづく二人は手ぶらである。

三人とも同じ服装だ。

いや待て、肩の飾りが先頭の奴と後ろの二人でちょっと違うか?

それにしても見慣れない服だ。

全員目の位置に穴が開いているだけのつるっとしたマスクを被っている。

形容しがたい不気味さを感じる。

嫌な感じだ。

表情が読めないのは駆け引きし辛い。

とりあえず形式に従ってこの町に来た理由を訊き、武装解除などを要求してみた。



 宇宙人たちには再三武装解除をお願いしたが、どうやら言葉が通じないらしく、要求に答える様子は全く見せない。

いや、これは空気すら読めていないのか?

この三人組がいくら空気を読むのが下手であろうと、町の皆が歓迎姿勢ではないことくらい感じ取れるはずだ。

さすが宇宙人、文化の違いがハッキリわかる。

こちらの都合など意に介さずといった様子で立ち止まることもなく、時々辺りを見回しながら悠々と歩を進めてくる。

“止まらないと撃つ”という再三の警告も聞かないので、形式通り自警団員が威嚇射撃の動作にはいったとき、奴らは恐ろしく俊敏に反応してみせた。

オレ達の想像を遙かに超える速さと正確さで、銃を構えようとした自警団の面々に急接近してみせた。

宇宙人の説得に当たる為に拡声器を手にしていたオレは、仲間を信じて宇宙人の動きを観察する事にした。


 奴らの反応には確かに驚いたが、全員猟師として一流! 

すぐに気持ちを切り替えて銃を構え直す。

各々が個々の判断で動いていたが、まるで打ち合わせていたかのように連動していた。

持ち前の動体視力で動きを追うと、当てやすい胴体をわざと外して足に狙いを定めた。

この行動は標的の殺害が目的ではない為だった。

3人の自警団員は、ほとんど同時に射撃を行なった。


足を狙った銃撃は確実に宇宙人の足を捉えていた。

使用したのは散弾、一度に何発もの弾を発射できるのが特長だ。


足に散弾を喰らった宇宙人は、さすがにふらついて動きが鈍る。

戦闘服が多少のダメージを受けたのか細かく毛羽立って見える。


だが、ほんの少しの時間勢いが弱まった、というのが正確なところであろうか。

すぐに元の勢いのまま襲いかかってきた。



仲間たちが泡食って体勢を立て直しているのが眼に入る。

「超頑丈だな、宇宙人は」

オレは、まだ拡声器を手にしたままだった。


仲間たちは今度は胴体を狙って発砲した。

迫りくる宇宙人はさぞや大きく見えたことだろう。

大きいサイズ、つまり当てやすいということだ。

空に響く銃声に厄介な争い事の終了しか考えていなかったオレは、宇宙人が平然としているのに只々驚いていた。

思わず力の抜けた手から滑り落ちた拡声器が床に転がり足に当たる。

ハッと我に返る。

オレは少し屈むと足元に置いていた銃を拾い上げた。


残念なことに、この厄介な争い事の始末は完全に間違いだった。

町に奴ら宇宙人が現れた時点で、既に戦闘は回避不能の決定事項だったのだ。

やるかやられるか、どちらを選んでも進む道がいばらの道であったとしても、未来への道はハッキリ選ばねばならなかった。







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